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トピック
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ユウキ達一行が、ハヅキの特製饅頭ボンバーによって倒れ伏した頃。
ロイヤルナイツが一騎、獣騎士ドゥフトモン(けもののすがた)は発芽の町の中に入っていた。
ユウキ達に樹海の道案内をして別れてからのこと、ドゥフトモンはまだ調べ終わっていなかった場所も含めて調査を済ませると、即座に『ギルド』の本拠地であるこの町を目指して駆け出したのだ。
最初はレッサーにも告げた通り、物流のパイプラインを調べて辿るつもりだったのだが、ユウキとトールがドゥフトモンと出会う切っ掛け――というか高高度から落ちる羽目になった洞窟での一件などを聞いていたことから、ある程度の移動ルートの絞り込みが出来たのだ。(彼等のニオイも多少なり残ってたし、辿ること自体は簡単だったんだけど……)
道さえ解れば、辿り着くのに時間は要さなかった。
洞窟関連は上空を経由することで普通にスルー、その先の森についてはスピードを出しても問題にならない程度には道が開けていたし、辿り着くまでは簡単だった。
辿り着くまで、は。
ドゥフトモンは遠い目で、少し前の時間を振り返る。――このような真夜中に、何奴じゃお主は。
ユウキ達のニオイを辿り、夜中の森をある程度進んだ頃のことだ。
突如として老練の気配を感じさせる声が響いた直後、目の前に濃霧が発生し、ドゥフトモンの視界を塞いでしまったのだ。
唐突極まる自然現象、森の中での濃霧――ドゥフトモンには心当たりがあった。
これは、完全体植物型デジモンの一体であるジュレイモンの能力。
レッサーが言っていた、発芽の町の長老が自分にコンタクトを取ってきたのだと、ドゥフトモンは即座に判断した。――私の姿は見えている、のか?
――ロイヤルナイツ、獣騎士ドゥフトモンか。レッサーの事を知っておるという事は、既に会っているということじゃな。町へのルートも聞いた、と?
――いや、教えてもらったのは町とそこにある『ギルド』という民間組織の存在だけで、道順自体は縁あってユウキとトールのニオイを辿らせていただいただけだ。私が勝手に見つけただけで、彼等は町の座標までは漏らしていない。
――なるほど。流石は獣騎士というだけあって、鼻が利くのじゃな。その能力自体は素直に褒められる所なのじゃが……。
――……何か、問題が?
――うむ。最初から疑ってかかるというのは好ましくないと、わし自身も思うんじゃがな。町とそこに住まう子供たちを護る立場として、懸念しなければならぬ事が少しある。
――懸念がひとつ。真夜中に、わざわざ戦闘特化の形態で、世界の秩序を担い、時に善悪構わず粛清を行う最高位の一騎がわざわざ町に来る理由。
――…………。
――懸念が二つ。レッサーから町と組織の存在を教えられ、ユウキとトールの二名のニオイを辿ってきたとお主は言うが、まずその前提からして偶然か否か。何か思惑があり、良からぬ方法で聞き出して来たのではないか。
――……懸念すべきことだとは思うが、随分と信用されていないな。そういう反応の方が余程怪しく見えるぞ。
――懸念が三つ。わしの知る限り、ロイヤルナイツはイグドラシルの命令に従って動くデジモン達であるはず。個々それぞれに正義の違いこそあれ、その点については共通しておるはずじゃ。仮にイグドラシルが『秩序のためだ、ぶっ殺せ』とでも命令しているのならば、この場に来た理由などお察しというもの。
――……そんなことは、流石に……というか全然少しじゃないし偏見がすごいんだが。
――総じて言って間が悪い。すぐに信じて町に迎え入れろと言われてもわしは信じられんし、かと言って本当に粛清目的でないただの客であるだけという可能性もある以上、ただ邪険に追い払うだけというのも違うじゃろう。
故に、と。
老練の声が相槌を打った直後、ドゥフトモンは自身の目の前に強い気配を目の前に感じた。
いつの間にか、誰かが霧に紛れて近づいて来ている。
木と、金属と、火薬のニオイ。
複数のニオイが混ざり合ったその存在に気が付いて、思わず凝視して、そうして彼は霧の中より目撃した。
木製の四肢と火器を備えた鎚を持つ、そのデジモンを。――……ピノッキモン……もしかして長老か?
