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トピック
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家を出て最初の角では、白木蓮の花がほころび始めていた。
私はあの花が好きだった。あるいは、春の花と聞かれて、桜でも梅でもなく木蓮だと答える自分のことが好きだったのかもしれない。それでも、自転車を半分立つようにして漕ぎながらこの角を曲がる時間が、私はとても好きだった。
あの陶器のように無垢な真っ白が、そばで見ると野暮ったいほどに分厚い花弁によって守られていることを知ったのは、ずっと後のことだった。
私の人生は、すべてがそんな風に進んでいた。
自転車にも、もうしばらく乗っていないな、と思いながら、最寄りのバス停へと向かう。今朝がた見た夢のせいだろうか、春の空気は妙に煙たかった。私じゃない、私かもしれなかった誰かの幸せが、蜃気楼のように目の前に横たわっていた。
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どこかに行きたくてバスに乗ったわけではなかった。
それは10年前、雪で自転車が使えない冬季に登下校に使っていたバス路線だった。私の家の最寄りのバス停はよくバス時間の調整に使われる場所で、扉を開けたまま数分停留していることがよく合った。そんな、小休止中の緑色のバスに、あの日とおんなじように私は乗り込んだ。
昔はバスがどこに行くでもなく止まっているこの数分間が嫌いだったな、と思う。じれったさにバスを降りて歩いたことすらある。当然その後追い越されてしまうわけだけれど、あの頃の私はまだ若くて、待たされることが大嫌いだったのだ。
車内には2組の客しかいなかった。1組目は一番後ろの座席に座る親子連れで、母親と思しき女性の話に、小学生くらいの子どもが適当な相槌を打ちながらスマートフォンをいじっていた。もう1組はおばあちゃんの2人組だった。10年前にも同じようなおばあちゃんがいたような気がした。この田舎町にはこういう人たちはごまんといるのかもしれないし、時間という法則を超越した神秘学的おばあちゃんが、年老いることなくバスで無駄話を繰り返しているのかもしれない。
私は後ろから3番目くらいの2人掛けの席に腰かける。うららかな春の陽気の中だが、バスの空調はまだ暖房をがんがんにつけていて、私は早速不快な気分にさせられながら、汚れた窓にこつんと頭を預けた。
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昔、このバスに乗ってどこかに行ってしまおうと思ったことがあった。理由は覚えていない。家族と喧嘩したのか、クラスで嫌なことを言われたのか、どうでもいい。忘れてしまうような理由だったのだ。
朝、登校するために憂鬱な気持ちでバスに乗って、少し走った先にあるバスターミナルでがやがやと他の生徒が乗ってきたときに、どこかに行ってしまおうと決めたのだった。みんなとおんなじ学校前で降りる必要なんてない。みんなを無視してずっと乗っていれば、バスは私のことをどこまでも運んで行ってくれるのだ。
イヤホンを耳に突っ込んで、くるりのB面曲ばっかりあつめたアルバムを大音量でかけて、窓に寄りかかって目をつむった。いつもなら朝の眠気も手伝って、周囲のやかましさにもかかわらず眠りについてしまうのに、その日、私の頭は笑えるくらいに冴えわたっていた。それほどに、私の思いついた退屈への反逆は、素晴らしいものに思えたのだ。
ふたつ、みっつとバス停を過ぎるのを、バスの振動だけで感じ取る。周囲の生徒たちがごそごそと降車の準備をはじめ、座席に座っていた子が、隣に座った人にすいませんと言って立つ声が聞こえる。手がぶるぶる震えるほどに怖かったが、私は目をきつくつむって、動かなかった。
や がて、バスが止まって、ぞろぞろと生徒が列をなして降り始める。バスカード(当時、この街のバスはまだ電子マネーに対応していなくて、バスカードだけが私たちの持ちうる唯一の文明らしいものだった)が機械を通る音がする。段取りの悪いどこかの男子が自分の番になってから財布をごそごそやって、あげく小銭がなくて1000円札を両替機に通したものだから、後ろからヤジが飛ぶ。
「西島さーん、ついたよ」
誰かが私の肩をゆすった。私はぎゅっと目を閉じて、反応しなかった。耳元で、くるりが引き裂かれるような声で「ガロン」を歌っていた。
「ちょっと、ね、西島さん」
「どしたの」
「え、ほら、なんか寝てるの」
顔が熱を持つ。ほほが赤くなっていないといいなと思った。
「えー、起きないんだけど、どうしよ」
誰かの手が私の両肩をがっと掴んでゆすった。私はそういうとき、どうすれば上手に寝たふりをしたことになるのかわからなかった。そういうことをされたらふつう起きるからだ。
「え、無視?」
「寝てるんじゃないの?」
「起きてるよ、たぶん」
