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トピック
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プロローグ 後編
デジタルワールドの辺境は最早地獄と化していた。
他のエリアで出会ったどのデジモン達とも違う異質な者達が既に戦えなくなっているデジモンを更に痛めつけて嬲るという光景が彼方此方で起こっている。
不気味な嗤い声や悲鳴がひっきりなしに聞こえてきた。「~~っ!!なん、だよコレっ!」
「なんて酷いことを…っ!あたし、許せない!」
「──うっ、」
「ユエっ!大丈夫か、顔色が悪い…」
「…だいじょぶ…ごめんね、トウヤ…」
透弥に支えられながらふらつく身体を懸命に奮い立たせる優烏。
地獄絵図としか言いようの無い光景に涙が溢れた。
辺境だって元々は平和だった筈。
その平和を壊し残虐な行為を繰り返す者達に嫌悪感しかない。「奴らはきっとオメガモンが言っていた襲撃者の仲間だ」
「おう、こんなマネしやがんのは性根の腐ったヤツらしか居ねぇ!ぶっ飛ばしてやるぜ」
「みんな!行きましょう!託された想いを此処で果たすのよ!」
「うんっ!みんなで力を合わせて…っ!!」
雅斗達はお互いを見つめ合うと表情を引き締めて頷き合う。
そして、ポケットからデジヴァイスを取り出した。「「「「Dアプリ:超進化!発動っ!!」」」」
雅斗達はデジヴァイスのDアプリをタップして起動する。
そして、デジヴァイスから眩い光が放たれアグモン達四体の身体を包み込む。『アグモン、進化──』『ライズグレイモン』
『ガオモン、進化──』『マッハガオガモン』
『フローラモン、進化──』『リリモン』
『パタモン、進化──』『ホーリーエンジェモン』
光の中から現れた四体の完全体デジモン。
頼もしく成長した雅斗達のパートナーの姿だった。デジブラッドとデジゲノムの共鳴。
人間とデジモンの絆とも言えるその力は彼らに新たな可能性を与えてくれる。
降り注がんと迫り来る災厄を打ち砕く為に必要な力を──。「うぉぉぉっ!トライデントリボルバーッ!!」「いっけぇえええええ!ライズグレイモン!」
「ハウリングキャノン!!」「マッハガオガモン、其処だーっ!」
「フラウカノンーッ!」「リリモン、お願いっ!」
「ヘブンズゲートッ!」「負けないで!ホーリーエンジェモンっ!」
それぞれが技を放ちながら戦場に飛び込んでいく。
あの日、オメガモンに協力したいと申し出たことを四人は微塵も後悔していなかった。
寧ろ断っていた方が罪悪感で後悔したに違いないと今は思う。残虐な行為を繰り返す謎のデジモン達を蹴散らしていく。
この世界とデジモン達を護る為に雅斗達は力を合わせて戦い続ける。「ケラケラケラ、ケラケラ♪」
「~~っ、嗤うなーッ!絶対許さないんだから!」
嘲笑うようにヒラリヒラリと攻撃を躱す敵。
優烏とホーリーエンジェモンは何とか激昂しないように必死に堪えた。
唇をギリッとキツく噛み締め、手も爪が食い込むほど握り締める。周囲を見渡せば雅斗達も似たような状況だった。
敵の暴挙に憤りを隠しきれなかった。
すると、『──オヤァ?クスクス、遂ニ来タノデスネェ?』
「「「「───っ!?」」」」
その時、今まで聞いたこともないような声がした。
全てを嘲り笑うような声色。警戒態勢のまま雅斗達が振り返れば其処には不気味な緑の双眸が怪しい光を放っているデジモンが居た。
禍々しさを放つ大きな爪のある手に上半身とは不釣り合いな細さの下肢。
此方を見据えるそのデジモンの表情は愉悦に浸り、狂気に満ちて歪んでいる。
それは旅立つ前にオメガモンから聞いていたイグドラシルへの襲撃者と全ての特徴が一致する。「──っ!テ、テメェがあの襲撃者…っ!!」
「この世界の神様を殺したデジモン…!」
「アハハッ、イイ!イイデスネェ、ソノ目ツキ!壊シ甲斐ガアルト言ウモノデスヨォ」
「んなっ!何処まで僕達をバカにすれば!」
「コイツ…!許せない!!此処まで人を食ったような態度もだけど本当に腹が立つわ!」
襲撃者の態度に雅斗達は怒りを露わにする。
だが怒りを見せる雅斗達を見て襲撃者は益々歪んだ笑みを浮かべた。「フフ、フフフ!ワタクシハディアボロモント申シマス。
サァサァ、子供達?無意味ナ旅ハ此処デ終ワリデスヨォ…?」「っ、テメェ!俺達を侮辱しやがって…!ナメんなよ!」
「マサト!オレ達、準備は出来てるぜ!」
「此奴を倒してデジタルワールドを救いましょう!トウヤ!」
「ああ…!絶対に負けない…!ディアボロモンは僕達が必ず倒すんだ!!」
雅斗達はお互いに頷き合って全員でディアボロモンに戦いを挑む。
この世界をディアボロモンの脅威から救う為に。聖域から辺境へ旅立ってから四人はデジタルワールドの様々な物を自分達の目で見て来た。
そして、感じ取った。住む世界や姿形は違えどもデジモン達と自分達人間は同じなのだ。
他者を思いやり慈しむ、愛情深い心を彼らもまた持っている。けれど、それでも──。
相対するこのディアボロモンとだけは決して相容れない存在であると雅斗達は確信している。
欲望のままに自分以外の存在を踏みにじり、そして苦しむ姿を見て嘲笑う。野放しにしていてはいけない。
そう強く心の中で思った。「おぉぉぉっ!ウィニングナックル!!」
「いくぜ!ソリッドストライク!」
「アハハハッ!遅イ、遅イデスヨォ?」
ライズグレイモンとマッハガオガモンの怒涛の連携攻撃を幼子をあやすようにディアボロモンは躱してみせる。
躱し切った瞬間を狙い、ホーリーエンジェモンとリリモンが迫る。「エクスキャリバーッ!」
「食らいなさい!フラウカノン~ッ!!」
聖剣による斬撃とエネルギー弾が目前に迫るがディアボロモンの表情は遭遇った時から変わっていない。
ニヤニヤと不気味な笑みを湛えたままだったのである。『ページファルト』
ディアボロモンがぐるりと身体を丸めたかと思った瞬間、猛烈な勢いで回転しながらホーリーエンジェモン達の方へと突進して来た。
フラウカノンのエネルギー弾が着弾してもその勢いは止まらない。
聖剣の刃が背中側の突起にぶつかるが元々のパワーと突進力で上回るディアボロモンに押され、リリモンを巻き込みながら弾き飛ばされてしまう。「──がはっ!」「きゃああああっ!」
「ホーリーエンジェモンっ!」「いやぁぁっ!リリモン、リリモンっ!!」
優烏と莉子は痛めつけられるパートナーの姿に悲鳴を上げた。
立ち上がろうとするホーリーエンジェモン達にトドメを刺そうと迫るディアボロモンの前にライズグレイモンとマッハガオガモンが立ちはだかる。「俺達を忘れんじゃねぇっ!勝負だ!!」
「まだ、まだだ…!決して諦めたりするものか!」
「ああ、マサト…!オレ達の全力を──!」
「今此処で全てぶつけましょう、トウヤ!」
「──オヤオヤァ?クスクス、物分カリノ悪イ子ハ嫌ワレチャイマスヨォ?」
雅斗達の姿を見てディアボロモンはクスクスと嗤う。
爛々と不気味に緑の双眸を輝かせたかと思えば、恐るべき速度でライズグレイモン達の間合いを取った。「んなっ?!」
「イイデスカァ?勝負トハ同等ノ力ノ相手トスルモノデスヨ?
