ドレンチェリーを残さないでep23

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      ディコットの乗ったバイクが車と車の間を縫い、時に伸ばした腕を利用して車の上を飛び越えながら走っていく。

      「猗鈴! 本当にこれしか方法なかったんですか?」

      「なかった」

      ディコットの口からそれぞれの声が出る。

      「私はその小林という男も斎藤博士もどの程度戦えるか知らないんですが、信じていいんですね?」

      焦る杉菜の声に対し、猗鈴の声はいつもの様にともすればいつも以上に淡々としていた。

      「大丈夫、あの場にはもう一人味方がいる。最初は信じられなかったけど」

      「もう一人? まさか……」

      「行けばわかる、はず」

      アクセルをさらに一段深く回す。建物越しに見えるソルフラワーへ向けてバイクはさらにスピードを上げた。

       

       

      また別の道路で、全身を銃器で固めたケンタウロスの様なデジモン、アサルトモンとバイクに変形した公竜が競り合っていた。

      アサルトモンは上半身をよじり腕のマシンガンを公竜に合わせようとするが、公竜はその背後を取って照準を合わせにくくすると共に背後から銃口を向けて攻撃を仕掛ける。

      しかしアサルトモン側も黙って撃たれる訳ではない。右に左にと進行方向にしか撃てない公竜の攻撃をかわし、且つ隙あらばマシンガンを乱射する。

      高速で競りながらアサルトモンと公竜はその身を削り合う。

      しかし、それに先に嫌気がさしたのはアサルトモンだった。急にスピードを上げて公竜の加速を促すと、続けて跳躍した。

      公竜に追い抜かせれば背後からなら自分が狙える。その目論見を察知して公竜も跳躍し、バイクの姿から人の姿へと姿を変える。

      『エレファモン』

      『アトラーバリスタモン』

      人型のそれになった公竜は背中に生やしたタービンで姿勢を制御すると、巨腕をもってアサルトモンの腕を鷲掴みにすると、道路から脇の山中へと投げた。

      人気のない山中は鬱蒼と木が茂っていてアサルトモンが自由に走り回るにもマシンガンを撃つにも窮屈な状況だった。

      「……くそっ、警察を抑える為に人質取ったのに警察が居合わせてくれたら台無しなんだよ」

      アサルトモンは木々の合間を歩き慎重に公竜との間合いを測りながらそう吐き捨てる。

      「悪党の企みは台無しになってくれないと困ります」

      「……本当にそうか? 俺達の目的は、きっと警察にとっても役に立つぞ?」

      それはどういうことだと公竜が問いかけると、アサルトモンはガスマスクの下でにやりと笑った。

       

       

      「勘違いしないで欲しいがぁ、おれたちゃカタギの皆さんに迷惑かけるつもりはないのよ」

      一体だけ一回り大きな、ライフルを持ち迷彩に身を包んだトカゲ、コマンドラモンが、ライフルを床に置いてそう集めた人達に話しかけた。

      「十年前のこの街を思い出して欲しい。あの頃はまだ、こんなじゃなくて平和だったろ?」

      一回り大きなコマンドラモンはそう穏やかに話し出した。

      「暴対法で弱体化したとはいえ、陽都ではまだ力もあって、俺達が半グレやなんかの街の無法者達をシメてた。だからまぁ、呆れ返るほど平和だった。麻薬(ヤク)もそんなに、拳銃(チャカ)より強い武器も出回ってなかった。マッポにも顔がきいてなぁ、兄貴達は警察のお偉いさんとの飲みの帰りにゃお土産だって寿司とか買ってきてくれたもんだ」

      その言葉に、何人もの人が眉をひそめたのをそのコマンドラモンは気が付かない様だった。

      「メモリなんて麻薬でありながら拳銃より危険なブツを捌く奴らが現れてこの街は変わっちまった。俺達も舐められねぇ様に戦ったがオヤジがやられて、その上の奴らはこの街は金にならねぇって手を引いた。ワカもさぁ、逃げてぇやつらが街の外でやっていける様にしなきゃってんで悔し涙流しながら街から出ていっちまった」

      そのコマンドラモンは悲しいなぁと情感たっぷりに呟く。

      「兄貴とオレは残ったやつらまとめて、メモリ組織に媚売ってメモリかき集めながらずーっとやつらを潰すチャンスを狙ってた。そして、今日に至る」

      つまり、どういうことなんだと誰かがつぶやいた。

      「……馬鹿がいるみてぇだが、まぁいいか。俺達はメモリ組織の頭の一つを取りに来たのよ。通り名はミラーカ、本名は不明、メモリを作ってる女だ」

      この街に出回ってるメモリの大半はそいつの元で作られてると、男は続けた。

      「本当はよ? 関係ねぇカタギの皆さんのことは俺達だって解放してぇが……顔がわからねぇ。メモリってのは姿形もなんも簡単に変えるからな。女の姿でいたからって女とも限らねぇ」