――いかにも、今に至るまでお主と霧を介して喋っていた当人じゃよ。そして、これからお主が戦う相手でもある。
一瞬。
本当に一瞬、ドゥフトモンは何を言われたのかのかが解らなかった。
聞き間違いか、と思いながら発芽の町の長老である――ジュレイモンから進化した姿と思わしき――ピノッキモンの挙措を見ると、携えた重火器付きのハンマーを構え、今まさに突っ込んで来そうになっているのが見えて。
ドゥフトモンはなりふり構わず、静止の声を上げていた。――……は、い!? ちょちょちょちょ、待って!?
――なんじゃその気の抜けた反応は。究極体に至った身の上、若造というわけでもあるまいに。落ち着きがないのう。最近のロイヤルナイツとはこういうモンなのかのう。
――い、いやその……こほん。何で僕と戦う必要が? 信じられないならそれはそれで、後で依頼が終わった後のユウキ達に直接説明してもらえばいいから、接触はここまでにして退こうと考えていたんだが……。
――ふむ。その言葉も含め、どこまで信じるべきか怪しい所での。大前提として、お主が本当にロイヤルナイツのドゥフトモンであるかどうか、という時点で既に怪しいのじゃし……一度やりあってしまった方が手っ取り早く確信を得られると思うんじゃよ。
――いくら何でも信用が無さすぎて泣きそうなんだけど!! ロイヤルナイツの名前って知らない間にデジタルハザード並みの厄災の象徴にでもなったの!? 何よりそんなにロイヤルナイツらしくないかなぁ僕!?
――その心の脆さで聖騎士は無理があるじゃろ。仮に演技であれば大したものじゃが、仮にそれが素であるならば尚更怪しい。まるで成長期か成熟期のデジモンのような……子供に近い心持ちではないか。
――……そ、そんなことは……。
――故に、確かめる必要がある。何、本当に聖騎士であれば簡単なことじゃよ。無理難題を押し付ける気は無い。
――わしはお主を殺す気でやる。が、そちらはわしを殺しに来るな。
――……なるほど、これ以上は無い潔白の証明方法だね。
――本当にネットワークの最高位としての能力を宿しておるのなら、究極体デジモンの一体や二体、殺さずに無力化する程度造作も無かろう? そして逆に、わし程度に屠られてしまう程度のデジモンが、ロイヤルナイツであるわけがない。謀り、町に悪事を働く何者かであると判断出来るわけじゃ。最近はどうにも、狂暴化デジモンの件といい物騒じゃしな。
その徹底した警戒心に、ドゥフトモンは悪感情を抱かなかった。
夜中――悪事を働く者が特に動きを活発化させる時間帯だからこそ、あらゆる危険性を視野に入れ、必要に応じて自ら対応する。
朝や昼の時間帯における長老の働きは知らないが、町に住まう子供達の安全の一因がこれなのだとすれば納得であるし、警戒して当たり前の時間帯に出向いたドゥフトモンの方に非があることは明白だった。
……それはそれで、一度退くことぐらいは許しても良いのでは? と思わなくもないのだが、他にも懸念があるのだろうとドゥフトモンは疑問を飲み込むことにした。
そうして、ドゥフトモンとピノッキモンの戦闘が夜間に繰り広げられ、その結果として今ドゥフトモンは発芽の町に来ている。戦いの結果は言うまでもなく、ドゥフトモンがピノッキモンに力を認めさせて決着した。
同じ究極体に類されるデジモンであるとはいえ、ただのデジモンとロイヤルナイツとでは能力に明確な優劣がある。
戦いは、能力が優れている方が基本的に勝つ。
故に、力を認めさせられたという結果そのものについて、驚くべきことではないとドゥフトモンは感じていた。
が、(強かった)
実の所、そう内心で呟いてしまう程度には、ドゥフトモンは長老であるジュレイモンもといピノッキモン相手に苦戦を強いられていた。
攻撃力も機動力も防御力も、間違いなくドゥフトモンのほうが上回っていたのだが、その大きな優劣の溝を埋めかねないほどに――長老の技は卓越していた。(まさか、ピノッキモンの糸にあんな使い道があったなんて。クロンデジゾイドの鎧が無かったら、そして他にも援軍とかが控えていたのなら、今頃……)
慢心は無かった。
