デジモントライアングルウォー 第4話

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    羽化石羽化石
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      第4話 天邪鬼コンフリクト

      トラウォロゴ

       
       君は目撃した事があるだろうか。
       剣道の防具を身に着けた爬虫類様の怪物と、白猫にも鼠にも見える妖怪が、クッキーを取り合っている様子を。
       君の部屋で、君の目の前で大喧嘩している姿を。
       武者小路タツキは今、歴史的瞬間の目撃者となった。

       

      「ぐぎぎぎぎ……」
      「ふみゃーっ!」
      「ぐぎゃああああ」
       

       白猫――テイルモンのクラリネが手にはめていたグローブ、その爪先が面の下に入り込み、剣道着の怪物――コテモンの村正の顔にクリーンヒット。
       村正が痛みに悶えている間にクラリネはクッキー皿を奪取。歴史的勝利の瞬間である。

       
      「くそっ! 俺が成長期でさえなければ……!」
      「おいしー!」

       

       村正は地団駄を踏んで悔しがっている。喧嘩中に負けず劣らずの暴れっぷりである。
       勝者の余裕たっぷりにクッキーを食すクラリネとのギャップが、惨めさを際立たせている。

       

      「床抜けたら自分で直せよな」

       
       タツキは敗者に容赦無い言葉を投げかける。
       秋の澄んだ空が広がる、今日という清々しい日。
       そんな日に怪生物の喧嘩を見せられ、タツキは少々不機嫌だった。
       そもそもこのクッキーは、タツキの母が焼いたクッキーである。自分が二、三枚しか食べていないのに残りの約十枚を巡って取り合いを始められたら不機嫌にもなろう。

       
      「タツキー」

       
       下からタツキの母の声が聞こえる。そう、タツキの部屋は2階にあったのだ。
       村正の大暴れが一階にまで響き、「タツキが一人で暴れている」と勘違いした母が訝しんだのだろうか。階段を上る足音が徐々に近づいてくる。
       そして扉がノックされる。
       このままデジモンの存在がタツキ母に、そして白日の下に晒されてしまうのだろうか。モンスターパニックの始まりか――

       

      「勇夜くんから電話!」

       
       ……という事は無く、タツキの母は平然とタツキを呼びつけた。
       
       

      「はーい」

       

       タツキもまた、平然とドアを開ける。
       馬鹿みたいに駄々を捏ねる村正の姿が露わになるが、モンスターパニックが始まる気配は無い。

       

      「村正くんとクラリネちゃんにはクッキーのおかわりでーす。……喧嘩はしないように!」
      「はーい」

       

       寧ろ、息子の友人に接するように、自然におやつを置いて行った。
       タツキは母の後ろについて階段を下りていく。二人の姿が見えなくなったのを確認すると、村正とクラリネは再びクッキーの取り合いを始めた。

       

      ◇◇◇

       
       時はタツキ達がデジモンとの運命的な出会いを果たしたあの日に遡る。

       

      「今日はもう遅い。帰って英気を養うといい」

       
       そう言ってセラフィモンは元の世界へ送り返してくれた。
       タツキとマチは公園に、愛一好はムンモン――現ルナモンの跳兎とぶつかった場所に。
       時間は思ったほど経過していなかったようで、橙色の夕日がまだ顔を覗かせている。

       
      「なんだか~、すごい体験をしちゃったね~」
      「夢見てたような気分……いや、夢じゃないなこれ」
       

       タツキとマチは顔を見合わせる。
       そして下を見る。……いる。デジモン達が、まだいる。
       村正、クラリネ、そしてコロナモンの陽。パートナーデジモン達がこっちを見ている。

       
      「あれ~? みんなは~、お家に帰らないの~?」
      「帰るよ!」

       
       クラリネが元気良くお返事した。

       
      「みんなのお家は~、人間界にあるの~?」
      「うん!」
      「どこ~?」
      「わたしはタツキのおうち!」
       

       タツキとマチは再び顔を見合わせた。まさか彼女らは、それぞれのパートナーの家に住むつもりなのか?

       
      「あの、『パートナー同士の結束を深めるために一緒に暮らすのがいい』ってセラフィモン様が……」

       
       陽が申し訳無さそうに言う。話を聞く限りセラフィモンが勝手に決めた事で、彼は悪くないのにだ。
       本当に、よくぞ勝手に決めてくれたものだ。しかし、ここでデジモン達を拒否しても彼らに帰る家は無いのだ。彼らを受け入れるか、薄情者になるかの二択しかない。

       
      「だからよく考えろって言ったろ」

       
       村正が「それ見ろ」と言わんばかりに吐き捨てた。陽と違って「申し訳無さ」ではなく「面倒くささ」から出ている言葉のように聞こえるが、タツキはあえて指摘しなかった。
       いや考えろも何も、デジモンを家に泊めろだなんて今言われたのだが。
       
       
      「タツキくん……二人分……」

       
       マチは気の毒なものを見るようにタツキを見た。
       パートナーが二人いるタツキは居候も二人分。どちらか片方だけならまだしも、二人も自分の家に匿うとなると話が変わってくる。いや、一人でも十分予想外の自体ではあるのだが。
       

      「……やってやろうじゃねえか!」

       
       ――何故、自分はあの場で無理と言えなかったのだろう。 タツキは後悔を抱えたまま 自宅に辿り着いた。

       
       ここまでデジモンが誰にも見つからなかった偶然に感謝しつつ、これから待ち受けるスニーキング任務の難易度を思い、無限のため息をつく。
       祖父の代に建てられた、剣道場つき二階建て一軒家。自慢の自宅だが、今は難行不落の要塞に見える。

       
      「おっきいおうちだね!」
      「おしずかに……」
       

       緊張のあまり、変な敬語が出てきた。
       クラリネの無邪気な感想を封殺するのは心苦しいが、この先、生き残るためにはやむを得まい。
       一方の村正は一切の興味を示していないようで、面の下は無表情で固まっていた。
       お前はお前で俺ん家に興味持てよと腹が立ったが、 怒っていても仕方が無い。
       一呼吸置いて、二人に最後の忠告を促す。

       
      「いいか。俺がまず家ん中確認 するから、合図するまで入ってくんなよ」

       
       そう言い残してタツキは一人、玄関のドアノブに手を掛けた。
       
       
       結論から言うと、10秒でバレた。
       
       
      「あらっ。タツキお帰りー」
       
       たまたま玄関にいた母。

       
      「ん、後ろにいるの、猫ちゃん?」

       
       家に入りはしていないが堂々と覗き込んでいるクラリネ。

       
      「こんにちは!」
       

       反射的に挨拶してしまうクラリネ。
       母の悲鳴を聞いてすっ飛んで来た父。
       混沌とする現場にわざと登場する村正。
       たちまち平常心を失う両親を見て、まだ親の庇護下にいるタツキは平穏が「終わっていく」のを感じた。
       武者小路家過去一番の大騒ぎを収拾し、家族会議の開始にこぎつけるまで、タツキはサッカー何試合分もの労力を要した。

        
       顔面蒼白のタツキ。
       臨戦体勢を解いてくれないタツキ父。
       気が動転してお茶請けのクッキーを焼きまくるタツキ母。
       それを遠慮なくもりもりと食べるクラリネ。
       他人事みたいな顔でふんぞり返っている村正。
       過去一番の大騒ぎの次は、過去最悪の家族会議の始まりだ。
       

      「……という訳で、デジモンは見た目はともかく心は人間と変わりありませんので、家に泊めても問題はありません。はい」
       

       両親に敬語でプレゼンしたのは昔、新発売のゲーム機をねだった時以来だろうか。
       サッカー部に入りたいと父を説得した時は、熱意と意地のおかげで緊張は麻痺して いた。しかし、今は人生で一番嫌な汗をかいている。
       

      「人間と同じ、ね……」

       
       タツキの母は、息子の言葉を反芻しながらクラリネを見る。
       人間と同じように前脚でクッキーを掴み、人間と同じようにコップから水を飲む獣の姿を目の当たりにし、顔を引きつらせた。
       タツキは続けて、帰り道でデジモンに出会った事、彼らに協力を求められた事を説明した。
       ただし、「協力」の内容を「デジモン同士の戦争に協力してほしい」から「元の世界に帰れるようになるまで、居候させてほしい」に置き換えて。

       
       両親が、息子を戦場に送り出したいと思うはずがないからだ。
       

       ましてや協力の決め手となった理由が「村正の戦う姿が、父に反発している自分の姿と重なるように思えた」からである以上、これを正直に伝えれば話が拗れるのは必定である。
       ここは良心が咎めても嘘をつかないと進めない場面だ。

       
      「迷惑かけちゃうかもしれないけど、危ないことはしないから、おねがい!」

       
       クラリネは自らの危険性の象徴、両手のグローブを外して懇願する。
       それが外れる物だと知らなかったタツキは内心で驚いていた。
       

      「まあ、いいんじゃねえか」

       
       真っ先に口を開いたのは父だった。

       
      「そ、そうね。正直まだ不安だけど、良い子達ではあるみたいだし」
       

       母も恐る恐るではあるが、父に賛同した。
       村正もクラリネも、害の無さそうな見た目だったのが功を奏したのだろう。
       特に村正――コテモンの見た目が剣士に似ていたのが好印象だったようだ。村正としては今の姿が不服なようなので、申し訳ないとも思うが、この時ばかりは村正に感謝した。
       当人は面倒事を避けるために最低限の返事とお礼しか言わないが、まあ、感謝しておこう。

       
       息子を素直に応援出来ない父の負い目もあっての事かもしれないが、タツキはその可能性に思い至らなかった。
       

       兎にも角にも、タツキとパートナーデジモン達との暮らしは始まったのだった。
       

      ◇◇◇

       
       まだ自分の携帯電話を持っていないタツキは、友人と電話する時も家の固定電話を使う。
       保留を解除して「もしもし」と発声すると、タツキが両親の次に良く聞く声が返ってきた。

       
      『よう、武者小路ィ』

       
       電話の向こうの声は、えらく上機嫌だった。

       
      「おう、剣崎」

       
       剣崎勇夜。タツキにとって彼は 「幼馴染」と呼べる間柄であった。年はタツキの一個上。武者小路家と剣崎家は祖父の代より親交があり、タツキと勇夜も生まれてから今日まで の長い付き合いである。
       そして――剣道人生における、宿命のライバルでもある。
       

       ドタドタ……バキッドカッ 
       二階が騒がしい。クッキーを巡る争いが白熱しているらしい。
       

      『悪い、稽古中だったか?』
      「いや? 俺は大丈夫」
       

       タツキの家は剣道場と隣接している。稽古が激しくなると家の中まで音が響く事もある。
       勇夜はそれを知っているので、タツキを気遣ってくれたようだ。
        
       
      「で、どうした?」
       

       気を取り直して、用件を訊ねる。
       
      『おう。お前、次の土日ヒマか?』
       
       用件とは何という事はない、遊びの誘いだった。 だが、その日は――
       


       

      「説明会?」

       選ばれし子ども達は揃ってクエスチョンマークを浮かべる。
       

      『君達よりも早くにデジモンと出会い、活動している者から今後の活動に関して説明がある。同じ人間の目線から、君達が知りたい事を教えてくれるだろう』
       

       セラフィモンは非常に忙しい身分らしく、タツキ達が知らない誰かに後を託したのだった。

       

       
       ――だから、勇夜と遊びには行けない。
       ここでタツキの中に迷いが生じる。勇夜にもデジモンの存在を伝えるかどうか、だ。
       一度は彼とも秘密を共有しようと思った。だが、

      ――『一生迷ってろ!』

       脳裏によぎったのは、先の大会で勇夜から掛けられた叱咤の言葉。 サッカーと剣道、どちらも頑張ろうとして、大事なものを取りこぼしそうな自分を見透かす目。
       あの後、勇夜から 「熱くなりすぎた」 と謝罪を受け、表面上は関係を修復出来た。
       だが、もしここで剣道でもサッカーでもない、第三の目標 ができたと伝えたら……今度こそ、彼とはライバルで いられなくなるかもしれない。

      「悪い! その日はサッカー部の練習あるんだ」

       だから、また嘘をついた。

       
      『ちっ。またかよ〜』

       電話の向こうの声は、わざとらしく拗ねたような声色で残念がっている。
       タツキの胸中に再び罪悪感が湧き上がる。

       
      『しゃーねーなー。じゃあ、その次の土日は空けとけよな。サッカー部の連中には剣道の先輩に呼ばれたとでも言っとけ』
      「んなっ! 勝手な事言いやがって」

       
       強引に約束を取りつけられてタツキが困惑しているのを 感じ取ると、勇夜は「へへっ」と嬉しそうに笑った。

       
      『じゃあ、またな。武者小路。 ホントにだぞ? ホントに空けとけよ?』
      「わあったっての!」
      『つーか、たまにはお前から誘ってくれよ。最近ずっと俺から誘ってばっかで寂しいぞ』
      「それは、ごめん」

        
       じゃあ、今度こそまたな。と告げて、タツキは受話機を置いた。

       
      「……あいつ、なんだかんだ言って俺がサッカーやるって言っても応援してくれるし」
       

       誰に言っている訳でもない独り言。自分だけに言い聞かせる言い訳が口をついて出る。

       
      「初めて『サッカーやる』って言ったときも……」

        
      『いいんじゃねえの? その代わり、剣道の手ぇ抜いたら承知しねえぞ!』
       
      「って言ってくれてたし。だからこそ余計に、デジモンの事は言いづらいっていうか……」
       
       嘘をついて、隠し事をして、どんどん剣崎との距離が開いていく気がする。
       向こうはずっと歩み寄ってくれているのに、俺は――
       
      ◇◇◇
       
       バリバリ、バリバリ……。
       
      「まだ喧嘩してんのか?」
       
       タツキは居候どもが待つ部屋に戻って来た。
       未だ騒音は途絶えず、タツキは原因を喧嘩と決めつけていたのだが……。
       扉を開けた瞬間、タツキの時が止まった。
       
