本棚が倒れる。 第五話

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     春は火事の多い季節だ。乾燥した空気とか、未だ残る寒さとか、冬の残したあれこれを燃やさなきゃいけない事情が、世界をそうさせる。この街の冬は長いから、私たちの方でもちょっと頑張らないと終わってはくれないのだ。
     私が高校に入学してすぐの5月にも、街には消防車のサイレンが鳴り響いていた。また誰かが、冬を終わらせようと火を焚いてしくじったのだと思った。
     消防車がどこに向かうのかなど知らなかったが、階段をあがる私が目的地ではないことだけははっきりしていた。私は確かに冬を終わらせることに失敗したかもしれないが、火事に見舞われるようなことはあり得なかったから。
     中学の同級生が数人しかいない県一番の進学校に入学しても、たとえ春の陽気に誘われて、自分の人生で一番くらいに浮かれていたとしても、高校でいきなり友達ができるわけではない、その事実を私はこの一か月で嫌と言うほど思い知らされていた。
     新入学生の約半数は高校の近くにある大学付属の中学から進学してきた生徒で、入学式の時点で既にグループが出来上がっていた。もちろん新しい友人を作っている生徒も少なくなかったが、私にはその方法は分からなかった。きっとフリーメイソンの握手のような秘密のサインがあって、それを私だけが知らないのだろうと思った。
     クラスのLINEグループには、人の良さそうな女子生徒がなにかのついでみたいに(というか、実際誰かのついでだったのだろう)声をかけてくれたおかげで入ることができた。
     そこではだれが言い出したわけでもないのに皆が自己紹介をしていて、私も自分を有効に売り込むための文面を3日をかけて考えたが、ようやっと思いついたころには私以外の生徒はすでに希望する部活の話や教師のあだ名の話で盛り上がっており、今更自己紹介などできる雰囲気ではなかった。
     そうして、私の長い一か月はすぎた。冬を燃やすためのマッチを擦りはしたがいっこうに火がつかず、すべてを諦めたような格好で、これでは火事も起きないが、体を温めるすべもない。体には雪が積もり、心臓の鼓動はだんだんとゆっくりになっていった。
     いつのまにか、世界は5月を迎えていた。私以外の世界が、私の知らないやり方で春を迎える中、部活動の仮入部期間が始まろうとしていた。

     

     ●

     

     部活動はよほどのことがない限り強制参加だったから、私も放課後の居場所を決定しなければいけない。嫌々あちこちの見学をしてみたりもしたけれど、なにをする気も起きなかった。
     理由は明白で、私は本当のところは文芸部に入りたかったのだ。中学2年の時にオープンスクールでこの高校を訪れた時に文芸部を見て、私もこの部活で文学三昧の三年間を送ろうと決めてしまったのだ。
     しかしいざ入学したころには当時在籍していた生徒は全員卒業するか退部してしまっており、文芸部には誰もいなかった。聞くところによると、美術部と掛け持ちする生徒が多かったものの、熱心だった3年生が卒業した後誰も部長をやりたがらず、自然消滅してしまったのだという。
     元々文芸部など無いのであればあきらめもつくが、あると思っていたのを取り上げられたのでは、信念を曲げて他の部活に鞍替えするのもなんとなく癪だ。そういうわけで、私は入部届の提出を締め切りの二日後まで渋り、担任に呼び出される羽目になってしまったのだ。

     

    「文芸部がよかったなら言えばいいんだ」

     

     世界が終わるみたいな顔で事情を説明した私に、担任はあっけらかんと言った。

     

    「3年生が卒業したばかりだし、入部希望者がいるなら部の存続は認められるはずだよ」

     そんなわけで、新入生の部活動が本格的に始まる初日、私は職員室で借り受けた文芸部室の鍵をもらい、まだ行ったことのない4階への階段を一段飛ばしで駆け上がっていた。
     わくわくしていなかったと言えば噓になる。たった一人の文芸部。本の匂いの沁みついた、私だけの部室。
     いや、私だけではないのか「スペースの関係で、文芸部室はパソコン部室と共用だ」と担任が言っていた。本棚で仕切ってるとかなんとか、意味の分からないことを言っていたので半分は聞き流してしまったけれど。
     とにかく、そこは私の高校生活の舞台として十分なものに思えた。一人だけで部を始めることは、青春という名前のむき出しの戦線からは事実上の撤退を決めることになるが、それで別にいい。冬を抱え込んで3年間を送るのだって、また文学じゃないか。
     そんな風に胸を躍らせながら階段を上り切り、廊下の端の部室の扉を認めた私の足は、そこではたと止まってしまった。

     

    「来たわね、フゥ!」

     

     扉の前で仁王立ちする少女の影。背が低いせいでまったく様になっていないが、それでも、流れるような銀色の髪と、左目の黒い眼帯は目を引いた。
     アン・ドゥ・トロワ。考えるよりも先に足が勝手に回れ右の動きを取る。しかしその少女が慌てて私の手首をつかんだことで、逃亡の試みはあえなく失敗した。

     

    「ちょちょちょっと、逃げないでよ、薄情ね!」
    「は、離してください」
    「安心なさい、別になにもしないわ! ただ、同志が来るのを待ってただけよ」
    「同志……?」

     

     私は唖然として相手の顔をまじまじと見る。端正だが不審、目立ちはするが悪目立ち。どこか浮世離れしたその少女と自分とに、共通点はまるで見いだせなかった。

     

    「人違いでは……?」
    「何言ってるの! あなたフゥでしょう?」
    「違います」
    「ニシジマフーコだから、フゥ。私がつけたわ」

     

     怖い、本名を知られているのも、勝手にあだ名をつけられているのも、当たり前みたいにそのあだ名で呼んでくるのも、何もかもが怖い。いちおうここは学校なのだし、大声を出せば誰かは助けに来るだろうか。いや、まだ部活の時間にもなっておらず、4階にひと気はない。

     

    「あ、あの、あだ名は分かったんで、私はこれで」
    「何言ってるの、文芸部に入るんでしょ?」
    「なんでそれを……」

     
     
     しまったと口をふさいでももう遅く。目の前の少女はにんまりと笑みを浮かべた。

     

    「それなら、これから3年間、一緒に部活する仲間よ」
    「あ、ちょっと……たった今気が変わったかも」
    「いーいから! 来て! 鍵ももう開けてるんだから!」

     

     私の言葉を無視して、レインと名乗ったその少女は私の手を引く。その細い手首からは想像もつかないほど強い力に、わたしの体は、くん、と引っ張られた。
     文芸部室の扉が開く。どこからか吹いてきた春風が顔に吹き付けて、なんだかめまいがした。

     

     ●

     

    「アポカリモン、アポカリモンね」

     

     自らの真の名を下の上で転がすように何度もつぶやき、雪代先生は朗らかな笑みを浮かべる。それは学生時代のわたしたちに向けられていた優しい笑顔と寸分たがわないもので、私はなんだか自分が台本のセリフを1ページ間違えたような、とんでもなく馬鹿なことを言っているような気分になった。

     

    「その名前にたどり着いたということは、レインさんが全部しゃべったのかな」

     

