ドレンチェリーを残さないでep5

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      「夏音さんとの関係?」

       

      「はい、姉さんから幸夜さんの名前を聞いたことがなかったもので」

       

      幸夜は、猗鈴の持ってきたマドレーヌを一つ取ると笑顔で一口頬張った。

       

      数日前までワスプモンと貸した同僚に嫌がらせを受けていた幸夜は、今も姫芝に付けられた額の傷は治っておらず、綺麗な顔より目を引く痛々しい大きなガーゼで覆っていたが、表情は明るくて事件の時よりも朗らかで、つきものが落ちた様に見えた。

       

      「まぁ、ミスコンでちょっと知り合っただけだから、言わなかったのかも」

       

      「ミスコンっていうと、大学の?」

       

      「夏音さんは一年生、私は四年生だから……三年か四年前。大学のミスコンで夏音さんは二位、私は三位だったの」

       

      そういえばと猗鈴は思い出す。夏音は毎年友人達の推薦もあって大学のミスコンに参加し、毎年表彰台に登っていた。

       

      「……私は引っ込み思案だから、友達とは名ばかりの顔しか見てないケダモノみたいな男子とか、合コンに呼ぶ為の餌にしたい女子とか以外はほとんど友達とかいなくて、夏音さんは初めて話をするのにどこかシンパシーを覚える人だったの」

       

      「シンパシーですか」

       

      猗鈴の記憶の中にいる夏音はいつも人気者で、人当たりもよく人の中心にいた。失礼にも思えたが、引っ込み思案の幸夜とはどちらも美人ぐらいしか共通点が思い当たらなかった。

       

      「私はミスコンとか嫌いだった。でも、他薦されたからみんなの期待を裏切るとどう思われるか怖くて断れなかった。夏音さんは、顔色の悪い私に話しかけてきて……自分もそうだって一瞬、笑ったの」

       

      「姉さんはいつも笑ってる人だったと思いますけれど……」

       

      「なんでいうか、それまでの朗らかな感じじゃなくて、どこか虚ろというか、じわっと笑顔に辛さが滲んで見えたの」

       

      その言葉は猗鈴を少しだけ動揺させた。

       

      「それで、夏音さんとはその時連絡先を交換したきりだったけれど、もしかしたら私の辛さをわかってくれるんじゃないかって、そう思ったの」

       

      「そうしたら、私のバイトしてる探偵を紹介された。と」

       

      そう、と幸夜は朗らかに笑った。素朴で裏のない、たんぽぽみたいな笑みだった。

       

      「あ、そうだ。実は結婚式の事で話を聞いて欲しいんですけど……」

       

      「私に、ですか? よくわかりませんよ?」

       

      「いいんです。猗鈴さん達なら信用できます。額の傷の慰謝料だと思って」

       

      「……それを持ち出されたら話を聞くしかないですね」

       

      猗鈴がそう言うと、幸夜は嬉々として分厚いカタログを取り出してきた。

       

      これは長くなるなと覚悟して、猗鈴はずずとお茶を啜った。

       

       

       

      「姫芝ちゃん、幸夜さんの顔に傷つけたんだ?」

       

      「夏音様の友人とは知らなかったものですから……」

       

      姫芝はそう言ってひどく罰が悪そうにした。

       

      すると、ふと夏音は笑い出した。

       

      「謝らなくていいよ。むしろ、おでこじゃなくて鼻とか頬とか隠せないところにつけてくれてもよかったぐらい」

       

      「……え?」

       

      「幸夜さんの友人として、とても嬉しいって言ってるのに」

       

      「嬉しい……? でも、見た目がいい方が普通は得することが多いかと」

       

      「それが彼女にとっては呪いなのよ。色の白さは七難隠すって言うけれど、色の白さに艶のある髪、色々合わせて何でもかんでも美化されて、彼女自身を見てもらうことさえなくなったら、それはもう彼女を閉じこめる檻のようなものでしょう?」

       

      「……そう、なんでしょうか」

       

      「本人の思う現実から乖離して褒められても何も嬉しくなんてないのよ。誰だってね」

       