      「え、どういう、事だよ」
       
       村正とクラリネは騒音を立てるどころか、身動きの一切取れない簀巻きにされた状態で床に転がっている。
       そう、二人とも簀巻きにされているという事は、二人を縛った何者かが存在しているという事。
       タツキが目撃したのは三人。大きさは人間と同程度、シルエットも人間と類似している――ここまで認識できた所で、タツキの視界を黒いものが覆った。
       これが目隠しで、自分も縛られそうになっていると気付いたのはその直後。抵抗を試みるも、相手は相当な手練れのようで、為す術なく拘束されてしまう。スポーツで体を鍛えていようが、関係無かった。
       喧嘩が原因と思っていた物音は、縛る側と逃げる側との小競り合いが原因と思い至ったのは更にその後だ。
       
      「んー! んんー!」
       
       猿轡を噛まされ、「お前ら何者だ」と問いたくてもそれさえ叶わない。
       
      「!?」
       
       タツキは自分の体が「ひょい」と持ち上げられ、運ばれていくのを感じた。
       人間一人をこんなに軽々と抱えられるとなると、相手もやはりデジモンと見て良いだろう。
       恐らく彼らは窓から侵入し、窓から脱出しようとしている。
       その証拠に浮遊感。きっと窓の縁を蹴って、外に飛び出したのだろう。
       頬に風が当たる。車と変わらないスピードで持ち運ばれていく。あくまで想像ではあるが、時々体が弾む感覚がするので、きっと屋根の上から上を跳んで移動しているのだ。
         
      『だからよく考えろって言ったろ』
       
       自分を咎める村正の声が、頭の中でこだまする。
       ああ、デジモンと関わるというのは、自身の身を危険に晒すというのはこんなにも恐ろしい事だったのか。
       
       と、後悔し始めていたのだが。
       後悔し終わる前にどさりと地面に降ろされた。
        
      ◇◇◇
        
       目隠しを外され、タツキの視界が開けた。
       
      「あれ? なんだ、あの公園じゃん」
       
       連れ去られ辿り着いた先は、 タツキ達がデジモンとの出会いを果たしたあの公園だった。
       つまるところ、近所の開けた野外である。てっきりどこかの倉庫で監禁でもされるのではないかと。 思っていたタッチは拍子抜けしてしまう。しかも、周りを見渡すと――
       

      「やっほ~、タツキく~ん」
      「……マチもいるし」

       
       聞き慣れた間延びした声で、自分を呼ぶ友人の姿があった。

       
      「やっほータツキくぅん!!!」
      「はい! はい! ボクだよ! ボクもいるよ!」

        
       知り合ったばかりの女子高生こと斑目愛一好と、彼女のパートナーデジモンこと跳兎までいる。
        
      「……皆いるし」
        
       連れ去られた時の恐怖は、泡のように消えてなくなってしまった。
       皆、タツキと同じく不意に連れ去られてきたようで、タツキと同じく無傷で解放されたようだった。
       
      「僕達は、どうしてここに連れて来られたんだろう。一体誰が何の目的で……?」
       
       最後の発言者、陽が真っ当な疑問を口にする。真面目な彼は真面目に不安がっているようで、尻尾の炎も心細げに小さくなっている。
       無論、誰一人として心当たりが 無い。
       そして今気がついた事だが、タツキ達をここまで連れてきた人物は既に姿を消していた。
       仲間達に聞いてみても、「目隠しが取れた時にはもう消えていた」「動きが速すぎて見えなかった」としか答えてくれない。
       
       タツキ達の疑問を解決してくれる人物は、滑り台の陰からひょっこりと現れた。
       堂々たる立ち姿の後ろに、黄金の後光を背負って。
       
      「おーっほっほっほ! 皆様、私のためによーくお集まりのようですわね!」
       
       訂正。実際には後光を背負っておらず、あくまで背負っていると自認していそうな人物であった。
       現れたのはなんと、タツキ達と年の変わらない少女だ。
       真っすぐ切り揃えられたプラチナブロンドの長髪を翻し、ワンピースの裾を蹴り上げ、つかつかとこちらへ歩いてくる。
       良く言えばコミカルに、悪く言えば間抜けにひょっこりと現れた癖に、目を見張るほど堂々としていた。
        
      「集まったんじゃなくて集められたんですけど」
       
       タツキの口から自分でも驚くほど冷静な指適が飛び出す。
       この偉そうな人間は誰なんだろう。デジモン達がそう思う中、人間達の反応は違っていた。
       
      (あの「いかにも」なお嬢様スタイル、髪の色、もしかして……『八武やたけ』の人なのか?)
       
       淡い金髪、栗色の瞳で放つ女王の視線。これらはとある富豪の一族を象徴する身体的特徴。上質な生地のワンピースが、彼女の社会的地位を裏づけるようにはためく。
       少女の特徴は、タツキ達にとって馴染み深いものであった。
       
      「その顔を見るに、察しがついた ようですわね。ええ、私はそう! あ・の・八武一族が一人!」
        
       少女は己が一族の名を力強く叫んだ。そしてそれは、タツキ達が頭に浮かべた名、イメージと完全に一致している。
       そう、やはりあの八武一族だったのだ!
       
      「富豪番付常連と言えばあの八武。CMに入る度に絶対名が 出るあの八武。進出してない分野はまず無いあの八武。政界にも顔が利きまくり、っていうか一族の者に結構政治家がいるあの八武。外国では織田信長の次に有名な(※私調べですわ)あの八武。とにかくスケールがビッグでラグジュアリーでエレガントな女傑が揃ったあの八武!!」
       
       少女は舞台にただ一人立つ主役 のように、己の一族の輝かしき 功積を高らかに謳い上げる。
       そう。八武とは、古くは室町時代より続く名家の一族。巫女の家系を発端とし、地主や将軍家、その他有力者の血を次々取り込んで戦国の世も何だかんだ生き延び、戦前には一大財閥として成立し、更に何だかんだあって現代は日本全国を経済面で支配していると言っても過言ではない、とにかく日本人にお金持ちってだぁれ? と聞いたら真っ先に返ってくるほどの貴族である!
       
      「そして私こそが、八武一族の全てを束ねる次期頭首!  八武森ノ神子羅々ですわ~!!!」
       
       少女は――世紀の大財閥令嬢、八武やたけ羅々ららは大見栄を切った。あまりの決まりっぷりに酔いしれる彼女のやり切った表情たるや。
       
      「あの八武が……」
      「マチ達に~、 ご用事~?」
       
       まさか生きている内に八武の、しかも本家の姫と出会う日が来るとはまさか夢にも思わず、タツキ達は顔を見合わせた。
       
      「ふふふ、驚くのも無理もないわ。なんせこの八武の姫が、貴方達もついこないだ知ったばかりのデジモンという不思議クリーチャーに関与していたなんて、驚くに決まっていますわ」
       
       羅々はタツキ達の驚く顔を見てご満悦だ。
       
      「で、なんの用なんすか」
      「もう少し驚きを持続させてくださいます!?」
       
       切り出したのは愛一好だが、 他の人間も驚き終わって質問したいフェーズに入っている。
       
      「んぎぎぎぎ、八武を代表するこの私が、びっくりドッキリサプライズをお知らせして差し上げたというのに……!」
        
       羅々はわなわなと震え、怒りを露わにするのではないかと思われた。が。しかし。 
       
      「んまぁ、それはさておき」
       
       数分も経たない内に、特に誰かがなだめた訳でもなく羅々はひとりでに落ち着いた。
       アンガーマネジメント、というやつではなく、単に熱しやすく冷めやすい性格のようだ。
       
      「『何の用なのか』と問いましたわね。そう、それこそが私の目的ですわ」
      「用も目的も同じ意味だろ」
       
       ぼそりと呟いた村正の口元を、タツキは手でそっと塞いだ。 防具の上からきちんと抑えられているのかは不明である。
       なんだってこいつは他人にすぐ敵意を向けるんだ。
       羅々は全然気にしていないようなのが救いだ。彼女は自らの用、即ち目的を次のように語った。
       
      「私は……セラフィモンの代理で来ましたの」
       
       ざわつく面々。今度は人間のみならず、デジモンも驚いている。
       羅々は今度こそ満足したと思われた。が、しかし。
       
      「それ、来週じゃなかったっけ?」
       
       とんでもない冷や水をかけられてしまった。
       そう。セラフィモンが言っていた 「用事」であれば来週の筈だ。来週でなければ剣崎勇夜の誘いを断わらずに済んだ のだから。
       
      「え、うっそ、ほんとに?」
       
       羅々はどこからともなく、皮のカバーの手帳――おそらくタツキには想像もつかないほど高価な品――を取り出し、大急ぎでページをめくる。
       目当てのページに到達した瞬間、 羅々の顔は真っ青になる。
       手帳にはしっかりと、正しい日付で予定が記載されていた。
       
      「こ、こここここれ、差し上げますから許して」
       
       この貴族にも罪悪感という感情はあったらしい。自分の非を認めるや否や、(やはり)どこからともなく輝く物を取り出した。
       それは本人は何も言わないが、明らかにダイヤモンドの指輪であった。台座にちょこん、と宝石が乗っているのではなく、おもちゃの指輪のように巨大な塊が乗っている指輪である。
       
      「わ゛ぁー!!」
       
       大ぶりのダイヤが裸で晒されているのを見てしまうと、 庶民としては汚い悲鳴を上げざるを得ない。
      「結構です結構です! お気持ちだけで十分です!!」
      「今やりましょ説明会」
      「八武万歳~」
       
       無理矢理にでもダイヤを引っ込めさせようと、子ども達はとにかく羅々をなだめすかす。
       ダイヤの価値を知らないデジモン達(と全てがどうでも良い村正)はぽかんと 眺めていた。
       
      「皆様なんてお優しいのかしら……」
       
       なだめすかし作戦は、拍子抜けするほどあっさり成功した。
       羅々は「よよよ」と涙を拭う仕草をしながら、ダイヤを懐へ雑に仕舞った。
       次期財閥頭首がこんなに単純でいいのかとか、御令嬢にとってはダイヤの指輪は貴重品の内にも入らないのが恐ろしいとか、思うところは沢山あるがひとまず置いておく。
       
      「では、気を取り直して“説明会”を始めましょうか」
       
       すっかり落ち着いた羅々の目尻が、再びきりりと吊り上がる。
       同時に、場の雰囲気も緊張感を帯び、人もデジモンも 関係無く皆が居住まいを正した。これか女王の風格というものかと、 タツキは感心した。
       
      「まずは私の立場からご説明いたしましょう。 私は……皆様より先にセラフィモンに選ばれていた “選ばれし子ども”ですわ」
       
       これにはまだ驚かなかった。
       セラフィモンの言葉を素直に 解釈すれば、タツキ達より 先にデジモンと出会った者は即ち、先輩の選ばれし子どもだろうし、自分達のような一般庶民よりも「八武」の彼女の方が、よほど選ばれし子どもらしい。
       タツキ達を真に驚かせたのは、次の一言だ。
       
      「しかし、私は思いました。『八武の姫であるところの私が、ただ天使様の下で働くのも芸が無いわねえ』と」
       
       タツキ達の目は点になり、口の形が独りでに「は?」と発音する際の形に変わる。
       
      「じゃあ、ちゃん羅々は……何!?」
       
       愛一好が真に迫る勢いで食い気味に叫んだ。
       
      「それをこれからじっくり説明して差し上げますわ!」
      「スパイとか?」
      「この流れで雑に言い当てないでくださいます!? てか誰が“ちゃん羅々”よ!」
      「え、マジでスパイなの?」
       
       愛一好の発言に全力で驚愕の反応を示す羅々。
       どうやら取っておきの台詞を愛一好が言い当ててしまったのが驚きであり、不服らしい。
       
      「えー、セラフィモンからお声がけいただきましてですね……。しかし私は未来の女王様。言われた通り戦うだけではノブレス・オブリージュれません。そこで私は魔王軍に取り入り、情報を天使軍に横流しするスパイに立候補したのです! ……ここ盛り上がるとこなのに、どうして先に言っちゃったの?」
       
       羅々は衝撃の事実になる筈だったのに、と、愛一好を恨めしそうに見た。
       愛一好は「へへ」とウィンクしながら頭をかいている。本当に申し訳ないと思っているのだろうか。
       
      「でも貴方達思ったでしょ。『それ、羅々様が魔王軍のスパイにもなれるって事じゃない? むしろ魔王の手先がスパイするためにセラフィモンに取り入ってない?』と。尤もな疑問ですわ」
      「別に思ってなかったけど……」
       
       ついでに言えば、誰も羅々「様」とは思っていない。
       
      「恐らく魔王達も同じ事を思うでしょう。『この娘、エレガントで類稀なる美貌を持つが、しかし怪しい』と」
      「うん。今の時点で怪しいもん」
      「お黙りなすって!」
       
       本当に羅々と愛一好は初対面なのだろうか。息ぴったりの漫才が繰り広げられていく。
       
      「セラフィモンに身の潔白を証明するには? 魔王軍を完全に騙すには? どうすればいいか、私は奇策を思いつきましたわ! いっそ、天使軍でも魔王軍でもない第三勢力をでっち上げて、そこの代表を名乗ればいいのです!」
      「……一番怪しまれるパターンじゃない?」
       
       なんだか、話題の方向性が当初からどんどんずれている気がする。確か、セラフィモンの話を彼の代わりにしてくれるという話だったような……。
       羅々本人のセンスも、かなりずれているような……。
       
      「いいえ、そんな事はありません。何故なら実際に“中立”の立場として振る舞うからです! 中立としてしか動かないから、疑いようが無くなるのです! 魔王軍の詰問も怖くない!」
       
       羅々はとにかく「中立」を強調して言った。何をおいても中立である事が重要なのだと、言外に伝えている。 
       
      「怪しまれる事なく、自由に動ける立場を手に入れるため、
      戦争のせいでお亡くなりの郵便インフラに目を付けましたの! ダークエリアからリアルワールドまで、天使軍魔王軍一般市民の誰がお客様だろうと送料無料で何でも届ける郵便慈善事業者、その名も “手紙屋”! それが私達の名!」
       
       羅々が目配せすると 拍手が起こった。
       
      「“手紙屋”はあくまでエレガントで中立な郵便屋さん。両者の事情には深く立ち入りません。例え敵軍の情報が手に入ったとしても、世間話程度の事しかお話しません」
       
       羅々は手のひらを下に向けて、拍手をやめるよう指示する。
       
      「でも本当は、ちょっ…………とだけリアルワールドに侵入した魔王軍デジモンをやっつけたりもしますわ。何故なら人間なので! という体で悪者退治もします。今日の説明会も、あくまで郵便屋さんとして預かったメッセージを伝えるだけなので問題無し。世間話もたまたま敵軍攻略の鍵になっただけ。そんな感じで上手いコト活動します。しかも社会インフラを担っているので魔王軍は攻撃しづらい! 私頭良いですわーーー!!!」
       