      「そ、その女は本当にこの中にいるのか?」

      「意見してんじゃねぇよ!!」

      一人の男性がそう聞くと、周りで見ていたコマンドラモンの一体がライフルを振りかぶって男の肩を強く叩きつけた。

      「おいおい、そう乱暴にするんじゃねぇよ。カタギに手を出さない硬派な組だぜおれたちは」

      一回り大きなコマンドラモンは悪かったなぁとその男性に微笑んだが、トカゲの笑みは威嚇にしか見えなかった。

      「女がいるのは信頼できる情報だ。そいつはヒーローショーの日は必ず組織の仕事を休む。別れた夫子供でも探してるんじゃねぇかって俺は思ってるんだがぁ……出てきてくれねぇかなぁっ!! ミラーカさんよぉッ!!」

      穏やかな話口から突然そのコマンドラモンは言葉を荒らげた。

      当然それに名乗りを上げるものはなく、そのコマンドラモンははぁとため息を吐いた。

      「……兄貴が戻ってくるまで見張りながら待機だ」

      そのコマンドラモンはそう言ってくるりと人質達に背を向けた。

      盛実は、冷や汗をだらだらかきながら人質達の中でぎゅうっと自分の胸元を掴んでいた。

      盛実は猗鈴の判断が間違ってないことはわかっている。

      盛実のエカキモンの能力は想像を現実にできる。一瞬ならば大魔王さえ再現できるそれを用いればディコットが来るまで自分を囲むlevel3が何体いても人質を守り切ることぐらいはわけないこと。

      しかしそれは紙の上でならの話。

      斎藤・ベットー・盛実と名乗る女、結木蘭(ゆいき らん)は一人で恐怖と戦えないことを猗鈴は知らない。

      そもそもエカキモンのメモリは想像さえすればなんでもできる。サングルゥモンやウッドモンのメモリがなくとも、メモリだけを破壊して使用者を殺さないことだってエカキモンメモリを使えば不可能ではない。

      でも、それを蘭ができないのは、本人に戦闘力がないからではない。それさえもエカキモンはなんとでもできる。変身ベルトだって本当は盛実自身がつけることができる。

      しないのは怖いから。自分自身が戦える様になんてとてもできないし、剣を向けられれば恐怖に足がすくみエカキモンの能力の要である想像力も散り散りになる。

      盛実が少し視線を上げると、ライフルの銃口が目に入る。

      『探偵国見天青の頼れる相棒、斎藤・ベットー・盛実博士』という仮面が剥がれ、結木蘭という弱い人間が出てきてしまう。

      せめて白衣というアイコンを着ていれば、せめて猗鈴という結木蘭を『斎藤』として見る相手がいれば話は違った。でも、いない。

      手が震え呼吸が荒くなる。ちかちかとフラッシュバックする記憶は、忘却の箱に押し込んだ、以前に撃たれた時の記憶。

      焼ける様な痛みと鼓動ごとに末端から力が入らなくなっていき、自分に呼びかけてくる声も遠くなっていく。自分の肉体から生暖かい命が流れ出し死へと墜ちていく感覚。

      天青に渡したメモリ銃がおもちゃのような外見であるのも、趣味とは別に、自分を撃った様な形を無意識に避けていた面は否めない。

      思い出した恐怖に、ただ目を瞑って、叫び出しそうな自分を抑える他には蘭には何もできない。

      「……大丈夫ですか」

      蘭にそう声をかけたのは、猗鈴を一緒に運んだ厚着の女性だった。

      「だ、だ……だいじょ……ウプッ」

      その顔を見て厚着の女性は自分のウエストバッグから大きめのレジ袋を取り出すと、顔の前に持ってきて背中をさすった。

      「あ、あ、そんなことされたら本当に吐い、うッ……えぅッ」

      極度の恐怖に蘭が嘔吐すると、コマンドラモンの内一体が銃を突きつけながら近づいてきた。

      「おい! 何をしている!!」

      「あ、え、この人具合悪いみたいで、吐いちゃって……」

      「えぶッ……うぇろッ、ろろろろろろろ……」

      蘭は自分の目の前に銃口が迫ったことで恐怖の第二波が来てもう一度吐いた。

      「汚ねぇなぁ……アニキ! こいつゲロ吐いてます、トイレ行かせていいですか!」

      「あー……そうだな。他、そこの気絶してるやつとか明らかに体調悪いやつと、あと五歳以下のガキ、トイレ近くに授乳室あったろ。ここで騒がれるよりもあっちに詰め込んで二人で見張りしろ。トイレもガキは三人まで大人は一人ずつ見張り付きでなら行かせていい」