      そう言って、夏音は姫芝の前にマドレーヌの入ったバスケットを置いた。

       

      「これは……?」

       

      「マドレーヌ。妹の好物でね、焼きたくなっちゃってさ。でも私甘いものダメだし」

       

      ちらと姫芝が夏音の後ろに控えていた秦野の方を見ると、懐から簡素な包みに包まれたマドレーヌを五指に挟んで取り出して見せ、そしてそれをそのまままた戻した。

       

      「いただきます」

       

      姫芝がマドレーヌを食べ始めると、夏音はおもむろに立ち上がって部屋の外にスタスタと出て行った。

       

      廊下に出ると夏音はそのままぐるりと左を向いて軽く頭を下げた。

       

      「お久しぶりです、織田さん」

       

      織田信雄(オダ ノブオ)は大柄で髪を銀に染め、ピンク色のワイシャツを着てピアスを付けた目つきの悪い男だった。

       

      「美園ォ……幹部らしいこともせず大学行ってたかと思ったら、今度は変な格好して急に参加し出してうちのを引っこ抜いてくとかどういうつもりだ……?」

       

      「どういうつもりも何も……こっちの水の方が合ってそうだったから?」

       

      あと、変な服扱いは織田さんに言われたくないと夏音は貼り付けたような笑顔で返した。

       

      「だとして俺に入ってくるのが事後承諾ってのはどうなんだよ、おい!」

       

      信雄が夏音の肩を掴もうとすると、夏音はパシッとそれを手で払った。

       

      「あっ、ごめんなさい。パワハラ上司がうつりそうででつい……まぁ、組織内の正規の手続きは踏んでますし、それが事後承諾になるのが不満なら、もう少し自分の組織にちゃんと手を入れたらいいんじゃないですか?」

       

      織田さんは大学通ってないんだしと、さらに煽った。

       

      「てめぇ……魔王様のお気にだからって調子乗ってんじゃねぇぞ」

       

      「それは私がおばばに気に入られているんじゃなくて、他の人達がおばばに信頼してもらえない様なことをしてるんじゃないですか?」

       

      「んだと……?」

       

      「あー、反射的に口が出るのはよくないですね。私は、大学生だとか表の立場を捨てさせなくても、味方だと信じてもらえている。ただそれだけなんです」

       

      「てっめぇ……!」

       

      信雄がポケットからメモリを取り出すと、夏音も自分の服の裾に手を入れた。

       

      今にもメモリを挿す。となった瞬間、パンと手を叩く音が廊下に響いた。

       

      「やめないか二人とも」

       

      音の鳴った方に信雄と夏音が目を向けると、本庄がそこに立っていた。

       

      「……善輝ぅ、一応今はてめぇのとこの部下なんだよなこいつはよぉ」

       

      「本庄さーん、織田さんが、自分が部下に嫌われているのを私のせいにしてくるんです」

       

      まぁまぁと本庄は自分よりも背の高い二人の間に割って入った。

       

      「僕達は嫉妬の魔王に選ばれたという血より強固な繋がりを持った同胞、家族以上の関係性なんだ。夏音くんも、信雄もお互いに広い心で接しようよ」

       

      ね、と善輝はそう言ったが信雄はそれを鼻で笑った。

       

      「はっ……俺はごめんだね。俺とお前のメモリはlevel6のデジモンだがこいつはlevel5、そもそも格下なのに同格のつもりでいやがる」

       

      「嫌ですね、同格だなんて思ったこと一瞬でもないですよ。格下だと思ってます」

       

      夏音はそう言ってずいと信雄に近づくと、その高い身長で思い切り見下した。

       

      「どうだかな、ちょっと前に自分の彼氏に殺されて火葬までされたんじゃなかったか?」

       

      「それは乙女心ですよ。自分のことを愛してくれる人の気持ちは受け止めたい乙女心。織田さんみたいに乙女心もわからなければ、拾い食いして死んだらもう蘇れない様な人じゃないので私」

       

      信雄がメンチを切りながらそう言うと、夏音はふふと笑ってからくるりと後ろを向いた。

       

      「拾い食いなんかしねぇよ!」

       