       最終的には自画自賛に収束してしまったが、それでも言い切った事には変わりないので、拍手は一応その後も続いた。
       しかも、ちゃんとセラフィモンの話に戻ってきている。これは羅々を見直さざるを得ない。
        
      「とにかく、ちゃん羅々が頑張っているのは分かった」 
      「分かっていただけて嬉しいですわ!」
       
       羅々の演説内容に理解を示した愛一好と、理解者の出現に喜ぶ羅々。歴史的和解の瞬間だ。
       
      「これはアレでしょ? おおっぴらには私達に味方できないけど、こっ…………そり手助けはしてくれるんでしょ?」
      「そう! そうなのよ!」
       
       羅々は喜びのあまり感極まって、涙を流しながらこくこく頷いている。
       別に泣くほどの事でもないだろうに。
        
      「んで、セラフィモンに頼まれたのは、『貴方達に何をやってもらうか説明する事』なのですが」
      「おっと、急に本題に戻って逆にびっくり」
       
       羅々はケロっと泣き止んで、説明を続行する。
       さっきから気持ちの切り替えが早すぎて、愛一好もタツキも薄ら寒いものを感じた。
       
      「“手紙屋”に関しては私が続けておきたいので、それ以外の仕事をやってほしいんですわね」
      「あらら。郵便屋さんも面白そうだったのに」
       
       愛一好ならば、江戸時代の飛脚よろしくデジタルワールド全土を駆け回れるだろう。手紙を無くしそうな気もするが。と心の中で失礼な感想が生まれた。
        
      「説明の前に何か、ここまでで質問はありまして?」
       
       質疑応答が始まった瞬間、選ばれし子ども達は一斉に手を挙げた。
        
      「なんで人間とデジモンにはパートナーがいるの~?」
      「そこから!? 手紙屋の前に、その話しないといけなかったの!?」
       
       選ばれし子ども達からすると初歩的な質問をしたつもりだが、羅々からすれば初歩も初歩過ぎて予想外の質問だったらしく、羅々は大層驚いていた。今度は羅々が引く番だ。 
         
      「そもそもパートナーってなんなん? なして相手が絶対決まってるの? なして人間のハートのパゥワでデジモンのパワーが上がるの?」
      「デジモンとパートナーの人間の年齢がズレてるのはなんで?」
      「デジモンとかデジタルワールドって、人間が作ったデジタルの存在なのに実体化? してるのはなんで?」
       
      「待って待って待って! 多いわよっ!」 
       
       次から次へと羅々のキャパシティを超える質問が寄せられる。
       これはまずいと感じた羅々は、ぜえぜえ息を荒げて質問者達を静止した。
        
      「セラフィモンは必要最低限の事しか教えてないとは言ってたけど、私の基準では最低限にも届いてなくてよ! パートナーデジモンの皆様は説明してないんですの?」
      「めんどくせえし」
      「さっきからなんですのこいつ」
       
       羅々は、何の臆面もなく「面倒くさい」と言い放った村正をじろりと睨む
       タツキはもう一度村正の口を押さえようとしたが、間に合わなかった。というか、さっきも別に間に合っていなかったらしい。
       本当に何故村正は態度に棘があるのだろうか。
       
      「こんな事もあろうかと、これを用意しておいて正解でしたわ」
       
       羅々は再び懐をがさごそまさぐる。
       今度取り出したのは高級品ではなくて、大学ノートほどの厚さの本だった。
        
      デジモン・デジタルワールド丸わかりBOOK~! これさえあれば、セラフィモンの説明よりかは沢山の事が学べましてよ! さあどうぞ」
       
       羅々が『丸わかりBOOK』をタツキに渡すと、タツキからマチへ、マチから愛一好へ、そしてデジモン達へと次々に回し読みをし始める。
       あらかた読み終わった選ばれし子ども達の反応は――
       
      「なんか、複雑だね」
       
       と淡白だった。
       
      「これでもはしょったんですのよ!! まあ、はしょらなかった所で『それ以上の事は分からない』の連発になるんですけど」
      「セラフィモンから聞いた事も半分くらい忘れてたから、助かったぜ。サンキューちゃん羅々」
       
       のっぴきならない発言のような気もするが、羅々は今更気にしなかった。
       どんな言葉で締めるか考える方が大事なのだ。
        
      「とにかくデジモンとは私たち人間を守るために生まれてきた電子生命体である事、パートナーとは守るべき人間であり、パートナーの感情に呼応して強くなる事。そして、パートナーの人間が死ねばデジモンも役目を終えたとみなされ消失するという事が分かっていれば問題はありませんわ」
       
       人間とデジモン、それぞれのパートナー同士で顔を見合わせる。
       セラフィモンから話を聞いた時は単なる「心を通わす相手」としか思っていなかったが――パートナーというのは思ったよりも深く重い関係性、「運命共同体」らしい。
         
      「逆にデジモンが死んでも、データを引き継いだ転生体が生まれてパートナー関係は存続しますわ」
        
       ここで、村正だけが苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。しかし、未だ誰もその表情の理由を知らない。
        
      「……そう。人間の油断がデジモンの死にも繋がる。その逆も有り得る。ゆめゆめ忘れない事ね。貴方達は運命共同体なのですから。ゆめゆめ忘れない事ね。ゆめゆめ……」
      (まさか、「ゆめゆめ忘れるな」って言ってみたかっただけなのか……?)
       
       ゆめゆめのゲシュタルト崩壊はさておき、人間とデジモンは運命共同体である……肝に命じておかなければ。
       デジモン達が快勝していても、人間が下手を打ってお陀仏……となってはデジモンも死んでも死にきれないだろう。
       そう考えると、ただデジモンが戦っているのを応援する存在ではいられないのかもしれない。
       
      「えー、なんだっけ。そうそう、貴方達の仕事の内容を教えるんでしたわね」
       
       ゆめゆめを連呼して満足した羅々は、いよいよ本来の目的を果たすために動き出す。
       散々話題が迷子になったが、遂に本題に辿り着いた。
       
      「私はできるお嬢様なので、場所のセッティングは完了してますの。ついて来てくださいまし」
       
       そう言って、羅々は公園を出て行った。
       果たして、彼女に案内された先に何があるのだろう。
       

       
       羅々に連れられ一行が辿り着いたのは、町の駅前広場だった。
       
      「さびれた駅前ですわね」
       
       羅々は地元民たるタツキ達の前で失礼な事を口走ったが、事実なので誰も反論しなかった。
       農協の建物や小さな小さな観光案内所、利用者数の割に広すぎる駐車場があるだけの、本当にさびれた駅前だ。反論するだけ無駄である。
       故に、通学通勤時間以外は静まり返っている場所だが、今日はなぜだか駅舎の前に人だかりができている。
       群衆の中心にはパトカーが停まっており、事態へ対処しているようだが――
       
      (違う、あれは人間じゃない!)
       
       遠目から人の集団に見えたものは、近づいてみると異なる様相を呈していた。
       黒光りするキチン質の翅を持つ、巨大な蟲の群れであった。
       彼らは人間と変わらない背丈で、人間のように二足歩行をしていたので、まさか巨大昆虫であるとは誰も思わなかったのだ。
       
      「ねえ。アレって“アレ”じゃない?」
       
       愛一好は顔をしかめて、蟲の外見的特徴を指摘する。
       多くの人間に「アレ」「G」呼ばわりされて、名前さえ忌避される不快害虫。蟲の特徴はそれに類似していた。
       はっきり言って、ゴキブリである。
        
      (闇のドラゴンの次は、ゴキブリが敵なのか……)
       
       人間達は前回の敵との落差と、単純にゴキブリに近づきたくないという理由でげんなりしてしまう。
       意外にも、お嬢様育ちの羅々は平気なようだが。
       
      「虫みてえな奴ぁ大体友達ですわ。それはさておき、虫と虫型のデジモンとでは大違い。あれがただのコックローチとは思わない事ね。さて、あのデジモンの名前を知っている子はいるかしら?」
       
       羅々に問われておずおずと手を挙げたのは、コロナモンの陽。
       
      「ゴキモン、ですよね……?」
      「正解。勤勉な子は好きよ」
       
       ゴキモン。そのものズバリ、ゴキブリのデジモンだからゴキモン。結局コックローチじゃないか。
       印象に一切変化が無いが、羅々に促されて一行は渋々ゴキモンに接近する。
       パトカーを取り囲むゴキモンの数はおよそ二十体。
       傍には当然だが警察官もいて、呆れた顔でゴキモンと口論しているようだ。
       
      「だからよ、人間の兄ちゃん。そのイカしたデザインの車をちょ~っと貸してくれりゃいいんだ。ちょ~っと乗って記念撮影するだけだからサ!」
      「あのー、どんな時もキャラクターの演技を崩さないのは素晴らしい事だとは思うんですが、こちらとしては真面目な話をしているので……。駅前の利用許可も出ていないようですし……」
       
       声が聞こえるほど近づいて分かった事だが、ゴキモンの外見は本物のゴキブリよりもデフォルメされているというか、コミカルで親しみやすい形状をしていた。
       そのせいか、警官は彼らを着ぐるみパフォーマーの集団と勘違いしているようだ。
       
      「許可ぁ~? 俺たちゃゴミ山育ちのゴキモンブラザース。許可申請は基本後出し!」
       
       一応申請は出すあたり変に常識があるというか、わざと常識を無視しているらしい。
       
      「こうやって頭下げてお願いするなんてのは、ゴミ山育ちの精一杯の敬意なんだぜ? 兄ちゃんも感じてるだろ。このクールなブラックの車に搭乗する、ビッカビカな黒いボディの俺ら……ぜってー“エモ”だから」
      「そうだそうだ! 黒と黒で相性抜群だ!」
      「白とのコントラストがイカすぜ!」
      「エーモ! エーモ!」
       
       推定リーダー格の提案に取り巻き達も次々と追随して、大合唱が始まってしまった。
       ゴキモンとパトカーでどんなシナジーが生まれるのか理解できないが、ゴキモンの中ではとにかくエモーショナルなのだろう。
        
      「見なさい。これが、デジモンによる迷惑行為よ」
       
       羅々がやけに神妙な顔で言う。
       
      「ゴキモンしかり、貴方達が出会ったデビドラモンしかり……。デジタルワールドでの戦争が激化してからというもの、どさくさ紛れに人間界に侵入し、悪さをするデジモンが急増しているわ」
       
       デビドラモンとゴキモンとでは「迷惑」の質と方向性が、随分と違う気がするが――若い警察官が多大な迷惑を被っているのは事実だ。
       
      「いやでもさ、あんなのがいたら急増してもしてなくてもニュースにならない? 今までデジモン知らなかった事の方がおかしくない?」
      「それは私達“八武”が……もとい、選ばれし子ども達が、秘密裏に対処しているからです」
       
       愛一好の疑問はもっともだが、羅々は食い気味にぴしゃりと返答し、続く疑問を発する事を許さなかった。
       
      「世界の管理者アヌビモンは激務に耐えかね出奔し、悪魔は治安維持に興味が無く、天使は人手が足りず、そして人間社会はデジモンを受け入れられるほど成熟していない!」
       
       世界の管理者がなんだって?
       とても大事なことをさらりと言われた気がするが、羅々は質問する暇を与えてくれない。
       
      「で・す・か・ら! 世界がデジモンに気が付く前に、私達でこっそりスマートに! 不法侵入者どもをとっちめる必要があるのです!」
       
       羅々の大仰な語り口が再び加速し始める。髪をばさりと翻し、風切り音さえ鳴らす勢いで人差し指を天に突き上げた。
       
      「セラフィモンより託された貴方達の役目! それは、人間社会を脅かすデジモン事件に対処すること! そこで経験を積み、来たるべき魔王軍との戦いに備えること!」
       
       マントのようにどころか、マントだってそんなにバサバサさせないだろうという勢いで髪をぶんぶん振り回しながら、天を指していた指を今度はゴキモンに向けた。
       
      「これが貴方達のファーストミッション! おまわりさんに迷惑をかけるゴキモン達を懲らしめてごらんなさいっ! ……っと、そろそろ面倒な事になりそうね」
       
       羅々は堂々たる指令を尻切れトンボで終わらせて、ゴキモンの群れにつかつかと近寄っていく。
       長話をしている内に、警官は応援を呼ぼうと通信機に話しかけていた。そりゃそうである。
       
      「はいはい! ちょっと失礼!」
       
       羅々はゴキモン達の群れに突っ込みずんずんと突っ切っていく。「なんだこいつ」と言いたげな視線をものともしない。
       やがて群れの中心、警官の隣までやって来ると、その手からトランシーバーを奪い取った。
       
      「あーあー。ラグジュアリー・コード101を発令。この案件は八武ウチの管轄になりましたので、よろしく。こちらのお巡りさんを迎えに来てあげてくださいまし」
       
       羅々は言うだけ言って、トランシーバーを警官の胸ポケットに戻した。
       「ラグジュアリー・コード」ってダサいなとか、言いたい事は色々あったが、警官も選ばれし子ども達も唖然とする以上のリアクションを取れなかった。
       更に、羅々の「仕切り」は対人間相手にとどまらなかった。
       
      「ちょっと駅に近すぎて狭いわね。もうちょいズレてくださいますこと?」
       
       お嬢様は場所が気に食わないらしい。
       コックローチに臆する事なく、ゴキモンの列をぐいぐい誘導していく。
       
      「誰だこの人間?」
      「なんで急に仕切ってんだ?」
       
       ゴキモンも戸惑っているようだが、群れの端から押されてじわじわ移動していった。
       

       
      「さて、ようやく本題に入れますわね」
       
       ゴキモン達を駐車場の真ん中あたりに移動させ、「仕切り直しですわねっ!」とでも言いたげにきりりと顔を上げる。
       ゴキモンはもちろん、選ばれし子ども達も怪訝な顔で羅々を睨んでいるが、彼女が今更そんなもの気にする訳が無い。
       