      「体調悪いやつはともかく、子供は親と離すと騒ぐんじゃ……」

      「だからあっちに詰め込むんだよ。兄貴が戻ってきたらミラーカ探す為に色々するからどうせ騒ぐ。こっちで騒がれたらうるさいし邪魔くさくて仕方ねぇ」

      なるほどとそのコマンドラモンが言って、蘭に銃を突きつける。

      「とりあえずそのゲロ袋両手で持ったままこっち来い!トイレ行かせてやるから」

      「うぇろッ、すみま、すみまうぉろろろ……」

      トイレで胃液も出なくなるまで吐き、ゲロ袋もゴミ箱に捨てて顔と手を洗った蘭は、赤ん坊を抱えさせられた厚着の女性と意識のない猗鈴、そして数人の子供に加えてなぜか燈もいる授乳室に押し込められた。

      「あ、燈さんまでなんで……」

      部屋に入ってすぐ床にへたり込みながら蘭はそう燈に尋ねた。

      「ゾネ・リヒターがいた方がまだ子供達も落ち着くだろうって……」

      燈は両手でそれぞれ別の子供の手を握り、膝の上に小さな子を乗せながらそう返す。

      「おばちゃん大丈夫ー?」

      「大丈夫ッ、だよぉ〜?」

      自分を心配してくる子供に、蘭はそう青ざめた顔で無理に笑顔を作る。子供はその不気味さにひっと息を呑んで後退りした。

      「……斉藤さん、ちょっと耳貸してください」

      燈に呼ばれて、盛実はなんとか耳を燈の元へと持っていく。

      「斉藤さん達の探偵事務所って、『メモリ犯罪者達を狩る悪魔』の事務所、ですよね?」

      「ちち、ち、違いますけどぉ?」

      「私、爆弾魔の正体を知りたくて個人的に色々探したんです。その後に現れる様になった悪魔のことも、もしかしてあの時の悪魔その人なんじゃないかと思って……目撃地点との関係性とか、店舗が五年前の事件直後にできてることも、悪魔は警察に犯罪者を引き渡してる様ですが、警察関係者が頻繁に出入りしてることも確認してます」

      「あ、うぅ……でも、私はちょっと……」

      「武器があるなら貸して下さい。私が戦います」

      「……えっ?」

      「……このままだと、ヒーローショーに来た子供達を奴らは一人ずつ殺すことでミラーカを炙り出そうとするでしょう? だから、戦える力を見せて、私がミラーカを演じて人質が解放される様にします」