信用の獲得のためにロイヤルナイツとしての能力を示す必要があった以上、不殺という前提こそあれど手加減などする意味は無かったから。
その上で、苦戦した。
苦戦してはならない戦いで手間取り、予想以上に時間をかけた。
その事実に、ドゥフトモンは少なからず自らの未熟を痛感していた。(長老さんが強かったのもあるとはいえ、ロイヤルナイツが一体の究極体デジモン相手に苦戦してたらダメだよね……)
はぁ、と思わずため息が漏れる。
戦いが終わってからのこと、ドゥフトモンはひとまず『ギルド』のリーダーを呼んでくるから広場で待っておくように、と長老なピノッキモンから告げられ、言われた通り町の広場で待機しているのだが、やはりロイヤルナイツ――他所でのそれと変わらず、望まずとも目立っていた。「わ〜!! キラキラ〜!! 大きい〜!!」
「……あはは、おはよう……」
「すっげ〜つよそ〜!! どうしたらそんなふうに進化できるんだ? ねぇねぇ〜、おしえてくれよ〜!!」
「……毎日ご飯食べてちゃんと鍛えてたらいつか進化出来るよ、多分……同じものになると保証はしないけどさ」
「しっぽにふわふわがくっついてる〜。わ〜は〜」
「――ちょ、待っ、いつの間に!? 駄目だってこの尻尾にそんな無防備に触ろうとしたら駄目だってスリスリしないでうっかり『暴発』でもしたら洒落にならないんだってば!!!!!」わざわざ語るまでもなく。
どんな町だろうと村だろうと、ドゥフトモンを含めたロイヤルナイツのデジモンに対する注目度は変わらない。
デジタルワールドの一般的な常識において、ロイヤルナイツという組織名は世界を護る役目を担うヒーローと同義であり、少なからず羨望の眼差しを受ける。
特に、産まれた境遇にもよるが、まだ世界の汚れた部分を見る機会の薄い幼年期や成長期のデジモンにとっては、ただただ眩しい存在なのだ――単に身に纏う鎧やら武具やらに惹かれているだけとも言う――。(……気持ちは一応解るんだよね……僕も昔はこんな感じだった覚えがあるし……)
とはいえ、此処には馴れ合いのために来たわけではないのだと、ドゥフトモンは己自身に言い聞かせつつ、まとわり付いて来る子供デジモン達をどうにか(極力傷付けないように)離れさせる。
そうこうしている内に、恐らくは長老の言っていた『ギルド』のリーダーを務めているデジモン――獅子の特徴を有する獣人型デジモンことレオモンが、ドゥフトモンのすぐ傍にまで歩み寄ってきた。
彼はドゥフトモンに対し、物珍しそうな視線を向けつつこんな言葉で切り込んでくる。「長老から話は聞いていたが、まさか本当にロイヤルナイツがこの町にやって来るとは。私はレオモンのリュオン。既に聞いていることだろうが、この町で『ギルド』のリーダーを務めている」
「はじめまして、だな。私は見ての通りロイヤルナイツのドゥフトモン。ユウキ達と縁あって、任務のついでに接触しに来た。君達からすれば想定外の事柄だろうが、どうか快く受け入れてもらえると助かる」
「その辺りの事情も既に聞いている。こちらとしても、かの高名な聖騎士と繋がりを持つことを断る理由は無い。今後ともよろしく頼もう」自己紹介のち、握手の代わりとでも言わんばかりに右拳と右前足で互いに軽く小突き合い、合意を得る。
特別、その動作一つで何か正式な契約を結んだ事になるわけでは無いが、自分のことをまるで対等の存在として受け入れてもらっている気がして、ドゥフトモンは内心安堵していた。(まぁ、錯覚かもしれないけど)
「さて。一応聞くが、そちらの方から何か質問はあるかな。レッサーにも聞かれたが、最近問題となっているデジモンの狂暴化について、知り得た範囲で良ければ答えておくが」情報共有だけして、さっさとユウキ達の所に教鞭を振るいに行こう、と内心で予定設定するドゥフトモンだったが、そこでリュオンがこんな言葉で切り込んできた。
「それは是非とも聞いておきたいが、先にそちらから聞きたいことがあるのでは? 任務のついでに来るにしては足早だ。余程、気になることがこの町に……あるいはチーム『チャレンジャーズ』の三名にあると見える」
「……ホントにただ挨拶に来ただけなんだけども……」
「……? 何か?」
