オグドモンを倒すには?

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       むかしむかし、デジモン達が住む世界、デジタルワールドのあるところに、オグドモンというデジモンが暮らしていました。

       

       このオグドモンというデジモンは、とてつもなく大きなデジモンでした。よくモデルさんの長い脚を褒める時に「股下○○メートル」なんて表現が使われたりしますが、オグドモンには冗談でもなんでもなく、山の一つであれば平気で跨げてしまうような、滅茶苦茶デカくて長い脚が、なんと7本も生えていたのです。

       その上それぞれの足の付け根には、1つずつ、合計7つの眼がついていました。人間が暮らしている世界だと、海に住んでいるお星さまことヒトデが腕の先に眼を持っているので、どんな生き物とも似ても似つかないオグドモンですが、おおよそ逆ヒトデと説明すれば、このお話を読んでいる皆さんにもなんとなくイメージが伝わるのではないでしょうか。

       そんな風に、なんとも大きくて、説明しづらい不思議な姿をしたオグドモンは、見た目と同じぐらい不思議で、そして恐ろしい力を持っていました。

       オグドモンの中にはデジタルワールドの全ての罪が詰まっていて、この罪の全てを贖罪する力が、オグドモンには宿っているというのです。

       正直何を言っているのかはさっぱりなのですが、デジタルワールドというのはその名の通り、デジタルなデータでできた世界なので、ひょっとするとオグドモンは、この世界の“罪”と呼べるデータを保存したファイルであり、保存済みのデータと同じものを削除できるゴミ箱なのかもしれませんね。

       兎にも角にも、オグドモンにはそういう能力があるので、少しでも悪い事を考えているデジモンがオグドモンと戦おうとすると、力を相殺されてしまって、まったく歯が立たないのでした。

       

       悪とは何なのでしょう。

       

       オグドモンについてお話するために色々と調べてはみたのですが、どこをどう切り取っても何かしらのコンプライアンスに抵触する事だけは確かなようだったので、ここでは深くは触れないでおこうと思います。幸いオグドモンはデジタルワールド全ての罪を内包しているために大変当たり判定が広く、これを読んでいるみなさんが常識で考えて「悪い事だなあ」と思うような事とコンプライアンス違反、そして「オグドモンをやっつけてしまおう」という気持ちも悪に分類される、と。誰かを傷つけようとする気持ちは、どんなにたくさん綺麗な理由を付けたところで醜いのだと。それだけ理解してもらえれば、このまま読み進めてもらって大丈夫です。

       

       それで困ったのは、オグドモンの生活圏内で暮らす他のデジモン達でした。

       なにせオグドモンはとてつもなく大きいので、歩くだけで小さな集落ぐらいならぺちゃんこにしてしまいかねません。

       それがわざとでないのなら、仕方の無い事だと彼らも割り切れたかもしれませんが、このオグドモンというデジモンは、欲望のままに暴走しだすという、非常に困った必殺技を持っていました。

       自制心が無いのは、一般的な感性からしてもとても良く無い事ですね。もしもオグドモン同士が戦ったら、お互いの攻撃を相殺し合って一生決着がつかないのかもしれません。罪の応酬とは、まこと虚しいものです。

       しかしこの土地にオグドモンは1体しかおらず、当然土地そのものにオグドモンと同じ「悪意のある攻撃を相殺する」性質などある筈も無いので、その地で暮らす他のデジモン達は、いつかオグドモンが大暴れしてあたりを滅茶苦茶に踏み荒らしてしまうのではないかと、毎日気が気ではありません。

       ついに周辺のデジモン達は心を決めて、それぞれの集落の中でいっとうに頭の良いデジモン達を選び出し、彼らにオグドモンを倒すための妙案を考えてもらう事にしたのでした。

      「それでは、オグドモン討伐作戦の会議を始めよう」

       議長を務めるのは、フードを目深に被った、完全体魔人型のワイズモンというデジモンです。

       ワイズとは「賢い」という意味の英単語で、ワイズモンはその名の通りとても賢いデジモンだったので、彼が会議を纏める事に、誰も反対したりはしませんでした。というより、こんなところで他者の役割にうだうだ文句を垂れるようなデジモンは、そもそも知恵者として仲間から選ばれたりはしないものなのです。