      「実践の時です。新人さんたち、貴方たちの考える“良いやり方”でゴキモンを追い払ってごらんなさい」
       
       ここに来て、ようやくタツキ達にマイクが渡ってきた。ここまでのやり取りを見るだけでもう既に疲れているが、やるしかないのだろうか。
        
      「兄貴! あいつら、俺たちを使って授業してるみたいだぞ!」
      「ふっふっふ。教材費を払ってほしいところだぜ」
       
       ゴキモンは巻き込まれながらも何が起こっているのか察した。察した上で、「俺たちを説き伏せてみせろ!」と待ち構えている。別にそんな事する義理は無いのに。
       誰が行く? と選ばれし子ども達は顔を見合わせる。しばらく無言で見つめ合った後、またまた陽が手を挙げて、とぼとぼ進み出た。
       彼は例えるならば、学校の係決めで誰も手を上げない時の空気に耐えられず、渋々立候補するタイプのようだ。
       
      「あの、あの乗り物は人間の警察の乗り物で、勝手に人を乗せたりすると大問題になるんです。それに人間はデジモンを知らないから、乗ってるのが見つかったら大騒ぎになってしまうかも……。だからここは、引いていただけないでしょうか……?」
       
       多少おどおどしているのを加味しても、惚れ惚れするほど模範的な説得だ。
       ゴキモンのリーダーは二対四本の腕を組んでしみじみと頷きながら、陽の言葉を聞き入れていた。
       
      「コロナモンの坊やの言い分はよく分かった! だがよう、坊や。“話し合い”で何とかしようってぇのはいただけねえなあ。俺たちデジモンの良い悪い、偉い偉くないを決めるのは言葉なんかじゃねえ。分かってる筈だ」
       
       ゴキモンは笑顔のままで凄んでみせる。 
       陽は「ひぇ」とか細い悲鳴を上げて後ずさった。
       
      「そう! デジタルモンスターという種の根底にあるもの、それは闘争本能! リアルワールドの生命が“種の繁栄”を目的とするならば、デジタルワールドの生命は“最強の個と成る”ために生きるのよ!」
       
       ゴキモンの言葉を羅々が引き継いだ。
       彼が言いたい事、即ち「言葉以外の何を以て説得すべきか」を示すために。
       
      「彼らが住まうのは弱肉強食の世界! 強さこそ全て、それ以外は無価値に等しい!」
      「いや、流石にそこまで極端じゃねえけど」
      「お黙り! そんな彼らに手っ取り早く言うことを聞かせるためには、己の力を示すしかない、つまり戦って勝つしかないっ!」
       
       当事者のゴキモンから訂正が入っても、羅々は熱い語りをやめない。
        
      「さあ、選ばれし子どもとそのパートナー達よ! ゴキモンブラザーズと戦い、強さを示しなさい! 駅前の平和を取り戻すのよ!」
       
       やはり、こうなってしまうのか。
       魔王軍との戦いが最終目的のタツキ達は、デジモンとの戦いを覚悟して来ている。しかし――
       
      「だが、お前らが俺らゴキモンブラザーズと戦ったところでなぁ~」
       
       ゴキモンの方は、そこまで乗り気になれないようだ。
       
      「見たところ成長期ばっかじゃねえか。一応テイルモンもいるけどなんか、ぽけっとしてるし……。いくらゴキモンが素早さ全振り、攻撃と防御はヘロヘロなピーキーデジモンだからって」
      「自分で言ってて悲しくならないんですの?」
      「成長期と頼りなさげなテイルモンで、大勢の成熟期を相手すんのは無茶だ。勝てる訳がない!」
       
       だから戦う意味も無い! と笑うゴキモン。リーダーに便乗して他の個体も次々笑い出す。
       笑い声の合唱に混ざって、ぷちりと血管が切れる音がした。
       
      「あ゛?」
       
       ゴキモンの言葉に誰よりも強く反応したのは――
       
      「誰が誰に勝てねえっつった? 群れても雑魚の糞虫が」
       
       面の下から滲むような闘気を燃やす、村正だ。
       彼の表情は、暗い影の底で光る双眸からしか計り知れないが、感情が激しく昂っているのは明白である。足元の砂利を不機嫌そうにじゃりじゃり鳴らし、竹刀をバス、バスと袖に覆われた手のひらに打ち付け挑発する。
       陽が恐る恐る「や、やめた方が……」と進言するも、取り合おうとしない。
       
      「やる気だけは成熟期級だな、コテモンの坊ちゃん」
       
       戦いに貪欲になってこそのデジモンだ、と、ゴキモンのリーダーは笑った。 
       
      「そこまで言うなら仕方ない。言ってきかねえ成長期ガキどもをゲンコツで黙らせるのもまたデジタルモンスターよ」
       
       昭和の頑固親父のような価値観である。
       ゴキモンがやる気になったのを見て、ついにあのデジモンも動き出す。
        
      「ふっ。待ちくたびれたぜぃ。うさの実力じつちからを披露してあげようじゃないかね」
       
       愛一好のパートナーデジモン、ルナモンの跳兎が「待ってました」とばかりにゆらり、どやりと進み出た。
      白いふわふわな毛に包まれた小さなおててをポキポキと鳴らしてやる気をアピールしている。
       会話を陽に任せっきりにしていた癖に、この言い草である。
       
      「あれ~? 跳兎ちゃんってこんなキャラだっけ~? もうちょっとクセのない性格だったような~」
      「なんか家で一晩過ごしたらこうなってた」
       
       愛一好の影響力が強いのか、跳兎が影響されやすい性質なのかは不明だが、初対面時に比べて好戦的かつエキセントリックになった跳兎であった。
       
      「ねえねえ。もしかして、戦い始まるの?」
      「そうだよ」
       
       テイルモンのクラリネに至ってはこの始末。ゴキモンの指摘は正しいと言える。
       
      「両者の合意が得られましたので、バトルを始めますわよ! 見合って見合って!」
      「それは、お相撲」
      「はっけよい、バトルスタート!」
       
       選ばれし子ども達は、正直言ってこの状況に危機感や緊張感を覚えていなかった。「はいはい。やっと始まるのね」と、半ば呆れてさえいた。
       初めて接敵した相手のデビドラモンに比べると、ゴキモン達はコミカルで親しみやすく、
       何よりゴキブリという身近なモチーフが警戒心を削いでくる。あくまで「命の危機」に対してものであるが。
       
       だが、すぐにこの認識は誤りであると、戦闘種族・デジタルモンスターはどんな姿かたちでも脅威的な存在であると、思い知らされる事になる。
       
      「ゴキモンブラザーズ全員集合だ! ゴミ山育ちの恐ろしさ、思い知らせてやれ!」
       
       ゴキモンのリーダーが威勢良く手下を鼓舞する……全員、集合?
       
      「待ってたぜ兄貴!」
      「オイラの出番だね兄貴」
      「やったるぜ兄貴」
       
       ゴミ箱の中マンホールの中道端の側溝の中、植木の茂みの中空き店舗の中、駅の周辺に存在するあまねく隙間の中から威勢のいい返事が上がる。
       かと思えば、黒々として艶やかな、しかも特大サイズの塊がぞわぞわと這い出してくるという、考えただけでも肌が粟立つ悪夢の事態が発生したではないか。
       彼らは韋駄天――と表現すればバチが当たるかもしれないが――の如きスピードでゴキモンリーダーの下へと急ぐ。
       元いた20体に新たに現れた個体を加えて、総勢およそ100体のゴキブリ、ではなくゴキモンが、選ばれし子ども達の前に集結した。
        
      「あらまぁ」
       
       虫みたいなやつは大体友達の羅々でさえ、この言い様である。
       もしもここに虫嫌いの人間がいたら、重篤なトラウマが残っていただろう。もしゴキモンがよりリアルな虫に近い造形だったら、タツキ達だって危なかった。
       前言を撤回しよう。デビドラモンと比べて侮って、申し訳ございませんでした。
       
      「かかって来い小僧ども! 俺達は逃げも隠れもしないゴキモンブラザーズ!」
       
       ゴキモンブラザーズがこちらから攻めてくるのを待っている。こちらから仕掛けた以上、ゴキモンに背を向けて逃げる事は許されない。
       
      「やっちまっていいんだよな」
       
       バチバチと大きな音がして、村正の竹刀の表面を白い電光が走り出す。
       これをゴキモンに向かって放電したのを皮切りに、戦いの火蓋が切って落とされた。
       
      ◇◇◇
       
      「僕も、やらなきゃ」
       
       村正の後に続くべく、陽も己の心を奮い立たせる。手をぎゅうと握ると、両腕のブレスレットが熱で赤く染まり始めた。
       
      「コロナックル!」
       
       陽の拳に熱い炎が宿る。煌々と燃え盛る拳で、目の前のゴキモンに殴りかかった。
       
      「いけ~、陽~……はっ!」
       
       この時、マチはとあるニュースを思い出した。ゴキブリを駆除しようと火をつけた結果、体表を覆う油に引火し家ごと燃えた恐怖のニュースだ。
       しかし、マチの懸念は悲しい形で外れる事になる。
       
      「残念! 腰が入ってないパンチじゃ当たんねえよ!」
       
       ゴキモンはゴキブリらしい俊敏性を発揮し、陽のパンチを難なく躱す。
       ゴキモンの余裕の表情は、陽の中に焦燥と少しの苛立ちを芽生えさせた。
       
       攻撃が当たらず苦戦しているのは陽だけではない。
       
      「ルナクロールナクロールナクロルナクロっ! かすった? かすってないね!」
       
       大胆な実力アピールから繰り出される驚きの腕ぶん回し。
       跳兎の攻撃……というにはあまりにも洗練されていない動きは、当然の如くゴキモンには当たらなかった。
       この場合洗練されているか否かは問題ではない。クラリネのネコパンチだって、ただの一度もゴキモンに命中していない。
       
      「にゃー! にゃー! ふにゃー!!」
       
       パンチが駄目ならひっかきだと、手の形を「グー」から「パー」に変えて振り下ろしてみる。
       テイルモンは「サーベルレオモン」という高位のデジモンのデータから作られたグローブを装着している。だが悲しいかな、攻撃の命中率自体は変わらない。
       
      「どいつもこいつも下手クソか!」
       
       村正から怒号が飛ぶ。その直後に乱れ舞う火花と稲光。村正も(クラリネを除く)仲間達もレベルは同じ「成長期」、すなわち同年代である。だが、村正は仲間よりずっと戦闘に慣れていると、タツキが素人目に見ても分かった。
       相変わらず「竹刀の扱い方」としては赤点だが、がむしゃらに腕を振るだけの仲間に比べれば動きに無駄が少ないように思える。
       しかし、彼の怒りは自分自身にも向けられていたようで――手数自体は仲間達よりずっと多いにも関わらず、炎も雷も黒い残像に追いつきすらしなかった。
       
      (人間がゴキブリを叩いて潰すのとは訳が違う。やっぱりデジモンは、生き物としてのレベルが違う……!)
       
       タツキは歯噛みする。自身のパートナーが果敢に戦いながらも敵に敵わず、しかし人間の自分が手出しできる次元には無く手助けの一つもできない。それがタツキは悔しかった。
       きっと、マチも同じ思いをしているだろう。
        
       パートナーとは、何なのだろうか。
       

       
       翻弄されている。ただただ速さに翻弄されている。
       百のゴキモン達は誰もこちらを攻撃してこない。ただ速いだけ。それなのに、こちらの誰も思うように動けない。
       
      「ゴキブリは疾いに決まってる! ゴキブリ見たことあるか?」
      「聞いたぜ、ホッカイドーとかいう場所にはゴキブリいないんだってな」
      「オキナワって所には、カブテリモンくらいデカいゴキブリがいるらしいよ」
      「最高じゃん」
       
       周りのゴキモンにも話題が伝播し、ゴキブリにまつわる無駄話が群れ中で行われている。
       つまりそれは、無駄話をしていても余裕と思われてしまっている事に他ならない。
       100匹もいればまぐれ当たりも有り得るか、という希望も容易く打ち砕かれる。
       
      「やっぱり世代差を覆すのは難しい、だから説得で終わらせたかったのに……!」
       
       陽が悔いるように言葉を絞り出す。体中から出ている炎もどこか弱々しい。
       デジモン達の中で「諦め」の言葉がよぎる中、一人だけ様子のおかしい人間の女子高生がいた。
       
      「見てなうさぴょん。攻撃っていうのはこう当てるんだよ」
       
       そう言って、様子のおかしい女子高生こと愛一好は腰を深く落とした。ざりざりと音を立てて右足を後ろに向かって擦り、左足は深く地面に根差し、その左足を軸にして勢いよく右足を振り上げる。
       うさぎが跳ねるように、力強くそれでいて軽やかに。
       
      「おっ、人間の嬢ちゃんも参戦かい? よしよし、かかってきなさゴブファァ……ッ!?」
       
       ここまでだれ一人として攻撃を当てる事が叶わなかったゴキモンだが、遂に愛一好の爪先がゴキモンの鳩尾を捉えた。
       よりによって人間から一撃を食らったゴキモンに、心と体の二重の衝撃が襲う。 
       例えるならばそう。よちよち歩きの赤ん坊をなめてかかったら意外と力が強くて痛い目を見た時のような、そんな感覚が。
        
      「すげえよメイちゃん……。メイちゃんすげえよ……!」
       
       心の衝撃を受けたデジモンがここにも。
       跳兎は目を輝かせて、キックの姿勢から着地した愛一好に駆け寄った。
       人間もデジモンも、子どもが喜ぶ時の仕草は変わらないのだろう。今の跳兎の様子は、憧れのヒーローを目の前にした子どものそれだ。
       
      「うむうむ。では、うさぴょんもやってみたまへ……足が無え!?」
       
       愛一好はこの瞬間までルナモンには足が無いのを忘れていたらしい。これではキックをレクチャーしようがない。
       そして愛一好の後に続く者はおらず、ゴキモンは引き続き優位を誇るのだった。
       
      「ぬはははは! 攻撃を当てられたのは人間の姉ちゃんだけだぞ! いやそれはおかしくない?」
       
       ゴキモンの言う通り、愛一好のキックの威力は人間にしてはおかしい。だが、おかしいのが愛一好だけではどうにもならない。愛一好だけで百体分蹴りまくるというのも現実的ではなく、反撃を食らえば流石の愛一好も致命傷だろう。
       このままでは決してタツキ達の勝利は訪れない。
        
      「そうなのメイちゃん?」
      「さすがの愛一好さんも耐久力まではお化けじゃないんだな」
       
       この状況を最も憂いていたのは、――どうしたことか、開戦を煽った筈の八武羅々だ。
       
      「……ちょっと流石に100匹は多すぎたかしら」
      「え?」
       
       パートナー(となぜか率先して戦っている愛一好)を見守っていた子ども達は、一斉に信じられないものを見る目で羅々を見た。
       この状況を一から十までお膳立てしたのは羅々の筈なのに、なぜ冷や汗をかいているのか。
       
      「だって、流石に101匹ゴキモンが始まるだなんて、思ってなかったんだもの。二十ゴキモン漂流記なら成長期でもなんとかなるかなるわよね~、と」
       
       言い訳に多少のユーモアを交えたつもりになっても無駄である。
       
      「この斑目愛一好を以てしても、どうにもなってないんですが?」
      「それは最初からどうにもならないですわよ! ならないわよね?」
       
       刺さる。刺さる。選ばれし子ども一行からの視線が羅々に刺さる。
       高貴なる人間である彼女。普段ならば一介の市民の抗議など蚊の鳴く声にしか聞こえず「現場でなんとかして」などと返すのだろうが――状況が状況である。
       
      「わかりましたー! 責任を持って、私とパートナー達でなんとかするわよ!」
       
       羅々は非を認めるばかりか、この場を収めてみせると宣言までした。タツキ達にとっては後者の方がずっと驚きだった。
       選ばれし子どもの先輩。羅々はそう言った。後輩である自分達は手も足も出なかったというのに、羅々はどれほど先まで進んでいるのか?
       