「じゃあいいんじゃない、ほっといたら」
私に聞こえるか聞こえないかの声でこそこそそんな話が聞こえる。もう後戻りはできなかった。私を起こそうとするこの顔も見えないクラスメートの努力がバスの運行を大きく妨げているのは分かっていた。今更起きたところで、冗談でしたでは済まないだろう。
「おきゃくさーん、大丈夫?」
「あ、はーい。……どうしよ」
「いいじゃん。ほっとけば。具合悪いわけじゃないんでしょ」
「多分? 西島さーん、もう知らないからねー」
その言葉と共に声が遠ざかっていく。一部始終を見ていた男子たちのくすくす笑いが後に続いた。私は彼らを責めない。本気になって怒られなかっただけ、私は幸運だった。
私を起こしてくれたクラスメートはきっと悪いやつではないのだろう。白い目で見られることをいとわずに私を起こそうとしてくれたのだから、むしろいいやつだ。それでも、私に彼女の顔を思い浮かべることはできなかった。あの子はきっといい子だから、学校生活の中で私なんかにかまっているひまはないのだ。
出発しますよー、とちょっときつめのアナウンスがして、ドアが閉まる音がした。私はもう最悪の気分になっていた。なんでこんなことしちゃったんだろう。頭おかしいんじゃないのとか、そういうことを考えた。くるりはまだまだ「ガロン」を歌っていた。この曲は11分もあるのだ。
今から起きて、次のバス停で降りて、そして走れば、まだ始業のチャイムに5分遅れるくらいで済むだろう。先生に軽く怒られて、バスで寝ちゃってましたとへらへら言い訳して、クラス中の笑いものになりながら、起こしてくれてた人いたよね、だれ? とか言えば、私を起こしてくれるくらいに寛容なクラスメートと友達にだってなれるかもしれない。
私は掛け値なしのバカだったから、そんなのごめんだった。燃やし損ねた石油をどこに放つ? とイヤホンが言った。
バスはそれから、私が路線図でしか見たことのない停留所の名前を5回か6回読み上げて、やがて、終点をつげると、普段よりも大きく揺れて、停車した。
目を開ける。30分も走っていないはずなのに、窓の外には今まで見たことのない景色が広がっていた。
胸は相変わらずきりきりと痛んだままだったけど。ちょっとだけ胸がすくような気分になった。少なくとも、私にとってこれは冒険だった。どんなに些細なものであっても、私一人の──。
「やー、お目覚めだね。フゥくん」
……ん?
背後で聞こえた声に、私はぶんぶんと首を振る。きっと幻聴だ。だってここに私以外の学生がいるわけが──。
そう思った瞬間、誰かが私の肩をたたく、嫌な予感と共に振り返れば、つん、と指がほほに当たり。アッシュグレーの髪の少女が笑った。
「あは、引っかかった」
「……レイン、もしかして、ずっと、後ろに?」
顔から血の気が引くさあっという音が聞こえた気がした。
「ざっつらいと! 良く寝てるのかなーと思ったけど、どうも寝たふり? してるみたいだったし? アタシも冒険にお供しちゃおうとしたのさ!」
「……」
「いやあ、優等生かと思ったらやるじゃん、フゥ! そうだよね。学校の授業には、アタシたちの求める文学は無──」
「……うるさい」
「ぐ! ちょっと、なんで殴るのさ!」
「うっさい!」
私はぽかぽかとレインの肩を殴り、彼女はそれをかわそうと身をよじる。頭上で、お客さーん、終点だから降りてね、と声がした。外れたイヤホンからは、くるりがいつまでも鳴り響いていた。
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まもなく、第一高校前、お降りの方は降車ボタンを。そんなアナウンスで私は目を覚ました。気が付けば、バスに乗っているのは私一人だった。
また、昔の夢を見た。私が感傷に浸りすぎているのかもしれないし、この街の空気に、粉々にすりつぶされた過去が混ざっているのかもしれない。
「ガロン」もしばらく聞いていないな、そう思ってポケットに手を入れて、自分がイヤホンを忘れてきたことに気が付いた。それどころか、部屋のどこに置いていたかも思い出せなかった。
あの四角いケースに入ったワイヤレス・イヤホンを、私はしょっちゅうなくす。学生時代はまだ優先のイヤホンを使っていて、ポケットの中でぐちゃぐちゃに絡まる代わりに、なくしたりはしなかったのだけれど。
吐き気をこらえて外に出た私が持ってこられたのは、いつも使っているトートバッグだけだった。筆箱にメモ帳、それからタブレットPCが入っている。大学に入学するときに買ってもらった品で、いい加減ガタが来てはいるのだが、特にデリケートなキーボードがワイヤレス接続で替えが効くのと、そもそも文字を打つだけなら大したスペックを必要としないおかげで、7、8年近く現役だ。
昔は、これをもって大学近くの古い喫茶店に入るだけで、ちょっとした作家みたいな気分になったものだ。手荷物は少ない方がいい。PCと文庫本だけが入ったバッグに、イヤホンとスマートフォン、それから財布を放り込んで──。
「──あ、まって、財布」
