かくして伝説となる

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  • #4103
    ルツキルツキ
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      「だったらボクが確かめてくるよ!」
       
       周囲のデジモン達は、どよめき一斉に声の主の方を見た。そのカボチャ頭には、笑っているようなトボけた顔が彫られているが、当人が何を考えているのかは読み取る事ができない。
      デジモン達は「ウツラウロ」と呼ばれる山間の一帯、そこに存在する森の話をしていた。その森は昼間でも暗く、気味が悪いと誰もが避けたがる上に入ったモノは帰らないと言われる〝帰らずの森〟だった。
       ウツラウロを通りがかった或るモノは、セイレーンモンの歌声を聴いたと言い、また或るモノは無数のシャボン玉が浮かんでいて触れると強い眠気に襲われたのでオタマモンが大量に棲みついているのだといった。
       
       しかしウツラウロが奇妙な土地である事と森の噂は別の話であり、帰らずの森と言われるようになったのは最近のことである。
      ただでさえ奇怪なウツラウロの森に行ったデジモンが帰って来ない。これはゴーストが棲みつき、森に入ったモノを食べているのだ。などという噂話になったのだ。──そんな噂話をしているデジモン達に割り込むように先ほどの発言があった。
       
       何を言っているのだとか馬鹿なことを言うな等と諭す声と、一部からは呆れた声があがる。そんな中には、できるものならやってみろ。そう言って笑う声もあったのだが、発言主は、ただただ明るい声で応えるだけであった。
       
      「うん! ボクけっこう強いから大丈夫。ゴーストって友達になれるかなぁ…?」
       賑やかす様に集まっていた周囲も、打てども響かずの調子に次第に言葉を無くしていく。
       
      「じゃあ行ってくるね〜」
      そして、まるで散歩にでも行くように意気揚々とカボチャ頭のデジモンことパンプモンはウツラウロへと向かっていってしまった。
       
       
      ***
       
       
       暗い、暗い森だった。
      山の影や隙間なく空を覆う木々の影は、足元を見えなくし、たまに響く何かの谺(こだま)は、恐ろしい怪物の声にも錯覚するだろう。
       
      「ヤッホー!!」
       ヤッホーヤッホーと、山峡をパンプモンの声が反響する。それに反応した鳥デジモンらしきギャーギャーという絶叫するような声が遅れて彼方此方からあがった。
       
      「うわぁ〜…スゴーイ!」
       パンプモンは、本来ならば恐ろしいと感じる筈の森にすっかり興味を惹かれていた。森中に響く自分の声が面白いようで、森に呼びかけるよう声を出しながら森の奥へとズンズン進んでいった。
       
      「おーい、ゴーストやーい! いたら返事してよーっ!」
      「ボクと友達になろーぜ!!」
       
       パンプモンがそう呼びかけた時だった。
      突然ダンッ! と炸裂する様な音が森に響き、同時にパンプモンが地面に倒れる。……その一連の様子を鬱蒼とした木々の枝葉に混じって鋭く光る二つの眼が見下ろしていた。
       
      ──ゴーストだと…? ハッ笑わせるな。この森に入ってくるヤツはそんな奴らばかりだ! 俺の狩場に立ち入った奴は、皆まとめて死をくれてやるわ!
       
       橙の鮮やかな色が地面に散らばっている。猟銃べリョータから放たれた一撃は、狙い通り標的を撃ち抜いたようだ。
       
      「……イッターい!!!!」
       撃ち抜かれた筈のカボチャ頭が、悶絶しながら絶叫している。
       
      ──チッ…『トゥルーアイズ』で狙いを定めなかったのが仇になったか。
       
      「くっそ〜今度はこっちの番だからな! 『トリックオアトリート』!」
       
       狩猟者は憤りつつも再度、倒れたままの標的に標準を合わせようとする。が突如、その獲物の真上に巨大なカボチャが出現した。巨大カボチャは、そのままパンプモンを下敷きに地面に鈍い音を立てて沈んだ。
       
      「フハハハ間抜けめが! 自分のワザに自ら潰されるとはなァ」
       その様があまりにも可笑しく思えた猟師は、普段ならば絶対にしないミスを犯してしまう。己の成果の潰れた様を見てやろうと……迂闊にも姿を現してしまったのだ。
       