コノヨウニ力ノ差ガ有リ過ギル場合ハ勝負トハ言ワナイノデェス…!」ディアボロモンは巨大な手でライズグレイモンの肩をガッシリと掴んだ。
掴まれたライズグレイモンは逃れようとするが相手の押さえつける力が強過ぎて身動きが取れない。ディアボロモンの胸部が発射口のような形に変わる。
胸部に煌々と光が集まり、フラウカノンのエネルギー弾とは比べ物にならないサイズのエネルギー弾が至近距離から放たれる。『カタストロフィーカノン』
「ぐわぁぁぁぁっ!」
「ライズグレイモン!!」
破壊エネルギー弾を諸に受けたライズグレイモンはそのまま力無く落下していく。
ライズグレイモンを受け止めようとするマッハガオガモンの前に今度はディアボロモンが立ちはだかった。「アハハ、今度ハワタクシノ番デス。サァ、同ジヨウニシテアゲマショウネ…ッ!!」
「──っ!?しま…っ!」
『ケーブルクラッシャー』
伸ばされたディアボロモンの腕がマッハガオガモンを容赦なく切り裂く。
切り裂かれたマッハガオガモンもボロボロの状態で地面に落下した。「そん、な…ライズグレイモン…?」
「なんて…なんて強さなんだ…、マッハガオガモン…っ」
ディアボロモンの攻撃でライズグレイモン達の受けたダメージは大きい。
全員がもう限界だった。「サァサァ、人間ノ子供達?今度コソコノ無意味ナ旅ハ此処デ終ワリデス…。
大丈夫デスヨォ?全員仲良ク始末シテアゲマショウネ」「くそ、ちくしょう…っ!こんな、こんなヤツなんかに…!!」
「私達…負ける為に此処まで来たんじゃないのに…っ!
負けたくない…!負けたくないよ…っ」ディアボロモンの禍々しく鋭い爪が雅斗と優烏に迫る。
人間の子供では躱すことなど不可能だった。透弥と莉子は目の前の惨劇から目を背ける。
雅斗達が殺される姿など目にすることも嫌だった。時間にしてほんの数十秒ほどだろうか。
ディアボロモンの攻撃がどちらかに当たっていてもおかしくはない。
しかし、ドスッと言う鈍い音がした後は何時まで経っても悲鳴も聞こえなければ血の臭いもしなかった。恐る恐る透弥と莉子は目を開けて雅斗達の方へ視線を向ける。
すると其処には予想もしていなかった光景が広がっていた──。「一体何ノツモリデスカ…!ロイヤルナイツゥ!!」
「──ぐ、は…っ!嗚呼…、コレは…本当にキツいね…。
こんなのを我が主が喰らっていたとはね…本当にナイツとして僕も不甲斐なさで憤死しそうだよ…ッ!」「あ、ああ…ああああっ!」
「アルフォースブイドラモン!!」
雅斗達とディアボロモンの間に割って入り、迫る凶爪から二人を庇ったのはアルフォースブイドラモンであった。
禍々しい爪は彼の胸元から背中側まで串刺し状態にしている。
しかし、ディアボロモンがどんなに腕を動かしてもアルフォースブイドラモンの身体から爪は抜けなかった。
アルフォースブイドラモンはがっしりと相手の腕を掴み、命懸けでディアボロモンを押さえつけていたのである。「クッ!離セェ!」
「──よく…よく頑張ったね、子供達…。
その上で僕は君達に問おう、ヤツの強さを間近で見てどうだった…?」暴れるディアボロモンを制したままアルフォースブイドラモンは言う。
その表情は騎士としての威厳に満ちていた。「私達…負けちゃった…、でも…このまま負けなんて…嫌、嫌だよ…!諦めたくないっ!」
「オメガモンが僕達を選んでくれたことを間違いになんかしたくない、したくないんだ…っ!」
「このままで終わりたくないわ…!みんなで力を合わせて此処まで辿り着いたんだもん…!」
「アイツの思い通りになんてさせて堪るかよ…!