     そんな私をよそに、雪代先生はこの状況が面白くて仕方がないというように話を進める。

     

    「いや、あれにそんな正気は残されていないはずだ。この学校に残留した過去ログの一部――残留思念とでもいうべきものを垣間見たんだろうね。やられたよ。ハリボテに下手に歴史なんか与えようとするとロクなことがない」
    「じゃあ、先生が」

     

     タイヨーが声を絞り出す。何か言いたいことがあるというよりは、これ以上先生のセリフを聞いていたくないという思いがとらせた行動のようだった。

     

    「あんたが、全部仕組んだのか」
    「買いかぶりすぎだよ。僕がしたことと言ったら、デジタルワールドが滅びたことで役目を失った管理システムをハックしたことくらいだ。僕にとっては世界を滅ぼした時点で目的は達成されているし。それから先の世界は別にどんな形でもよかった。この世界に指向性があったとしたら、それは全部東宮くんが望んだことだ」
    「あんたがクモリをだましたんだろ!」
    「あのエリスモンがそう言った? あれで根に持つタイプだからね。人間未満のパートナーに二度と関わらなくてもいいように世界の裏側に放り出してやったっていうのに、途方もない時間をかけてこの学校を見つけ出した」

     

     喜劇の笑いどころで観客よりも先に噴き出してしまう下手な役者のような不快さで、彼は言う。

     

    「マジな話、最初にここに来た時のレインさんは、感動の再会に目をキラキラさせてたよ。元相棒は自分の過ちの象徴なんか見たくないっていうのにさ。君たちにも見せてやりたかったけど――」「レインのことを」私は言う。「レインのことをバカにするな」

     

     声は自分で思ったよりもずっと落ち着いていた。これまでの人生のどの瞬間とも比べようがないくらいに、私は怒っていた。おお怖い怖いとでも言いたげにオーバーな身振りを見せる雪代先生を、私はにらみつける。

     

    「それで? 僕からこの世界についての授業を聞きたいんじゃなければ、何をしに来たの」
    「決まってるだろ。本棚を倒して、クモリを助ける」

     

     タイヨーのセリフに、雪代先生は首をかしげる。

     

    「急に友情を思い出したのかい? この10年間、一顧だにしてなかった同級生に?」
    「それは、お前が俺たちの記憶を――」
    「記憶を全部覚えてたら、キミたちはずっと友達だった? 大学にいっても社会人になっても、誰が成功しても、誰が挫折しても連絡を取り合って、たまには一緒に飲んだりとか?」
    「勝手なこと言うな。俺たちは――」
    「ムリだね。僕は君たちから奪った記憶の内容を承知してるけど、はっきり言ってロクなもんじゃないよ。クソガキどもの友情に何度も企みを阻止された立場で言うけど、キミたちのアレは〝友情〟とは言えない。同じ時間、同じ場所にいただけだ」
    「お前――!」

     

     叫び声をあげるタイヨーに向けて、先生は右手をかざす。その瞬間、彼につかみかかろうとしていたタイヨーの足が、何かにからめとられたかのようにびたりと止まった。タイヨーの目に驚きの色が浮かぶ。

     

    「何をしたんだ!」
    「そうわめかなくていい。もとよりただのプログラムと会話なんかしたくないんだ。そのことは承知してるんだろ? 自分が人間未満だってことだけど」

     

     見え透いた、けれどどんな絶望よりも重い挑発。当事者ではない私でさえ、頭にかあっと血が上る。しかしタイヨーは、動けない彼の代わりに怒りを行動に移そうとした私を右手で制した。

     

    「言ったろ、フゥ。俺が何者かなんて、この際どうでもいい。すくなくとも、こいつに何か言われる筋合いはない」
    「いいや、それは違う。〝筋合い〟ならあるよ。君が今そこで生きたフリができてるのは、僕とクモリくんの取引のおかげなわけだし。それに――」

     

     そこまで言って、先生はまたくつくつと笑い、私の方を向く。

     

    「――ねえ、レインさんはタイヨー君のことをどう説明した? クモリくんのループの中で発生したバグ」
    「……あんたもそう言ってたのを見たよ。だから、タイヨーを守るために、クモリくんは閉じこもることを選んだ」
    「ああ、たしかにクモリくんにはそう説明した。その結果、彼はそのバグを守るために、じぶんを封印する契約を僕と結んだ」

     

     でも、事情はもうちょっと複雑なんだよねと、彼は化学基礎の授業の時と同じように指を立てる。

     

    「僕は〝選ばれし子ども〟を倒してデジタル・ワールドを滅ぼした。でも、別に世界を滅ぼしたからって、次の世界のカミサマになれるわけじゃない。管理システムは誰もいない世界の恒常性とやらを守るために休眠してしまって、世界運営の権限も実質的に凍結されてしまった。向こうも行動を起こせないが、僕も身動きが取れなくなってしまったわけだ」

     

     でも、ボクはラッキーでさ。彼はそう語り続ける。何も聞きたくない気持ちと同じくらいかそれ以上に、すべてを聞かなくてはいけないという気持ちがあった。

     

    「でも僕には、いちど僕の口車に乗って世界を滅ぼしてくれた〝選ばれし子ども〟がいた。たとえ大ハズレでも、管理システムが自ら選び、権限の一部を委譲した存在だ。試しに彼の望む形に世界を作ってみたら、あっけないほど簡単に町も、人々も動き出した。限られた時間をループさせるっていう条件も、壊れた世界には都合がよかったんだろうね」

     

     両親の顔が、クラスメートの声が、頼んでもいないのに私の小説を評価してきた年上の男たちの言葉が脳裏をよぎる。それらすべてが電子情報に過ぎないという事実は、私に希望も絶望も与えてくれなかった、ただのっぽで重い色のコートを着た男のようにそこに立って、ときおり山高帽を直しながら私をじっと見つめていた。

     

    「で、その〝選ばれし子ども〟はある時世界に生まれたバグに感情移入して、彼のためならもう世界はいらないと言い出し、僕と契約した。〝選ばれし子ども〟が納得ずくの上で世界を譲渡したことで、この世界は完全に僕のものになった。実に都合のいい偶然だ。不可能を可能にしてくれたバグは、僕にとってはまさに救いの神だね。で、ここからテストなんだけど――」

     

     それじゃあ、フゥさん、と彼は手で私を指す。

     

    「問1、僕は本当にただ待っていただけだったのかな? 〝選ばれし子ども〟がこちらに世界を明け渡したくなるように、少しの工夫もしなかったと思う?」

     

     その言葉に、タイヨーがはっと顔を上げる。

     

    「そして問2、――タイヨー君みたいな、僕にあまりにも都合のいいバグが偶然生まれるなんてこと、本当にあると思う?」

     

     答えはあまりに明白だった。でも、その答えはあまりに残酷で、私の喉は上手に言葉を形作れなかった。

     

    「残念。時間切れ。正解は――僕は偶然なんか待たなかった、でした! タイヨー君はクモリくんの友達になってもらって、いずれ人質にするために僕が作った端末。それを知らないまま大人になって、今はそこで友達を助けると息巻いています。で、当たり前の話だけど――」

     