      「自由な発想で、思いついた案をどんどん挙げていって欲しい。一見突飛なものだとしても、他のデジモンの意見を笑ったり、否定したりしないように。突破口は、意外なところから見つかるかもしれないのだから」

       ワイズモンが話し合いをする上でとても大切な事を最初に言ったので、皆はうんうんと頷きました。こういう相槌がひとつあるだけでも、会話はスムーズになるものです。時々みんなで集まると、目下の人や気に食わない人が発言している間は目を閉じて聞いているフリだけはしながら微動だにしない人がいますが、こういうのは本当に良くないですからね。

       

      「はいニャ」

       早速、三毛猫のような成熟期デジモン、ミケモンが、鋭い爪の付いたグローブを嵌めた手を挙げました。

      「そもそも悪意を、相手に対して敵対心を持たずに攻撃できるデジモンって、どのくらいいるものなのかニャ?」

       ミケモンのもっともな質問に、それもそうだとワイズモンはどこからともなく本を取り出しました。活字嫌いが表紙を見ただけで目眩を起こしそうなサイズの分厚いデジモン辞典です。

      「オグドモンを討伐する上で、最も現実的な協力者として挙げられるのは、シーヴァモンだろうか」

       シーヴァモンは、一般的に知性を持たないとされる昆虫型の中では例外中の例外で、ヨガの力で悟りを開き、究極体に至ったデジモンだと言われています。

       穏やかな性格で、他者を導く優しさを持つものの、根底にある気性は激しく、礼節を欠く者の事は容赦無く圧倒的パワーで粉砕してしまうという、良くも悪くも求道者的な性質を持つ破壊神です。

       しかし、悟りとは何なのでしょう。残念ながら、末法の世を生きる我々には、その本質を知る事は出来そうもありません。

      「かのデジモンの、調和を重んじるが故の厳しさと荒々しさは、もはや悪意すらも超越したものだと言われている。加えてシーヴァモンがヨガの力で展開する『サマディ・シャンティ』は、同じくヨガのパワーによって力を得たデジモンにしか突破できないという。まさに攻防一体の強力無比なデジモンというワケだ」

       だが、と、ワイズモンは、ここで僅かに視線を落としました。

      「これはあくまで、オグドモンがヨガを極めていない事を前提とした選出だ。万が一オグドモンの「贖罪の力」の中にヨガの性質が含まれていた場合、シーヴァモンのヨガパワーを以てしても、単純な体格差等から厳しい戦いを強いられる可能性が高い」

       ヨガを極めたオグドモン。言葉の組み合わせも響きも想定される光景も些かシュールではありますが、「君子危うきに近寄らず」という諺が示す通り、君子、即ち頭の良い者は、常に危険とはなんたるかを意識しているからこそ危ないものに近付かないでいられるのです。

       それもそうだ、と賢者達は頷いて、シーヴァモンに協力を仰ぐ作戦自体は視野に入れつつ、他にもたくさん案を出しておこう、という流れになりました。

       

      「他にも、単純に悪意の無い人畜無害なデジモンとしてドッグモンがいるが、かのデジモンは成熟期。いくら身体がゴムのように伸び縮みする程柔らかく頑丈なデジモンだとは言っても限度があるだろうし、そもそも攻撃を通せても、大したダメージは与えられないだろう」

      「しかシ、悪意が無い代わりに力も持たないデジモンヲ、何らかの手段で強化しテ……という方法もあるナ」

       念のためメモしておこう、と、書記を任されている小さなカプセル状のデジモン・ナノモンが、これまでの発言に加えて、自分の考えも素早く議事録用のパソコンに打ち込んでいきます。マシーン型デジモンである彼は、機械化によるデジモンの強化にも造詣が深いのかもしれません。