どんなに辛くても苦しくても、弱くて現実に打ちのめされたとしても…!」「「「「今此処で諦めたら本当の意味でディアボロモンに負ける、そんなのは絶対に嫌だっ!!」」」」
心までディアボロモンに屈するのは、心まで負けてしまうのは嫌だった。
せめて心でだけはディアボロモンに勝ちたい。
あんな非道な行いをする相手にこの世界を好きにされるのはもう嫌だ。
その想いが四人の折れかけた闘志に再び炎を灯す。四人の強い想いに呼応するようにデジヴァイスが眩い光を放ち始めた。
(ほんのひと月ほどの旅だったのに…本当に見違えたよ…。オメガモン、この子達は間違いなくこの世界の希望そのものだ──)
霞む視界の向こうに力強い輝きを放つ四つの光が見える。
暗闇に飲まれかけたこのデジタルワールドを照らす希望の光。「──そうだよ、希望は目には見えないけれど何時だって頑張っている者の一番近くにある。
そう、希望は君達の心の中に在る…君達自身が僕達の、いいやデジタルワールドで生きる全てのデジモンの希望だよ…」アルフォースブイドラモンはそう言って満足げに微笑む。
テイマーとして完全に覚醒した四人の様子をしっかりと見届けてアルフォースブイドラモンは命を落とした。ディアボロモンは理解出来なかった。
まただ、またこの感覚だ。
イグドラシルを殺した時もそうだった。
あの神の矜持を最後まで自分は穢せなかった。
詰っても辱めても最期までイグドラシルは折れなかった。
あの時見たモノと同じ輝きを心に宿す四人が真っ直ぐに自分を見ている。
曇りのない澄んだ瞳で自分を見つめてきている。嗚呼、なんて───
「──アァアアアアアアアアーーーー!!不愉快デスネェ、本当ニ!アノ神モ、オ前達モ!!」
「──ちっ!それはこっちのセリフだぁっ!!」
「アルフォースブイドラモンが、命を懸けて作ってくれたこの機会を…絶対に無駄にしたりなんかしないよ!」
「ディアボロモン…!今度こそあたし達が倒してみせるんだから…っ!」
「僕達全員の心の中に灯る希望の炎は、お前如きに決して消せはしない!!」
「生意気ナ…ッ!デハ、オ望ミ通リニ消シ去ッテアゲマショウ!!」
ディアボロモンは恐ろしい形相になって雅斗達に迫る。
迫り来るディアボロモンを見ても雅斗達に恐怖は無い、何処までも心は凪いでいる。雅斗は優烏と、透弥は莉子とそれぞれが手を繋いだ。
手のひらを通して伝わる掛け替えのないお互いの温もりが更なる勇気を与えてくれる。
その勇気が遥かな高みへと至らせる力を生むのだ。
究極をも超える遥かな高みへと──。「ライズグレイモン!」「ホーリーエンジェモン!」
「マッハガオガモン!」「リリモン!」
四人が自分のパートナーを呼ぶ。
呼ばれたライズグレイモン達は自分のテイマーの側に静かに寄り添った。《ディアボロモンとの戦いに、勝利という名の決着を──》
勝利を願う”誰か”の声が聞こえた気がした。
雅斗達はデジヴァイスを頭上に掲げる。
放たれる光は更に力強く、輝きを増していく。
それまでで一番強い輝きが雅斗達の身体を包み込んだ。『『『『マトリックス、エボリューション!!』』』』
「グガァッ!?ナ、ナンデスカ…!コノ、忌々シイ光ハ!!」
強烈な光に阻まれてディアボロモンは呻き声を上げた。
この光は知っている、この輝きの意味を知っている。これは祈りであり希望だ、邪悪を祓う希望の光。
四人の子供達とそのパートナーデジモンに出会ったデジモン達全員が彼らの勝利を疑うことなく信じている。
彼らがデジタルワールドを危機から救うのだと確信している。「巫山戯ルナァアアアアアアア!!クソガキ共ガァ、少シ手加減ヲスレバ調子ニ乗ッテ!!」
ディアボロモンの全てを見下す口調が崩れた。
ずっと余裕ぶっていた態度のディアボロモンがこれまでに蓄積し限界を超えた不快感で我を見失っている。
幼子のようにひたすら暴れ回っては手当たり次第に周囲を破壊していく。暴れるだけ暴れ回った後、フッと息をついたその刹那。
『──決着、つけようぜ?ディアボロモンよぉ…』
「───ナ、ニ……?」
ディアボロモンがゆっくりと振り返る、ザワザワと胸騒ぎがした。
この光の向こうには自分にとって都合の悪いモノが居る。
そう確信したディアボロモンは光に向かってカタストロフィーカノンをこれでもかと連射した。
周囲に爆煙が立ち込めるとディアボロモンは己の勝利を確信する。
ニタリと不気味な笑みを浮かべ、あの子供達とパートナーデジモン達は跡形もなく消し飛んだと思った。
だが、爆煙が晴れても光は何事もなかったように其処に存在している。
ディアボロモンの双眸が驚愕に見開かれた。そして、
《究極進化》
『シャイングレイモン:バーストモード』
『セラフィモン:セイヴァーモード』
『ミラージュガオガモン:バーストモード』
『ロゼモン:バーストモード』
光の中から更なる進化を遂げた子供達のパートナー達が現れた。
究極体であることに間違いは無いが彼らの進化はただの究極体ではなかったのだ。現代のデジタルワールドでは既に神話や伝承の中でしか語られることのない力。
究極体を超える奇跡の力、神話ではソレをバーストモードと呼ぶ。「コ、レハ…!何故ダ、アリ得ナイ!ソンナ筈ハナイノデス!
神話ノ中ノ力ダト!?巫山戯ルナァ!!」「いいや、巫山戯てなんかない。巫山戯ているのはお前の方だ」
「そうだ、私達はデジタルワールドのみんなから希望を託されて此処に来たんだ」
「テイマーの力を、想いを…今までで一番強く近くに感じる」
「そうよ、これがテイマーと想いを重ねる究極の進化…マトリックスエボリューション。
ディアボロモン、アナタ如きには永遠に理解することの出来ない強さよ…っ!」それぞれのパートナーと一体化し、共に戦えるようになった雅斗達。
今まで以上に強く絆が結ばれたように感じる。『あったかい…セラフィモンの想いと、力が…流れ込んでくる…』
『アルフォースブイドラモン…見ててくれ、俺達の戦いを──』
『ディアボロモン…これが正真正銘、最後の戦いだ…っ!!』
『あたし達は決して負けないわ!一人じゃない、みんなが居る!!』
「クソガキ共ガァッ!!消エロォ!!!」
忌々しそうな声でディアボロモンは叫ぶ。
そして、ぐぐっと身体を震わせるとディアボロモンは全く同じ姿で分裂した。
一気に100体以上にその数を増やし、ディアボロモンはニタリと不気味に笑う。「アハハハッ!ワタクシ一体ニ手間取ッテイル皆サンニハ絶望ガピッタリデェス♪
サァ!泣キ叫ベ!失意ニ塗レテ死ヌガイイ!!」ディアボロモンはシャイングレイモン達を取り囲んだ上で全方位からカタストロフィーカノンを雨のように放つ。
降り注ぐ破壊のエネルギー弾がシャイングレイモン達に炸裂する。
土色の爆煙が周囲に広がった。「サァテ、漸ク片付キ『誰が片付いた、だと?』
勝利を確信した瞬間、背後から届く声にディアボロモンは戦慄した。
怒気を滲ませ凄まじい圧力でディアボロモンへと迫るのはシャイングレイモン。
唖然とするディアボロモンに向かって強烈な回し蹴りを喰らわせる。「グガァッ!?」
シャイングレイモンの強烈な回し蹴りを諸に喰らったディアボロモンはそのままゴロゴロと転がっていく。
その間に傍らからはミラージュガオガモンとロゼモンが飛び出し、それぞれが技を放った。「フルムーンメテオインパクト!」
「ティファレト!!」
究極体を上回る力で放たれた攻撃で分裂体のディアボロモンを次々と消滅させていく。
セラフィモンは空中を舞い、ミラージュガオガモン達の攻撃から逃れた分裂体に攻撃を加える。「メギドエクレール!」
天空を覆い尽くす雷雨から数多の稲妻が降り注ぐ。
それはディアボロモン達が放ったカタストロフィーカノンの威力を遥かに凌駕していた。「バ、バカナ…!ソンナ筈ハナイ!アレハワタクシノ能力ヲ完全ニ模倣シタモノ!