     彼がぱちりと指を鳴らす。瞬間、私の隣でぼとぼとと何かが床に落ちる音がした。
     みれば、無理やり引っこ抜いたフィギュアのパーツのように、タイヨーの頭が、右腕が、左腕が、胴体が床に散らばっている。足だけが床に縫い留められ、かつてそこにあった固い意志を伝えていた。
     雪代先生は、彼の方を見ることすらしない。

     

    「僕が話をしたいのは人間――つまりはフゥさん、キミだけなんだよね」

     

     私が上げた悲鳴すら聞こえなかったように、こちらを見て、柔らかな笑みを浮かべた。

     

     ●

     

    「俺は行くよ、フゥはどうする?」
    「え、その、いや、え!?」

     

     雪代先生と対峙する少し前、私たちに「本棚を倒して」とだけ言って消えたレインを見送った図書室で、タイヨーはあっさりと、俺は行く、と言ってのけた。あまりにこともなげに放たれた決意の言葉に、私が動揺してしまったのも無理はない。

     

    「どうしたんだよ。そんなに慌てて」
    「慌てるに決まってるでしょ。タイヨー、アンタ、レインに言われたことの意味わかってんの!?」
    「この世界は電脳空間で、俺は人間じゃなくて、クモリは俺を生かすために身代わりになってる、で合ってるよな?」
    「意味わかってるじゃん……!? だったらもうちょっと慌ててよ!」

     

     私は理不尽な怒りをタイヨーにぶつける。この状況で彼が平然としていることに、無性に腹が立った。

     

    「クモリくんのことも、レインのことも、私はすごく悲しかったし、戸惑ったし、同じくらい怒ったよ!?」
    「でも本棚を倒す、だろ」
    「だとしても、そんな平然とされてたら、私が困る! クモリくんはあんまり喋んないし、レインはレインだし、タイヨーだけがギリ考えてること分かる相手だったのに!」
    「もしかして、寂しいのか?」
    「理解しても口に出すな! ムカつく!」

     

     胸に沸いた怒りを吐き出しきって、私は肩で息をする。そんな私のことを見つめ、タイヨーはぽつりと口を開いた。

     

    「俺もそうだ」
    「は?」
    「俺も、寂しかった。レインの話を聞いた時に」
    「寂しいって、アンタが……?」

     

     彼は真顔で頷く。

     

    「だってそうだろ。俺たちは、高校の思い出をほとんど忘れてた。クモリとレインが覚えてて、俺たちが覚えてないことがたくさんある」
    「……」
    「クモリにはめちゃめちゃ怒ってる。言いたいことも山ほどある。会ったら殴るかもな」
    「それはダメ」
    「……言ってみただけだよ。とにかく、俺は話さなくちゃいけない。アイツらとの高校生活を忘れてしまって、クモリは途中で消えて、レインは勝手に成功して、俺がどんな気持ちだったか」
    「……」
    「人間じゃないとか、世界がどうとか、どうでもいいんだよ。納得いかないことは別にある。納得いかないことだらけだ!」

     

     彼の頬を涙がつたう。彼はそれにも気づいていないようだった。

     

    「クモリにも、レインにも、お前にも、俺はなんとなくうまくやってるみたいに思われてんのが気に入らない。思い出がなくても、生きて行けるって思われてるのが。そんな奴いない。俺はあそこにいた。俺もあそこにいたんだ」
    「タイヨー……」
    「大体、どうして‶栞〟を思い出すのがフゥだけの役目なんだよ!? 俺はどうすりゃいいんだ? フゥの話を聞いて、そんなこともあったなってヘラヘラしてりゃいいのか!? 懐かしいとか、言ってれば――『懐かしい』じゃ、すまないだろ!」

     

     タイヨーのその声が、図書室の空気をびりびりと震わせた。彼は私の目をじっと見つめる。こんなふうに誰かの目を見たことはこの10年、一度だってなかった。

     

    「――俺は本棚を倒す。フゥはどうする?」

     

     ●

     

    「――先生が何を言ったって変わらない。私の気持ちもタイヨーと一緒だ。本棚を倒す。その先にいる人に、言わなきゃいけないことが、山ほどある」
    「分かるよフゥさん、君は彼を憎む権利があるだろうね」
    「そういうのじゃない!」
    「じゃあどういうのだい?」
    「先生には言えないことだよ。そういうの、あるでしょ」

     

     私の言葉に、雪代先生はくつくつと笑った。
     私は不思議ともう腹を立てていなかった。隣に散らばるタイヨーの手足の存在が、どういうわけか私に安心感を与えていた。彼は確かにそこにいて、私とおんなじくらいぐちゃぐちゃの心で、そうだそうだと言ってくれていた。

     

    「それなら、僕は僕の話したいように話すよ。トピックは一つだ――君と取引がしたい」
    「先生は取引でズルをする。さっき自分で話してくれたでしょ」
    「キミはクモリくんと比べたら大分マシな人間だし、それ以外の人間未満とは比べるべくもない。実際、僕は同情しているんだ。クモリくんからの一方的な好意のせいで、君の高校生活はあの部室に押し込まれた。もっとマシな人生が、君にはあったはずだ」

     

     先生の周囲の虚空がとぷんと歪み、そこから二重螺旋の鎖が数本伸びる。そのうちの一本は途中で無残に砕けていた。彼はその鎖をいとおし気に指でなぞる。

     

    「これが君の人生。立派な夢を抱いて、それを実現する力もあったのに、時間の使い方も、共に過ごす人も、全てを間違えた。簡単なことを難しくしてきただけの、もうすぐ30年になる人生だ」

     

    なにかを言い返したかったが、悲しいことにぐうの音も出なかった。

     

    「諦めずに続ければ、ここから先40歳とか、50歳とか、60歳で作家になれることもあるかもね。でも、キミはそれじゃあ足りないだろう」

     
     小説書きとしての私は21歳で死んだ。この10年、無理やり小説を書くためになんども頭の中で繰り返し続けた独白が、頭の中でぐわんぐわんとこだまする。

     

    「キミの親友は21歳でデビューして、誰もが憧れる存在だ。キミが無理やり書いた小説がたまたまハネたとしたって、本当の意味で夢をかなえたことにはならない。自分がとっくに空っぽで、何者でもないことを、誰より君自身が知っているからだ」

     

     だから、彼は砕けた鎖を指で弾くと、周囲の、もっと長く太く伸びた鎖たちを指し示す。

     

    「だから、君に別の人生をあげるよ。幸い、デジタルワールドを意のままに運営したいという僕の願いとキミの願いは干渉しない。僕の世界で、君は生きたいように生きられる。大作家の夢にもう一度高校生からチャレンジしたっていい。夢を変えたっていい。気に入らなければ何度だってやり直せる」

     

     その鎖の一本一本に、私が重なって見えた。名のある作家になって、平積みにされた自著を眺める自分がいた。気鋭の作家として「ダ・ヴィンチ」のインタビューに載る自分がいた。地元を代表する作家として、小銭をもらって母校で講演会をする自分がいた。レインやタイヨー、クモリに尊敬され、個室居酒屋で思い出を語る自分がいた。「あの頃があったから今の私がいる」と、そいつは幸せそうに話していた。