      「いや、その……死ん、じゃいます、よ?」

      「……武器自体はあるんですね?」

      ある。盛実にはエカキモンメモリがある。イメージを込めてものを作るのだって、隔離されてる今ならできる。

      しかし、銃が見えなくなって多少マシになったとはいえ脳裏には恐怖が染み付いている。

      「……あの、やめた方がいいと……変に刺激すると余計に犠牲が出るかも」

      少し声が大きくなってたらしい、厚着の女性は指を立てて声を小さくする様促しながら、そう言った。

      そして、ふと、どこかでどんと地に響く様な音がした。

      見張りのコマンドラモンが扉を開けてちらりと子供達の様子を確認してきて、その際に開けた隙間から外の会話が飛び込んできた。

      「爆発した……!?」「別働隊とか兄貴から聞いてるか?」「いや、聞いてねぇ、アレどこだ?」「警察署の辺りだ」「『協力者』の差金か?」

      ざわざわと騒いでいたものの、その後に銃声が一発なってガラスが割れる音がすると、みんな静まり返り、見張りのコマンドラモンも扉を閉めた。

      「……警察は、期待できなさそうですね」

      燈はそう言うと、ゾネ・リヒターの変身アイテムを震える手でぎゅっと握った。

      「あ……のさ、怖いんでしょ? だったら、待ちましょうよ、誰かを。さっき一番強そうなやつを外に追い出した人とか、きっとやっつけて戻ってきてくれますよ」

      厚着の女性はそう燈を諭そうとしたが、燈は首を縦に振らなかった。

      「……それまで、何もせずに待ってていいんですか?」

      燈は、真っ直ぐに蘭の目を見た。

      「犠牲になろうなんてしてません、ただ、ここで何もしなかった時、私はソルフラワーのヒーローでいられない」

      「あの、私もゾネ・リヒターは好きですけど、でも、フィクションだよ? 実際にはそうできなくて当たり前なんですよ……?」

      落ち着きましょうと厚着の女性は諭したが、燈はただ震える手をおさえながら蘭を見続ける。

      「実際に起きた、犯人の捕まってないテロを題材にした時から、私は覚悟していたつもりです。戦う覚悟を」

      燈に二人は圧倒された。その手はもう震えていない、恐怖を目の前で乗り越えた。

      それを見て、最初に折れたのは厚着の女性だった。

      「……『交渉』なら、できるかもしれないです」

      「え?」

      「私、その……ミラーカがヒーローショーの日にここに通う理由を、知ってます」

      そう言って、厚着の女性は鞄から月のような金色のメモリを取り出した。

      書かれた名前はネオヴァンデモン。それが本物の組織製メモリで、組織外で金に塗られたものでないことも、つい最近ブリッツグレイモンのメモリを確認していた蘭には一目でわかった。

      「そ、そのメモリ……マジの、じゃん」

      「……五年前に、かばんを取り違えられたんです。そのあとすぐ取り違えに気づいて、サービスカウンターに持ってって、私のかばんも届けられていたので交換したんですけれど、そのあとかばんの中からこれが出てきて」

      厚着の女性はそう話した。ただのUSBメモリだと思っていて、同じかばんの人に会えたら返そうと思ってたと、そう続けた。

      「それが、デジメモリ……」

      「彼等の目的が、女幹部のミラーカを探して殺すこと、ならば……その、これを差し出せば、子供と男性達は解放されるかもしれませんし、そう、さっきのブレス……ヒーローみたいな人が戻ってくるまでの時間稼ぎにも……」

      私にできるのは、ここまでですと厚着の女性は言った。

      蘭は追い詰められた。唯一戦う力がある、本領を発揮できれば全員守ることだってできるはずでもある。

      自分が駄々をこねているだけのような錯覚が蘭の心をぐちゃぐちゃにする。

      「……あ、うっぷ」

      吐きそうになるのを蘭は押さえつけ、懐から出したメモ帳に震える手で文字を書いていく。

      『私はメモリを使っている。絵や模型、フィクションでもリアルでも、想像した設定を現実にできる』

      けこっけこっと吐き気が登ってきて、口を抑える指の隙間から、胃液混じりの唾液がポタポタと垂れる。

      「大丈夫ですか、斎藤さん」

      こくこくと蘭は応えたが、誰が見ても大丈夫ではなかった。戦う自分を想像するのは、撃たれる自分を想像するのも同じだった。

      「……そのメモリは、他人に渡せるんですか?」

      ぶんぶんと蘭は首を横に振り、燈の手の中の変身アイテムを指差した。

      「わ、だじなら……ほんと、にっ……けおッ……へん、し……」

      厚着の女性が差し出した袋に、蘭は胃液を吐き続けた。

      「ゾネ・リヒター。そこのおばちゃん、大丈夫?」

      子供にそう聞かれて、燈は大丈夫だよと無理に笑顔を作り、蘭は顔を袋で隠しながら震える手でサムズアップする。

      猗鈴が来るまで時間が稼げればいい。そうしたら、なんとかなる、ディコットはエカキモンの能力に依存する部分はかなり少ない。メンタル不調でもなんとかなる。

      床に跪く蘭の背を摩りながら、燈と厚着の女性は設定からできることを考えていく。

      「えと、ゾネ・リヒターはシールド張れる設定ありますよね」

      「……あぁ、テレビ版で一般人守る為に出して、大体敵の攻撃でゾネ・リヒターがガンガン叩きつけられるやつですね」

      「アレが複数出せるなら……」

      「設定上は一つしか……そこら辺の融通って利くんですか?」

      それに対して蘭は首を横に振った。その制作物に込められた想像を元にエカキモンの能力は発揮される。

      一人で作れば一人の認識を変えれば事足りるが、ゾネ・リヒターの変身アイテムは周囲にいる人々に認知されているし、その設定はある程度公開されている。その想像に相乗りする形で能力を使う以上、設定を変えることはできない。