コンナ簡単ニヤラレルナド!!」100体以上に分裂していたディアボロモンはセラフィモン達によって一掃された。
残っているのはただ一体。
全ての元凶であるオリジナルのディアボロモンだけだ。「幾ら数を増やそうが無駄だ」
「そう、お前にもう次などは無い!」
「終わりだ、覚悟しろディアボロモン…ッ!」
「デジモン達が受けた痛みを、今度はそっちが味わいなさい!」
シャイングレイモン達はこの惨劇を終わらせる為に有りっ丈の力を込めて必殺技を同時に放った。
「ファイナルシャイニングバーストッ!!」
「ファイナルミラージュバースト!」
「アギシャンレーヴル」
「ジャッジメントシュトラール!」
放たれた攻撃は一つに重なり、回避不能な一撃に変わった。
シャイングレイモン達の中で雅斗達も声の限りに叫ぶ。『いっけぇえええええ!!』
『届けぇええええええ!!』
『私達は!!』
『絶対に負けない!!』
ディアボロモンにシャイングレイモン達の合体技が炸裂した。
凄まじい熱量と圧倒的な威力にディアボロモンの肉体にはビキビキと亀裂が入っていく。
角はへし折られ、頭部には一際大きなヒビが浮かぶ。「ガッ、ガァァァァァッ!オ、ノレェ!オノレ、オノレ、オノレェエエエエエエ!!
忌々シイ人間ノクソガキ共メェエエエエエエエ!!!」断末魔の叫び声を上げ、ディアボロモンは爆散した。
跡形もなくディアボロモンは消え去り、辺りには静寂が戻った──。「──勝った、のか…俺達…」
究極進化が解除され、元に戻った雅斗達。
ディアボロモンが居た場所を茫然とした表情で見つめる。
凄まじい強さだった、間違いなく強敵だったディアボロモン。そのディアボロモンを全員で力を合わせて打ち砕いたのだ。
「~~っ、アルフォースブイドラモン…っ」
「──ユエ…」
優烏は自分達を庇って命を落としたアルフォースブイドラモンのことを想い、ポロポロと涙を流す。
彼が時間を稼ぎ、究極進化へ至る為の助言を残してくれていなければこの結果にはならなかっただろう。勝利の為に支払った代償はあまりにも大きかった。
その事実は雅斗達の心に暗い影を落とす。すると、
『無事か!子供達っ!!』『辺境の戦況が動いたってぇ!?』
「──っ!オメガモン…っ!」
「ガンクゥモン…っ、ぐすっ」
上空に転移魔法陣が現れ、その中からオメガモンとガンクゥモンが降り立ってきた。
雅斗達の無事を確認し、ホッと息をつくが何処か様子のおかしい彼らにオメガモンは首を傾げた。「君達への援軍にアルフォースブイドラモンが辺境に向かったんだ、彼は何処に…?」
「~~っ!うぅ…っ、わぁぁんっ!」
「ごめん…、オメガモン…。アルフォースブイドラモンは…」
「彼…彼は…僕達の為に…」
「あたし達が…もっと早く究極進化の力を得られていたらっ!」
「───そうか、彼が……」
悲嘆に暮れる雅斗達の様子を見てオメガモンはアルフォースブイドラモンが彼らを護って戦死したことを察した。
落ち込む雅斗達を黙って見ていたガンクゥモンはどすどすと歩み寄ると四人の背中をバシバシと叩いていく。「い”っ!?」
「きゃっ!」
「ぐはっ」
「いったーい!もう、いきなり何するのよ!」
「お前らァ!!ウジウジ辛気くせぇ面してんじゃねぇっ!!」
四人の文句よりも大きな声でガンクゥモンは言う。
大声に驚いて固まる雅斗達を余所にガンクゥモンは続ける。「良いか、お前ら!彼奴はな、アルフォースブイドラモンは誉れの高いロイヤルナイツの一員だ!
常に騎士としての誇りを胸にロイヤルナイツの名に恥じない行動を続けてんだよ!
そんな彼奴がお前らを護って死んだ、だから何だ!
それはアルフォースブイドラモンが己の騎士としての誇りに従ったまでのこと!
それをこのままウジウジメソメソしやがるんってんなら、それは彼奴の誇りへの冒涜以外の何モンでもねぇ!