      「じゃーんサプラーイズ!」
      「何!?」
       巨大カボチャの頂点を突き破り、パンプモンが飛び出したので、猟師は不意を突かれた。
      「本命は、こっちだよ『トリックオアトリート』!!」
       
       形勢は逆転し、狩猟者であった筈のモノの頭上に巨大なカボチャが現れ、避ける間もなく押しつぶされてしまう。こうなっては、森に溶け込むためのカモフラージュも意味がない。
       
      「くっ抜かった…、ええい殺すならば殺せ!」
      「えっなんで? それよりボクが勝ったんだし友達になってよ」
       
       まるでゲームに勝利した無邪気な子供のような提案だった。断じて殺そうとした相手に投げかけるような言葉ではないと、猟師は嫌悪感をあらわにする。
       
      「フン断る! 貴様と友達になるだと? これ以上の生き恥を晒すくらいなら、己でこの命を終わらせてくれる」
      「ダメだよ! 死んだら友達になれないじゃない……あれ? ゴーストって死んでるんだっけ??」
      「ゴーストと呼ぶな!」
      「えーじゃあ、名前を教えてよー。あっ、ボクはパンプモンだよ」
      「……」
      「教えてくれなきゃ『トリックオアトリート』しちゃうぞ」
      「…ギリードゥモンだ」
      「わーい、これで友達だね」
       
       そう言うとパンプモンは、あっさりと巨大カボチャを退けてしまう。見た目に騙されるモノは、多いがパンプモンは完全体の戦闘力を備えているデジモンだ。
       
      ──こいつは何を考えている。
       
      「……チッ。殺さぬならば、さっさと俺の前から消えろ」
      「ねーギリードゥモン、友達になったし遊ぼーよ」
      「友達などという、貴様の戯言になど付き合ってられん」
       自由になった体を動かしギリードゥモンは、さっさとその場を離れようとする。そしてその後をパンプモンが追いかける。
       
      「付いてくるな! 次こそ撃ち殺すぞ!」
      「わぁバトルごっこ? いいよー負けないから!」
       姿を視認され、能力も把握されている上に近距離では明らかに分が悪い。さらに言えば、ギリードゥモンは素早く動くことが苦手だった。
       
      ──俺が苦杯を嘗めるなど屈辱だ! 屈辱だ屈辱だ屈辱だ……!!
       
       しかし確実な勝利を得られぬ以上、軽率な真似をギリードゥモンは避けたかった。歯痒くはあったが、そのうち諦めて帰るだろうとパンプモンを放置する事にした。
       
       
      ***
       
       
       眩しいほど明るい廊下と高い天井。重厚な鉄の兵ども。──それに向かい合う己も黒い金属の鎧姿だった。 
      「スカルナイトモン、騎士団長よりのお達しだ。お主は、騎士団より除名処分となった」
      「何だと……」
       黒い騎士には、方々から突き刺さるような非難の視線が向けられている。
       
      「以前よりの汚い手を使った騎士にあるまじき所業の数々……皆、一様に許し難いと感じていたのだ。至極、当然の事である」
       
      ──この時、黒い騎士(わたし)は今までに感じた事のない怒りで己が満たされていくのを自覚していた。……あの恨みを、忘れてたまるものか!!
       
       
       
      「ねぇねぇ〜ギリードゥモン!」
       
       至近距離から聞こえる声に苛立ちつつ眼を開ければ、気の抜ける恍け顔のカボチャ頭が視界を覆い尽くしていた。
      先程までの物々しい甲冑の群は存在せず、沸騰する様な憤怒も記憶の中。その上、目覚めの朝日など、とんと拝んでいないと思い至る。周囲には、ただただ陰鬱な森が広がっていると理解している。
      「……」
      「怖い夢でも見たの?」
      「貴様には関係ない」
       
      ──また見つかってしまった。
       
       そのうち飽きていなくなるだろうと思っていた。……しかし幾日経とうと、パンプモンがギリードゥモンの側から離れる様子はなかった。
      隙をついて身を隠そうと、どういう訳か直ぐにパンプモンに見つかってしまうのだった。
       
      「かくれんぼは、またボクの勝ちだね!」
      「何故なんだ……」
      「ボクら気が合うんだね」
       
      ──そんな訳があるか!
       