      「最初の20体は引き続き、新人の皆様にお任せしますわ」
       
       リーダー以外どれが最初にいた個体か見分けがつかないのはさておき、20体なら何とかなりそうな気がする。
       では、残りの80体を羅々はどうするつもりなのか。
       
      「残りはこちらで引き受けましょう」
       
       羅々がパチンと指を鳴らす。それは合図。
       刹那に起こる風、目にも留まらぬ速さで“彼女”は現れた。
       
      「やっぱり私達が必要になったのね、羅々!」
        
       歌うような声を追うように彼女を探す。声の発生源は既に近くまで迫っている。そして皆の視線が一斉に同じ場所――羅々のいる方へ集まる。
        
       少女のかたちをした小人が、羅々の周囲で舞うように飛び回っていた。
       
      「妖精さんみたいだね~」
       
       マチが場違いにのんきな感想を呟いた。しかし、場違いではあれど的外れではない。デジモンという存在の知識が無ければ、人は彼女を「妖精」と称するだろう。
       
       彼女の体長はなんと、わずか15~30cmほど。ちょうど羅々の顔の隣に並んだ事で、その小ささが際立つ。
       戦闘種族らしく上半身は若草色のアーマーで武装していて、丸い肩アーマーからは矢羽が左右三本ずつ飛び出している。籠手がまるで弓と一体化しているかのような形状なので、ここから射出するのだろう。
       脇腹からもなんと、洋弓の弓幹が飛び出している。
       彼女自身が巨大な弓と言えばいいのだろうか。とにかく、射手としての性質が色濃いデジモンのようだ。
       ちょこんと被った三角帽子と、スカートから伸びる華奢な足が、妖精らしい愛らしさと牧歌的なイメージを担保していた。
       スカートの中からは細い尻尾のようなものが伸びているが、尾の先には 妖精は尻尾も特別製なのだろうか。
        
      「もう狩りを始めてもいいのよね! 80匹も獲物を用意してくれるなんて、今日の羅々は太っ腹ね!」
      「ガチの狩りはダメよ。生きたままキャッチで後からリリースですわ。それと、貴女の紹介をしたいからもう少しだけ待ちなさい」
       
       愛らしい妖精から物騒な発言が飛び出した。妖精もデジモンナイズドされれば凶暴になるのかと、子ども達は唖然とする。
       妖精を窘める羅々だが、驚愕の色を帯びた視線に気づいて、妖精に前に出るよう促した。
       羅々自身の自己紹介と同じくらいに意気揚々と声を張り上げ、羅々は妖精の名を告げる。
       
      「ご紹介いたしますわ! 彼女は私のパートナーデジモン。名前はダリア! 種族はザミエールモンよ」
       
       羅々に紹介されて、ダリアと呼ばれたデジモンは空中でくるり横に一回転。ふわりと浮かんだスカートの裾を持ち上げ、ぺこりとお辞儀をしてみせる。
       
      「選ばれし子どものみんな、初めまして! 本当は初めましてじゃないんだけど、さっきは目隠しさせてもらったから、やっぱり初めましてね!」
       
       目隠し、と聞いてタツキはピンと来た。自分達を公園に拉致? したのは――
       いや待て、さっき自分を担ぎ上げた存在は、少なくとも人間サイズだった筈だ。妖精サイズのダリアは該当しない筈だ。タツキの中に大きな謎が増える。
        
      「ザミエールモン!? ティンカーモンじゃなくて? 図鑑で見たのとはちょっと、違うような……」
       
       ザミエールモンというデジモンを知っているらしい陽は、タツキとは別の視点で驚いていた。
       
      「通常個体よりもプリティーでしょう? 特別な私のパートナーなので、特別可愛くチューンアップしてあるの」
       
       羅々は自慢げに腕を組んで胸を張る。彼女にとって自慢のパートナー、対ゴキモン戦の切り札。それがダリアだったのだ。
       ダリアの外見に関して何やら重要なヒントを出してくれたようだがしかし。
       
      「ほら、図鑑と全然違う」
      「ほんまやん! つーか図鑑のザミエールモン男やんけ!」
      「あの、デジモンに人間で言う性別は無くて……」
      「男やんけ! ただの女体化じゃなくて服も髪質も顔つきも全てがちゃうやんけ!」
       
       誰ももう羅々を見ておらず、どこからともなく取り出された図鑑とダリアを一生懸命見比べていた。
       
      「そだよ! 僕らは用途に合わせて品種改良されてるんだ!」
      「うわぁ!? だ、誰!?」
       
       タツキはギョッとして飛びのいた。誰のものかも分からない声が、自分のすぐ耳元から聞こえてきたせいだ。
       
      「僕はクリスタル! 雪上活動用白変個体だよ、よろしくね!」
       
       今度は声変わり前の少年の声で喋る小人。ダリアとは違って彼の鎧は図鑑のザミエールモンと同じデザインだが、色は名前のイメージ通り淡い水色。
       顔つきも幼さが残る――ダリアと同年代の少年に見えた。
       
      「品種“改良”に該当するかは貴様の努力次第だがな」
      「うわぁまた出た」
       
       三番目に現れたザミエールモン。今度もタツキの真横に現れたが、二度目ともなれば過剰に驚く事はなかった。
       今度は声が低い。大人びた個体だ。
       鎧が青い事以外は前二体に比べるとずっと原種に近いが、メカニカルに改造された巨大な矢を二本も背負っている。
       
      「彼はジェスト! 世界で二番目に強いザミエールモンですわ!」
      「今回は新人二匹の教育係として来ている。本気を出すつもりは無い。もし俺の手出しが必要になったらその時は、分かっているだろうな」 
       
       ジェストと呼ばれたザミエールモンがダリア、クリスタルを睨みつけた。「鬼教官」の呼び名が相応しい、恐ろしく険しいオーラを纏っている。無関係のタツキまで刃を突きつけられているような気になった。
       
      「はいはーい」
      「大丈夫だってジェストー」
       
       当のダリアとクリスタルはどこ吹く風。説教を面倒くさそうに流す子どもそのものだ。鬼教官に対する不届きな態度が寧ろ、得体の知れない恐ろしさを醸し出していた。
       それにしても、「世界で二番目」ときた。これが「世界で一番」だったら、定番の謳い文句に聞こえるが、あえて二番目と言われると信憑性が出てくる、気がする。
       
      「あわわわわ、ザミエールモンが、三体も……」
       
       陽はザミエールモンの襲来を前に目を回して今にもふらりと倒れそうだ。
       陽と同等か或いはそれ以上に、ゴキモン達も慌てふためいていた。
       
      「聞いた事があるぞ、ザミエールモン。確か、木精軍団っつーのを率いてる将軍だ」
      「究極体らしいぞ」
      「かみさま……」
       
       究極体。得たばかりの知識によれば、デジモンの成長段階における最上位。成長期がなんだ成熟期がなんだという議論を遥か置き去りにする、雲の上の存在だ。
       今までタツキ達が出会ったデジモンの中では、セラフィモンが該当する。あのセラフィモンと同格、と考えるとゴキモンの怯えっぷりにも頷ける。もっとも、究極体もピンからキリまでいるようだが。
       
      「正式なパートナーはダリアだけですわ。ジェストとクリスタルはそうね、ダリアが属する群れの仲間で協力してもらっている、って感じかしら」
       
       どうやらタツキのようにパートナーが複数体いる、という事ではないようだ。
       それでも、パートナーが究極体である事には変わりない。今のタツキ達からすれば、先輩どころか先生よりも更に上の存在。頼もしさ以上に、逆らえない恐ろしさがあった。
       
      「じゃあ、俺が成長期たち担当しますね……」
      「それなら僕が」
      「いやおいどんが」
      「お黙り! 早い者勝ちで最初にいた20体があの子達の相手をしてって言ってるの! 残りは順番にふん縛っていくから」
       
       楽な方へと流れていくゴキモンをぴしゃりと一喝。最初にゴキモンの群れを移動させたように、強引に群れを仕切ってゴキモンを80匹と20匹に分けた。
       
      「じゃ、こっちのグループは預かりますわ」
       
       タツキ達としてはいくらでも敵が少ない方がいい。羅々の助け舟が今は何よりもありがたい。
       だが。
       
      「おい、待てよ」
       
       ここでもまた、村正が怒気を孕ませ待ったをかける。
       
      「100匹の雑魚がなんだってんだ。」
       
       羅々の目つきがふっと冷たくなる。
       それは生まれつきのつり目のせいではなく、明確に冷徹な態度を露わにしている。
        
      「さっきから貴方、ご自身の実力を過信しているようですが……。根拠の無い自信に付き合って差し上げるほど、私は優しい先輩ではなくってよ」
       
       羅々の呼吸に合わせるように、三体のザミエールモンが村正の前に立ち塞がる。ザミエールモンの主武装である、手甲と一体化した弓を構えて。
       一触即発の空気。ゴキモンと対峙した時よりも、遥かに重苦しい空気が各々の肺を圧し潰す。
       
      「まあまあ。もしかしたら何か事情があるのかもしれねえし」
       
       殺気立つ羅々をなだめようと、何故かゴキモンのリーダーが仲裁に入ってくれた。
       だが残念ながら、羅々も村正もゴキモンリーダーの仲裁など意に介さない。これにはリーダーもしょんぼりしてしまう。
       その時だ。
       
      「ターーーーーーーイム!!」
       
       突然、誰もがびくりと驚く勢いで愛一好が声を張り上げる。
       
      「タイム! タイムですタイムで~す! ホームに引っ込みます!」
       
       愛一好は叫び続けながら、相変わらず人間離れしたスピードで村正に接近。火を噴く竹刀を恐れる事なく彼を捕まえ小脇に抱えた。
       そのまま駅に向かって猛ダッシュ。文字通りの脱兎の如く、愛一好と村正は戦線を離脱した。
       
      「え、あ、待ってください愛一好さん!」
       
       展開に追いつけないなりに、タツキ達は急いで愛一好を追いかける。
       ゴキモン達は呆然と、羅々とザミエールモンは敢えて、逃げる子ども達を見送った。
       
      「よくぞこの私の前で敵前逃亡できましたこと。まあ、彼女なりの考えがあってのことなのでしょう。許します」
       
       羅々は寛容なようでいて、しかしその実傲慢な態度で愛一好の逃亡を見逃す。
       
      「じゃあ、こちらは引き続き80匹ゴキちゃんをふん縛っておきますわね」
      「おやびん助けてー!!」
       
      この時、ゴキモンを捕らえようとするザミエールモン達が、悪魔のように凶悪な笑みを浮かべていたのだが、タツキの視点からは見えなかった。
       
      ◇◇
       
       今度は逆に駅舎に近づき、建物の陰に隠れる。羅々にもゴキモンにも見えない場所に腰を落ち着け、全力疾走で上がった息を皆で整える。
       息切れが落ち着くのを待たぬまま、タツキは愛一好に頭を下げた。
       
      「愛一好さん、ありがとうございます」
       
       状況を一度リセットし、皆の頭が覚めるよう取り計らってくれた事がタツキにはありがたかった。
       
      「いいって事よん。それよりもまっさんだよ、まっさん」
       
       いつの間に村正をあだ名で呼ぶようになったんだ、と聞ける雰囲気ではなかった。
       
      「なして? なしてあんなに怒ってたん?」
      「なしてなん?」
       
       愛一好が気遣いかは知らないが、軽くふざけた調子で問う。跳兎もそれに追従する。
       村正は無言だった。「お前らには関係ねえだろ」という言い分を、無言を貫く事で主張している。
       
      「だんまりかい? 言わないなら言うまで踊るで? おん?」
       
       村正は顔を背けて何も言わない。
       だから、愛一好は本当に踊った。村正はそれでも無言だった。いたたまれなくなってきたのか、愛一好は自らすぐに踊るのをやめた。
       これを見せられたタツキもマチも、いたたまれない気持ちになった。
       
      「言いたくないのは分かったけど、それはそれとして一人で死地に突っ込まれると困るやで」
      「やで」
       
       二回目の「やで」は愛一好の語尾を真似した跳兎だ。
       
      「困ればいいだろ」
      「8歳児みたいな言い方しおってからに」
       
       愛一好が何を言おうと、村正には響かない。強情もここまで来れば大したものだ。
       タツキも一向に口を割らない村正に業を煮やし、愛一好を制して村正の正面に立つ。
       しゃがんで村正と視線を合わせ、半ば懇願するように、村正の真意を問う。
       