思わず大きめの声が出る。トートバッグを漁っても、ない財布があったことになるわけではない。ジャケットのポケットに手を突っ込めば、ちゃりり、と音がして、100円玉が2枚と、4、5枚の1円玉が出てきた。うそでしょ、あのころよりお金ないんだけど。
高校前で降りるときは180円、ここが料金の変わり目で、次のバス停では230円になる。
セーフ、と息をついて降車ボタンを押した。
ピン、ポン、次、停まります。
もう、あのころみたいな冒険もできなくなったという事実が、じわりと心に広がってくる。高校なんて、見たくなかったんだけど、と呟いた。
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高校はあの頃のままだった。校歌にも歌われている真っ白な校舎は、外気にさらされてくすんでしまっているが、別に私が通っていたころだってそうだった。
グラウンドからは野球部の掛け声が聞こえた。プーマのジャージに身を包んだ少年が、自転車を立ちこぎしながら私の横を通り過ぎていく。校門の右手には時折近くの大学の宗教サークルの人がいて、勧誘のチラシを配っていたっけ。
そんなことを考えて、自分の心が思ったより凪いでいることに気づいた。
そうだ。もう10年も前のことなのだ、と思う。多くの人にとってそうであるように、私にとっても、きっとこの場所はただの思い出なのだ。
レインはうまくやり、私はうまくやろうと考えてしまった。その原因は、あの文芸部室にはない。もっと後のこと、あるいは、もっと前のことだ。
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19のころは、会う誰もが私のことを褒めていた気がする。才能だけで食える世界ではない、という前提の上ではあったけれど、たくさんの年上の人が、私の文章を褒めて、私の向上心を褒めて、なにより私が若いことを褒めた。
褒めてもらう代わりに、私は酒場で彼らの話を聞いた。彼らの創作の苦しみ、あるいは作家の某先生と知り合いだという自慢話はどれも退屈で、レインの世界を無理やりに流し込まれていた方がずっとマシだと思った。
思えば私はずっと、若いことばっかりを褒められていた気がする。
定職にはついておいた方がいい、という皆の真摯なアドバイスを聞き流していたら、22になっていた。焦りながらも小説家の夢をちらちら見るような生活を送って、やがて大学の文芸サークルの先輩のつてで、小さなタウン誌のライターとしての仕事を得た。薄給で、それだけで一生過ごすことなど考えられない仕事だったが、来年の芥川賞を受賞するのだ、と本気で信じていたので構わなかった。
仕事はそれなりに楽しかった。大きな雑誌では取り上げないような街の新しくできた店の取材も、それを気のきいた文章にして褒められるのも、スーツを着なくていいのも好きだった。仕事をして、家に帰ればあちこちの文学賞の締め切りを貼ったコルクボードに向かい合い、PCに文章を打ち込んだ。
25になった。会社で昇進の話をもらった。後輩もできて、もう自分がどこからどう見ても子どもではないのを感じ始めていた。作品が一つ、さして思い入れのない文豪の名前を冠した小さな文学賞の最終選考に残った。小躍りするほどにうれしかったが、その分落選した時には涙すら出ず、一晩中まんじりともせず椅子に座っていたのを覚えている。
27になった。年間に書く小説の本数はだんだんと減っていた。いつの間にかスーツを仕立てていた。自分が小説なんか書かなくても生きていける側の人間であることが、事実として覆いかぶさってきた。その事実に毎晩絶望しながらも、朝になれば、なんだかんだ今の日々も幸せだなと仕事に行くことができてしまった。
その間も、小説家を志す人々のコミュニティでは、私は若い人のままだった。下にはもっと若くて才気にあふれる人がいて、彼らは先輩方の飲み相手のホステスみたいな真似はせずに、もっと上手にやっていたけれど、若いのを褒められるのはいつも私だった。
──27、8ならまだ、才能を信じてみてもいい歳だよ。
バーで私にそんなことを言ったやつの言葉を思い出す。彼は本気でそう言っていて、だから私はだめなのだと思ったのだ。
思えば、あの時、小説家としての私は死んだのだ。ジミが、アレサが、カートが死んだ歳に、私も死んだ。
いいや、ちがう。そんなの欺瞞だ。ぬるま湯にいて腐ったことにしたいだけだ。自分の堕落の責任を、誰かに押し付けたいだけじゃないか。
本当のところ、私が死んだ年も、月も、日も、はっきりしている。
21歳の年の初め、レインが賞をとった。
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レインの小説「デジタル・モンスター」はヤングアダルト向けのファンタジー小説の連作だった。一つの壮大な世界観が根底にあり、そのうえで起きる様々な物語を描いている。今でいうシェアード・ユニバースというやつだ。その世界は、また聞きした範囲内では、あの文芸部室で私に語って聞かせたものと寸分違わなかった。