     

    「それから、これが一番重要なんだけど――」

     

     先生はあくまでも朗らかに、昔通りの、生徒をいたわるような調子で、最後の一言を告げる。

     

    「――夢なんか追わなくたって幸せになれる。キミは、そういうのが一番向いてるよ」

     

     その言葉と共に、一本の鎖が鋭く私に延びる。白熱する鉄の塊が、確かに私の胸を貫いた。

     

     ●

     

    「西島さんの作品、書くためだけに書いてる感じしますよね。小説で表現したいこととか、ないでしょ」

     

     24歳のころ、飲みの席で2歳年下の作家志望の男の子から言われた言葉だ。彼はその数年後に故郷の小さな出版社の文学賞を取った。大きなヒットこそないものの地元色を打ち出した作品で愛され、ラジオやテレビのローカル番組に引っ張りだこだという。
     その言葉に、私は何を言い返しただろうか。多分へらへらと、そうかもね、とか言ったんだと思う。それから何年も、ふとした時にあの言葉がフラッシュバックして、頬が熱した鉄のように熱くなった。
     腹が立つのは、それがあまりに図星だからだ。20代の私の作品を貫いていたレインへのコンプレックスと言う地獄すらも作り物。どんなに馴染んだと思っていても、読者には見抜かれてしまう、偽物だった。

     

     書く理由がないなら、書かなくたっていいんだ。胸を貫くあたたかさが言った。

     書くことは、あなたを一度だって助けてくれたか?

     そういう瞬間があったとして、それは最初の数度でしかなかったんじゃないか?

     あなたを救ったのは書くことそのものではなく、その成果物への他者からの承認ではなかったか?

     

     「だったら」私は言った。「やめてもいい、やめればいい」。

     

     そうだ。30代を前にして夢なんてものを追ってる奴の方が少ない。みんな子どものころには望んでいなかったような仕事をして、日々をなんとなく幸せに過ごしている。
     夢をかなえたとのたまう連中だって、よっぽど立派な例外を除けば、大体は人生のめぐりあわせでなんとなくうまくいったのを「昔からの願いだった」と思い込んでいるだけだ。
     それは悪いことか? 否。むしろ、そんな変わる日々が、生活のすべてこそが尊いんじゃないか。

     

    「みんな、そうやって大人になるんだ」と、私は言った。

     

     私の周囲に無数の映像が流れる。それは高校生のころの思い出だった。私の前で、それらは急速に、温かなセピア色を帯びていく。やがてそれら一枚一枚がフィルムとなり、古い映写機のカタカタという音とともに回りだす。
     そこに映されるすべてが懐かしくて、私の口角が上がる。その一コマ一コマを肴に、何時間でも友人と話せそうだった。
     そう、旧友。私の懐かしい日々と、ともにあった――。

     

     ●

     

    「読みたかったのに」東宮久守が言った。

     

    「ずっと、忘れないでいような」松北陽太が言った。

     

    「──アタシが、いつでも助けに行くわ」南潟レインが言った。

     

    「だから、私たちは物語を書いてるんでしょう」

     

     そう、言ったのは――。

     

     ●

     

    「……驚いたな」

     

     雪代先生がつぶやくのが、遠くで聞こえた。

     

    「キミは〝これ〟に、耐えられないと思ってた」
    「耐えるとか、耐えないとかじゃないって」

     

     意識がだんだんと現実に浮上する。先ほど私を貫いたはずの鎖、安穏とした私の人生の可能性は、私の胸の少し手前で砕けていた。

     

    「こんな人生、私は送れないってだけの話。こんな人生を送れる奴は、私じゃないってだけの話」
    「夢追い人の割には、可能性ってものを軽視した発言だね」

     

     先生は言葉を連ねる。そのふるまいは私を説得するためというよりも、私がこの場でひざを折らないことにどうしても納得がいかないからのように思えた

     

    「キミは自分を自分で縛っているだけだ。簡単な話を、わざと難しくして――」
    「そうした人間にだけ、見えるものはあるよ。私はそれを書く」
    「それは、キミの初期衝動とは何の関係もない。人生を腐らせる菌みたいなものだ」
    「そうかもね。腐るかも、ゾンビみたいに歩いて、皆から嫌われるかも」
    「キミはそれでもいいと――」
    「いいとか、悪いとかじゃない!」

     

     私は叫ぶ。答えはもうとっくに決まっていた。
     何者にもなれないなんて、贅沢な、文学的な悩みを語ることは、私にはできない。だって、何者でもない私には、たしかに立っている場所があった。ツギハギでも、何度も思い出す記憶があった。

     

    「私が、私でいられない人生なんか、ぜんっぜんほしくないんだ!」

     

     その瞬間、私の目の前にノイズが走る。紫色の稲妻が走り、私に迫っていた二重螺旋の鎖が砕け散る。
     そして、その破片たちが私の前で、新たなラセンを描き始めた。

     

    「螺旋の、乗っ取りだって? ――ラセンモン、か。」

     

     雪代先生が口の中で呟き、焦ったように声を張り上げる。それと同時に白衣の背中から伸びる無数の鎖は、たとえ話のためじゃない、身を守るためのものだ。

     

    「悪いことは言わない。よすんだ。レインさん――エリスモンは報われない無数のループと、これまでも戦いのせいで、心も体も限界だ。その紫の光が証拠だよ」

    「レインは、来るよ」

    「仮に形を取ることができて、来たとしてもだ、クモリくんの時と同じ。狂ったバケモノになって、キミを殺すだけだよ」
    「……先生さぁ、なんも分かってないじゃん」

     

     喉の奥から笑いが漏れる。

     

    「〝狂ってる〟って――それ、誉め言葉だから!」

     

     その言葉と同時に、目の前に現れるのは、紫の体色に包まれたヤマアラシの怪物。ジレンマと果ての見えない螺旋を抱え続けた、私たちの時間を抱えた獣――ラセンモン。
     懐かしめるほどに、遠くから見て安心できるほどにキラキラしていない。でたらめな日々。負の感情でいっぱいいっぱいだった、あの時間。
     そこに、今も私は立っている。

     

    「レイン!!」
    「やるよ、フゥ!!」

     

     でたらめな日々、がむしゃらに描いた、絶望の渦。
     私の、私たちの――。

     

    「――イ長調の季節(デスペレイト・ボルテックス)!!」

     

     私たちのラセンが、無数の鎖を砕いた。

     

     ●

     

    「ん……う……」
    「さっさと起きて、タイヨー」
    「んぐっ!?」

     

     意識を取り戻し、むにゃむにゃ言い出したタイヨーのみぞおちを私は軽く小突く。手に伝わる温かさと苦しそうなうめき声が、彼の生存を証明しているようで、私はうれしかった。

     

    「良かった……」
    「良くねえよ、殴んな! ……って」

     

     タイヨーは周囲を見回し、それから自分の体を見る。廊下に残された戦闘の後と、ぼろぼろの白衣を見に纏って意識を失っている雪代先生。そして五体満足な自分の体を見て、ある程度のことは理解したらしい。

     

    「……勝ったのか」
    「みたい。レインが力を貸してくれた」
    「レインは……」
    「消えちゃった、んだと思う」

     