      信雄がもう一度メモリを取り出すと、バリバリと二人の間を切り裂く様に稲妻が走った。

       

      「やめないかと、さっきも僕は言ったんだけど」

       

      善輝は少し低い声でそう言った。

       

      「全く、おじさんを揶揄っただけなのに、二人ともすぐに手を出すのよくないですよ。では、私はこれからお茶するところなので」

       

      夏音はけらけらと笑みを浮かべてくるりと二人に背を向けた。

       

      「チッ……ムカつく女だ。善輝よぉ、アイツは力もない癖に魔王様にも取り入ってる毒婦だ、気を許すなよ」

       

      信雄はそう言うと、どすどすと地面を不機嫌そうに踏み鳴らしながら去っていった。

       

      「……僕は仲良くがいいと思うんだがなぁ」

       

      そう呟く善輝を尻目に見ながら夏音は部屋の扉を閉めた。

       

       

       

      「気に入らねぇ、あの女……姫芝ってやつも気に入らねぇ……資料によればザッソーモンなんて雑魚メモリ使ってやがる癖に、俺の下から俺の許可もなくいなくなるだなんてよ……」

       

      「織田様、こちら先月のメモリの売り上げ記録です」

       

      「……おぅ」

       

      受け取ったタブレットを見て、織田はあとドスの効いた声を上げた。

       

      「売り上げが前よりも落ちてるじゃねーか! どうなってやがる!!」

       

      「それは、姫芝が抜けたせいかと……彼女の担当エリアに代わりに営業に行った者が、過去姫芝が担当していた客にアタッシュケースごとメモリを強奪された様で……」

       

      「おいおいおい、そのアタッシュケース奪られた馬鹿はどうした」

       

      「……それが、死にました。死体の状況から、奪われたメモリの実験台にされた様で……」

       

      「舐めた真似してくれてんじゃねぇか……そいつの居場所はわかってんだろうな?」

       

      「い、いえ……捜索中です」

       

      「すぐ探させろ。今月のノルマは不問だ、営業部の奴ら総出で探させろ。その舐めたクソ野郎は念入りにぶち殺してやらなきゃならねぇ」

       

      信雄はそう言ってタブレットを部下に向けて押し付けた。

       

      そして、不機嫌そうに頭をバリバリと掻いた。

       

      「くっそムカつく……姫芝の客もムカつくし引き継ぎしてねぇ姫芝も姫芝を引き抜いた美園もムカつく」

       

      「……では、美園様の計画に横槍を入れてみては?」

       

      「あ?」

       

      信雄に声をかけてきたのは秦野だった。

       

      「お前は……美園の世話係を魔王様から命じられてたんじゃなかったか?」

       

      「その通りです。されど……私の主人は魔王様であって美園様ではありません。主の為ならば時には反旗を翻すのも厭わないのが真の忠臣というものです」

       

      「ふーん、御大層な考えは結構だがよ、どうしてお前は美園の計画を邪魔したいんだよ」

       

      「美園様は組織外にいる妹に対してメモリを流し、挙句姫芝を使いその成長の糧として様々なデジモンと戦わせているようなのです。それを信雄様が明らかにすれば美園様を溺愛している魔王様も目を覚まされるかと」

       

      「……悪くねぇ筋書きだ。魔王様がどう出ようと美園が恥をかくのがいいな。で、具体的にどうするよ」

       

      「姫芝が営業部の時に出した報告書に、メモリの力を使う銃器の話が載っております。織田様はそれを読んで他にメモリに手を出している組織があるかもしれないと実際に行って探りを入れた。そうしたら美園様が横流しをしていたことがわかった。という形がいいかと」

       

      「なるほどな、じゃあ……早速その妹とやらをボコボコにしに行くか。殺したとしてもそれは悪いのは俺じゃあないよなぁ?」

       

      信雄はそう言うとその場から獣の様な笑みを浮かべて立ち上がった。

       

       

      「……んー、猗鈴さん、話でも弾んでるのかな」

       

      「まぁその分色々と聞けるかもしれないし、ともすれば、当の『夏音さん』から連絡が入るかもしれない」

       