私の好んでいた作品とはジャンルが大きく違ったから気づくことはなかったが、実際のところ、受賞する1年前から彼女の小説シリーズは発刊されていたらしい。なんでも、Web小説投稿サイトの賞を取ったのだという。書籍化にかかる時間を考慮すれば、そちらの受賞は高校を卒業してすぐのことだったはずだ。
レインがなんでその時に連絡の一つもよこさなかったのか、考えても分からなかった。思えば、高校時代はうるさいくらいだったレインからの連絡は、卒業と同時に途絶えてしまった。
そして、それを薄情だと思う権利も私にはない。高校時代にレインを邪険に扱っていたのは私の方だったし、こちらからメッセージを送ったことだって数えるほどしかなかった。
彼女の受賞作「イ長調の季節」を私はまだ読んでいなかった。悔しいのかもしれないし、対して悔しくも感じない自分に気づくのが怖いのかもしれなかった。
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春風に交じって、吹奏楽部の演奏が聞こえる。たかだか10年経ったって、何も変わりやしないんだ、と呟いてみた。
ここに来てよかったのかもしれない。高校生活は私にとって呪いでも何でもないと分かった。レインはただ部活が一緒だっただけの他人で、彼女が賞を取ったからって、私に関係があるわけじゃない。
ただ、それだけ。ふたつの関係のない人生があっただけ。一人は自分の世界をみんなに押し付けて喜ばれる幸せ者になり、もう一人は遠くまで行くバス賃もないまま、平日の昼間に春の青空の下でたたずんでいる。
「──戻りたいなあ」
呟きが漏れる。そっか、私は単に若かったあのころに戻りたいだけの、平凡な人間なんだと理解する。
夢を見るのだって、きっとそのせいだ。さしていいものではなかったけど、私にとっては、あの文芸部室こそが、他の人たちが後生大事に抱え込んでいる”青春”だったのだ。どう考えても今の虚しさとつり合いが取れないとも思うけれど、これまでの人よりうまく取引ができたためしなんてなかったし、今回もそうだったというだけのことだ。
そう自覚してしまえば、気分はそう悪くなかった。いい気分ついでに、高校近くにあった喫茶店でも寄っていこうかしら。あ、お金ないんだったわ。そんなことを考えつつ、これ以上高校の前でぼんやりしていたら通報されそうだな、と、私は踵を返す。
「フゥ……?」
そこに、太陽が立っていた。
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「……ほんとうにタイヨー?」
「嘘なわけあるか」
「いや、まあ、そうなんだけど」
太陽が立っている、と最初に思ったはいいけれど、目の前にいる男性が本当にあの松北陽太なのか、私には確信が持てなかった。
あのころは顔の半分近くを隠していた前髪は眉のあたりで短く切りそろえられ、髪型もあの頃は冗談でもするのを嫌がっていたセンター分け。あのころは悪目立ちしていた骨ばった顔の輪郭にはいくらか肉がつき、しかしそのことで顔つきはかえって精悍さを増したように思えた。
なにより、高級ではないが品の良いスーツに少し個性的な柄のネクタイを締め、ぴかぴかの革靴を履いた姿はなかなかに立派だ。これが「陽太なのに陰気」だと私やレインからさんざん言われていたあのタイヨーなのか、じっと見れば見ているだけ、私は自信を無くしそうになった。「……えー、なんか、立派になったね」
「なんだその感じ」
「いや、だって」
いや、ちがう。私は首を振る。なんだこのやり取り、気色悪い。そもそも今の私にとって、昔の同級生との再会なんて、絶対に避けたい展開じゃないか。それがタイヨーともなってしまえば、なおのこと最悪だ。
「……そのカッコ、仕事中?」
「そうそう。今は昼休み。フゥは──」
あーほら、聞いたら聞き返されるに決まっている。私は何をやっているんだ。
「やめ、その、やめて」
「はい?」
「だ、だから、その、”フゥ”っていうの。もう子どもじゃないんだし」
「あ、確かに、大分ハズいな。いや、あの頃の感じのままでしゃべっちゃうもんだな。西島な、西島」
タイヨーはほほを掻いて笑う。いや、だからこの空気気持ち悪いよ。なんでちょっと爽やかなの。あのころから身長大して変わってないのになんか背高いし。
「フ……西島は」
「やっぱりフゥでいいや。気持ち悪いし」
「いやひっでえ。で、フゥは何してんの。帰省中?」
「そんなとこ」
息をするように嘘が口をつく。何せ母にも小説家を目指していることを今日まで隠し通してきたのだ。今更これくらいでびくともしない。ちょっと声が裏返ったのは気のせいだ。
「そうか。今でも東京?」
「そうそう」
しばらくこっちで仕事探すんだからまた会うかもしれないじゃないか。もう少しましな嘘をつけ、私。
「タイヨーは、なに、外回り?」
「そうそう。あ、これこれ」