      「……やはり、先に男性と子供達を逃して人質を一箇所にまとめる必要がありますね」

      燈の言葉に、厚着の女性はぎゅっと胸元でメモリを握る。

      しかし、じゃあと燈は厚着の女性に向けて手を差し出した。

      「私がメモリを持ちます」

      その言葉に、厚着の女性は自分より年下の燈にそれを持たせることに葛藤したが、最後にはそれを渡した。

      「い、いや、まだもう少し様子みて……本当に危なくなるまでは……」

      厚着の女性は自分で渡したのにも関わらずそう言って燈の裾を掴む。

      すると、扉の向こうから怒号が聞こえてきた。

      「いつまで待たせんだよ、ミラーカァっ!!」

      その言葉の後、銃声が一つ響いた。

      「兄貴も戻ってこねぇ、連絡さえねぇ……俺ァバカなんだよ!! こうなったら、ガキを一人ずつ殺してくしかないみたいだなぁ!? あと三分だ!!三分間だけ待ってやる!!」

      その怒号に、燈は立ち上がった。

       

      「警察にとっても悪い話じゃねぇだろよぉ!」

      アサルトモンのガトリング砲が火を噴く。それに対してバイクの姿の公竜は、メモリのボタンを押しながらアサルトモンの周りをぐるぐると旋回していた。

      『ミミックモン』『ヒンダーマイアズマ』

      タイヤの回転を上げながら走る公竜のマフラーから白い霧が出てアサルトモンのことを包んでいく。

      「組織とお前達は戦ってるはずだ! だったら、わかるだろう! 話がわかるのはどっちだ!? 俺達だろう!?」

      アサルトモンはエンジン音を頼りに周囲に乱射をしながらそう叫ぶ。

      そうしていると、ふとアサルトモンの動きが鈍くなる。

      『タンクモン』『ハイパーキャノン』

      全てを覆い隠す白い霧の中で人型に変わった公竜の胸に、砲が出現してエネルギーを溜め始める。

      「さ、せるかぁ!!」

      そして、霧を吹き飛ばしながら迫ってくる砲弾に、アサルトモンはなんとか体の向きを変えると、全身の機銃やマシンガンから弾丸をがむしゃらに撃つ。

      当たるはずだった砲弾はアサルトモンの四足の胴を掠めてスプーンでえぐったような傷を作るも、致命傷には至らない。

      「び、びらせやがってぇ……! 俺を殺ったらどうなるかわかってンのか!? あんなテロ紛いのことする舎弟が俺にはまだまだいる!」

      公竜は、近づくしかないかと呟くと、ダイヤルをまた回した。

      『マッハモン』『フルスロットルエッジ』

      もう一度バイクになった公竜は、霧の中に身を隠しながら、ぐるぐると大きく旋回しつつ速度を上げていく。

      「おい、やめろ!! 俺を、俺を殺ったらお前の家族を俺の舎弟が殺しに行くぞ!! 必ず見つけてお前の前に死体を晒すぞ!! それでいいのか!?」

      公竜は構わず速度を上げると、不意に向きを変えてアサルトモンへまっすぐ突っ込む。

      「できるならいくらでもやってくれ」

      アサルトモンにぶつかる直前で跳び上がりながら公竜は人型に戻り、刃のついた拳を大きく振りかぶる。

      「やめろぉおお!!」

      公竜の拳が振り下ろされ、アサルトモンの身体を貫通する。

      「もう、いないんだ」

      恵理座の死に顔が、灰になって消えていき一握りしか残らなかったその惨状がどうしても脳裏に浮かぶ。

      そして、公竜が着地して振り返ると、周囲の霧ごと吹き飛ばしながらアサルトモンは爆発し、男は地面に投げ出される。

      メモリを回収して、公竜は遠くに見えるソルフラワーを確認してもう一度マッハモンの姿になる。

      「戻るのには……二十分はかかるか」

      そう呟いて、公竜はソルフラワーに向けて走り出した、

       

       