同胞の誇りをこれ以上無碍に扱うってんなら儂が許さんぞ!!」「「「「───ッ!!」」」」
ガンクゥモンの厳しい言葉に四人の目に浮かんでいた涙が止まる。
グッと強く唇を噛み締めて雅斗達は俯いた。
まだ14歳の子供である彼らに対して厳しすぎるのではと感じたオメガモンは仲裁しようと言葉を口にしかけるが──。「だがなァ、お前らの悲しい気持ちもよぉーく儂には分かる。
ありがとよ…アルフォースブイドラモンの死を心から悼んでくれてな…。
命懸けで護ったお前らがヤツを──ディアボロモンを倒してくれたんだ…今頃彼奴も安心してるぜ」そう言ってガンクゥモンはガシガシと一人ずつ雅斗達の頭を撫でた。
止まっていた涙がジワジワと両目から溢れ出す。「──あ、ああ…ああ…っ!」
「儂とオメガモンがちゃーんと聖域に連れ帰ってやるからよ、今は泣きたいだけ泣いとけ。
悲しい時に泣くのは子供の仕事だ、わっはっはっ!」「お前さっきは泣くなって言ってただろう…、なんて理不尽な…」
言うことが若干支離滅裂なガンクゥモンにオメガモンは冷静に突っ込む。
ガンクゥモンの言葉に涙腺が緩んだ四人がワァワァと泣きじゃくる姿を見て彼らの心に深い傷を残すよりはと考え、手分けをして全員を抱き上げる。そして、先ほど自分達が通ってきた転移魔法陣へ向かい辺境から一気に聖域へと飛んだ。
「──漸く落ち着いたようだネェ?ん、偉い偉い」
「辺境での報告はオメガモン様達から聞いたわ、あなた達本当によく頑張ったわよ」
「ブラン、みなさんをそんけーします!ほんとうにおつかれさまでしたっ!」
疲労も蓄積している筈だから報告は後にして今は身体を休めるようにと客間に通された雅斗達。
其処にはシスタモン達が待機していてシエルとノワールが四人をぎゅうっと抱き締めてくれた。ガンクゥモンから辺境での戦いの結末を聞いたのだろう。
それでも多くを口にせず、いっぱいいっぱいの四人の心にそっと寄り添ってくれるシスタモン達には感謝しきれない。
シエルとノワールの包み込むような優しさもブランの無邪気な明るさもディアボロモンとの戦いで疲弊し、荒んでいた雅斗達の心を少しずつ癒やしてくれた。「あのね、みんな。ボク、言わなきゃいけないことがあるの」
翌日。
朝食を食べ終えた後、突然パタモンは真剣な表情になってそう言った。「パタモン…?ど、どうしたの…?」
「──ホントは出会った頃に言えれば良かったんだけど…、みんなと居るのが楽しくてなかなか言い出せなかったんだ…」
「何の、話だよ…?いつもの調子と違うじゃねーか」
「ボクがパートナーデジモンに選ばれた本当の理由。
コレが最後だからちゃんと話させて、みんな」「パタモン…?」
パタモンの真剣な眼差しに優烏は一抹の不安を覚える。
そして、パタモンの口から語られた理由を聞いて四人とアグモン達は絶句するのだった。初めてデジタルワールドに来た時に通された謁見の間。
あの時とは違う想いで雅斗達は扉を開けた。室内にはオメガモンやガンクゥモン、クレニアムモンなどと言ったロイヤルナイツのメンバーが揃っていた。
そして、中央部には人の腰ほどの高さの台座と台座の上にはキラキラと光る水晶玉が置かれている。「辺境でのディアボロモンとの戦い、大儀であった子供達──」
「あ、あの…貴方は…?」
「私はスレイプモン、今回の戦いでは北部辺境の戦地を此方のデュークモンと共に担当していた騎士だ」
「お前達には本当に大変な役目を押し付けてしまったな…。
そして、心からの感謝を…。お前達のおかげでこのデジタルワールドには平和が戻るのだから…」真紅の鎧が印象的な騎士スレイプモンと炎のような赤いマントを羽織った騎士デュークモンが前に出て来る。
それぞれが雅斗達に対してディアボロモンを倒したことへの感謝を口にする。「今日、この謁見の間に集まって貰った理由については子供達も既にパタモンから聞いているな?」
「は、はい…。最初に聞いた時は驚いてしまってすぐには内容を飲み込めなくて…」
優烏は腕に抱いているパタモンをギュッと抱き締めた。
パタモンを抱き締める優烏の手は微かに震えている。「──この子は我らの主・イグドラシルの後継機になりうる可能性を秘めた子だ。
パタモンには今日、イグドラシルの遺したプログラムと融合し新しい神になって貰う」「──っ、はい…」
「ごめんね、ユエ…。でも、ボク…神様になっても絶対にユエのこと忘れないから…っ!」
「パタモン…っ!私も、あなたが私のパートナーで本当に良かったよ…」
「ボクもだよ、ユエ…。ボクのテイマーがユエで良かった、ユエに出会えてボクは凄く幸せだったよ」
お互いに最後の別れを伝えあう優烏とパタモン。
その様子を雅斗達は静かに見守っている。
莉子に至っては今にも泣きそうになっていた。「ありがとう…、ユエ…」
「うん…、私こそありがとう…パタモンっ!」
優烏の元を離れてパタモンは台座の前に降り立った。
そして、台座の側に控えていたオメガモンに対してコクリと頷いてみせる。「──是よりプログラムを起動する。
パタモンよ、あとは起動と同時に浮かび上がる高位プログラム言語に従うように」「分かった、ありがとうオメガモン。お願い」
パタモンがそう言うとオメガモンの青い双眸がキラリと光った。
その瞬間、台座の上の水晶玉が眩い光を放ち始めた。
水晶玉から溢れる光は柱の形になって真っ直ぐに上へ立ち上っている。
周囲には文字のようにも見える模様が浮かび上がった。「──っ!?」
「どうした、パタモン?プログラムは起動している、あとはお前が…『ボク…読めない…なんで、どうして…?』
「何っ!?」
パタモンの口から発せられた言葉に謁見の間に居た全員が驚愕した。
イグドラシルの後継機となる為に必要なプログラムと融合する為には神の言葉である高位プログラム言語を読めることが絶対条件だ。
その高位プログラム言語を読むことが出来ない。
それは神の後継機になる資格をパタモンが有していないと言うことを示している。しかし、今のデジタルワールドにはパタモン以外に資質があるデジモンは居ない。
デジタルワールドに幾つか存在する勢力でもロイヤルナイツに匹敵する力を持つ者達は少ない。
その中でも《三大天使》と言う勢力はロイヤルナイツや七大魔王と並べられるほどだ。
その長であるセラフィモンから直接託されたデジタマから生まれたのがこのパタモンだ。
器としての強度に彼は一切問題がない筈にも関わらず、何故なのか──。ロイヤルナイツも高位プログラム言語を読むことは出来るが後継機を生むこの特殊なプログラムに限り例外で後継機になる存在以外には決して読むことは出来ないのだ。
「どうして!なんで!?ボクは何の為に…っ!!」
『あ、あの…っ!』
嘆くパタモンの声が響く中におずおずと控えめな声がする。
この場の全員の視線が声の主・優烏に集まる。「ユエ…?」
「あ、の…!ご、ごめんなさい…っ!私…私…、その光ってる文字読めるみたいなんです…」
「────は?」
「なん、だと──!?」
優烏の告白に一同が騒然とした。
当然である、デジモンではなく人間が──それもまだ14歳で大人の庇護下にあるべき少女が。
パタモンに至っては表情が無い、優烏の告白にどんな感情を抱いているのか全く読めないほど真っ白になっていた。「ど、どうして読めちゃったのかはごめんなさい!分からないんです!