そう言ってタイヨーが渡してきた名刺には、地元のガス会社の営業担当としての肩書きと、彼の名前が並んで記されている。医療用ガスを中心に手広くやっている会社で、中学の時に私も社会科見学に行ったような気がする。そんな会社とタイヨーの名前が並んでいるのは、なんだか変な感じだった。世界がそのまんま嘘だったと言われたような気がした。
「4月前に異動あった取引先も結構あるから、あちこち挨拶してたんだ」
「なんか……”社会人”だね……」
「当たり前だろ。もう今年で28だぞ」
彼の言葉が鋭すぎる矢となって私の胸に深々と突き刺さる。い、いや、私もこないだまで結構ちゃんと働いてはいたし。あんなん遊びみたいなものと言われれば、それまでなんだけど。
「高校にはどうして?」
「ああ、いや、そこにある唐揚げ屋で昼飯食ったとこだったんだけど」
「あそこまだあるの? 私たちがいた時でしょ、できたの」
「4人で時々行ったな。クモリは嫌がったけど」
「小食だったもんね」
「……」
「……」
あの、会話が終わったのですが、2分で。
「話すこと、なくなったな」
「自分で言っちゃう? 営業職なんでしょ。見せてよ、コミュ力」
「嫌な言葉使うな……」
「俺はコミュ障だからー、とか、一番言ってたの、タイヨーでしょ」
「あんま言うなって。久々過ぎて話題なんか昔の話しかねーし。昔の話するの、そっちもイヤだろ」
「……おっしゃる通りかも」
そう言って私はため息をつく。本当にイヤなのは現在の話なんだけれど。とにかく、自分で思っていたよりも肩の力を抜いて話せているのはいいことだ。
「んで、タイヨーはなんで高校来てたの? ずっと盛岡いたなら、別に懐かしむ気にもならないでしょ」
「んあ、確かにそうなんだけど……」
「どうしたの」
「いや、変な話過ぎるんだけどな」
タイヨーはしばらく逡巡してから、それから恥ずかしそうに言葉を吐いた。
「最近、見るんだよな。あの頃の夢」
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「──ひょっとして、松北くんに西島さんかい?」
タイヨーの発言を追及しようとした私の試みは、校門の内側から響いたそんな声にさえぎられた。見れば、ねずみ色のカーディガンを身に着けた眼鏡の男性が、柔和な笑みを浮かべてこちらに手を振っている。
その笑みを見た瞬間に、記憶がごぽごぽと沸騰する。そうだ、あの人は。
「あ、えっと……!」
「──雪代先生?」
「そうだ、雪代先生!」
「はい、2人とも正解」
タイヨーに一歩遅れて私が声を上げれば、先生──雪代鏡介(ユキシロ・キョウスケ)は満足げに頷いて微笑んだ。
雪代先生は私たちの学年の化学教師で、日本中の化学教師がきっとそうであるように、化学部の顧問も兼任していた。
化学実験室は私たちの部室と同じ4階にあったから、私たちが下校時間を過ぎても駄弁っていたりすると注意に来た。そして私たちはほぼ毎日駄弁っていたから、彼はほぼ毎日私たちを注意しに来て、最終的にそれなりに親しくなった。
「この時期だし帰省中のOBの誰かかと思ってたけど、まさか君たちとはね」
「こっちこそびっくりですよ。覚えててくれたんすね」
「君たちとは、なんというか、共犯だったからねえ」
雪代先生は吹奏楽部の偏屈なおじいちゃん顧問が部室の前を通る時には知らせてくれるように融通を聞かせてくれることもあった。サブカルチャーにそれなりに理解があって、たまに私とアンディモリの話をしたり、レインと私の知らないライトノベルの話で盛り上がったりしていた。
彼も私たちの部室をサボり場所に使っていた節があり、そういう弱みを見せてくれていたこともあって、私たちみんな、彼のことはそれなりに信用していた。そしてそのどれよりも、クモリのことをいつもさりげなく気にかけてくれていたのが、彼が私やタイヨーの評価を稼いだ要因だった。
「え、というか先生全然変わらないね」
私の口からも自然とため口が漏れる。
「今何歳?」
「ん? 35だよ」
「はあ!? じゃあ俺たちがいた時って……」
「24とか、5とかだね」
「年下じゃん……」
「クソガキなんだが」
「クソガキだった君たちには言われたくないな」
え、こわ、あの頃の大人が年下なの、こわ。ちょっと重めのボディブローを食らった時のように、私は呆然と息をつく。
「君たちは、ここで待ち合わせってわけでもなさそうだけど」
「そうなんです。ほんとにたまたま、こいつと会って」
「こいつ呼ばわりされましたが、そうです」
「へえ、そりゃすごい」
感心したようにつぶやいた後、先生はあのころと同じようにちょっといたずらっぽく目を細めた。
「──よければ、見ていくかい? 君たちの部室」
「え!? いいの?」
「まああんまりいいことじゃないけど、わたしという教師が立ち会ってるし、他の先生方もやってることだしね」
まだ春休み中で生徒もあんまりいないし構わないよ、そう言って校舎を親指で指さす先生に、私とタイヨーは顔を見合わせた。
私としては、正直、これ以上辛い思いをしたくないというか、近況を聞かれる前にここを立ち去りたいのだけれど。