      「とは言ってもだよ? 夏音さんが本当にまだ生きていると思う? 大西さんに話を聞いた限りは確かに検死解剖はされている。内臓を調べる為に胸もお腹もメスとか開けてるし……それまでに仮に生きてたとしてもそこで死んでるよ」

       

      「まぁ死んでいたとしても成りすましているのは誰かは気になるしね」

       

      「あとは、本庄善輝についてはなにか……」

       

      「んー……あれはねぇ、ネットから調べられる範囲だとあんまり参考になりそうなことはなかったかなぁ」

       

      天青と盛実がそんな会話をしていると、ふと扉が開いた。

       

      「ん……女が二人、どっちが美園の妹だ?」

       

      そう口にしたのは信雄で、天青と盛実を見比べた後、おもむろにポケットからメモリを取り出した。

       

      「まぁどっちでもいい。ここで暴れられたくなかったらちょっと付き合えよ」

       

      「……わかった」

       

      天青がそう言って立ち上がったので、盛実は何も言わずにその背中に隠れるように後に続いた。

       

      そうして辿り着いたのは、取り壊し予定危険と看板の建てられたビルだった。

       

      「ここはさぁ、少し前にメモリ使ったやつがボロボロにしたとこでさ。土地の権利者も死んだもんで取り壊しは一向に進んでない。俺達バイヤーが客を連れてきて試させたりするのにぴったりの場所なんだ」

       

      「……バイヤーってことは、姫芝の仲間?」

       

      「上司だ、俺はッ!そのクソ女の上司! そして、クソ女と仲良く喧嘩してるっていうお前らも気に食わないって訳だぁ!」

       

      『ブリッツグレイモン』

       

      信雄はメモリのボタンを押しながら自分の左腕に突き刺すと、その身体を瞬時に異形へと変えた。

       

      両腕には覆う様に、背中には翼の様に二メートルはあろうかという巨大な電流火器を備え、トカゲの様に細く伸びた頭からは鼻先に一本こめかみから二本の計三本の角を生やしている。頭の先から爪先まで全身が真っ赤な金属に覆われてサイボーグの様だった。

       

      「ブリッツグレイモンは、level6! こいつただの情緒不安定プッツン野郎じゃない!」

       

      「おいおい、俺のメモリの情報まで流れてんのかよ……あいつ、本格的にふざけてんなぁ!」

       

      信雄が怒りに任せて壁を殴れば、鉄筋コンクリートの壁に人がゆうに通れる穴が空いた。

       

      「博士、早速だけど……ベルトの準備って……」

       

      「一応出来てる!」

       

      盛実がベルトを懐から取り出すと、どんという音がして、盛実の身体が吹き飛んだ。

       

      「本気で戦わせてやる義理はねぇ……お前らはただ殴られてればそれでいいんだよ!!」

       

      地面に転がったベルトを、信雄は足で器用に蹴り上げると、両手で挟んですり潰した。

       

      ばきべきと金属やプラスチックが無惨に折れて割れていく様を見ながら、天青は一つ息を吐いて左手に白いメモリを構え、右手に持った銃のスロットへと挿し込んだ。

       

      『エンジェウーモン』

       

      「ほう、Level5だったか? うちの商品にはないメモリだなぁ……?」

       

      そう言った後、信雄はくくくと笑った。

       

      「でもLevel5だしなぁ? ベルト壊した詫びに一発だけ殴らせてやろうか?」

       

      どうせ効かないけどなぁと信雄はゲラゲラ笑った。

       

      「美園が何企んでたか知らねぇけど、ここでLevel6使えるなら使わない理由ないもんなぁ!! 弱いやつ同士で仲良くつるんでただけか!? まぁそれでもLevel4以下のクソ雑魚よりゃよっぽど強いから勘違いするのも無理はないか!!」

       

      ベルトの残骸を足蹴にしながら笑う信雄を天青はじっと静かに見つめていた。

       

      「……あなた、ヨッシーより弱いでしょ」

       

      「あ?」

       

      「本庄善輝、彼よりあなたは弱いし、多分組織の中でも立場はあるけど権限はない」

       