      ディコットがソルフラワーの直下に辿り着くと、そこにはトループモンの大群がいた。

      「猗鈴、ソルフラワーの一階には受付がある。もしまだそこに人がいたら……!」

      「いや、下は警察が突入しやすいから、多分いないはず……だけど」

      ディコットはバイクにローダーレオモンのメモリを挿し込み、ボタンを押した。

      『ローダーレオモン』『ボーリングストーム』

      「じゃあ、上に連絡も取らせずに片付けて、即座に上に行くでどうですか?」

      「それしかないね」

      バイクから発せられた竜巻は、近くのトループモンを掃除機のように吸い込みながら巻き上げ、そして宙に放り出されたトループモンは地面に叩きつけられて消えていく。

      そのまま外にいるトループモンを半分ほど倒したところで、突然竜巻がふっと消えた。

      消えた地点を二人が見ると、金色の門のようなものが宙に浮いていた。

      「あれは……?」

      そのすぐ下には複数の白い翼を持った天使が立っていた。

      「天使型のデジモンのメモリはあまり組織にはないはずじゃ……」

      「ないですよ、私も売ったことないです」

      猗鈴の言葉を杉菜は肯定する。

      「天使の正体は下見に来たテロリストだった、夢がないね」

      金色の門が閉じたのを見て、ディコットはすぐに方向を変えられないバイクを降りた。

      「……邪魔しないでくださいよ。僕はただ、憧れの人に戻ってきて欲しいだけなんです」

      その天使は疲れ果てた様な声でそう言った。

      「ミラーカ様が今日ヤクザどもを生贄にまた現れるはずなんです。空気読めてないですよ?」

      天使の右腕からしゅんと光の剣が現れる。

      「生憎……空気を読むのは苦手なんです」

      猗鈴はそう言いながら、不意打ち気味に手のひらからビームを出したが、天使はそれを剣で受け止めた。

      「美園家ってみんなそうなんですか? ミラーカ様たぶらかすし、もう一度会うのも邪魔をする……話したくもない」

      天使が手を振って合図をすると、どこに隠れていたのか、さらにぞろぞろとトループモンが現れた。

      「……これは、時間がかかる」

      猗鈴はそう呟いた。

       

       

      「このメモリが、ミラーカがこのソルフラワーに来た理由」

      一体のコマンドラモンに銃を突きつけられながらも、燈はそう言い切った。

      「……なるほど、確かにメモリだ。これをいつ、どうやって手に入れたか詳しく教えてくれよ。ヒーローさんよ」

      一回り大きなそのコマンドラモンはそう言って燈をじろりとにらみつけた。

      「レストランに客が忘れて行ったのを、いつかメモリ犯罪者に襲われた時の護身用として持っていたの。ミラーカが毎回ヒーローショーのある日に来るのは、きっと、ソルフラワーのどこで落としたか分からなかったから。ヒーローショーの日だけ来るスタッフが拾ったかもしれないと探してたんです」

      燈は堂々とでたらめを言い、メモリを見せつける。

      それを聞いて、その一回り大きなコマンドラモンは、軽く頭をポリとかいた。

      「俺ぁ、バカだからわかんねぇんだけどよぉ……なんで一般人がそれをデジメモリと判断できるんだ?」

      さらに、ポリ、ポリと頭をかきながらそのコマンドラモンは燈に近づいていく。

      「で、なんでそれを警察に届けなかった?」

      ぽりぽりぽりぽりとそのコマンドラモンは頭をかき続ける。

      「俺ァよ、馬鹿だから最初はミラーカもヒーローショーが好きだとか、お前が娘や妹の可能性から考えた。いっぱい見たぜ、お前の出てるテレビもインタビューも、レストランでの働きぶりも……」

      そして、じっとりとした目で燈を見つめながら、メモリを奪う。

      「ヒーローがネコババはねぇだろ」

      おい、とそのコマンドラモンは二体のコマンドラモンを呼んだ。

      「あとの女二人だ。呼んでこい」

      部屋から連れてこられ、そのコマンドラモンの前へと連れて行かれる。一歩歩くごとに目は霞み頭はぐるぐると揺られ、足はもつれる。

      「……そこでいい、二人とも立たせろ」

      ディコットが、公竜が早く来ないかと、蘭は壁にもたれかかりながら祈る。

      燈は、変身アイテムに手をかけ、バレないように予備動作を始めた。

      「……こっちだな」

      そのコマンドラモンは、そう呟きながら銃口を厚着の女性の頭に定めると即座に撃った。それはほんの数秒の動作で、見映えする様に作られた変身ポーズよりよほど早く、厚着の女性は一言残すこともできずに崩れ落ちる。

      べしゃりとした水音が、ぐちと何かをつぶす音が、治療も無駄だと伝えていた。

      人質達の誰かが叫び出した途端、展望フロア内はパニックになる。

      燈とそのコマンドラモンだけが唇を噛み締めながら動いていた。

      そのコマンドラモンは人質達を見ながら天に向けて銃を撃ち、そのタイミングは奇しくも燈の変身と重なった。眩い光が辺りを包み、展望フロアに固められた人質達の周りに光のバリアが現れる。