「あ、タイヨー、今仕事中でしょ? 昼休み、終わっちゃうんじゃない」
お、ニシジマフーコ、ナイスパスです。受け取ったショウホクヨウタ選手がそのままゴールにシュ──。
「ああいや、次の約束2時とかだし、ちょっとくらいオーバーしても別にいい」
──ちゃんと合わせろってのこの元陰キャ。
「それじゃあ、どうぞ入って入って」
「はい、せっかくなので……」
私は肩を落とし、タイヨーをじっとりした目で睨みつけながら、雪代先生の背中を追った。
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「君たちが卒業した後、パソコン部も文芸部も部員が入ったり入らなかったりでね、なんだかんだ廃部にはならずに今日まで活動してるよ」
そんな雪代先生の説明を聞きながら、古びた校舎の階段を上がる。壁に貼られた美術部のしょっぱい勧誘ポスターも、総合学習の活動報告レポートも、全部があの頃と大して変わりないのに、何かが決定的に違っていた。よく考えずとも、それは私自身だと思い当たる。
「どっちの部活も、こないだ唯一の部員である3年生が卒業したとこだね。新入生が一人も自発的に入部しなければ、存続について生徒総会の議題に上がることになる」
「あー、俺たちの時にもありましたね。レインがなぜかパソコン部の分まで存在意義を主張して騒いだやつ」
「プラカードまで作って、ほんと恥ずかしかった……」
なるべくレインの同類と思われないように身を潜めていた2週間ほどのことを思い出し、私は身をすくめる。結局レインの”闘争”は、存続を許可する代わりに、せめてちゃんとした活動実績を作れという生徒会の提案をのむ形で終わり。私たちは年に2回の部誌作成の他に、街でやっていた古本市でのボランティアとか、文化祭での作品展示とか、そういった面倒くさいことをやる羽目になった。
「まあ、そのおかげでというか、そのせいでというか、”文芸とパソコンには関わるな”みたいな伝統が執行部内にできたみたいだけど。それで今までも続いているなら、南潟さんが部を救ったということになるのかもね」
「”手を出すな”とかだったら格好良かったんですけどね……」
「それにこれからは、南潟さんにあこがれて入部する人も、いるかもしれないしね」
「それは、まあ……」
ため息をつきながら歩けば、気が付けば4階だった。あの頃と違って歩きづらいスリッパであることを差し引いても、結構な運動だ。あの頃意味もなく駆け足で何度も上り下りしていたことが信じられなくなる。
「──あ」
階段を上って、左に曲がってすぐのところに、私たちの部室は、あの頃のままであった。扉のガラス部分には、私たちが入部する前から紙が貼られていて、外から中をうかがうことはできない、そこは本当に、私たちの秘密基地だった。
「中もそのまま、相当散らかってるよ。細かいところまでは知らないけどね」
「それはなにより、そういえば先生──」
私の隣でタイヨーは苦笑して、それから、何かを決心したように先生の方を向いた。
「──2年の春休みに、本棚が倒れたことがあっただろ。あれ、相当な騒ぎになったはずだけど、覚えてる?」
私の背筋に、少しだけ緊張が走った。それは私が最近見る夢の内容そのものだった。あの夢があったから、今日この場所でタイヨーや雪代先生と再会したことにも、私はそこまで驚いていなかった。むしろ、誰かの小説のストーリーをなぞっているような、チェーホフの銃がこちらを狙っているような、不思議なめぐりあわせを感じていたのだ。
タイヨーに聞こえないようにごくりと喉を鳴らし、雪代先生の言葉に耳を傾ける。
「え? そんなことあったかな。覚えないけど」
──けれど、先生から帰ってきたのは、困惑の表情と、拍子抜けするほどにあっさりとした返答だった。タイヨーも食い下がるように聞き返す。
「マジ? 忘れただけじゃなくて?」
「いや、本棚って、君たちの部室区切ってるアレだろ? あんなものが倒れたら、安全的に大問題だし、さすがに職員会議とかの話題に上がるはずだ。そんなことなかったよ」
「え……」
「君たちがうまく隠したとか? いやでも、流石に倒れたときの音とか、外まで聞こえるはずだしな。教員がいなくても、他の生徒が気づくでしょ」
「そっか、俺の気のせいなのかな……」
ちがう、タイヨーの気のせいなんかじゃない。私は思う。だって私も覚えている。さっきまでは自分の中でも半信半疑だったけれど、タイヨーも覚えているのなら、それは確かにあったことのはずだ。
それでも、結局私が覚えているのは、本棚が倒れるまでのやり取りだけだ。
「とにかく、わたしは、そういうことがあったとは認識していないよ」
倒れた本棚の姿も、それが引き起こすであろうエトセトラも、私の記憶からすっぽりと抜け落ちている。初めから何もなかったかのように。
本棚は──。
「いや、俺の気のせいだな。ごめん先生。テレビかなんかと混ぜて覚えてたんだ」
──本棚は、倒れたのだろうか?