      「なんだと……? 善輝と俺は同じLevel6だ、そこに差なんてねぇッ!!」

       

      「いや、ある。Levelだけが強さだと思っているのはLevel関係ない化け物を知らない、つまり、魔王の内情さえ知らされてないって証拠」

       

      「そう言うてめぇが使ってんのはLevel5じゃねぇか。ただの負け犬の遠吠えにしか聞こえねぇ!! 文句があるなら俺に一発食らわせてみやがれ!!」

       

      「わかった」

       

      天青はそう言って、銃の先端に丸い装置を付けてかちりと嵌め込み、両腕で持って構えると引き金を引いた。

       

      『ホーリーア……エラー、不正なユニットが接続されています』

       

      電子音が途中で止まり、けたたましいアラートが鳴り響く。

       

      「おいおい、せめてちゃんと一発食らわせろよ。偉そうなこと言ってた癖にエラー吐いて技さえ出ねぇじゃねぇか」

       

      信雄の言葉を無視して天青はカチと引き金を引く。

       

      『エラー、問題が解決されないままでは動作しません』

       

      引き金を引く。

       

      『エラー、このまま動作した場合安全が保証できません』

       

      引き金を引く。

       

      『エラー、使わないで欲しかった』

       

      「……安全装置つけすぎだよ、博士」

       

      天青は、引き金を引いた。

       

      『マスティモン』『カオスディグレイド』

       

      電子音と共に、銃口から赤と青の光が現れて信雄の前の空でぐるぐると少しずつ近づきながら円を描く。

       

      「なんだぁ……?」

       

      信雄が腕を伸ばした瞬間、その腕の先で赤と青の光がぶつかり合い、空間が裂けた。

       

      「……博士を運ぶ救急車を手配しなきゃ」

       

      そう言うと天青は右手で白いメモリを銃から引き抜き、そのまま銃を地面に落とした。落ちた銃は地面に当たるとバキンと割れて修復が絶望的なまでに砕け散った。

       

      「てめぇ、何をした!」

       

      「致命的な攻撃。でも、一発食らってくれるんでしょ?」

       

      信雄の伸ばした腕から空間の裂け目へと吸い込まれていく。信雄の直感はその暗い穴に落ちたら死ぬと告げていた。

       

      「クソが、クソがクソがぁ!! 俺は、俺は最強なんだぁッ!!」

       

      「携帯……」

       

      悲鳴とも怒号とも取れる叫びを上げながら吸い込まれてない腕や脚、歯まで使って地面にしがみつく信雄を背に、天青は白いメモリをポケットにしまい、スマホを取り出そうとして、取り落とした。

       

      ぽたりぽたりとスマホに真っ赤な血が垂れ、天青が自分の腕を見てみれば、白い長袖が膝から先が真っ赤に染まっていた。

       

      あぁ、やっぱりこうなったかと天青が思うと、それまで実感に欠けていた腕から先をみじん切りにされるような痛みが込み上げてきた。

       

      「やっぱり……魔王みたいに上手くはいかないか」

       

      天青はそう呟くとその場にばたりと倒れた。

       

      そうして天青が意識を失うと、空間の裂け目も閉じた。

       

      「ちくしょうが、生き残ってやったぞ……」

       

      信雄は、右腕は肩からなく、こめかみの角も片方が欠け、片目も裂け目に引かれておかしくなったのかあらぬ方向を向いていたが、まだ生きていた。

       

      「ふぅ……善輝も通じてただと……? ふざけやがって、どいつもこいつも……俺だけなんで知らねぇ……ワニはどこまで知ってやがる……」

       

      左腕の重さに身体のバランスが取れず、左腕をつきながら三本足の生き物かのようになりながら信雄は天青へと近づいていく。

       

      すると、ふらりと立ち上がった盛実が天青と信雄の間に割って入った。

       

      「もっと準備してればこんなに世莉さんを苦しめずに済んだのに……」

       

      「……お前も戦えるわけじゃねぇんだろ? お前も戦えたなら一緒に戦った筈だもんなぁ?」

       