      「おいッ! その女殺せッ!!何かしてんのはその女だッ!!」

      そのコマンドラモンは、ゾネ・リヒターへの変身を果たした燈が走って殴ってくるのを避けられないと悟って、そう叫ぶ。

      燈は急に止まれない。コマンドラモン達も急なことに固まったが、それでも燈よりかは早く、膝から血溜まりに崩れ落ち隣の亡骸を見て叫ぶ蘭へと銃を向け、引き金を引いた。

      ガンッとかギンッとかいった音がして、パニックだった蘭を現実に引き戻した。

      「……セイバーハックモンメモリ?」

      蘭の呟きにそのメモリは答える術を持たない。代わりとばかりに一体のコアドラモンのアゴを強く尻尾で打ち、気絶させる。

      「なん、でここに……」

      違う違う違うと蘭は考える。今やるべきはその考察じゃない。

      隣で人が撃たれても、燈は変身した。結界を張った。まだ授乳スペースには子供達が残ってる。

      「わ、たしがやらなきゃ……」

      盛実は、その亡骸のポケットから覗くキャラのキーホルダーを、パンフレットを見ながら、血で地面に絵を描く。

      頭はまだよく回ってない、驚きが一時的に恐怖をかき消しただけ、守られてるから銃への恐怖が薄れただけ。直視すればまたパニクる、その前に。

      人々の想像をエカキモンは現実にする。目の前で一人、ヒーローが現れて自分達を護り出したなら、もう一人ヒーローが現れれば当然そちらにもそれを期待する。

      この街のご当地ヒーローは白と黒の二人で一対。さっき知った月光のヒーロー、モント・リヒター。

      現れた黒いヒーローは、蘭の首根っこを掴むと授乳スペースの目の前まで放り投げた。

      ぐぇと蘭がうめいて起き上がる頃には、紫色の光が授乳スペースを覆っていた。

      戦いを直視するのはまだ怖い。まだ怖いから、蘭は授乳スペースの中にするりと逃げ込んだ。

      「……み、みんな! 今ね! ちょっとうるさいかもだけど、ゾネ・リヒターがお外で戦ってるの! だからお願い、みんなでゾネ・リヒターを応援してあげて!!」

      蘭はそう、精一杯の顔で涙をこぼしそうになりながらそう言った。

      「……がんばれ、ゾネ・リヒター」

      子供達の一人がそう言った。

      「いいね、その調子。がんばれ、ゾネ・リヒター!」

      蘭はそれを復唱した。

      すると、何人かの子供がまた声をあげ、それを蘭はまた復唱した。声は外に届いたのか、外の子供達も大人達まで声をあげて応援を始める。

      「ありがとうみんな!」

      燈はそう応えながら戦う。スタントの殺陣の様には動けなくとも、不格好でも明るく返事をするその声に、人質達の恐怖は希望に上書きされていく。

      想像が増していくごとにより強く、蘭の想像を含めない分体力を消耗するし、本来単体で出せるスペックよりも低いものの、level5にも劣らない力を発揮する。

      拳を振るえば、寸止めでもコマンドラモンは面白い様に吹き飛んで気絶したし、銃弾を受けても痛みと共に謎の閃光が迸るだけ、血も出ないし煤がつく程度。

      それは特撮ヒーローの世界から出てきたそのものの姿。コマンドラモン達の額が割れて出血することもなく、都合よく吹き飛んで爆発はするが、メモリが落ちるだけで無傷。

      「……みんな、そのまま応援し続ければ、きっとゾネ・リヒターが勝つからね!」

      蘭はそう言ったあと、扉の外に出てその場で崩れ落ちた。

      無理をした、頭の中ぐちゃぐちゃで吐き気もひどくてほのまま地面に寝ていたいと思ったが、演じられる相手がいたからなんとかなった。

      コマンドラモン達では手も足も出ないその威力に、最初に殴り飛ばされたコマンドラモンは気絶したフリをして人の姿に戻ると、手の中のメモリのボタンを探した。

      「……一か八か、やるしかねぇか」

      『ネオヴァンデモン』

      メモリの起動音は、男にとって都合よく声援でかき消える。

      ただ、蘭だけはまともに銃で戦っているコマンドラモンを見ていられなかったからそれを見ていた。

      「それはダメだって……」

      セイバーハックモンメモリは? と見るもいつの間にかその姿はなく、すぐに出せるイラストもないし、もう声を張り上げる気力もない。

      男はそのメモリを腕に挿した。

      そして、一瞬でしわしわのミイラの様になった。

      「……は?」

      蘭の見ている前で、ネオヴァンデモンメモリは紫色の禍々しい光を伴って飛び、厚着の女性の亡骸まで辿り着くと、そのマスクをずらして口の中へと自身を突き刺した。

      ビクンと亡骸が震え、周囲に散っていた肉片が集まり、一つのかたまりになると、中からぽろぽろと混じった異物を出した後、明らかに体積が膨らみ、人のものでない色に変わって厚着の女性の身体の各所に張り付いてその姿を、別のものへと変えていこうとする。