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ぼおっとしていた私の意識は、かちゃり、と鍵が開く音で再び現実に浮上した。
「さ、先生がいても邪魔だろう。わたしは化学準備室に戻ってるから、しばし君たちで思い出に浸るといい。ま、15分くらいね」
「いいのかよ?」
「まあ、今は使われていない部室だし、構わないよ。それこそ、本棚を倒しでもしない限り、さ」
先生はそう言って手をひらりと振ると、帰る時は一声かけてねと言い残し、そのまま行ってしまった。
「大丈夫なのか……」
「ま、まあ、昔から適当な先生だったし」
私はそう言って、タイヨーと一緒に無線部室に足を踏み入れた。一人で文芸部室に入るのが、ちょっとだけ怖かったのだ。
「……わ、無線部室、初めて入ったかも」
「うそつけ、レインと一緒に何回か乗り込んできたろ」
「うん。入るたびに『初めて入ったかも』って言ってた」
「だよな」
無線部室は、窓側にあるだけあって、我が文芸部室よりもずっとずっと明るい感じがした。部誌やら小説やらでひたすらごちゃついているこちらと違って、2台のPCや、活動予定を書いたホワイトボードを中心にそれなりに調和を保っている。部屋の端にはなぜか高性能なプリンターがあって、時折生徒会が使わせてもらいに来ることもあった。
「すげー……あの頃のままだ。あ、PC周りは多少アップデートされてるな」
彼はそう呟きながら、懐かしむようにPCに近づき、それから、壁のように立つ本棚を眺めた。私も一緒になってそれを見る。本棚を裏側から見るのは変な感じがしたが、こちら側はこちら側で、フックをかけたりマグネットを貼ったりと、さまざまに活用しているようだった。
「さすがに、これは倒れないか」
「……」
「倒れてたら、PCも壊れてるし、俺たちもけがしてるだろ。そしたら廃部じゃすまないはずだし。やっぱ俺の気のせいだな」
「……あのさ」
こっちも最近、本棚が倒れたことを思い出すんだと言いかけた私の言葉は、どこか遠くを見るようなタイヨーの言葉にさえぎられた。
「──俺、今日フゥに会えて、良かったな」
「……なに、それ、気持ち悪いんだけど」
「あ、別にエモい話じゃないからな」
「──なかった」
「は?」
「”エモい”って言葉も、あの頃にはなかったよ」
「そう、だっけか」
記憶なんてあてになんないなー、と、タイヨーは慣れた手つきで窓を開ける。春の風が吹き込んで、ホワイトボードに張り付けられたプリントを揺らす。2年前かそこらの日付のプリントは、日差しを浴びてずいぶん黄ばんでしまっていた。
「で、私に会えてよかったって?」
「俺たちって、結局連絡の一つも取らなかったじゃんか。大学行ってから、近況報告の一つもしなかったし」
私は頷いた。
「みんな、そういうの、ダサいと思ってたもんね」
「そうそう、お互いがバラバラの道を歩いて、互いのことは知らない。それでいいと思ってたけど、ほら、レインがさ、勝手に”近況報告”しやがっただろ」
たしかに、私も彼も、レインの”近況”をいやというほど目にしている。そういう意味ではレインらしいのかもしれない。私たちがプライドに邪魔されてできないことを一番にやるのは、いつも彼女だった。
「あれ見てたら、お前らがどうしてるのかとか、結構気になってさ。でももう手遅れだと思ってたから、よかった」
「……そ」
「そっちはよくなさそうだな」
「色々あるの」
彼は首を傾げた。そんな鈍さでよく営業が務まるな。っていうか──。
「クモリくんは? 私たちを抜きにしても仲良かったでしょ。連絡とらなかったの?」
私がそう疑問を口にすれば、タイヨーは、胸を内側から針で突っつかれたように顔をしかめた。
「……ない」
「え?」
「クモリからは、一度も連絡、ないよ。俺からは大学1年の夏に連絡したけど、返事なくて、それから何度DMしても、ずっと無反応。そのうち、LINEのアカウントも消しちまった」
「……珍しいことじゃないよ。関係性リセット、っていうの? 分かるでしょ」
「だな、でも俺はあいつのこと、親友だと思ってたし、あいつにとってもそうだと思ってたから──こういうところが、良くなかったのかもな」
「……」
「悪いな、こんな話に突き合わせて」
「別に、いいよ」
窓枠に手をかけ、タイヨーはため息をつく。私は彼の辛気臭さに同じように付き合えた。私にとってタイヨーは、それくらいには、まだ友達だった。
彼は窓の外に広がる故郷の街を見渡しながら、ぽつりぽつりと言葉を重ねる。
「俺、フゥとレインのこと、内心バカにしてたんだ」
「……内容によっては殴るけど」
「二人とも、東京に行って小説家になるんだって言ってたろ。正直、なれるわけないと思ってた。俺はお前たちと違って、現実的に将来を見てるって」
「……」
「だから普通に地元の大学に入って、地元の会社に就職して、上司の紹介で結婚して」
……はい?