「げふん、何でもない。そうだな、それではお言葉に甘えさせてもらうとしよう」予想外で予定外ながら、自分よりも先にユウキ達のことを知っているデジモンから話を聞ける機会を得られたのは好ましかったため、ドゥフトモンは咳き込みつつこんな質問を飛ばすことにした。
「率直に聞くが、彼等……特にギルモンのユウキについて怪しいと感じた事はあるか?」
「……ユウキか。そうだな、怪しいと感じていないわけではない」
「具体的に」
「同じチームのエレキモンのトールから聞いた話によれば、彼はこの町に来る以前、少し離れた場所にある浜辺で、ベアモンのアルスが釣り竿で偶然釣り上げることで発見されたらしい」
「釣り竿」
「そして、少しして意識を取り戻した彼は、それより以前の記憶を殆ど失っていたらしい。故に保護し、この町に連れ込んだとの事らしいが……長老にニンゲンの世界のことを聞いていたり、自分の個体名だけ意味ありげに他の二人と異なり長めにしていたり、失ったらしい記憶の『殆ど』がどの程度を指すものなのかも含め、正直疑問は浮かんでいる」
「……確かにそれは、知識だけは残っているから、では片付けられないな。良からぬことを企てていると考えたことは無いのか?」
「最初から無いと言えば嘘になるが、そもそも俺自身がニンゲンの世界のことを全く知らないからな。それについて知ろうとする事、そしてそのために隠し事をしている事が、悪いことだとは思えない。少なくとも彼というデジモンの善性については、この『ギルド』に入る前の顛末を聞く限り、疑う余地は無かったのだし」
「……そうだな。確かに、彼の善性については私から見ても疑えるものは無かった」ドゥフトモンも知っている。
ユウキとトールの二人と共に樹海の中を進んでいた時、ある偶然から放たれた――恐らくは彼自身の潜在能力の一端と思わしき――炎を、放ったユウキ自身が怯えの色を見せていたことを。
自分の知らない力が、大切な誰かを傷つけてしまわないかと恐れていたことを。
力を誇示し、誰が傷付こうとも構わず自らの存在を見せびらかしたがる暴れん坊とは、明確に違う。
断定するには早計かもしれないが、少なくともドゥフトモンはそう考えることにしていた。「むしろ庇護して導かねばならない対象だと、私は感じているよ。だからこそ、私は彼の先生を買って出ることにしたんだ」
「……先生? 何がどういう経路でそういう話になっている……?」
「彼は自分の力の扱い方を知らず、不安に駆られているようでな。同胞に先駆者がいる身として、教え導くことにした。……狂暴化デジモンの件が彼にも絡んで、何かの拍子に本物のデジタルハザードが発生してしまったら洒落にならないからな……」
「……なるほど。確かに、そういう話であればロイヤルナイツが干渉する理由にはなり得るか。厄災と最も対峙している存在だからこそ、その辺りの知見は深い、と……」
「……僕自身はまだそういうヤバいのと対峙したこと無いんだけどね……(ボソッ)」
「何か?」
「げふげふん。失礼、本当に何でもない。責任をもって、彼の手伝いはさせてもらおう」その話の後も、デジモンの狂暴化に関する見解を含めた情報を共有したり、気付けば話題は雑談にまで発展したりして、結果としてドゥフトモンとリュオンの会話は(双方の想定以上には)長引いていた。
いつしか会話に区切りがついた頃、ドゥフトモンは町の入り口のある方へと体を振り向かせつつ、視線だけをリュオンに向けながらこう言った。「すまない、確認作業程度に済ませるつもりが長引かせてしまったな。そろそろ私は行こうと思う」
「気にしないでくれ。私としては貴重な情報を共有出来たことも含め、得難い時間だった。また機会があれば、遠慮なく訪れてくれ」ああ、と軽く返してから、ドゥフトモンは駆けていく。
すっかり太陽も昇った朝の空の下、あっという間に町の外に出て、森の中に出て。
僅か数分で、彼はとある丘の上に辿り着く。
周囲を軽く見回してから眼前に一つの四角いウインドウを出現させ、獣の前足で素早く操作をし始める。
予定外の邂逅やら戦闘やら色々あったが、どうあれ彼は任務を請け負ったロイヤルナイツ――定期連絡の義務があるのだ。(よし!! 今回は時間通りだ!!)