でも…パタモンが凄く必死だから…その、私が読めればパタモンは…『違う、そうではない。そうではないのだ、少女よ…』必死に弁明を繰り返す優烏に対して静かに首を横に振ってオメガモンは言う。
此処まで来れば嫌でも分かってしまう。
候補として選んでいたパタモンが選ばれなかった今──。
次代の神となるのは目の前に居るこの人間の少女なのだから。『我と同じままではダメだ…、第二第三のヤツが現れても対処出来るようにしなければ──』
死の間際、プログラムを作るその最中にイグドラシルはそう言っていた。
それを間近で見ていたオメガモンはあの時のイグドラシルの言葉に込められた真の意味を理解する。広い視点で見ればイグドラシルもまたデジタルワールドに由来する存在。
神と言う高位次元生命体とは言え、根本となる由来は自分達と変わらない。
同じままではダメだと言うことはデジタルワールド由来のモノでは後継機になり得ないと言うことだ。
つまりデジタルワールドに属しているデジモンであるパタモンは最初から後継機になり得なかったのである。
デジタルワールドに属していない人間の少女である優烏を除いて──。オメガモンが少しばかり言いにくそうに口ごもりながらも優烏に事実を伝えようとすればスッとそれを制する手と影が見える。
いつの間にかオメガモンの前にはクレニアムモンが立っていた。
最初にデジタルワールドへ召喚された時、自分達がまだ子供だと不安視していた騎士だ。クレニアムモンはオメガモンを制していた手を下ろすと徐に優烏に近付いて来た。
そのまま優烏の目の前に立つとクレニアムモンは謁見の間の床に両膝をついて深々と頭を下げる。
人間界の日本に例えるなら土下座のような格好だ。
彼がどうして此処まで頭を下げるのか分からず優烏は混乱する。「えっ!?ちょ、ちょっと待って下さい!クレニアムモン…!?何をして──!」
「人間の少女──いいや、星野優烏よ…残念だがパタモンは選ばれなかった側だった」
「止せ!もういい!此処からは私が話す!クレニアムモンっ!!」
オメガモンはクレニアムモンが自ら泥を被ろうとしていることに気付いた。
残ったロイヤルナイツの内、自分やガンクゥモンは彼らに対して共に行動した縁で少なからず情がある。
それを理解した上でクレニアムモンはオメガモンに代わってそれを伝えようとしているのだ。
これから向けられるであろう彼らの怒りの矛先を全て自分だけに集中させる為に。
自らが憎まれ役になる為にクレニアムモンは淡々と静かな声色で告げた。『二つの世界の為に君が神になってくれないか。
どうか世界の為に──死んでくれ、人間から新たな神になる為に』「───え、?」
クレニアムモンの懇願に優烏は言葉を失う。
一字一句、クレニアムモンの言葉を優烏は反芻している。
言葉の意味を理解すると優烏の表情から血の気が引いて真っ青になっていく。「ふ、巫山戯んな!ユエに死ねってどういう意味だよ!?」
「待ってくれ!神になるというのはつまり自分の命を代償にするってことなのか!?」
「ウ、ソ…!ウソよ、ウソウソ!クレニアムモン、お願いだから笑えない冗談はやめてっ!」
『冗談ではない、真実だ』
「「「───っ!!!」」」
クレニアムモンの冷静な声色に雅斗達は絶句した。
彼が嘘や冗談を積極的に口にするタイプではないことはデジタルワールドを旅した雅斗達も知っている。
巫山戯るデュナスモンやガンクゥモンを相手に苦言を口にするくらいなのだから。そんな彼が冗談や嘘であっても軽々しく死んでくれと口にする筈が無い。
彼は本気で世界の為に優烏に死んでくれと言ったのだ。「──あ、ああ…わた、し…わたしは…」
「ユエ…!ダメ…ダメだっ!そんなの絶対認めないっ!ボクは君に、人間として幸せに…っ!!」
更に血の気が引いて真っ白になってしまった優烏。
ガクガクと震える身体を自分で抱き締める。
恐怖で震えが止まらない。怖い、怖い、怖い。
クレニアムモンの死んでくれと言う言葉が堪らなく怖かった。
視界の端にジワリと涙が滲む。「星野優烏…、本当に残酷なことを言っていることは分かっている。
だが、デジタルワールドが滅びれば人間界にも大きな影響が出るのは間違いない…」「───っ!そん、な…」
「次元の壁によって隔てられているとは言え、人間界とデジタルワールドは隣り合っている。
この世界の崩壊による余波は人間界において各地で記録的な異常気象に自然災害が頻発すると言う形で齎されるだろうと言うのがドゥフトモンの見解だ」「あ、あの…あの…わ、たし…」
「ユエっ!いい!そんな話聞くな!」
雅斗が必死に叫ぶがその声は優烏の耳には届かない。
優烏の脳裏に人間界に残っている大切な家族や学校で仲のいい友達の姿が浮かぶ。
デジタルワールドに来たのは本当に突然で彼らには自分達が無事だと伝える連絡も出来ていない。家族も友達も居なくなった自分達をきっと心配している。
何か事件や事故に巻き込まれたりしていないか心配で不安に押し潰されそうな日々を過ごしているかもしれない。(お父さん…お母さん…お兄ちゃん…みんな──、)
そんな彼らもデジタルワールドの崩壊の余波に巻き込まれれば今以上に苦労をするのだ。
世界中で災害や異常気象の所為で物資が不足になるかもしれない、そうなれば物資を奪い合って争うようになる可能性もある。
そしてデジモン達はデジタルワールドの滅亡でみんな死んでしまう。そう思うと優烏は自分だけが楽な方に行く訳にはいかないと震える身体に力を入れて懸命に前を見た。
クレニアムモンを真っ直ぐに見つめる。「──お聞きしたいことがあります…」
「何かな…?」
「みん、なは──マサト達は無事に元の世界へ戻して貰えるんですか…?」
「──ああ、勿論だ。約束しよう、星野優烏。
彼らは我々ロイヤルナイツが責任を持って必ず無事に人間界へと送ろう」「~~っ!!ダメだ!僕達と一緒に君も!」
「お願いユエ!やめてぇ!!」
透弥と莉子が叫ぶが優烏はただ痛みを堪えた笑みを浮かべるだけだ。
そんな優烏を雅斗は茫然自失の状態で見つめている。「───クレニアムモン…」
(どうか、お願い私に──)
未だにその”覚悟”が持てない弱い私に──。
貴方がトドメを刺して欲しい。情けも容赦も何もない残酷なその言葉の刃で。
『改めてもう一度言おう、星野優烏よ。
デジタルワールドと人間界…二つの世界を護るその為に──死んでくれ、新たな神になる為に』「───はい…」
今にも泣き出しそうな表情になりながらも優烏は頷いた。
新たな神になることを受け入れた優烏に雅斗達は衝撃で茫然としていたがハッと正気に戻ると彼女に駆け寄ろうとした。
しかし、それを阻む三つの影。「~~っ!!離してくれ、シエル!」
「ノワール、退いてくれないか!」
「お願いだから邪魔しないで、ブランっ!!」
シエルとノワールは雅斗と透弥を背後から羽交い締めするようにブランは正面から莉子に抱きついて必死に三人を止めている。
「アンタ達っ、止しな!あの子が必死に決めた覚悟を踏みにじる気かい!?」
「俺達はユエを失いたくないだけだっ!」
「それはあたし達だってそう!出来るなら四人全員無事に送り帰してあげたかった…っ!!」
「それなら、どうして止めるんだ!」
「──もう、もう詰んでるんだよっ!!神を…イグドラシルを、ディアボロモンに殺されたその時に…っ!