      「なあ、村正、頼むよ。どうして 直せとは言わないからさ、せめて教えてくれ」
       
       パートナーのタツキが訊ねたからだろうか。それとも、「俺が聞かなければ」というタツキの姿勢を評価したがためか、村正はぽつりぽつりと胸中を語り始めた。
       

       
       そう遠い昔の話ではない。デジタルワールドのとある場所に、力自慢のボルトモンがいた。
       究極の頂に上り詰めるまで磨き上げた筋肉と、剛腕で振るう斧が誇りだった。
       そしてボルトモンには、相棒のクズハモンがいた。陰陽術と管狐を操る、巫女のデジモンだ。
       ボルトモンは決して口にはしなかったが、彼女は頼もしい奴で、力任せで視野が狭くなりがちなボルトモンを的確にサポートしてくれた。
       クズハモンはサクヤモンの成り損ないとも言われるが、ボルトモンはそのようには思えなかった。
       二人が揃えば、並大抵の相手には負けない。だが、この日は少し、油断してしまった。
       
      「んだよパラサイモンか。雑魚中のザコじゃねえか」
       
       一つ目の虫のようなデジモンを見下ろすボルトモン。パラサイモンは、大きな緑色の瞳をふるふると震えさせるばかりで何もしてこない。
       いや、究極体でありながら他者に寄生しなければ戦えないパラサイモンは、究極体2体を相手に何もできないのだ。
       
      「油断しないで、ボルトモン。どんな隠し玉を持っているか分からないわ」
      「へいへい分かりましたよー」
       
       クズハモンの忠告に生返事をするボルトモン。
       ボルトモンが相手を侮る発言をして、クズハモンがどんな相手だとしても油断するなと返す。これ自体がお決まりの流れになっていた。
       だから、クズハモン自身も口に出すだけで真に警戒をしていなかった、のかもしれない。
       
      「おいクズハモン、足」
      「やだ、私に寄生しようとしてるの?」
       
       パラサイモンは触手をクズハモンの足に向かって伸ばす。一か八か、クズハモンに寄生して逆転を狙っているのだろうか。
       しかし、見え見えの行動は意味を成さない。ボルトモンはパラサイモンの触手に向かって斧を振り下ろした。
       この時、ボルトモンの意識は完全にパラサイモンだけに向かっていた。それが敗因だ。
       
      「ボルトモン! 後――」
       
       クズハモンが叫ぶ声を、ボルトモンの胸を貫く銃声がかき消した。
       ボルトモンが見たものは、パラサイモンの触手を断ち切った勢いで地面に刺さった斧。そして、自分自身の胸から流れ出して斧を汚す鮮血(データ)――
       
      「ボルトモン! ボルトモン!」
       
       ぐわんぐわんと揺れる頭の中で、クズハモンが自分を呼ぶ声が乱反射する、そんな感覚がする。
       傷の痛みよりも血(データ)の流失で意識が朦朧とする感覚の方が、ずっと強い。
        
      「人が機嫌悪い時にギャアギャアうるせえんだよ、雑魚がよ」
       
       知らないデジモンの声も、クズハモンの声と一緒に脳みその中をぐるぐる回る。
       こいつこそが自分を撃ったデジモンだと、ボルトモンは確信できた。
       究極体の自分を雑魚扱い。実際に胸を撃ち抜けているという事は、恐らく相手も究極体だろう。
       今振り向けば姿を拝めるだろうが、ボルトモンにはそれができなかった。少しでも体を動かして姿勢を変えれば、そのままぐらりと倒れそうだった。
       
      「そっちのクズハモンもギャーギャーうるせえなあ! 二匹まとめて食ってやろうか」
       
       馬鹿な事言ってんじゃねえぞ。てめえこそ俺の斧の錆にしてやろうか、雑魚が。
       それを実際口に出せたのか、ボルトモンには分からない。不明瞭な意識ではもう、自分の状況を理解する事さえおぼつかない。
       そう言えば体が冷たい事に気がついて、その冷たさが地面から伝わっている事に気がついて、倒れそうも何も既に倒れている事に気がついて――気がつけば意識も消えていた。
       

       
      「目が覚めた時、俺は割れたタマゴの殻の中にいた」
       
       訳も分からないまま殻の外に這い出て、周りを見渡してそこが「はじまりの町」だって事に気づいて、やっと自分が生まれたての幼年期だって事に気が付いた。
       俺はあそこで死んで、“前世の記憶を持ったまま”デジタマに還ったんだ。
       
      「ジジモン様から“前世の記憶を持ったデジモン”の話は聞いたことがあったけど、まさか実在していたなんて……」
       
       陽が動揺を隠せない様子で呟いた。
       村正は構わず続ける。
        
       周りの保護者保護者おとなは誰もクズハモンを知らなかった。赤ん坊の癖に大人のようにべらべら喋る俺を見て、怪訝な顔をするだけだ。
       仮にも究極体のあいつが知られていないという事は、相当遠くの町に転生してしまったんだろう。お前らも幼年期のデジモン――コロナモンやルナモンに進化する前のこいつらの姿を見ただろ? 手も足も無いあの身体じゃ、クズハモンを探して旅に出るなんて夢のまた夢だ。
       クズハモンだけじゃない。俺は俺の全てを失ったも同然だ。力自慢の奴が力を奪われたら、そこに何が残る? 何も無いだろ。
       殺されて赤ん坊の身体にぶち込まれて、究極体になるまで鍛えた時間も全部パー。
       今だって、斧よりずっと軽い筈の竹刀も満足に振れやしない。
       
      「選ばれし子ども計画も別に乗り気じゃなかった。セラフィモンと、俺が生まれ変わった町の長から頼まれたから来てやっただけだ」
       
       天使と悪魔の戦争なんてどうでも良かった。今は尚更それどころじゃねえってのに、あいつら俺の気持ちなんか気にしちゃいねえ。
       セラフィモンの意向かは知らないが、集められたのはガキのデジモンばかり。こいつらと同レベルに扱われるのは癪だし、人間のガキを頼らにゃならんのは気に食わなかったが、究極体になったこの俺が戦いの役に立たん奴と思われる方がもっと癪だった。
       セラフィモンに言われるままパートナーを探しに行って、その先でデビドラモンに勝てた時はもしやと思ったんだが――
       
      「その結果がこのザマだ。そこらの成熟期にすら俺一人じゃ勝てず、横から現れた究極体にお株を奪われ、挙句人間のガキから説教までされて最悪だよクソったれ」
       
       タツキは言葉を失った。
       タツキが村正に手を貸したいと思ったのは、抑圧に反抗する自分と重なる部分があると感じたからだ。
       お前は無力と嘲られようと、己の無力を思い知らされようと、それでもデビドラモンに立ち向かった村正に希望を見出したからだ。
       だが、実際に村正を抑えつけていたものの正体は、人間の子ども風情が安易に共感できるものではなかった。
       自分の思うように動けないどころか、消えたのだ。自分そのものが。
       
      「まっさんにはまっさんなりの訳があると思ってたけど、そう来たかぁ……。そりゃ、私らと同列扱いは癪だわね」
       
       愛一好の言う通りだ。
       仮に今の自分が心はそのままに赤ん坊に生まれ変わり、剣崎勇夜がいない場所で、周りの赤ん坊と同じサッカーも剣道もできない無力な存在として扱われたら? きっと「絶望」の一言では済まないだろう。
       そしてそれが、プロとして栄光を掴んだ後に起こったら……?
       タツキだけではない。未だ発達途上の子ども達は、村正に「同情」は出来ても真の意味での「共感」は許されないように思えて、これ以上彼に何も言葉を掛けられない
       
       掛けられない――?
       
      「ネコパンチ!」
      「ふぎゃー!?」
       
       なんと、前触れなく放たれたクラリネの必殺拳が、村正の顔面に命中した。
       面越しとはいえモロに食らってしまった村正は、衝撃に悶絶している。
         
      「何しやがるバカ猫!」
      「なんで、なんで言ってくれなかったの!? はずかしかったの?」
      「恥ずかしいどころかそれを超越した感情だわ! イテテ……」
       
       クラリネはパンチだけでは飽き足らず、村正の肩を掴んで前後に揺さぶった。
       そして、思いの丈を半泣きで叫ぶ。
         
      「はずかしくたって進化したいのはみんな同じだもん! 進化したくて、みんなでいっしょにがんばってるの! 村正もいっしょにがんばろうよ!」
      「てめえと一緒にすんなバカ猫……チッ、そういう事かよ畜生」
       
       村正は一度振り上げた筈の拳を、何かに気がついた途端に下ろす。
       タツキはクラリネの言葉に目が覚めるような衝撃を受け、それからセラフィモンの言葉を思い出した。
       
      『彼女の進化に関するデータには異常がある。彼女は、完全体にはなれないようだ』
       
       クラリネも村正と事情は違えど、「進化したくてもできない」デジモンだ。
       故に、村正の境遇に一層同情でき、彼の態度に一層腹が立ったのだろう。
       クラリネがここまで感情を表すのは、デビドラモンとの戦いで協力を請われた時以来だ。
       
       パートナーなら。
       デジモンに戦ってもらう代わりに「気持ち」を提供するのがパートナーなら、もう一人のパートナーがそうしたように、自分も村正に向き合うのが誠意だろう。
       タツキは覚悟を決めた。
       
      「悪い村正。俺、勝手にお前がどんな気持ちかとか、気持ちの重さとか、勝手に決めつけてた」
      「何だよお前まで急に……怖っ」
       
       タツキはまず、村正に向かって謝った。
       タツキはまだ、自分と村正を重ねて見ていたと告白していない。だから、この謝罪の真意までは村正には分からない。
       だが、タツキはここで謝罪をしなければ村正に向き合えないと思った。
       村正のふざけた態度は、この話題から逃げたい気持ちの裏返し。だが、ここでタツキまで引き下がっては意味が無い。
       
      「強さがリセットされたのも嫌だろうけどさ。今まですっげえ優秀な仲間がいたのに、俺みたいなのが急に現れて、パートナーだって言われたのはもっと嫌だったと思う」
       
       突然現れたパートナーは村正とクラリネではなく、タツキの方だったのだと、認識を改めた事も村正に告げる。告げなければならないと思った。
       
      「俺たちはその、クズハモン? みたいに完璧なサポートはできない。だけど、それでも……」
       
       事実として、タツキの悩みは村正の境遇に比べれば矮小なものだ。
       だが、それを理由に一線を引いてしまうのは、村正に悪いとかそれ以前に――
       
      「お前が一人で戦って、結局力を取り戻せなかったってオチになるのは、嫌だ」
       
       何かに負けたようで、嫌だったのだ。
       だから、引き続き対等に振る舞うことにした。同じ「反骨精神」の持ち主として。
       
      「そうだよ! いや、そうです、よ? 村正……さんは『全部失った』と言いましたが、究極体に至るまでに得た知識は絶対に役に立ちます! 『筈』じゃなくて、絶対立ちます……立つよ?」
       
       陽も続けて必死に訴えかける……が、妙な突っかかりがある。
       村正の精神は究極体相当と聞いてから、敬語で喋るべきか同期としてため口を使い続けるか、迷い始めた様子だ。
       
      「じゃあ、これからは敬語で頼むわ」
      「分かりました。では、これからは敬語で」
       
       敬語を使わせるんかい。と危うく突っ込みそうになったが、「陽の気質を考えると寧ろ敬語の方が話しやすいだろう」という気遣いと気づいて飲み込む。
       
      「だから僕としてはその、あなたに“何も無い”とは思わないし、あなたの知恵を貸してほしい、です」
       
       陽は頭をぺこりと下げた。
       
      「そうだよ~。マチ達こそ戦場では赤ちゃんみたいなものだから~、先輩の力が必要なんだよ~」
       
       マチも陽に続いて村正の前に。しゃがんで視線を合わせ、じっくりと村正の目を見つめる。
       
      「その代わりめっちゃ協力するよ~。めっちゃ協力するからさ~、ね~?」
       
       マチはゆっくり目を開け、穏やかに首を傾けて、柔らかさの中に一本通った芯、「真摯」な気持ちを声に乗せる。
       
       村正は沈黙した。それはそれは永い沈黙。実際の長さはそれほどでは無かったのかもしれないが、実感としては日が暮れてしまうと感じるほどの永い沈黙。
       やっと村正が口を開いたと思えば――
        
      「…………めーーーーんどくせーガキどもだなぁ~~~」
       
       この憎まれ口である。
        
      「わぁーった。わぁーったよ足並み揃えりゃいいんだろ。へーへー分かりましたよ。だから終わり! この小っ恥ずかしい告白タイム終わり! 受け付け終了!」
      「な、なんだとぉ……愛一好さんは今、超エモーショナルな言葉を考えていた真っ最中なんだぞぉ? まだ思いついてなかったけど」
      「だってお前に喋らすと絶対クソ長い上に一番意味不明な事言い出すだろ」
       
       投げやりに言論封殺され、愛一好はわなわなと震えている。
       愛一好だけではなく、誰もが「ここまで言ったのに、こいつ……」と呆れと苛立ちを隠せない。
       
      「正直お前らと仲良しこよしで戦うよりも、告白タイムに付き合う方が嫌だよもー。で、俺を大人しくさせたところでどうすんだよ。俺が言うのもなんだけど、マイナスがゼロになっただけだろ。何かアイデアあんのかよ」
       
       村正の言う通りだ。「村正が言う事を聞かない」は問題ではあっても本題ではない。
       
      「まっさんの言う通りだ」
      「うさぴょん?」
       
       愛一好を真似た口調で地の文と同じ言葉を繰り返す兎が一羽。
        
      「問題は……どうやってゴキモンを倒すのかだよ」
       
       どやりどやりと問題提起したのは、さっきまでだんまりを決め込んでいた跳兎だ。先ほども同じような光景があった気がする。
       
      「やっぱり進化でしょうか?」
      「デビドラモンを倒した時みたいに~、ムシャモンの刀でズババ~ンと~」
       
       マチが刀を振るジェスチャーをしてみせる。どちらかと言うと、野球のバットをスイングしているように見えるが。
       そして皆の視線は再び村正に向けられる。しかし今度は「彼ならやってくれるかもしれない」という期待の眼差しだ。
        
      「やっぱここは、皆の先輩まっさんでしょ。一人で突っ走るなと言ったのはこっちだけど、真実を知っちゃあ村正おじさんに希望を託さずにいられない。ここはムシャモン? のパワーで一発……」
      「タイマンならともかく、俺だけ進化しても頭数の問題は解決できねえだろ。20匹も同時に襲って来られたらどうすんだ」
       
       村正からの提案に、皆が「きょとん」とする。
       提案の内容は問題ではない。寧ろ真っ当な提案だ。
       先ほどまで一人で戦うつもりだった村正が、渋々足並みを揃える素振りを見せた村正が、「自分一人では足りない」と「自ら」申し出た事が驚きなのだ。
       タツキ達は顔を見合わせて、しかし敢えて口には出さず、村正の変化を受け入れる。
       
      「そうねん。でも、今進化できるのってまっさんだけなんでしょ? 賭けるか、うさぴょんが進化する“可能性”に」
      「どやうさ……」
      「何週間かかるんだよ」
      「イラうさ……」
       
       跳兎は引きつった笑顔で圧を放つが村正は気にしない。
       
      「あれ使えばいいだろ。光のデジメンタル」
       

       
      「あら。いい顔になって戻ってきましたわね」
      「俺達は戻ってくるって信じてたぞ!」
       
       晴れやかな顔で戻ってきた選ばれし子どもを見て、羅々は「ふっ」と口角を上げた。
       何故かゴキモンのリーダーまでもが、熱烈に迎え入れてくれた。 
       ザミエールモン達が担当したゴキモン達は当の昔に制圧されていた。目を回して気絶した状態で簀巻きにされている。妖精サイズのザミエールモンが、どうやって人間サイズのゴキモンを簀巻きにしたのだろう?
        