      「いっソ、最初からマシーン型やサイボーグ型のデジモンで専用の部隊を作ル、という手もあル」

      「なるほど、機械のデジモンには、そもそも意志を持たない種族も多いからな」

       ワイズモンや他のデジモン達も感心しているようですが、肝心のナノモン本人はあまり嬉しそうではありません。そもそも「嬉しい」と思う心が最初から無いのかもしれません。それはちょっと、寂しいような気がしますね。

       

       そんなナノモンの案を横目(?)で覗きながら、それなら、と、彼の隣に水を張った巨大なタライを置いて体を浸した、白いイカに似たデジモンのゲソモンが、腕代わりの長い触手の内、右の方を持ち上げました。

      「ワタシの済む海のエリアにはアノマロカリモンという、食欲旺盛で、それ故に捕食能力に優れたデジモンがいるのゲソ。オグドモンにぶつけられるかはわかりませんゲソが、それはそれとして「食欲」でオグドモンと戦う、というのは、なかなかいい線行ってないでゲソか?」

       それは良い考えだ。と、ナノモンの時に引き続いて、皆が歓声を上げました。

       食欲。それは生き物が生きている限り、必ず持っている欲望です。

       度を超えた食べ過ぎは“暴食”といって、7つのよくないものの内の1つに数えられていますが、お腹が空いて、ご飯を食べたいと思う気持ちそのものは、けっして悪い事ではありません。

       だったらいっそ、オグドモンをごはんにしてしまおう。というのは、なるほど確かに、なかなか冴えた考えです。先に述べた通り、食欲は誰でも持っているものなのですから、今までの案と比べても、格段に実行しやすい筈なのです。

      「どうせなら、摂食行為がそのまま攻撃に繋がるデジモンの方が、よりオグドモンに対処しやすいかもしれないな。先のドッグモンではないが、「噛み付き」の必殺技を持つデジモンというのはそれなりの数がいる」

       ただ、オグドモンをまるまる食べきれるデジモンとなるとな。と、ワイズモンは腕組みをして首を捻りました。

       折角オグドモンに噛み付く事が出来ても、一口でお腹いっぱいに生ってしまったら、それ以上はどうしようもありませんからね。

       

      「そうじゃ、それなら」

       それを聞いて、ぴん、と大きなデジモン達に囲まれていてもよく目立つように真っ直ぐ手を伸ばしたのは、腹巻きを巻いた背の低いデジモン、ボコモンでした。

      「オグドモンを、誰でも食べられるように加工できんものじゃろうか?」

      「加工?」

      「ほれ、バーガモンというデジモンがおるじゃろう? 成長期の方じゃ」

       バーガモンというのは、その名の通りハンバーガーを作りの名人で、作ったハンバーガーをみんなに食べてもらうのが大好きな、素敵なデジモンです。

       そんなバーガモンの必殺技は『デリシャスパティ』。大きくて美味しいパティで挟んだ相手を、そのままパティの中に練り込んでしまうという、説明を読む限りその愛らしいキャラクターデザインではちょっと誤魔化しきれない仕様の技となっています。

       小さくたって、デジタルモンスター。そういう事なのでしょう。

      「なんとかしてバーガモンのパティを、オグドモンを包めるぐらいお~~~~~~おきくして……そのままハンバーガーにしてしまえんものかのう」

       なんて自由でユニークな発想なのでしょう。

       ボコモンは中年男性を模した見た目をしていますが、その実成長期、即ち、人間で言う子供に近いデジモンです。彼の思考の張りと柔軟性は、まさしく大人が忘れてしまいがちなもの。羨ましさに、ちくりと胸が痛みますね。

       それはそれとして、突飛な案ではありますが、でっかいハンバーガーはみんなの憧れ。そこに関しては人もデジモンも、大人も子供も変わりません。オグドモンサイズのハンバーガーだなんて、想像するだけでワクワクしてしまうではありませんか。夢と希望とハンバーガーは、デカければデカい程良いと相場が決まっているものなのです。Fuu! ハンバーガー最高!!