     レイン――ラセンモンはその場から消えていた。これまでもあった現象だったけれど、先ほどそばで彼女の死力を尽くした攻撃を見たからこそ、次はもうないと、そう確信している自分がいた。

     

    「……そうか」

     

     タイヨーはぽつりとそれだけつぶやくと、今度は自分の手に目を落とす。

     

    「俺が元に戻ってるのは……」
    「集めてくっつけたら元に戻った。念のため言うけど、相当キモかったよ」
    「ひ、ひっでえ……」

     

     ぶつぶつと文句を言いながら、タイヨーは両手を床について立ち上がる。先ほどつなぎ合わせた継ぎ目がぶれることもなく、彼の体は正常に機能しているようだった。さらに確認をするように手足を数度動かして、彼は頷く。

     

    「……これなら、いける」
    「良かった。私だけの力じゃ、心もとなかったから」
    「そう言うなって、頼りにしてるぞ」

     

     そう言いながらタイヨーは一つ大きな伸びをして、私の方を向いた。

     

    「それなら、行くか」
    「ま、待って」

     

     本棚を倒しに。そう言おうとしたタイヨーを、私は遮る。

     

    「なんだよ。もう他にないだろ」
    「……そうでもないかも」

     

     私は大きく息をついた。正直、今日下したどれよりも勇気のいる決断だった。

     

    「私、やらなくちゃいけないことがある」

     

     ●

     

    「そんなんだから、友達できないんじゃないのよ!」

     

     文芸部室の扉を開けた私たちの耳に届いたのはレインのそんな言葉と、それに続く冷たい沈黙だった。ううん、やっぱり今聞いても腹が立つ。
     ドアの外からは吹奏楽部のホルンの音が、パソコン部側にある窓からは春の爽やかな風が吹き込む。

     

     ――つまるところ、私たちはあの日の部室にいた。

     

     見れば、レイン――私たちの記憶の中にある、あの日の南潟レインが、本棚の向こうに向けて必死に呼びかけている。

     

    「な、なんでレインさんに、そんなこと言われなきゃいけないのさ」

     

     本棚の向こうから、クモリの声がした。あの日は一瞬それが彼の声だと分からなかった。クモリが声を張り上げることなんてなかったから。

     

    「レインさんは、僕のこと何も知らないくせに。そんなことを言われたら、傷つく」

     

     何も知らないくせに、その言葉は、あの日のレインにどのように突き刺さっただろう。彼女は高い本棚の壁の前で呆然と立ち尽くす、その頬を一筋の涙が伝う。

     

    「そうやって、そうやって壁を作ってるのがいけないんでしょ!」

     

     その様子を見ていたら、あの日レインが言ったセリフが、自分の口から飛び出していた。本棚の向こうで、3年間感じ続けていた気配がびくりと振るえたのが分かる。

     

    「フゥさん……!?」
    「私たち、こんなに近くにいた! 私の言ったことでクモリくんが笑うと、なんか無性にうれしかったし、ちょっとでもクモリくんのことバカにしたやつのことは、他がどんなに良くても死ねばいいって思った! ――私たち、すっごく近くにいたの! いたのに!」
    「どうして、僕は、僕は君のこと……」
    「フゥの言う通りよ! クモリの分からず屋!」
    「れ、レインさんに何が分かるんだよ!」

     

     何かにあらがうように、クモリは声を張り上げる。

     

    「どうしようもないことなんだ。僕は選ばれた、選ばれたのに……」
    「みんな殺した?」

     

     タイヨーの言葉に、クモリはひゅっと息を飲み込む。

     

    「そうだ、その上、僕はタイヨーたちまで……!」
    「何言ってんだよ」
    「――え?」
    「お前をイジメてたやつらが何人死んだって、俺は構わないぞ」
    「あ、それ、私も! あの〝栞〟見た時。マジでスッとした!」
    「え、え?」

     

     意味が分からないというように困惑の声を上げるクモリに、タイヨーと私は顔を見合わせて頷きあうと、言葉を畳みかける。

     

    「それに、俺たちを巻き込んだとか、勝手に言うなよ」
    「私たち、この場所であったことの全部が、大事な記憶なんだ。もう何も忘れたくないの!」
    「で、でも――」

    「だーーーーーっ!」

     

     クモリの言葉を遮ったのは、レインの声だった。

     

    「よくわかんないけど! 2人も味方なのね! なら、なら! 今日こそは逃げられないわよ、クモリ!」
    「レ、レインさん……!?」
    「この本棚の向こうに、クモリがいる。だから――こんな本棚、倒してやる!」

     

     レインが本でぱんぱんに膨らんだ棚に手をかける。華奢な高校生の手のそばにに、私とタイヨーの大人の手が置かれた。そうして私たちは、3人分の力で、思い切り本棚を押し始める。

     固定はしっかりしていて、詰め込まれた本で棚自体の重量も相当なもの。彼女が少し動かしたくらいではびくともしない。
    それでも、それでも、もうレインを一人にしたくなかった。
     この先にいるクモリに、伝えたいことがあった。

    「そんなことしても、意味ない。僕に構わないでよ!」クモリが叫ぶ。

    「意味なら、ある!」とレイン。

    「意味なら、見つける!」とタイヨー。

    「意味とか、いらない!」と私。

     

     えー、ここでビシッと重ならないわけ? そう思った瞬間に、腕からふっと力が抜ける。

     

     本棚がぐらりと傾いて、ずっと遮られていた日の光が、文芸部室に差し込んだ。
     
     
     


    (返信欄にエピローグ)

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  • #4141

    `エピローグ

     
     
     

     まだ幾分か冷たい春風が、ディープ・パープルを運ぶ。
     意識を取り戻した私の瞳に移ったのは、一面の青空だった。コートの背中に不快な冷たさを感じて、私は自分が寝転がっていることに気づく。
     起き上がれば、そこは高校の屋上らしかった。生徒の立ち入りは制限されているはずで、学生時代も見たことはほとんどなかったけれど、見下ろす街の景色は4階のパソコン部室からの景色とほとんど同じだったから、ここがどこかとパニックに陥る羽目にはならなかった。
     

    「起きたかい」
     

     背後でした声に振り返れば、そこには見慣れたベージュのカーディガン、雪代先生の姿があった。風の強い屋上なのに、上着も身につけずにポケットに手を突っ込んでいる。
     

    「……なんでいるの」
    「大事な教え子が風邪をひかないかって、心配でね」
    「……」
    「待ってるだけじゃ、説明は振ってこないよ」
    「なら説明して、あれからどうなったか」
     

     つれないねえ、と言いながら、彼は私に校舎内の自動販売機で買ったらしい飲み物を差し出してくる。ホットレモンか、ココアか、悩んだ末にレモンを受け取れば、先生はココアの缶を開けながらフェンス傍まで歩み寄り、春の街を見下ろした。
     