      「なんでジェストだけで半分も狩っちゃったんだよーっ! 僕とダリアの取り分が20匹ずつになっちゃったじゃん!」
      「そうよ! 成熟期20匹生け捕りにしたって何にも面白くないわ!」
      「お前らがトロ過ぎるのが悪い」
       
       なぜかザミエールモン同士で喧嘩をしていた。
       速いゴキモンを捕らえる技術自体が驚異的だが、一体ジェストが若い二体要求した水準はどれほどのものなのだろうか。
       
      「見つけたんだな。俺達に、一矢報いる方法を……!」
      「一矢で済ます訳ないだろ、ゴミ虫」
       
       すっかり熱血教師と化しているゴキモンリーダーを、村正は冷たく突き放す。
       当のゴキモンは「ゴミムシだと違う虫になっちゃうだろ!」とワードチョイスの方に憤慨しているが。
       
      「……行くぞ。村正、クラリネ」
       
       タツキはデジヴァイスを掲げた。デジモンと初めて出会った、あの日のように。
       村正も竹刀を構えて前に出る。ただし、その隣にはあの日と違ってクラリネも、共に。
       デジヴァイスを握る手に力が入る。力の中に心を籠める。
       思う心はパートナーと同じ。次のステップに、進化する――
       
       まず変化したのは村正。竹刀は本物の刃に、防具は朱い具足に、そして肉体は戦を重ねた流浪の武者へと変わっていく。村正が前世で重ねてきた戦いの歴史を、新たな肉体に改めて刻んでいくかのように。
       ここにいるのはスポーツとしての武道を修めた者ではない。本物の修羅場を知る、武芸者だ。
       続いて取り出したのは光のデジメンタル。今一度デジヴァイスを操作し、デジメンタルの力がクラリネへ注がれるようにと調整する。
       
      「デジメンタル、アップ!」
       
       教わった通りの呪文を唱えると、卵型の秘宝の中から光が孵化した。
       孵化した光はクラリネの身体を「白い獣」の姿はそのままに成長させていく。クラリネは小さな子猫のかたちから、しなやかさと力強さを体現する雌獅子への「進化」を果たす。
      卵の殻の役割もまだ終わらない。デジメンタルは光を放出するとパーツごとに分解され、クラリネと共に成長して彼女を覆う鎧と化した。
       新たなる姿を手にしたクラリネの心の高揚を表すように、背から純白の翼が広がり彼女は今、新生を果たす。
       
      「テイルモン進化! ネフェルティモン!」
       
       クラリネは新たなる姿の名を高らかに叫んだ。
       ネフェルティティ。古代エジプトに存在したファラオの王妃の名。そしてネフェルティモンの姿はまるでスフィンクス――タツキ達もよく知る、神王を守護する聖獣の姿をしていた。
       
      「ひ、光のデジメンタルだってぇ!?」
       
       総勢20名のゴキモンが、何の合図も無しに声を合わせて叫んだ。
       
      「お、お前らザミエールモンは連れてるわ光のデジメンタルは持ってるわ、一体何者なんだ」
       
       タツキはただ「秘宝」とだけ聞かされていたが――デジメンタルがデジタルワールドにおいてどれほど価値のある秘宝なのか。ゴキモンの反応で初めて実感を得る。
       
      「生きてる内にデジメンタル見れるなんて驚きだよ兄貴ぃ」
      「大丈夫。ザミエールモンを相手するよか怖くない」
       
       そう言うゴキモンのリーダーの声は震えていた。
        
      (な、なんだこいつは! 成熟期に進化したばかりとは思えねえ。寧ろ、成熟期の身体の方に慣れて……いや、これも違う。まるで、「経験と知識に身体が追いついてきた」みてえな……)
       
       リーダーの名は伊達ではない。リーダーは、真相までは分からずとも村正の本質を見抜いた。
       デジメンタルで進化したクラリネともども、ゴキモンの中で警戒度が跳ね上がる。
       
       進化した体でどう出るか?
       村正は敵味方双方の状況を見比べ、何かを確かめるつもりでクラリネに向かってこう言った。
        
      「おい、猫。俺乗せて飛べるか」
       
       村正からの唐突な申し出に驚き、クラリネは村正を二度見する。
       
      「ごめんわかんない! まだ飛んだことないから!」
      「そりゃそうか。じゃあ適当に飛んでろ。続きはそれから考える」
      「にゃご……うん、分かった!」
       
       クラリネは仮面の下で少し困った素振りを見せたが、しかしすぐに迷いを振り切り頷いた。
       ばさり、と純白の翼をはばたかせる。クラリネの四肢が地面を離れ、彼女は宙へ浮かんだ。
       
      「すごーい! わたし、飛んでる!」
       
       過疎地とはいえ、近代化した日本の駅前には不釣り合いな神秘の光景。
       誰よりもクラリネ自身が彼女の新たな力に目を輝かせていて、ゴキモンの事も忘れて彼女は空を舞う楽しさに夢中になった。
       やがて高度は周囲の建物を超え、単なるジャンプでは届かない高度に到達する。
        
      「そうだろう。空を飛ぶのは楽しいだろう。なんたって、俺達ゴキモンブラザーズも空を飛ぶのは大好きさ!」
       
       そう。ゴキブリのデジモンならば、空を飛べない方が不自然。ゴキモン達もまた、クラリネに追随するようにドクロマーク付きの翅を震わせ空を飛んだ。
       ビッグサイズのゴキブリ総勢20体が生み出す羽音で、選ばれし子ども達に過去一番の鳥肌が立った。
       
      「わあ! そっか、みんなも飛べるんだ」
       
       クラリネははっと、自分が今戦っている事を思い出した。
       自身の後を追って飛ぶゴキモンを躱そうと、試しに旋回してみる。
       景色がぐるりと巡り感動したが、旋回自体は成功してもゴキモンはついて来る事に気付いていよいよ焦り始める。
       
      「どうしよ。えっとえっと、カースオブクイーン!」
       
       クラリネは慌てて覚えたての新技を放つ。
       デジコアに刻まれた手順に従い力を解放すると、額から赤色のビームが発射された。
        
      「おっと危ねえ!」
       
       しかし、ゴキモンは空中でも変わらぬ身軽さを発揮しビームを躱す。
       当たらなかったビームはどうなったのかというと、そのまま真っ直ぐ進み続けて、のんびり観戦中の羅々の隣に着弾。地面に直径30cmほどの穴を開けた。
       
      「マジですの?」
       
       誰もが驚く羅々に構ってはいられない。
       こうしている間にも、空中戦は進行しているのだ。
        
      「ロゼッタストーン!」
       
       今度はなんと、古代の文字が書かれた石板が発射される。よく学校の校庭等に置かれている記念碑と同程度の大きさ、つまりかなり大きめの石板だ。
       予想外の飛来物に慄くもゴキモンは難なく躱し、やはり羅々の真隣に落下して地面に穴を開けた。
       
      「だからマジですの?」
       
       羅々はともかく、地面に穴を開けるほどの威力そのものはゴキモン達には無視できない。
       
      「兄貴、あれ当たったら死なない?」
      「ゴキモンの紙装甲をこれほど恨んだ日は無いぜ……ならば取る作戦は一つ!」
       
       ゴキモンリーダーは目の前を飛び続けるクラリネに向かってビシィと指さした。
       
      「先にテイル……じゃなくてネフェルティモンの嬢ちゃんを倒す! 嬢ちゃんはどうも新しい姿に慣れてねえようだ。空中戦なら俺らに分がある。嬢ちゃんを絶対地面に下ろすなよ!」
      「オッス!」
       
       何となくクラリネを追うだけだったゴキモンの群れに、一つの指向性が生まれる。クラリネが地面に下りられないよう、囲い込みを始めたのだ。
       ここまで長く空中戦を強いられるとは思わなかったクラリネは困惑、混乱し、動きが鈍り始める。 
         
      「あれ、ちょっとまずくね陽っち?」
      「(陽っち?)はい、このままだとゴキモンの狙いが全部クラリネさんに集中して……」
       
       愛一好は睨むように、陽は恐れるように空を見上げる。
       
      「しかも村正は飛べないから……」
      「クラリネちゃんが~、一人でゴキモンと戦わないと~」 
       
       タツキもマチも、クラリネの身と勝敗の行方を案じている。
       しかし、羅々率いるザミエールモンの見識は異なるようだ。
       
      「敵は二匹いるというのに片方を放置するとは。作戦か? わざとか?」
      「集中攻撃のつもりなのかしら?」
      「獲物を自由に泳がせる狩りを楽しめるのは、狩人側が圧倒的有利な時だけなのにね」
      (な、なんでそんなにボロクソに言うんですの?)
       
       そして、村正の見識もザミエールモンと同じ。
        
      「雑魚虫が。飛んだ程度で俺に勝てるかよ」
       
       この勝負、村正の勝ち、だ。
       
      「おい猫! 一旦こっち向かって降りてこい!」
       
       村正がクラリネに向かって叫ぶも、クラリネは首を横に振る。
       
      「ムリだよ! 下に行こうとすると、回り込まれちゃうの!」
      「体当たりすりゃ突破できんだろ! 相手が多すぎる? あーもーしょーがねえなあ!」
       
       村正は兜の下に手を突っ込み、頭をガリガリ掻きながら別の手を考える。村正を乗せて飛ぶのもダメなら、降りて戻って来るのもダメ。ならばどうするか。
       
      「じゃあ、さっきの石、連射できるか! 何回も続けて出せるかって聞いてんだ!」
      「やればできると思う!」
      「よし! 虫どもに当てようとしなくていいから、俺がいる方に撃て!」
       
       それを聞いて身構えたのは、ゴキモンの方だ。
       
      「なんだってぇ!? 古今東西、『俺に向かって撃て』は勝利の布石と決まってんだ。お前ら二手に分かれるぞ!」
       
       一斉にクラリネを追いかけていたゴキモンの群れが、それぞれ約10体ずつに分裂する。
       
      「半分は坊主を止めに行け! もう半分は俺と一緒に嬢ちゃんを捕まえるぞ!」
      「ラジャー!」
       
       軍団の片割れは一斉に踵を返し、村正がいる方へと向かっていく。半減したとは言え、数の差は1対10と圧倒的。村正自身が挙げた「数の差」は克服できていない。
       
      「ラッキー」
       
       しかし村正は表情一つ変えなかった。
       ただ「幸運だ」と呟いて、ゴキモンの襲来を待ち構えている。
       一方、クラリネはというと。
       
      「きゃー! ロゼッタストーン! いっぱい発射!」
       
       迫りくるゴキモンから必死に逃げながら、村正の指示だけは果たせるよう何発か石版を放つ。
       しかし、苦し紛れの攻撃は当然ゴキモンを狙えるほどの精度は無く、村正の指示通りに彼へ向かって飛ばせた石版は放った内のたった1、2個だ。
       
      「捕まえたぜ嬢ちゃん!」
       
       遂にゴキモンリーダーがクラリネに追いついた。
       手足に叩き落とされないように、かつクラリネのはばたきを阻害できるように背中側から彼女にしがみつこうとする。
       クラリネは大きくなった体躯と何より自身の翼が仇となり、ゴキモンを視界に捉えきれず反応が遅れてしまった。
       
      「終わったな」
       
       と呆れて言ったのは、地上で見守っているジェストだ。
       そして場面は再び村正視点へ戻る。
       
      「あの下手くそにビーム撃たせて誤射でもされたら世話ねえよ。そもそもだな。確かに『俺だけの』目標なら当然、全軍撃破だがよ」
       
       今まで無表情を貫いていた村正が、ぎろりと天を睨んだ。その先にはクラリネに追いつきそうなゴキモンリーダーがいる。
       
      「『俺ら』で勝つんなら、全軍撃破なんてムダな事してる余裕なんざねえよ」
       
       集団の先頭を飛ぶゴキモンが村正に肉薄する。互いの間合いに入る距離、どちらが一手繰り出すのが先か――というタイミングで、村正の姿が消えた。正確には、ゴキモンの視界から外れてどこかへ移動した。
       行先はゴキモンの完全なる死角。ゴキモンの頭上である。
       
      「ほげっ」
       
       ゴキモンから短い悲鳴が漏れた。
       村正はゴキモンが接近するタイミングを見計らい、ゴキモンの頭上を目掛けて跳躍。ゴキモンに飛び乗るばかりか勢いを殺さぬよう踏み台にして、更に天高く跳び上がったのだ。
       次に目指す先は列の二番目のゴキモン。
       