      「確かに、私は一緒に戦えないけれど……戦えないわけじゃないんだよね。悪いけどさ」

       

      そう言いながら盛実は白衣の下に着た繋ぎのボタンを外し、胸元に巻き付けられた機械を露出し、そこに取り付けられたレバーを押した。

       

      『エカキモン』『エカキカキ』

       

      「てめぇ……!」

       

      「これはさ、使い所なさすぎたんだよね。威力は高くて並のデジモンは確実に死ぬし私の能力のリソース食うしさ」

       

      ベルトの機能維持もままならないと盛実は呟いて、胸元から、ハガキ大のラミネートされた紙を一枚取り出した。

       

      次の瞬間、紙がぼうっと光ると、その場に紙に描かれていた黒い悪魔の羽と白い天使の翼を併せ持った金髪の美丈夫が現れ、笑みを浮かべた。

       

      「エ、エレックガード!」

       

      咄嗟に周囲に電気のバリアを展開した信雄の身体を、その金髪の美丈夫は即座に蹴り上げた。

       

      バリアは意味を成さず、堅固な金属の身体はつぶれたピンポン球の様にひしゃげてへこみ、どれだけ打ち上げられたのか、信雄は床を何階分も突き破ってなお高く飛び、屋上で背中を打つとデジモンの身体さえ維持できなかった。

       

      「……やっぱ大魔王は強いわ。levelとか飾りだもん」

       

      盛実がそう呟いてぺたんと膝をつく頃には美丈夫はとうに消えていた。なんなら蹴り上げた時に既にその姿は消えかけていたのが盛実には見えていた。

       

      「私の出力じゃ一秒以内、素のパンチかキック一発だけが限界だなぁ……」

       

      だらっと頭から垂れる血を袖で拭いながら、盛実は大西に電話をかけた。

       

       

       

       

      「……ふふふ、やられちゃいましたね。織田さん」

       

      織田が目を覚ますと、織田は右腕のないままベッドに寝かされておりその枕元には夏音と秦野がいた。

       

      「……そうか、てめぇの仕込みだったのか」

       

      「織田様には申し訳ないと思いましたが、夏音様に全て従えという魔王様からの命を受けています故ご容赦頂きたく……」

       

      秦野はそう言って頭を一つ下げた。

       

      「すごかったでしょ? 彼女達」

       

      「……あいつら何者だ?」

       

      「別の魔王の眷属で、私達のクリア条件Bってところですよ」

       

      「なるほど、アレは……ゲートか。世界を繋ぐ門、俺達にはデジモンの実体が通れるようなサイズでしっかりしたゲートは開けねぇ、だからメモリが要るし適合者が要る……」

       

      「でも彼女はデジモンが通れるサイズのゲートを開けるから……」

       

      「メモリを経由し、生贄になる適合者を用意しなくとも魔王様を呼び寄せることもできるって訳だな」

       

      なるほどなと言って信雄はケラケラと笑い、夏音も一緒に笑った。

       

      『ブリッツグレイモン』

       

      「で、俺は本当にゲートを開くことができるか試す為に使われたってことかてめぇ」

       

      メモリを使っても織田は左腕しかブリッツグレイモンになれなかったがその腕で夏音の首を乱雑に殴りつけると、夏音の首はばきっと関節の外れる軽い音と共に背中と後頭部がつくぐらいの勢いで折れた。

       

      それを夏音は自分の手で元の位置に戻すと、またにこりと笑った。

       

      「織田さんは腕一本、私は首一本、おばばが本庄さんと私にだけ伝えて織田さんには伝えてなかったことも教えてあげたんですし、これでおあいこでいいですよね?」

       

      「てんめぇ……」

       

      「腕ならその内生えますよ。私なんて火葬されてますし」

       

      「アンデッド基準で考えんじゃねぇ……人間の身体にない部位は欠損しても再生しやすいけど、俺みたいに腕が飛ばされたらまず再生しねぇ!」

       

      「へぇ……姫芝さんが何度も両腕飛んでるから生えてくるのが当たり前だと思ってた」

       

      「ちくしょうが……」

       