デジタルワールドの者達だけではもうどうすることも出来ない…打つ手が何も、無い──」シエルの血を吐くような叫びに雅斗達の動きが止まる。
自分達を止めるシスタモン達をよく見れば彼女達は皆大粒の涙を流していた。
雅斗は震えながら優烏を見る。優烏は振り返らず真っ直ぐに光の柱を見つめていた。
「ユエ…」
雅斗はもう一度、優烏の名前を呼ぶ。
その声に優烏はほんの少しだけ三人に視線を向けた。彼らの懇願するような視線に優烏は困ったようにくしゃりと表情を歪ませた後、彼らに見えるように小さく手を降った。
“───さようなら、みんな”
声にならない別れの言葉を心の中で呟いた優烏は真っ直ぐに光の柱へ歩いていく。
“ちゃんと、告白したかったな…。マサト、大好きだったよ…”
振り向かずに歩き続ける優烏の瞳からは一筋の涙が零れ落ちていた。
そして、引き止める三人を残して優烏はたった一人で柱の中へと消えていった。『~~っ、ダメだ!ユエ~~っ!!』
「──!? 止せ、パタモン!お前があの光の中に入れば異物として分解されてしまうぞ!?」
止めようとするオメガモンを振り切ってパタモンも優烏を追って光の中へ入っていく。
謁見の間全体が柱から放たれる眩い光で満たされていく──。真っ白な光で満たされる空間の中をパタモンは必死に探していた。
自分にとって一番大切な存在、大好きなテイマーの姿を。(ユエ…ユエ…何処?何処に居るの…?)
光の中を進む度に少しずつパタモンの姿が変わっていく。
成長期から成熟期、其処から更に進めば完全体へ。今居る場所からもっと奥を目指そうとすれば究極体の姿に変わった。
セラフィモンの姿で奥を目指して飛んでいると目の前に一際強い輝きを放ち続ける光の球体がある。
そして、その中からセラフィモンは微かだが確かに感じ取った。
優烏の気配がこの球体の中に在る──、そう確信するとセラフィモンは躊躇いなく手を伸ばした。
だが、『ぐぅ…っ!!こ、れは──』
触れようと伸ばされたセラフィモンの手をレーザーのような光が容赦なく焼いた。
直前にオメガモンが言っていた異物を分解する防衛システムの類だろうとセラフィモンは考える。
この程度で優烏を諦める訳にはいかないとセラフィモンは全身に強烈な光線を浴びながら近付いていく。
近付けば近付いた分だけセラフィモンの身体を焼く光線の威力も熱さも上がっていった。“ユ、エ…。だい、じょうぶだよ…わたしが…かな、らず…きみを───”
光に焼かれ分解されながらもセラフィモンは言う。
ボロボロになった手が球体に触れたその瞬間、セラフィモンの身体は光の粒子に変わった──。『──自分よりも大切な者の為に、か…。強い想いだな…』
“だ、れ──?”
分解され実体を失ったセラフィモン──パタモンに不思議な声が届いた。
目を開くと言う感覚すら分からなくなり、パタモンは自分が目を開けているのか閉じているのかさえ分からない。
光の粒子状態のパタモンの前に漆黒の鎧を纏った騎士が姿を現した。“あ、なたは…だれ…?”
『オレの名はアルファモン、ロイヤルナイツの抑止力とも呼ばれる騎士だ』
“抑止力の、騎士……”
『役割を終え、眠りについていたオレは──あの方の死による揺らぎで目覚めた。
だが、復活の為に必要な力が足りずにこうなるまで干渉することも出来ずにいた。
本当にすまなかった…』パタモンの粒子がこれ以上崩れ落ちないようにそっと持ち上げるアルファモン。
そして、パタモンを見つめながらアルファモンは静かに言葉を紡いだ。『己が消えるかもしれない中で大切なモノを優先した勇気あるお前に一つ、提案がある』
“てい、あん…?”
『…パタモン、お前が望む願いをオレには叶えてやることは出来ないが…神になる彼女の側に居られる方法はある』
“そん、な…!ユエは…ユエはこのまま神様になっちゃうの…!?”
『…既にプログラムは完全にあの少女と融合した。
人間としての彼女は死を迎え、イグドラシルと同じ高位次元生命体へと昇華される。
あとは不要となる人間だった頃の記憶や一部の感情の消去が終われば新しい神が生まれる──』アルファモンから明かされる事実にパタモンは絶句する。
優烏の中から記憶が消される。
話として聞かされるだけでもパタモンにはショックだった。“ぜん、ぶ…全部消えちゃうの…!?そんなの…そんなのってないよ…っ!”
悲痛な声を上げるパタモンをアルファモンは静かに見つめている。
絶望するパタモンにアルファモンはこう告げた。『──お前が忘れなければいいだろう、パタモン』
“え…っ?”
『パートナーのお前が彼女の代わりに忘れないでいればいい。
寧ろ、それがお前のすべきことだろう?』“したいよっ!したい、けど…。
で、でも…ボクは…もう殆ど分解してて…”『お前に覚悟があるのなら、元の次元に戻る術ならあるぞ?』
“──っ!ほん、とうに…?”