なんてことを考えながら操作を終え、数秒経つとウインドウ上に赤い鎧を身に纏い下半身に六つの足を有した獣身の聖騎士――スレイプモンの顔が映し出される。
ウインドウ上のスレイプモンが、数秒ほど間を空けてから言葉を発してくる。『とりあえず、得意げなその表情をやめろ。根本的な話、遅刻しない事が当たり前だからな? 昨日の遅刻を無かったことにするなよ』
「え~ちょっとぐらい褒めてくれてもいいじゃないですk『あァ?』すいませんでした!!」
『……遅刻もといサボっていない割りには上機嫌だな。貴様、もしや事態の手がかりでも掴んだか?』
「いや全然。件の『ウイルス』を生成している何者かの正体も居所も、ニオイ一つ掴めてないです。樹海のメモリアルステラの方も確認したんですけど……特に何の異常も見受けられませんでした」
『ふむ……こちらが調査しているエリアでも、手がかりは掴めていない。狂暴化したデジモンは何体か確認されているが、それだけだ。メモリアルステラにも異常は無い。不気味なほどにな』
「……そうですね……」このデジタルワールドと『それ以外』の境界線たる次元の壁に残された痕跡。
それが観測されて以来、各地で観測されるようになったデジモンの狂暴化。
ほぼ同時期に頻発するようになったそれ等の調査と対処が今の彼等の任務であり、手がかりの一つも掴めていない状況は少なくとも面白いものでは無い。
目の前で起きていることには対処出来ても、目の届かない場所で進んでいる事態にまで対応出来るほど万能ではないのだ。
一応、ある特定の条件下でなら驚異的な感知能力を発揮する聖騎士もいるにはいるのだが、そちらはまた別の任務やら何やらに付きっきり。
合計13体――1体はほぼほぼ神話上の存在で実在さえ怪しまれているが――の聖騎士の内、この手の調査に適している人材は限られており、管理者イグドラシルもこの件について不必要な人員を回すつもりは無いらしく。
主に陸地における機動力の高さから選ばれた彼等に求められる働きは、かなりのもの。
早く解決してしまいたい、というのが本音はわざわざ口に出すまでも無かった。「早く見つけないと、ロクなことにならない気はします」
ユウキ達やリュオンにも伝えている通り、あまり楽観出来るような案件ではない。
一個体のストレスを過剰に増大させ、狂暴化としか表現のしようがない状態へとデジモンを陥れる『技術』。
そんなものを操れる存在がデジタルワールドの何処かに潜み、何かを企んでいると思うと、安心して眠れもしない。
……そんな風に考えながら、さて次はどうするかなと思考を巡らせていると、スレイプモンは意外そうな口ぶりでこんな事を言いだした。『……それが解ってるなら普段から時間は守れという話だが……何だ? 本当に、妙にシャキッとしているな。何か良いことでもあったのか?』
「……え? シャキッと……って?」
『これまでの貴様の応じる声には、気負いの色が濃く出ていた。自分には相応しくない、今すぐにでも逃げ出したい、大体そんなことでも考えていたようにな」
「!?」その言葉に、ドゥフトモンは息を詰まらせた。
事実であるが、彼にとってその指摘は否定しなければならないものだった。
主に、立場上。「そ、そんな事は……」
『いい加減なフリでもしていれば誤魔化せるとでも思っていたか? こちとらロイヤルナイツで唯一お前の成長期を知っている身だ、その程度の心境ぐらい察しがつく』
「…………」
『気にするな。誤魔化し一つ程度でお前を見限ったりはしない。するとすればそれは、お前が先代に対するその敬いの念を失った時ぐらいだ。まぁ、そんな事にはならないと思っているが』
「……当たり前でしょう。いろいろ継いだだけの僕なんかより、先代様のほうがずっと優れてる。きっと今生きているのが僕じゃなくてあの方だったなら、より迅速に事態を解決出来ているはずなんです」
『……ちょっとアイツの話をするとまーたその調子か。いくらアイツでも、ここまで掴み所の見つからない事態を簡単に解決出来るとは言わないと思うんだがな。そして、今俺が聞きたいのはお前の卑屈の部分じゃない』ため息を一つ吐きながら、映像越しのスレイプモンは改めて問いなおす。