       会議室に、誰かのお腹の音がくう、と鳴り響きました。

      「とはいえやはり実現は難しいかな……単純に難しい……」

      「そうかぁ」

       みんなは揃って、しゅんと肩を落としました。

       

      「えっと、えっと。じゃあ、逆に?」

       そんな中、若干気まずそうに、しかしどうにか空気を変えようとおずおずと手……ではなく翼を持ち上げたのは、フクロウに似たデジモン、アウルモンです。

      「オグドモンに、何かを食べさせるのはどうかな? ほら、ジュレイモンの『チェリーボム』とか」

      「……ふむ、それは盲点であったな」

       『チェリーボム』とは、ジュレイモンという大きな木のデジモンの頭に生る、サクランボの形をした木の実の事です。

       とっても甘い良い香りがしますが、この実を食べると死んでしまうと言われています。

       もちろんほとんどのデジモンは、完全体のデジモンが必殺技と称して投げつけてくる木の実など、怪しがって口を付けたりはしないので、実を言えば真偽の程はわからないのですが。

      「あるいは、もう、シンプルに、毒。とか」

      「ふうむ」

       デジタルワールドにはたくさんのデジモンがいて、中には毒を使うデジモンもいます。

       身体を痺れさせたり、物を溶かしたり、命を奪ったり……そのどれもが大抵の場合、デジモンの身体から自然に分泌されるもので、攻撃に使う時には悪意が籠もっていたとしても、毒そのものに悪気がある訳ではありません。

       だから、例えば。何も知らないデジモンに、調味料として毒を渡して、そうやって作ってもらったものをオグドモンに食べさせれば――

      「だが、食べ物を粗末にしたり、そのためにデジモンを騙したりするのは、少なくとも良い事とは言えないな」

       案を出したアウルモンでさえ、その通りだと思いました。

       オグドモンの、悪意あるデジモンの力を打ち消す能力は、きっとどこかでこの罪悪感を察知して、毒のことだって無力化してしまう事でしょう。

      「ごめんなさいね、ワイズモン」

      「いいや、謝る必要は無いともアウルモン。発想は良いのだ。オグドモンでさえ脅威とする何かを摂取させる。その手段と物質さえ割り出せれば――」

       

       と、不意にベーダモンという、宇宙人を連想させる姿のデジモンが細い指を揃えて腕を持ち上げました。

      「何か思いついたのか、ベーダモン」

      「『アレルギーシャワー』」

      「え?」

      「フローラモンの、『アレルギーシャワー』」

       必殺技の名前と、その技を使う種族の名前のみという簡素な台詞でしたが、ここに集うデジモン達は頭が良いので、ベーダモンの言いたい事を悟って、皆一様に青ざめました。

       『アレルギーシャワー』。

       フローラモンというデジモンの両腕に咲いた花から、アレルギー症状を引き起こす花粉を発生させる必殺技です。

       その威力たるや。くしゃみや鼻水に留まらず、眼は「抉りだして直接洗いたくなる」とまで例えられる程の痒みに苛まれ、涙が止まらなくなるという話ではありませんか。耐性が無ければ、大型のデジモンでさえひっくり返ってしまうような辛さだとか。

       特にオグドモンは、何度も言うように眼が7つあります。なので、眼の痒みも7つ分です。しかも足の付け根についているワケですから、その辛さもひとしおでしょう。太ももの付近がかぶれた経験がある人は、なんとなく気持ちがわかるのではないでしょうか。

       加えて花粉そのものには、やはり悪意なんてありません。本来は植物が子孫を残すための手段なワケですから。それを罪と呼ぶのは、些か傲慢になってしまいます。

       ベーダモンは分類上は宇宙人型ですが、植物とも縁が深いので、植物型であるフローラモンの性質にも明るかったのかもしれません。

      「アレルギー、アレルギーか。確かに、それもひとつの手かもしれない。何なら、花粉を採取してフローラモンの腕の花そのものを増やせば、より効率良く――」

       