    「キミたちは上手くやった。本棚を倒して、クモリくんを解放し、僕の企みを台無しにした。あの激昂したラセンモンの一撃で僕が昏倒したことを察知して、世界の恒常性はすぐに僕から管理権限を取り戻し、世界の復元をしたよ」
    「世界の、復元……」
    「ここはデジタル・ワールドじゃない。‶選ばれし子ども〟になる前のクモリくんや、僕に電脳空間に引きずり込まれる前のフゥさんがいた、所謂‶リアル・ワールド〟だ」
    「私たちは、ループから出られたってわけ」
     

     少し安心したように息をついたが、一番気になることをまだ聞けていなかった。
     

    「みんなは?」
     

     そう言われれば、先生は肩をすくめた。課題提出が遅れたりして、本当にどうしようもない時に、先生はよくこういうジェスチャーをした。
     

    「言ったろう。世界が元に戻ったのは恒常性の力によるものだ。本来なら復元に伴ってクモリくんやレインさんは元の世界に戻るはずだけど、恒常性は、自分の虎の子の選ばれし子どもを皆殺しにした彼らを危険因子とみなした。放っておけばいずれ世界の安定を乱すだろうとね」
    「なにそれ、じゃあ……」
    「2人については、世界は運命を書き換えた。そもそも彼らは“生まれなかった”ことになったのさ。存在せず、誰とも出会わず、何も起こさない。で、タイヨー君については、言わずもがな、世界の敵である僕の一端末だしね」
     

     冬の春風が、耳元でびゅう、と鳴る。よろめいて2,3歩後ずさりすれば、先生が危ないよと声をかけてきた。
     

    「もとより、あの空間にいた者たちの中で、元の世界に帰還できる必然性を持っていたのは君だけだった。で、そうなると僕が恒常性アンチになる理由も、分かってくれただろ」
     

     だんだんと声が遠くなる。高校生活を、あの冒険を共にした仲間たちはもうどこにもいない、という事実が、じわじわと胸の中に広がり始めていた。そこのフェンスをみて、屋上から思い切りジャンプをしようか、なんてことも思い浮かんだ。
     

    「……と、なるはずだったんだけどね」
     

     絶望する私の前で。雪代先生は、どこか困ったようにほほを掻いた。
     

    「な、なに?」
    「いや、フゥさん、あの部室に、本とか持ち込んだ?」
    「え、あ……『イ長調の季節』……」
    「あ、やっぱ君のだよね、これ」
     

     その言葉と同時に、彼は手に持っていたその文庫本を示す。
     

    「この大ヒット作に、冒頭いきなり赤ペンで『設定から見直すべき』はイカれてるでしょ。そもそも図書室の本に書き込みしちゃダメだって」
    「……どうせ、図書室もめちゃめちゃになってたから」
     

     私が、本棚を倒しに部室に乗り込む前に、タイヨーに時間をもらって済ませた用が、私が10年近く逃げ続けたレインのデビュー作「イ長調の季節」の読破と赤入れだった。作品自体は短いもので、あっさりと――あっけないほど簡単に読破できてしまった。
     

    「で、感想はどうだったの?」
    「そんなの、どうだって」
    「いいから聞かせなよ。飲み物代だ」
    「……普通に面白かったよ、ふつうに」
    「でも?」
    「昔思ったレインの作品の欠点はそのまんまだった」
     

     私がずっと逃げ続けていた作品は、何のことはない、高校時代のレインの印象から想像しうる出来をしていた。どんな出来を想像し、何に怯えていたのかすらもう、思い出せなかった。
     

    「……でも、内容にはびっくりしたな」
     

     そう呟く私の脳裏をよぎるのは、本棚が倒れたまさにその日にレインが私に語って聞かせてきたプロットだった。
     

    ──でね。はじまりの4人の子どもたちと一緒に冒険するモンスターたちは、朱雀、白虎、玄武、青龍がモデルなの
     

    「‶はじまりの子どもたち〟4人の設定が、まさか私たち4人そのまんまだとは思わなかった」
    「あの伝承はデジタル・ワールドに実在するんだ。最初に恒常性に選ばれた4人の子どもたち。南潟レインは謎に包まれた4人の逸話に、高校時代の自分や同級生を当て込んだわけだ」
    「あんなのが私って言われても困るけどね」
     

     レインの幼稚なアイデアだが、幼稚だと言い切るには文学的な手法で、最初に読んだときは感心してしまった。とはいえ、自分たちをモデルにした登場人物のキャラクター造形には不満があったけれど。
     

    「西担当、白虎を連れた女の子が、いくら何でも暴力的だし、思い込み激しすぎ」
    「……」
    「なに、その目」
    「いいや、なんでも? 重要なのは、そこに書かれていたのは君たちをモチーフにした‶はじまりの選ばれし子ども〟の物語、しかもモデルの一人である君が徹底的に赤を入れて検証をしたものだってことだ」
    「それが一体……」
     

     まあ落ち着いて聞きなよ、と先生は手をひらひらと振る。
     

    「僕から管理権限を奪い返し、恒常性は僕が倒れたあの高校の廊下に現れて、世界の復元を始めた。ただ自らの記憶領域もかなり破壊されてたこともあって、一部の過去記録については、外部の資料を参照する必要があった」
     

     記憶領域を壊したのは、僕の腹いせなんだけどね、と彼は小さく唇をゆがめる。
     

    「で、もとより記録が乏しい原初デジタル・ワールドの記録を復元するにあたり、手近にあったレインさんの小説を、復元の参考資料として認識してしまったようなんだよね」
    「え……、じゃあ」
     

     混乱した頭でも、それが意味するところは分かった。
     

    「世界の復元にあたって、西島風子、松北陽太、南潟レイン、東宮久守の4人は、‶世界を救った子どもたち〟と認識された」
    「世界を救った、子どもたち……」
    「生まれた時代を始めとして、いくつかの明らかな矛盾があるにもかかわらず、再起動を始めたばかりのポンコツ管理システムにはその判断は下せなかった。世界の再編にあたって、君たちは英雄として特例的に保護された。ついでに、子どもたちのサポート役‶ゲンナイ〟のモデルにされた僕もね」
     

     そこまで一息に話してから、彼は青い空を見上げる。
     

    「僕はこれを、吐き気のするご都合主義だと思う。――君は?」
     

     それと同時に、私のポケットのスマートフォンが、泡を食ったかのようにぶるぶると震えだす。見れば、見知った名前とともに、私の居場所を問うメッセージがずらりと並んでいた。胸にざわざわと落ち着かない、春そのものみたいな気配が沸き上がる。
     いてもたってもいられなくなってその場で足踏みする私に、先生は呆れたように肩をすくめ、言葉を投げかける。
     

    「彼らは部室にいるよ。ずいぶん様変わりした部室にね」
    「様変わり……なんで?」
    「なんでって……忘れたのかな? あの時は職員一同、大変だったんだけど」
     

     彼は悔しがるような、楽しむような、微妙な表情で私を見た。
     

    「10年前に君たちが本棚を倒して、大問題になったんじゃないか」
     

     ●
     

    「フゥ!!!」
    「ちょっ、と、飛びつかないでよ!」
     

     部室を開けた私に飛びついてきたレインは、前に見たような、高校時代そのままの姿ではなかった。目立つ髪色はそのままだが、ツインテールは解いて長髪を下ろし、上品な革製の眼帯を身に着けている。
     