え、なんか結婚とかいってたけど。私の夢の話持ち出していい話しようとしてる時点でワンアウトなのに、結婚???
「不満はないよ。それどころか、かなり幸せだ。職場では評価されてると思うし、妻だって、俺にもったいないくらい、その……素敵な人だし」
え、なんか惚気てきたんだけど、私何聞かされてるの?
「でも、レインのニュースを見てな、俺もしかして、めちゃめちゃつまらない人生送ってきたんじゃないかって、そう、思ったんだ」
はいはいはーい! 私よりは面白い人生だと思いまーす! 仕事にやりがいがあって、昔を楽しそうに振り返れて、なにより結婚してるし、結婚してるし!
大体その話、レインにするなら分かるんですけど、どうして私にしちゃうかな。おい、そういえば昔からお前はデリカシーがなかったな。そういうところだぞ。
「そう思う自分にも自己嫌悪でさ。妻にも悪いんじゃないかとか、いろいろ考えちゃって」
はい、殴る。「内容によっては殴る」って最初に言ったから、完全な正当性をもってして、私は彼を殴ります。裁判でも勝てる自信があります。
私はゆらりとタイヨーににじり寄ると、トートバッグを持った手を振りぬく。
「一人で……」
中にタブレットが入っていることも忘れていた。鞄の中に入っているのはそれなりの重量を持った硬いもの。それだけで情報としては十分だった。
「一人で幸せになりやがって、このノンデリ既婚者──!」
「────────────」
不意に大きな電子音が響いて、私は振り上げた手を止めた。タイヨーも意識を窓の外から部屋に移す。
「今の音は……? うわ、フゥ、何してるんだ?」
「うるさい。しね」
「え、なに!?」
「いいから。それより今の音、パソコンだよね」
「え、さっきまで電源切れてたろ。ランプも消えてたぞ」
私は怒りを一度抑え、PCの方に向かう。ふたつ並んだパソコンの、より部屋の奥に位置するほう──いつもクモリが使っていたほうの画面が、白く発行していた。
「え、なにこれ、分かる?。タイヨー、パソコン部でしょ?」
「10年前の話だろ。──なんだこれ、壊れたのか。いや壊れてもこんな風にはならんだろ」
「使えないなー」
「なんで急に当たり強いんだよ!? えっと、ヤバいなこれ、強制終了──」
そう言いながら、タイヨーが電源ボタンに手をかけたとたん、モニターから放たれる光はひときわ強くなった。そのあまりの眩しさに、タイヨーが声を上げて倒れ、尻もちをつく。
「おい、なんだこれ……!」
「──────!」
今、何か聞こえた?
「……タイヨー」
「んだよ、俺にはどうしようもねえって、誰か……」
「ちがう、静かにして!」
「──、────!」
それは、声のように私には思えた。鼓膜がその微かな音を感じた瞬間、胸がかきむしられるような気分になって、私は思わずモニターに飛びついた。
「────、────!」
「なに!? 良く聞こえない!」
「────────────!!」
「だから、聞こえないって!」
「おいフゥ、どうしたんだよ……」
「既婚者は黙ってて! ああもう、言いたいことがあるなら──」
私はモニターを両手でつかみ──自分としても狂ったとしか思えないけれど──その向こうにいる”彼女”に向けて、思い切り叫んだ。
「いつもみたいに、ぎゃーぎゃー叫んでよ、”レイン”!」
「フゥ、何言って……」
タイヨーがそう言った瞬間、大きなノイズ音が私たちの耳をつんざいた。モニターだけではなくて、この世界そのものにノイズが走ったかのような、大きな雑音だった。
そうだ、あの頃、彼女の叫びは、ほとんどの人にとって雑音だったはずだ。それを、多少なりともクリアに聞き取れたのは、聞き取ろうと、していたのは──。
「フゥ、タイヨー!? あー、あー! 聞こえる!? アタシ、レインだよ!」
──世界に、私たちだけだった。
≪続く≫
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