       言葉数少ないベーダモンに代わって、議長であるワイズモンが彼の案を纏めていた――その時でした。

      「う、ううう」

       誰かの口から、嗚咽が漏れていたのです。

       気付いた者からそちらを見やると、権天使型のアルケーエンジェモンが、兜の隙間からさめざめと涙を流しているではありませんか。

      「アルケーエンジェモン?」

      「うう、ううう。ごめんなさい。こんな事を思っては、言ってはいけないのですけれど……どうしても。なんだか、悲しくなってしまって」

      「悲しい?」

      「段々オグドモンが、可哀想になってきてしまったのです」

       アルケーエンジェモンの言葉に、思わずみんなが身を乗り出しました。感情の伺いづらいナノモンやベーダモンでさえ、僅かに困惑というか、憤りというか、少なくともあまり快いとは言えない視線を、アルケーエンジェモンへと投げかけています。

      「オグドモンが可哀想? 何を言っているのだ、アルケーエンジェモン」

       ワイズモンの語調も、先程までと比べてかなり強いものになっています。彼は最初に「他者の意見を否定してはいけない」と言いましたが、それとこれとは話が別です。ここに居る全員が、厄介者のオグドモンをやっつけるためにうんうん唸って知恵を絞っていたのに、そのオグドモンが可哀想だなんて言い出したら、話が全部台無しになってしまうのですから。

       いくらアルケーエンジェモンが、天使の中でも特に他者を憂う気持ちが強いデジモンだとは言っても、簡単に許せる話ではありません。

       アルケーエンジェモンも、その点は重々承知しているのでしょう。「わかっています。わかっているのです」と、心の底から申し訳なさそうに、何度も頭を下げました。

      「わかっているのに、オグドモンを打ち倒す方法ばかり聞いている内に、徐々に胸が痛み始めてしまって。どうしてこんなひどいことを、たった1体のデジモン相手だけに考えて、仕掛けなければいけないのかと思うと」

      「そうは言ってもだな」

      「それに私、春先はいつも花粉症がひどくて。それが瞳7つ分もと想像すると……!」

      「それは、その。……大変だな」

       しかしなんだかんだと言っても、ワイズモン達は相手と心の痛みを分かち合える賢さを持つデジモンなので、実例を挙げられてしまうと同情せずにはいられなくなってしまいました。

       こうなると、もはや会議どころではありません。花粉症は下手に民間療法に頼ったりせずちゃんと病院で診てもらう事が肝心ですが、オグドモンを倒す手段に関しては彼らが専門家なのです。彼らが考えて、作戦を他の仲間達に伝えなくてはなりません。

       そんな彼らの思考が行き詰まってしまえば、この地域のデジモンみんながお手上げと言っているようなものなのです。

       

      「どうしたものか」

       ワイズモンは、溜め息のように呟きました。みんなの表情や仕草も似たり寄ったりです。

       唯一、感情の乏しいナノモンが、これまでの議事録をスクロールしながら眺めて――

      「……戦意の喪失」

       ふと、『アレルギーシャワー』の性質も絡めて、ひとつ、何かを思いついたようでした。

      「うん?」

      「これハ、ウワサなのだガ。東のエリアで群れの長を務めているといウ、マメモンの変異種が――」

       機械の彼にしては歯切れの悪い、その上突飛な発案に、みんなは顔を見合わせました。

       

       ですが、最初に取り決めした通り、誰もナノモンの意見を笑ったりはしませんでした。

      「『天晴れ桜』!」

       マメモンの変異種こと、白塗りのお殿様のような格好をした究極体デジモン・トノサママメモンが右手の扇をひらひら振りながら古風な舞を踊り始めると、なんという事でしょう、天高くから、扇に合わせてひらりひらり。薄紅色をした桜の花びらが、次から次へと降ってきたのです。