『何か、自信がつくような出来事でもあったのか? 少し前のお前の声からは、気負いなど感じさせない堂々とした気質を感じられた。今のくだらない謙遜なんかとは違う、これは自分が解決するんだって意気をな』
「……声色一つでそこまで解るんですか?」
『年季の違いってやつだ、敬えよ。それで、何があったんだ? 友達でも出来たか?』これは下手に誤魔化す方が余計に話が拗れそうだ――そう考えたドゥフトモンは、素直に答える事にした。
「昨日、護りたい、助けてあげたいって思える子達と出会いました」
『ほう』
「ある町で設立された民間組織に所属していて、成長期や成熟期の身の上でいろいろ働いているらしい子達なんですけど、成長期相応に色々と悩む事も多いみたいで」
『ふむ』
「内情含めて把握しきれない部分も多いですが、放っておけなくて……そういうわけで、僕が先生をする事にしたんです」
『なるほど……って、は? 先生???』ある程度、不安要素として詮索されかねない事柄を省いて説明してみると、スレイプモンの口から珍しく頓狂な声が出た。
さも当然の事のように語っているドゥフトモンは、むしろそんな反応をこそ意外そうに思い、言葉を紡いでいた。「……何か問題でも?」
『い、いや。そうか先生か。何を思ってのことかはともかく、やるからには頑張れよ』
「はぁ。頑張るのは当たり前として、今日は妙に励ましてくれますね。もしかして偽者? ニセスレイプモン先輩モドキ?」
『誰がニセでモドキじゃコラ。ロイヤルナイツの専用回線に割り込んでまでやる事が世間話とかどんだけ暇な技術者だよそいつ。下らんこと考えてないで、責任をもって励めよ』
「言われずとも」
『夜にまた連絡を取る。引き続き、異変の調査を頼むぞ』
「了解しました」多少の戸惑いと邪推を交えつつも、確認事項を済ませたらしいスレイプモンの姿と共にウインドウが消失し、定期連絡が終わる。
ふぅ、と意図的に緊張を解すように息を吐き、そしてドゥフトモンは山のある方へと視線を向けた。
ユウキ達にとっての目的地がある方角であると同時に、夜中は数刻前に訪問していた発芽の町に向かっていた都合、何が起きていたとしても知ることが出来ていなかった方向。(……天観の橋は樹海や湖で生きていた野生デジモン達が寄り集まり作られた、安全地帯だ。住民は覚えている限りでも温厚で社会的だし、余所者を迫害するような閉鎖的なところではなかった。何事も起きる心配は無い、はずなんだけど……)
剣のアーティファクトから発せられた炎といい、ひそひそ話の中に含まれていた不信感といい、善性こそ疑う要素が無くとも心配になる理由はたくさん生じている者達。
それが、夜が明けた今どうしているのか。
向かった先の町に不安要素は無く、それ故に何かしらの『爆弾』が炸裂するようなことにはならない――と考えていたのだが、どうにも安心しきれない。(心配し過ぎ、なのかな。把握しきれない事が連続してて、僕自身も混乱してる? 考えを整理出来ていない? うーん……)
ロイヤルナイツの中では頭脳労働の方面で要を担う騎士としては、良くない傾向である自覚はある。
常に冷静沈着、目の前の事象だけに留まらない広い視点で物事と向き合うことを求められる身でありながら、目の前のことにさえ集中しきれていない、と。
だが、そこで自分を責めているだけでは意味が無いのだと、彼は気付ける側のデジモンだった。(スレイプモン先輩も言っていた、責任をもって励めって。アレはどちらかと言えば応援するような声色だった)
未熟は承知している。
なればこそ、足りない己に出来ることは、出来る限りの努力を尽くすことのみだ。(さっさとこの辺りの調査を済ませて、その後で様子を見に行こう。順調にいってるなら、今頃は『ガイアの髭』を通ってるだろうし……その先の街に先回りすればいいはずだ)
「……さて、先輩の言うように、シャキッとしないとね……!!」方針を決めて、足早に駆け出す。
短い時間ではあったが、町の住民や『ギルド』のデジモンとの交流は、気弱なドゥフトモンの心に少なからず変化を与えていたようだった。
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