アルファモンの言葉にパタモンは強く反応を示した。
この空間から元居た所へ戻れる方法があるのなら知りたい。
アルファモンが言うように優烏の代わりに自分が全てを覚えていればいいとパタモンは思えるようになった。『パタモン、お前にはロイヤルナイツになる覚悟はあるか?』
“ロ、ロイヤルナイツ!?な、なんで……”
『神の側に控えることを許されているのは神に仕える我々ロイヤルナイツのみ。
それは覆ることはない絶対の決まりだ』“でも、ボクは天使型にしか進化出来ないよ?ロイヤルナイツは聖騎士にしかなれないじゃないか…”
パタモンがそう言うと真っ直ぐに自分を見つめるアルファモンと目が合った。
青と赤の視線が交わる───。『お前がロイヤルナイツになる方法はただ一つ、このオレ──アルファモンと融合することだ』
“んな…っ!?ゆ、融合だって…?”
『そうだ、お前は実体が無く…オレは復活に必要な力が足りない。
お互いに利害は一致している、そう悪い話ではないだろう?』アルファモンからの驚きの提案にパタモンは驚きを隠せない。
融合を提案されるなどパタモンには想定外である。『お前が彼女と過ごして得た経験も記憶も全て引き継がれる。
オレとお前でロイヤルナイツの新しいアルファモンとなり、神になったあの少女をずっと護り続けることがお前にとっても最善だろう?』“ボク…ボクが…抑止力の騎士に…”
『お前の覚悟を、今此処でオレに示せ』
アルファモンはそう言ってパタモンを見る。
パタモンの答えはもうとっくに決まっていた──。“なるよ、騎士に…。ボク、貴方と融合する…”
『──良い覚悟だ、共に今度こそ大切なものを護ろう…』
眩い光がアルファモンとパタモンを飲み込んだ。
パタモンが変化した光の粒子はアルファモンの身体に集まり、彼の中へ吸収されていった。
温かく柔らかな光が全身を包み込み、別々のデジモンだった彼らが新たな抑止力の騎士として再構築されていく。
全く新しいロイヤルナイツのアルファモンが今此処に誕生した──。『ボクだけは絶対に忘れない、忘れちゃいけない。本当のキミが何処にでも居る普通の、優しい女の子だったって…。
キミが全てを忘れてもボクは───”オレ”は覚えているから…。
側に居るよ、ずっと側に。この世界の為に全てを犠牲にしてくれたキミを、独りになんかしたりしない』一筋の涙を零しながら”アルファモン”は呟く。
彼の目の前にはあの光の球体。花が咲くように目の前で徐々に綻んでいくのをアルファモンはジッと見つめている。
『───、』
長い銀色の髪と輝く光の羽を靡かせ、光の中から生まれ落ちた”彼女”にアルファモンは恭しく跪いた。
何処かぼんやりとしていた黄金の瞳が跪くアルファモンの姿を捉える。『お迎えにあがりました、我が主よ』
『──貴方が、私の騎士…なのですね?』
『はい。オレはアルファモン、貴女を護る貴女の騎士です』
『まあ…、なんて頼もしい騎士なのでしょう…。私はまだまだ未熟な身…。
どうかよく指導をして下さいね…?私の騎士…アルファモン…』『お任せ下さい、我が主───』
“新たなる女神《ホメオスタシス》よ──”
この日、デジタルワールドにイグドラシルの遺志を継ぐ新たな女神が誕生した。
女神の名はホメオスタシス。新しい女神の誕生に暗闇に覆われていたデジタルワールドに希望の光が灯る──。
溢れた光は雨となり、デジタルワールド全土を照らすように降り注いだ。ホメオスタシスの管理の下、傷付いたデジタルワールドは復興への歩みを進めることになる。
デジモンクレイドル プロローグ 後編
【喪われし神と女神の覚醒】“嗚呼…、本当ニ厄介デスネェ…人間ト言ウノハ…”
デジタルワールドから遥か遠く離れた彼方にある次元の狭間の更に奥。
サッカーボール二つ分ほどの大きさのナニカがふわふわと漂っているのが見えた。
するとナニカからギョロリと不気味な緑色の双眸が現れる。それはシャイングレイモン達四体の合体技を諸に受けて掻き消された筈のディアボロモンであった。
どうやらシャイングレイモン達の攻撃の余波で此処まで飛ばされてきたらしくディアボロモンの肉体は大半が消し飛んでおり角が折れた頭部しか残っていないようだ。
しかし、頭部だけの状態になってもなお生き延びているディアボロモンの生命力の強さには得体の知れない恐怖を感じる。
他のデジモン達と同じようにデジゲノムで構成された生物のディアボロモン。
このデジモンの得体の知れなさと悍ましさはデジタルワールドの歴史上決して忘れられることは無いだろう。“嗚呼、人間…人間ノテイマー…コレホドノ力ヲデジモンニ与エルコトガ出来ルトハ…”
ディアボロモンには分かっていた、想定をしていたのだ。
イグドラシルに庇われたロイヤルナイツの生き残りが人間界に干渉し、テイマーになり得る者をデジタルワールドへ呼び寄せることなど。
だが想定こそしていたものの、それによってデジモン側が得た力の恩恵が自分の予想を遥かに上回っていたことがディアボロモンにとっての想定外だったのだ。“本当ニ…本当ニ…アト一歩ダッタンデスガネェ…。デジブラッド、デシタカ…アレヲドウニカシナクテハイケマセンネェ…”
緑の双眸を爛々と妖しく輝かせてディアボロモンは不気味に嗤った。
こうして敗れはしてもディアボロモンは己の野望を少しも諦めてはいなかったのである。
悲願の達成までほんの少し時間が伸びただけ、それがディアボロモンの認識だった。秩序の崩壊が今ではなくなっただけ、世界を覆い尽くす災厄が降り注ぐタイミングが今ではないだけ。
この程度のことで自分達が立ち止まることなど絶対に有りはしないのだから。“アハハハハッ、ドウカ束ノ間ノ平穏ヲジックリト楽シンデ下サイネ?
──次ハコノ程度デハ済ミマセンヨォ?”ホメオスタシスというイグドラシルの遺志を受け継ぐ新たな女神の誕生で希望に満たされるデジタルワールドを見つめながら狂気の笑みを浮かべるディアボロモン。
この戦いがほんの序章に過ぎなかったのだと言うことを今はまだ誰も知らない。To Be Continued.
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