       それはもう、桜吹雪と呼ぶに相応しい光景です。日差しは麗らか。風は爽やか。桜の花びらは、この世の悪い事なんてなんにも知らないみたいに柔らかです。

       究極体を含めたデジモン達の気配に、いつもより深い地響きと共に歩みを進めていたオグドモンも、これにはびっくり仰天してしまいました。

       何せオグドモンは大きなデジモン。仮に桜の季節だとしても、ピンクの花が開いているのは遙か下方。人間が雑草を踏んで歩くように、気にも留めずに踏み潰していた筈です。

       だから、初めてだったのです。オグドモンでさえ見上げるようなところから、こんなにも美しく優しいものが、たくさんたくさん、降ってくるのは。

       『天晴れ桜』

       トノサママメモンの必殺技で、しかしこの技自体には相手を傷つける力はありません。桜の美しさで、戦闘意欲を失わせてしまう技なのです。

      「さあ、お花見ぞ、お花見ぞ! オグドモンとやらも、楽しんでまいれ」

       オグドモンから見ればそれこそ豆粒にしか見えないであろうトノサママメモンは、しかしにっこりと朗らかな笑みを浮かべ、扇を振って踊り続けます。

       その内トノサママメモンと一緒に踊り始めるデジモンや、お弁当を持って桜を見にやって来るデジモンまで現れ始めました。

       みんな、今この瞬間は。これっぽっちも悪意なんて抱いていません。桜を楽しむのに、そんな邪念を抱いていても邪魔なだけですものね。

       

       オグドモンは7つの眼で、余すこと無くお祭り騒ぎを見下ろして。

       それから随分と長い間、動き出そうとはしませんでした。

       デジタルワールドに伝わっている内容では、お話はここで終わっています。

       どこかのうっかり屋さんが続きを紛失してしまったのか。オグドモンはそれからも動かなくなってしまったのか。はたまた、桜が全て散った後には、怒って暴れ出してしまったのか。それはもう、誰にもわかりません。

       ただ、この素敵な昔話は、ほとんど無敵みたいなオグドモンをどうすればいいのか、出てきたデジモン達が一生懸命考えた結果、現在まで伝えられているお話です。

       ひょっとすると、他人事ではないかもしれませんよ?

       さて、このお話を読んでいる皆さんだったら、どうしますか?

       もしもオグドモンが現れたら。悪意ある攻撃を打ち消すけれど、自分は好き放題暴れるようなオグドモンと出会ったら。

       皆さんだったら、どんなデジモンの力を借りて、どんな結末を望みますか?

       なんと言っても、この世には千を越える種類のデジモンがいるのですから!

       皆さんだけのオグドモンの倒し方。思いついた時には、良かったら。今度は皆さんが、ワイズモン達にこっそり教えてあげてくださいね。

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    • #2660

       こちらでは初めまして、改めて宜しくお願い致します。夏P(ナッピー)です。
       
       恐らくノベコンに投稿されていた作品でしたでしょうか。他の作品とまた空気が違った、一種のデジモンの生態の隙を突くべく色々なデジモンの能力や技を紐解くという流れが非常に興味深いものでした。アルケーエンジェモンが可哀想と嘆く通り、純粋に倒すまたは無力化させるべく皆々で知恵を絞られていますが、そうした意味でも間違いなく主役はオグドモン。結局、最初に設定された時にワクチン種だったのは誤植だったんかな……?
       1000種類以上が存在するデジタルモンスター、当然技も能力も千差万別。そして言葉遊びも多分に含みますが、技や能力の設定を鑑みれば成長期や成熟期でもワンチャンあるんじゃないか、そう思わせてくれるのは伊達に25年の歴史を重ねてきて無いぜと言うべきもの。ある意味で理屈屁理屈問わず考えてみるという意味では、創作家への挑戦であるのかもしれない。
       トノサママメモンはゲストキャラなのですよね確か。こーいうさりげないリンクが組まれているのもまた好きです。
       
       元々オグドモン、如何にもゼルダの伝説のボスキャラみたいな見た目しとるなと思っておりまして、目玉を弓で撃つとコア露出しながらバタリと倒れてそこを剣で切るみたいな倒し方を想像してしまいますが、ティアーズオブザキングダムやってからはイエロック宜しくオグドモンの背中の上で皆が生活している光景を想像してしまうのです。
       そして知恵者ポジションでワイズモンの会合に成長期の身で参列しているボコモンの勇姿が嬉しい。頭脳面では究極体のアルケーエンジェモンにも負けてないぜ!
       
       それでは改めてよろしくお願い致します。
       以上で感想とさせて頂きます。

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