    「……それが、大人レイン」
    「そうよ! 驚いたかしら」
    「うーん……ノーコメント」
    「そっ……!? それが一番傷つくわね!」
     

     オーバーに胸の痛みを表現するレインを無視して部室の奥を見れば、確かにそこにはあの本棚はなかった。書籍の類は部屋の端の棚に移動させられており、二つの部室が共同で使う理にかなった造りになっている。書棚には「南潟レイン」の著作も数冊並んでいる。
     

    「レイン、作家のままなんだ」
    「ま、まあ、これでもそれなりに書いてきたもの! 簡単にその歴史は消せないわ」
    「……良かったじゃん」
    「それ、ほんとに言ってるの?」
    「そんな顔しないで」
     

     私はなぜか不安そうなレインの顔を見てため息をつく。彼女の著作を読んでいなかったことを詫びるタイミングすら逸してしまった。
     

    「ちょっと落ち着いたら、無限に文句と愚痴が出てくるから、付き合ってよね」
    「……え、ええ!」
    「あと……私の作品に、アドバイスも欲しい」
    「……! ええ、望むところよ!」
     

     これで元気になるんだから、変な親友だ。
     さらに部室を見渡せばパソコン部も文芸部も、最近の日付の部誌や活動記録の書付があり、現役の学生らがいるようだった。
     で、そんなパソコン部の機材を見ながら、こちらを見て不器用に手を上げる男が一人。
     

    「……よう、フゥ」
    「タイヨー、なんでちょっとコミュ障戻って来てんの」
    「お前、情け容赦とかないのか」
    「ない。 ……ま、生きててよかったけど」
    「お、おう」
    「タイヨーは奥さんとの時間もそのまんま引き継いだみたい! ホメオスタシスも結構気が利くわよね!」
    「それも、ほんとによかったよ……」
     

     レインの言う「ホメオスタシス」の意味は分からないが、大方雪代先生が連呼していた恒常性とやらと同じものなのだろう。とにかく、結果オーライなのはいいことだ。
     と、彼が不意にまじまじと私の顔を見つめる。
     

    「フゥ」
    「な、なに」
    「……ありがとうな、お前のおかげだ」
    「タイヨーも、頑張ったじゃん」
    「ああ、それも、そうだ。そうなんだが、俺が言いたいのは……」
     

     彼は深く息をつく。
     

    「お前と久しぶりに話して、最近悩んでたのが、嘘みたいに馬鹿らしくなった、ってことだ」
    「……私やレインにアテられて脱サラとか、やめてよ。奥さんが可哀そう」
    「当分はリスクは取らないよ」
    「はっきり『リスク』って言うな」
    「そうよそうよ! 作家は作家で、結構大変だからね」
    「……レイン、今、顔に似合わず、大人の悩みみたいなの話そうとしてるか」
    「わ、悪い!? 私だっていろいろあるの!」
     

     いつものように――あの頃のようにギャーギャー言い出したレインとタイヨーを置いて、私は部室の一角に視線をさまよわせる。
     レインとは対照的に、クモリは昔とそこまで変わらない姿をしていた。伸ばした前髪も、おどおどとした態度もそのまま。変化がないと捉えてもいいけれど、世界をアポカリモンに明け渡してから長い間、彼が守り続けた彼らしさとも言えた。
     

    「クモリくん」
    「ふ、フゥさん……」
     

     私が彼の方に近寄れば、彼はなぜか観念したように立ち上がり、私の目と床を交互に見た。
     

    「……あの、本当に、ごめんなさい」
    「……」
    「僕は、キミを大変なことに巻き込んだ」
    「……」
    「謝って済まされることじゃないけれど、それでも――」
    「……思い出せないことがあるの」
    「え?」
     

     私の言葉に、クモリは当惑したように首をかしげる。
     

    「さっき起きて、だんだん靄がかかってた記憶も戻って来てるんだけど、いくつか思い出せないことが、まだある」
    「そ、それは……」
    「私が、クモリくんをフッた日のこと」
     

     2年生の秋、地学教室でクモリに文化祭デートに誘われ、散々な断わり方をしたあの日のこと。
     

    「私は断った、んだと思う。『そういう青春っぽいの、私たちっぽくない』とか言ったとこで、記憶は止まってる」
    「あ、あの時は、ごめん。フゥさんをいやな気持に……」
    「待って、聞いて」
     

     私がずいと顔を近づければ、クモリはしどろもどろになって後ずさる。
     

    「でも私、そこから先のこと覚えてない。まだ、思い出せない」
    「そ、それは……」
    「でも、仮説は立ったよ」
     

     クモリと過ごした他の時間の記憶がよみがえる。彼は最初、ただの隣の部活の陰気な男子だった。
     でも話すうち、たくさんの長所が見えてきた。優しいところも、意外といい性格してるところも、私が部誌に乗せた作品は、ひとつ残らず読んでくれてたところも。
     彼が私の言葉に笑ってくれた日は、一日中「やった!」と思ってたし、彼が嫌な目に遭うのを見た日は、世界全部が敵に見えた。
     

     ●
     

    「今の、私とレインの2択で消去法されたみたいで、ちょっとイヤだった」
     

     数秒の沈黙の後、申し訳なさそうなクモリの言葉。
     

    「ご、ごめんなさい。嫌な気分に、させた」
     

     私たちの間には、高い高い本棚があった。
     でも、でも、それでも、あの日の私は、たっぷりの沈黙の後、再び勇気を振り絞ったのだ。
     

    「――あ、あの」
    「な、なに?」
    「えっと、今の、もっかい、やり直したいんだけど。……ダメ?」
     

     ●
     

    「私は――あの日、断らなかったんだね」
    「……」
    「で、クモリくんは自分が消えるときに、2人で一緒に過ごした時間の記憶を、念入りに消してもらったんでしょ。私が落ち込まないように」
    「……」
     

     夕焼け時にはまだちょっと早いのに、彼の顔は真っ赤に染まっていた。
     

    「バカ」
    「……」
    「そんな時間があったなら、私、ずっと覚えておきたかった」
    「……ごめんなさい」
    「謝っても、もうやり直せないよ。10年もたっちゃったもの」
    「……」
    「だから、その」
     

     今度は私が真っ赤になる番だった。
     

    「改めて……友達から、どう?」
     

     クモリはぽかんと口をあけて私のことを見つめ、やがて何度も頷いた。と、背後から声がかかる。
     

    「フゥ、クモリ! 学校出ましょう! どこかでもっとゆっくり話したいわ!」
    「俺、仕事の昼休み中だったんだが……」
    「ケチケチしてたら彼女出来ないわよ」
    「妻帯者だっての」
     

     私は振り返り、今行く、という。クモリも似たようなことを、ごにょごにょと返す。
     

    「そういえば、クモリはこの10年、何してたことになってたの?」
    「何も。家に閉じこもってたことに、なったみたい」
    「……きっついね」
    「そうでもないよ、事実だし。それに――」
     

     クモリはそう言って、すっと背を伸ばして歩き出す。その姿が、なんだか、今までで一番眩しく見えた。
     

    「なんだか、楽しみなんだ。これからの色々が」
    「……そっか」
    「まずは職探し、からだけど」
    「あ、それ、私もだ」
    「そ、そうなの?」
     