      「まぁでも自業自得ですよね。舐めプしなければ、彼女をここに連れ帰って分析したり、洗脳に使えそうなメモリとかアレばゲートを開いてもらうことだってできたのに、舐めプして腕取られて何があったか知らないですが屋上でごーろごろですからね。私が回収させなかったらメモリ奪われて警察病院にいたんじゃないですか?」

       

      てめぇともう一度信雄が腕を振り上げるも、夏音はそれを頭突きで受け止めた。

       

      「今のあなたはメモリを使った上で、使ってない私が殺されてあげようと思わなければ一度殺せもしない。格下にそこまで追い込まれたんだから、もう少し反省すればいいのに」

       

      「治ったらすぐにでもあいつらもお前も殺してやる……」

       

      「その意気です。ちなみに、エカキモンってデジモンは基本的にはlevel3相当なんですよね。ブリッツグレイモンは……level2でしたっけ?」

       

      「このっ……」

       

      信雄は左腕を夏音に向けて電撃を放とうとしたが、出るはずの電撃は出ず、それを見て夏音は微笑むと、カゴに入ったマドレーヌを枕元に置いた。

       

      「治るまでゆっくりしてて下さいね。治ったらちゃーんと織田さん込みで計画立てておきますから」

       

      くそがぁという声を背中に受けながら、夏音は秦野を連れてルンルンとスキップでその場を後にした。

       

      「いいのですか? 織田様は我々にとっても大事な戦力のはず……」

       

      「いいのいいの、おばばの守りの適合者を探すプランA、ゲートを使うのがプランB、そして私の用意してるプランCも、織田さんに独断専行されたら困るからね、少しの間動けなくなっててもらわないとね」

       

      その言葉は声のトーンに反して冷徹だった。

       

       

       

       

      おまけ

      「結婚式には是非夏音さんと一緒にきてね!」

       

      「……楽しみにしてます」

       

      猗鈴がそう言って帰っていったあと、幸夜のスマホにポンという着信音と共に、夏音からメッセージがきた。

       

      幸夜は解決したという話もしていたし、猗鈴が来た時にもメッセージを送っていたのだ。

       

      『猗鈴のこと引き止めてくれてありがとう。結婚式の相談の役には立った?』

       

      それに幸夜は、

       

      『すごく丁寧に話を聞いてくれてありがたかったよ。ところで、サプライズの準備は大丈夫?』

       

      と返した。

       

      『バッチリ』

       

      と幸夜の元に短いメッセージが返ってきた。

       

       

       

       

       

      あとがき

      第五話もありがとうございました。もうあと今日含めてデジモン創作サロンも三日ですけれど、皆様やり残しがないようどうかお気を付けて。

       

      では、また来週更新する予定ですので、またよろしくお願いいたします。

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    • #3693

       一族……5話までに既に名前が出てきた黒木の一族……。
       
       妹が振り回されてる一方でお姉ちゃんは実に楽しそうで良い。ブリッツグレイモンパンチを敢えて受けて(首の折れる音)する辺り殆ど首なしニックの資格があると思えますが、読み返すと4話と5話全部お姉ちゃんの目論見通りという。そして以前サロンで「この町怖い女だらけや」みたいなことを言ったものの、よく考えたら男もまた彼女燃やしたり女性に見境無くベアハッグ仕掛けたりする鬼畜集団というか後者はDr.真木ィのような欲望を持っておられる。リアルすぎる過去の経験から病んで夫の畑踏み荒らしてた妻&その妹がむしろまともに見えるぜ。
       織田さん物の見事に利用され、天上天下唯一無二の噛ませぶりを披露してしまいましたが、これは相手が悪すぎたと褒めてあげるべきなのか。いやLevel6として5話で早くも登場して即片腕消し飛ばされてしまいました。展開はえェーッ! しかし上に挙げた変態男子どもと比べれば、美園姉妹や博士達と女子としか絡んでないもの噛ませっぽい言動なだけで下卑た思想がない辺り相対的には紳士なのかもしれない織田さん。
       そして普通に世莉さん呼びされてしまっている。思わずオオッ!
       
       5話まで、これにて感想とさせて頂きます。

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