      「ぐえっ」
       
       二番目のゴキモンを踏み越えたら、次は三番目のゴキモン。
       
      「ふぐ!」
       
       目の覚めるような大立ち回りを一息に、否、一息に決めなければいけないからこその大立ち回り。村正は次から次へとゴキモンに飛び乗っていく。
       ゴキモンは横並びに同じ速さで飛んでいる訳ではない。個々の速さに応じて群れは自然と縦長になる。ゴキモンを踏み台に跳び上がり続ける事で、村正は天へと駆け上ろうとしているのだ。
       
      「義経だ! 壇ノ浦の八艘跳びだ!」
       
       愛一好が叫んだ。今の村正の動きは正に、八艘の舟に飛び移る義経が如し。  
       人間の武士が出来るならば、デジモンの武士が出来ない道理はなく。進化により向上した身体能力を全力で発揮し、包囲網からの脱出を敢行する。
       
      「ふぎっ」
       
       10体目の頭を踏み超えた。しかし、未だ道半ば。クラリネを追う集団には届かない。
       そこへ飛んで来たのが、先ほどクラリネが苦し紛れに飛ばしたロゼッタストーン。ガシャリと具足を鳴らしてロゼッタストーンへ飛び乗り、更に上空へ向かって跳んだ。
       そして、遂に集団の最後尾に肉薄。そこから再びゴキモンの階段を駆け上がる。
       
      「マジかい」
       
       ゴキモンリーダーの口が自然に武者震いと同類の薄ら笑いを浮かべる。
       そして気付けば村正とゴキモンリーダーの視点は同じ高さに――村正は踏み台を駆使した跳躍のみで、空を飛ぶゴキモンリーダーに追いついた。
       リーダーがクラリネを捕まえるのが先か。村正がリーダーに手を出すのが先か。どちらでもいい。村正の目的はゴキモンリーダーを掴んで地面に引きずり下ろす事だ。
       結果として、村正がリーダーの腕を一本掴むのが早かった。ゴキモンの翅では鎧武者の重さを支えられず、二人は共に地面に向かって落下した。
       
      「村正ーっ!」
       
       息をもつかせぬ快進撃に子ども達の目が追いついたのは、村正とゴキモンが地面に到達した瞬間だ。
       落下の衝撃で巻き起こった土煙が晴れ、その先にあった光景に注目が注がれる。
         
       やっと決まった戦闘の行く末、タツキは早まる鼓動を感じながら恐る恐る確かめる。
       二人は落下の後も生きていて――村正の刀「白鳥丸」の光る刀身が、ゴキモンリーダーの首元に添えられていた。
       
      「お前ら、群れで生きるデジモンだよな。じゃあ、リーダーの首が取れれば全員に勝ったも同然だよな?」
      「……見直したぜ、坊や。いや、ムシャモン!」
       
       ゴキモンは抵抗する事なく、四本ある手を上に掲げた。
       リーダーに倣い、19体全てのゴキモンは全員手を上げる。
       
      「そして、俺達が落ちたら先回りしてクッションになりに来てくれたネフェルティモン」
      「だって、そうしないと二人とも死んじゃうじゃん!」
       
       落下地点にいたのは村正、ゴキモンリーダーの二人だけではなく――上空にいた筈のクラリネを含めた三人。
          
       村正とリーダーが落下を始めた直後だ。
       クラリネは二人が飛べずに落ちていると気がつくと、すぐに行動を開始した。
       この日一番のスピードで地面に向かってはばたき、「相手が多すぎるから突破できない」と言っていたゴキモンの包囲網を力づくで突っ切り、墜落予想地点に先回りして二人を受け止めたのだ。
       
      「デジタルワールドは弱肉強食だ。だが、あえて敵をも助けたという事は、強者の余裕がある証……。俺達ゴキモンブラザーズは、強者であるお前らに従い、エモい車は諦めよう」
        
       こうして総勢100体のゴキモンは、全軍降伏した。
       
       選ばれし子ども達の勝利である。
       
      「あー、ちょっと待て。一つ訂正させろ」
      「えっ、この流れで何かあるのか?」
       
       格好つけて降伏宣言したつもりが村正に水を差され、ゴキモンリーダーは困惑する。
       
      「俺は村正。こいつはクラリネって個体名があんだよ。これからは坊ちゃんでもコテモンでもムシャモンでもなくて、こう呼べ」
         

       
      「初任務は無事終了ですわ! 我が後輩、よく頑張りましたわね~!!」
       
       羅々は選ばれし子ども達を泣きながら労う。一番の立役者である村正は「泣くほどの事じゃねえだろ」と少し引いていた。
       
      「身体的ダメージを負ったのは、落下する方々を受け止めたクラリネさん(と、愛一好さんに蹴られたゴキモン)だけですわね。すぐに救護班を手配しますわ!」
       
       言うが早いか、羅々は手続きのためにビュンと走ってその場を離れた。実に忙しないお嬢様である。
       羅々がいなくなってしまったので、今度は子ども達自身が口々に村正とクラリネを褒め称え始めた。
       
      「クラリネちゃん~。初めての進化なのに沢山頑張ってえらかったね~。最後に二人を助けたのもえらい、えらすぎるよ~」
      「にゃ~ん。ごろにゃ~」
      「同じライオンのデジモンとして、尊敬します! あれ、スフィンクスはライオンですよね……?」
       
       クラリネの名付け親であるマチは、これでもかとクラリネを撫で回す。
       クラリネはまだネフェルティモンのままだが、猫そのものの仕草で腹を上に向けて寝転がり、撫でられる喜びを表現している。銀の仮面のせいで分からないが、仮面の下では満面の笑みを浮かべている。
       
      「村正! お前本当にすげえよ……!」
       
       村正には当然、パートナーであるタツキが真っ先に声を掛けた。
       
      「単に強いだけじゃない。状況から勝ち筋を見つけて、クラリネにも的確な指示を出して作戦を成功させるなんて、お前が持ってる戦いの経験値があってこそだよ」 
      「あの雑な作戦か? ありゃゴキモンが手加減してたから成功したんだ。結局あいつら、技の一つも使わなかったじゃねえか」
      「でもでも、流石に八艘跳びもといゴキモン跳びは流石に連中驚いてたじゃん?」
      「普段の俺ならあんな真似せんでも、斧投げてブチ当てて終わってたよ!」
       
       何を言っても村正からはぶっきらぼうな謙遜しか返って来ず、タツキと愛一好は顔を合わせて苦笑した。
        
      「逆に今回、僕たちは何もできなかったです。お二人だけに頑張ってもらって、不甲斐ない……」
      「うさの必殺闇兎真拳(と書いてルナクローと読みます)も不発だったし、不覚!」
      「だったらわたしも! わたしの攻撃は一回も当たってないよ!」
       
       にわかに反省ムードが漂い始めると、羅々がビュンと戻って来て……。
       
      「チーム戦なんだから誰かが勝ちゃあいいんですのよ! 次頑張れば良いんですわ!」
       
       と言い残して再びビュンと走り去った。
       
      「……ちゃん羅々もああ言ってるし、チームの勝利でいいじゃん? おめでとうタイム続行しようぜ?」
      「おめうさ!」
       
       そして再開される祝福ムード。
       今にも村正の胴上げが始まりそうで、当の本人は非常に居心地が悪そうだ。
         
      「なんだこれ、居づれぇー……。おい猫、ちょっといいか」
      「んにゃん?」
       
       村正はむず痒い空間から逃げ出すように、クラリネを連れて選ばれし子ども達から少し距離を取った。
       子ども達の「なんだあいつ」と言いたげな視線も気にならなくなる程度に離れたところで、村正の方から話を切り出す。
         
      「鎧で跳んでみて分かった。こりゃ俺乗せて飛ぶの無理だわ」
      「んにゃご!? ……んにゃご!?」
       
       クラリネの言わんとしている事は「最初に言ったのそっちじゃん」だ。
       
      「そんな訳で、今後俺からは俺を乗せて飛ぶよう提案はしません。俺を受け止めようとすんのもやめろ。そのせいで今回一番ダメージ受けてんのお前じゃねえか」
      「んにゃ……。ごめんね。わたしも無茶しちゃった」
       
       村正の助けになるかもしれなかったのに断ってしまった作戦。村正を助けるために行った動き。
       どちらも村正の助けになるばかりか彼に無用な心配を与えてしまったと、クラリネは落ち込んでしまい俯いた。
       俯いた拍子に仮面が地面に落ちて、村正は「うおびっくりした」と後退る。
       仮面の下のクラリネの顔は人間に近い造形をしていて、彼女の「哀」の感情をはっきりと表していた。
       
      「でもまー、人間くらいなら乗せて飛べんじゃねーの」
      「!」
       
       クラリネは「はっ」と顔を上げた。目はうっすら涙が浮かんでいたのもあり、きらりと輝いている。
       逆に村正はクラリネから顔ごと目を反らしており、クラリネから村正の表情を直視する事はできない。
        
      「人間連中は足場遅えし飛べねえし、確実にお前が必要なんじゃねえの?」
      「うん……うん!」
      「石もビームも数撃ちゃ当たんだろ。俺には飛び道具がねえし」
      「うん! うん!」
      「あー斧があればなー! 俺も百発百中の投擲斧の使い手なんだけどなー!」
      「……しつこい!」
       
       クラリネのネフェルティモン版ネコパンチが炸裂する。
       デジメンタルの加護かは分からないがパワーアップしたネコパンチの威力は成長目覚ましく、同じく成熟期の村正の顎にも大変よく効いた。
       
      ◇◇◇
        
       家の固定電話からよく知る番号に電話をかける。
       電話はすぐに繋がり、剣崎勇夜の声が聞こえてくる。
       タツキは手短に要件を告げた。
        
      「という訳で来週の予定なくなったから」
      「おん? そうか」
       
       電話の向こうの声は、どこか嬉しそうに空いた予定に何を詰め込むか、こちらに聞いてきた。
       
       今回はたまたま予定が空いたが、今後もデジモン絡みで彼とすれ違う日が続くかもしれない。
       ……そうだ。決めた。今度会う時にデジモンの話をしてみよう。
       
      「振り回した詫びに面白い話用意しとくからさ、楽しみにしとけよな」
       
       剣崎なら、デジモンの存在を知っても受け止められるに違いない。
       新しい友だちと友だち、仲良くなれるといいな。子どものような無邪気な喜びを、久々に感じていた。

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    • #4029
      羽化石羽化石
      参加者
        1.  バカ長えですわ〜!!!(前中後編に分ける文量を一度に投稿したからです)

         

        皆様ごきげんよう。タイストにコテモンもムシャモンも実装されてご機嫌の羽化石です。

         

        長年、主人公なのに村正くんをサイハカやソシャゲで再現できない事が悩みだった私でしたが、この度見事再現できるようになりました。

         

        個人サイトでトラウォをもう少し先まで読んでくださっている方はご存知かと思いますが、村正くんは完全体が鬼門です。もう書いてるこっちが困ってるレベルで鬼門です。

         

        そしてこれは私しか知らない事ですが(10年も書いてるのに!?)、究極体も高めのハードルがあります。

         

        是非とも村正くん進化ルート再現をやってみたいものです。

         

         

        さて、いい加減本編について書きます。

        以前サロンの方で投稿した際、ご感想で「もう村正の過去が開示されるの!?」と書いてくださった方がいらっしゃいました。

         

        そうです。開示されちゃうんです。

        そして、これからのトラウォ(というか村正を巡る物語)は、村正が前世のような力をどうやって取り戻して行くかが軸となります。

        今回のようにタツキ&クラリネとの交流を経てだったり、強敵と戦ったり、エトセトラエトセトラ……。

        見た目は子ども、中身はツンデレのおっさん村正くんをこれからも是非応援してあげてください。

         

        ちなみにトラウォはありとあらゆる場面でツンデレのおっさんお兄さんのデジモンが出てきます。覚悟してください。

         

         

        次回は魔王チーム(摩莉チーム)サイドのお話です。公式へのリスペクト・パロディノルマを一度に消化しようというすさまじい回です。

        果たしてタイスト発売までに投稿できるのでしょうか!?

         

         

        ごめんなさい。本当はこのあと4.5話があります。

        お楽しみにね!!

        #4030

         あの一族が出てきてしまったぞォーッ!
         財閥はGHQによって解体させられたはずではとなる数多の創作世界において、世間に名を馳せる者どもと言えばやはり同族経営の多角的コンサルタント。それはそうと登場回で流れ弾で死にかける羅々様。実は長い解説と表面上の尊大な態度に村正とクラリネが二人揃って肉しみを抱いていた可能性がある。
         時折地の文にまで浸食してくる羅々様。己のHPまで宣伝してくる大した女なのでした。こういう三次元世界の要素も絡めてくる演出、Fateのサーヴァント能力画面やひぐらしのTipsを思い出させてニヤリ。それはそうと我が知識が正しければザミエールモンって究極体ではなくry
         
         明かされる村正の過去はまさかのボルトモン。Vテイマー01に登場して数ページで真っ二つにされた時、謎に「自分が究極体であることに誇りを持っている」という謎のあまりにも噛ませくさいキャラ付けが為されていましたが、性格としてはそちらがモチーフでしたでしょうか。それはそうとマチに間近で開眼されたの危うく石化しそうだったぜ。
         転生前を思えば、身のこなしは見事でありながらも剣技は大したことないとされてきた描写も、得物が大振りの斧から竹刀に変わったが故であったか。そういえばコテモン⇒ムシャモンは生前の進化ルートとは違った流れを辿っているのでしょうか。
         漢字は可愛いが響きは物騒な愛一好(メイス=尖った棍)ちゃんは、敢えて(?)空気を読めなさを発揮しつつ皆思って皆言えないことをハッキリ言える有能。それはそうと文章中に不意に名前が出てくると、本能が「アイース?」と読んでしまうのは内緒だ! おのれ覇気使い幼女、次は五段を買うといい。
         
         ギリギリまで頑張ってギリギリまで踏ん張ったタツキ達にギリギリで蹴散らされるべくわざと力を絞っていた説のあるゴキモン軍団でしたが、ムシャモンとアーマー進化ネフェルティモンの前に惜敗。義経の八艘飛びと称されましたが、恐らく髭の配管工宜しく8匹以上踏み台にしているので村正の残機が最低1upはしていると思われます。
         最後、清々しく終わりましたが途中でタツキが村正にまだ自分の本心全てを明かせていないとされていたのが後々にネックとなりそうな危険を感じなくもないのでした。

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