     なんだかあまりにも情けなくて、私たちは互い顔を見合わせ、へらりと笑った。
     

     ●
     

    「――こういうご都合主義が、本当はいちばん嫌いだけど」
     

     高校の校舎の屋上で、ベージュのカーディガンの男がつぶやく、風に黒髪を揺らし、その瞳は、どこか一点を見ているようで、何も見ていなかった。
     

    「まあ、構わないよ。クモリくんはじめ、彼らに個人的な恨みはないんだ。そもそも、こうして存在できている時点で、僕は贅沢を言えた立場じゃない」
     

     それに、誰に伝えるでもなく、男は呟く。
     

    「恨みで言えば、一番気に食わないやつが、まんまと騙されてるしね。あれはいい気味だ」
     

     と、春の霞でぼんやりとした街の空に、いくつかの白い点が浮かぶ。それはだんだんと屋上に近づき、その角ばったフォルムをあらわにした。
     

    「紙飛行機、か。自分がミスをしたことに気づいて慌てて飛ばしたにしては、乙なものだね」
     

     彼は鋭くその紙飛行機を見つめる。それは恒常性による修正パッチのようなものだ。紙飛行機が着地した時、自分が誤った情報を元に復元した世界を、誤りの部分だけ書き換える。もともとなかったかのように。
     

    「――ああ、それは、気に入らないな」
     

     男はフェンスに寄りかかっていた体を起こし、肩をぐるぐると回す。
     

    「彼らはもう、一つの方向性をもって人生を歩み始めた、彼らの人生があったところで、世界が不安定になったり、逆に安定したりもしない。だろ?」
     

     春の空気に向け、そう吐きだしてみる。しかし紙飛行機は風に乗って、ゆっくりと、着実に、学校に向かっていた。
     

    「誤りはあくまで修正する、か」
     

     そう呟くと、男は手を広げる。カーディガンの裾が、冷たい風にはためく。
     

    「それなら、僕はここで、お前の邪魔をしてやるよ。誰のためでもない、お前の態度が気に食わないって、『僕たち』みんながそう言っている。正しい進化などないように、正しい可能性など、ないとね」
     

     そして、春霞に浮かぶ紙飛行機に、目を凝らし、口の中でささやくように唱える。
     

    「――グランデス・ビッグバン」
     

     その言葉とともに、校舎に迫っていた紙飛行機たちが、ぽんと音を立てて空中で弾けた。あとに残るのはのどかな春の空気だけ、男は空にむかって肩をすくめて見せる。
     

    「世界の再編に巻き込まれたと言っても、僕の力が全部失われたわけじゃない。言っとくが、エネルギー切れの心配はないよ。お前が僕の教え子あてにくだらない飛行機を飛ばすたび、僕はこれをやる」
     

     冷たい風が一陣吹く。男は面白くて仕方ないとでもいうように、くつくつと肩を震わせた。
     

    「やろうぜ、ホメオスタシス。――世界が終わる、その日まで」
     

     ●
     

     高校1年の5月。念願の文芸部に入部するために階段をかけがっていた私は、部室の前で響くすすり泣きの声に、はたと足を止めた。
     銀色でぼさぼさの髪、ボロボロの服。おおよそのどかな春の学校の空気に不釣り合いな雰囲気で、その少女はただ泣いていた。
     

    「あ、あの」
     

     私が声をかければ、少女は顔を上げる。左目についた醜い傷にうろたえながらも、私は言葉を重ねる。
     

    「私、その部屋に用があって……」
     

     と、彼女が寄りかかっていたドアを指させば、少女は慌てて、何度も小さな声で謝りながら、扉の前を開けた。
     

    「あの、何かあったの?」
     

     それを聞いたのは単に聞かないのも不自然だと思ったからだ。
     その言葉に少女が話してくれた理由――大事な親友を追って世界の裏側からこの学校にたどり着いたこと。やっと会えたその親友は高校生活を何度も繰り返すのに夢中で、つれない態度を取られ、泣いていたという話も、私は荒唐無稽な作り話としか受け取らなかった。
     

    「うーん、そういうのが好きなら」
     

     私は今まさに入ろうとしていた部室を指さす。
     

    「文芸部、どうです?」
    「ブンゲー……?」
    「私と二人きりにはなっちゃうけど、好きなだけそういう嘘をついていいと思いますよ」
    「そ――」
     

     少女のつぶれていないほうの瞳に、確かに好奇心の炎が灯る。
     

    「それって、楽しい?」
    「うん、すっごく」
     

     そう答えて、私は不器用に笑うと、少女に手を差し伸べる。
     二つの手が重なって、文芸部室の扉が開く。
     

     春の風が渦を巻いて、私と彼女の顔にぶつかった。
     
     
     

    (2025.12.27 madaramazeran1)

    #4151

     完結お疲れ様でした。
     最終話だというのに、クモリ君はあんまり喋らないしレインはレインだしと一番マシ扱いされるわバラバラになった後ガンプラみたく組み直されるわとタイヨーが美味し過ぎる。最終話に限ればどう見てもCV石田彰を背負ってそうな雪代先生と共にMVPかもしれない。
     本人消えてエピローグに奥さん(独身)だけ出てくるなんて悲しいENDが来るのではと警戒していましたが、常識人かつ底無しにいい奴として人間の生を送れているようで何よりでした。
     
     主人公達四人の名字が東西南北だったのも最終的にしっかり活かされてニヤリ。読めていなかった親友(嘘)の物語を最後の最後に読み、しかもその上で添削までしたことが逆転の一手となる皮肉。しかしこの物語においてフゥが主人公であった必然性、物語を通して示した答えはやはり雪代先生に放った啖呵でしょう。
     冒頭の生々しいクラス内での立ち位置含め、陰鬱なようでいて中に激情を抱えた女の絶対に譲れない部分がある。
     間もなく20代を終えようとしている喪失感も含めて己自身、たとえ数多の成功した可能性せかいを見せられたとしても、自分の歩んだ一つの道だけが自分テメーの選んだ人生こたえと言わんばかりの燃え展開。これぞ主人公、これぞ漢女(おとめ)の進む道。自分の選んだ生き方を虚無だ間違いだと断じられるのは己だけ、いやはや良い啖呵を聞かせて頂きました。
     
     最後の最後、クモリ君がめっちゃいい部分を持って行く~と見せかけて雪代先生が大トリ持って行くんかいとなりましたが、アニメではヤケクソの道連れとして使われたグランデス・ビックバンがこんな形で用いられるとは感無量。性格的に最後までやりたい放題決めて終わるかと思われたレインが案外しおらしかったのとは対照的。
     対照的と言えば、冒頭の最初の出会いとまさしく対になるラストの○○○○。ここでもフゥの啖呵が効いてきて、もしもあの日に戻るとしても同じ道選ぶだろうと言わんばかりの謎の燃えを覚えたのでした。冒頭ので名前なんで知っとんねんというのを示すと共に、世界が何度やり直そうと繰り返そうと変わろうとそこだけは決して変わらないものでした。
     
     改めまして完結お疲れ様でした。

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