       

      ふと厚着の女性は身体を起き上がらせ、目を開くと、自分の手を少し見た後、ネオヴァンデモンの肉体に変わろうとする自身の肉体を押さえつけた。

      厚着の女性は、蘭の視線に気づくと、そろそろと這って近よって、蘭のすぐそばに寄ってきて、泣きそうな顔で笑った。

      「あんなになるほど怖がってたのに、戦えるなんて、すごいなぁ……」

      「え、と今のは……?」

      「……ごめんなさい、私が、ミラーカです。本名は、軽井未来(カルイ ミライ)って言います。ごめんなさい。本当、お二人ともすごいです、私、それに比べて私は……」

      ぼこぼこと未来の身体が波を打ち、目がすっと赤みを増していこうとする。それを未来は自分の目を押さえつけて鎮めようとする。

      「そのッ……ありがとう、ございます。結木さん……いや、斎藤さん? の方がいいです? とにかく、公竜兄さんのこと、よろしくお願いします」

      「なんっ……え、兄さ? それどういう……ってか」

      未来は蘭に背を向け、非常階段を降りていく。

      足取りは重いが、一瞬メモリの力が通ったことで未来はまだやるべきことがあるのに気づいていた。

      トループモンの大群とディコット、そして天使。

      「天崎!」

      未来はそう、天使に向けて鋭く呼びかけた。

      「……ミラーカ様? トループモン達! 出し惜しみしなくていい!」

      天使はその声に反応して即座に非常階段に降り立ち、跪いた。

      「ミラーカ様、お顔は初めて拝見しますがそのお声、存在感……」

      「天崎」

      未来はもう一度冷たくその天使の名前を呼んだ。

      「はいっ」

      「私は、君を信用して、私が決まって休むその日にどこにいるかを教えた。そうだったな?」

      淡々としたその声は、別に威圧している風でもなかったが、天崎に死を覚悟させるには充分だった。

      「は、はい」

      「……まぁ、いい。今日は騒がしすぎる。よもや私に帰りを歩かせなどはしないだろうと信じているのだが……」

      「もちろんです! 失礼します!」

      天崎はそう言って未来の身体を抱え上げると、そのまま空へと飛んでいった。

       

       

      あとがき

      今回も読んで頂きありがとうございました。

      今回は新しい扉絵でなくて前のに加筆したような感じになりましたがちょっとまぁ……何とか許していただけるとありがたいです。

      新しい幹部級の方にも出て頂いて、ここから結構重めの話が増えていくような気がしますが、お付き合いいただけますと幸いです。

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    • #4044

       めっちゃAtoZ。子供達にヒーローの応援をさせてしまうところまでAtoZ。久しぶりだな死ぬのはとばかりにネオヴァンデモンメモリを挿して復帰する厚木の厚着の女性カルイ・ミライさん。名前が伏せられてる登場人物がやたら活躍したら高確率で「ざぁんねん私が目当ての人(犯人)でしたぁ」するので、博士もベットーも猗鈴サンも誰かに会ったらとりあえず名乗らせるべきですな。
       アサルトモンのアイツがコナンのピスコばりの素敵な命乞いをしてくれましたが、そこでもう自分が死体を晒されたとして悲しんでくれる家族はいないのだと独白する公竜サンが悲しい。こうした意味でも死んだ後の方がエグい喪失感によって存在感を主張してくる鳥羽さん。平成ライダーモチーフなので呉島主任や監察医みたく後々にシレッと復活することが待たれる。
       
       橙さん生身ながらヒーロー過ぎますが盛美サンの恐怖から来る錯乱と嘔吐の描写が生々し過ぎる。戦う力は無くとも戦う気概こそがヒーローなのだと言わんばかりの活躍。猗鈴サン達がその場にいない中、演技だろうとヒーローの役を任された者として大活躍。結果的に猗鈴サンと姫芝がAtoZのアクセルみたいなポジションになってる!!
       コマンドラモン軍団こと893の皆さんの仰ることは少なからず正当性があるようで、しかし躊躇いなく民間人パァンした時点で語るに落ちてしまった。アルコールメモリよろしくネオヴァンデモンメモリはヤバい奴ー!!
       ザミエールモンに続きデスジェネラル! クロスウォーズは皆大好き!!

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