       パンプモンと出逢って以来、ギリードゥモンに静寂は訪れていない。
      「いい加減に帰れ。遊び相手が欲しいならば、相応しいヤツがもっといるだろう。
      「……いないよ。なに考えてるか分からないって、言われるもん」
       
      ──俺も理解などしていないのだが?
       
      「ゴーストのお話を聞いてさ、もしかしてボクと同じで寂しいんじゃないかなーって」
      「俺はゴーストではないし、寂しくもない。俺に関わるな」
       
      「でも、……独りぼっちはイヤだよ」
       
      珍しくパンプモンは、少し言い淀む。
      「…知ったことか」
       
      ──俺の何が分かるものか。
       
      「理解出来ぬ。友など仲間など……上部ばかりの空虚なものだろう」
      「どうしてそんな事をいうの?」
       パンプモンは、子供のような視線で不思議そうに見つめる。
       
      「……教えてやる。俺は以前は〝騎士〟だった。だが下らぬ騎士道など捨ててきた。仲間など足手纏いにしかならぬ無用の長物だと知ったのだ。友など尚更のこと必要無い!」
       
       パンプモンは、そう言い切ったギリードゥモンから視線をしばらく逸らさなかった。そして、少し俯いて
       
      「悲しいんだね」
      とポツリと言った。
       
       ギリードゥモンが何か言い返そうかと考えあぐねた。その時だった。
      「なにか、聞こえる?」
      パンプモンが先に声を発する。
       
       ゴゴゴゴゴと、地鳴りのするような音が段々と大きくなっているのだ。
       
      ──何かが、近づいている。
       
       ふと、破壊の雑音に混じってに馴染みのある音がギリードゥモンの耳に聞こえて来る。
       
      ──覚えがある。この稲妻が走るがごとく鋭い音は。
       
      「義兄弟(きょうだい)……」
       空を切り裂く轟音で木々を薙ぎ倒しながら現れたのは、〝走る稲妻〟の異名を持つデッドリーアックスモンだ。
       
      「わぁっ!? なになに怖い顔……ゴースト?」
      「ゴーストでは無い! デッドリーアックスモンは……!?」
       
      ──まさか!?
       
       ギリードゥモンに胸騒ぎがよぎる。袂を分かった今でも相棒とも呼べるデッドリーアックスモンのことは言葉を交わさずとも理解できると自負していた。再び義兄弟だったモノの前に現れる。それが非常事態を意味することを。
       
      「騎士団か……!!」
      「????」
       パンプモンから見ればギリードゥモンが神妙な面持ちで突然の来訪者を見つめている事しか分からない。ただただ両者に向けて視線を交互に送ることしか出来ないでいる。
       
      「まさかゴースト騒ぎがこんな辺境に奴らを呼び寄せるとは……」
      「えっ誰か、ここに来るの?」
       
      ──クソ真面目の暇人どもが。
       
      「先手を打つ。巻き込まれて死にたくなければ貴様は、さっさと去るがいい!」
       
       パンプモンを一瞥し、そう言って足早にその場をギリードゥモンは後にしようとする。
       
      「デッドリーアックスモンは置いていくの? 一緒に居なくていいの?」
       状況はよく分からない。分からないなりにも危機を察したパンプモンがその背に呼びかける。……しかし猟師は、もはや騎士であった過去を捨て去った身だった。それでも、この瞬間も絶えず己に懐かしくも問い掛ける様な視線が向けられているのが伝わっていた。
       
      「伝達……感謝する」
       そう告げてギリードゥモンは行ってしまう。それを見届けたデッドリーアックスモンも立ち去るべく踵を返そうとする。
       
      「あっ、まって!」
       それに気づいたパンプモンは、慌てて引き留めた。
      「よく分からないけれど義兄弟(きょうだい)喧嘩してるって事だよね? ボクがギリードゥモンとお話しして来るから、まだ行かないで!」
       
       
      ***
       
       
      ──辺境の小事に隊を組んでくることは無いだろうが、……デッドリーアックスモンが態々知らせに来たことが気になる。
       
       いつもの狩りと同じく、鬱蒼とした木々に紛れたギリードゥモンが森の入り口近くで張っていれば、思いのほか早く標的はやって来た。
      重量級の甲冑に身を包んだ巨体。その手には、身の丈ほどもある大剣が握られており、同じく巨体かつ翼の生えた甲冑の従者に跨っていた。
       
      ──チッやはりか、ナイトモン……!
       
      「フム噂通りの不気味な森よ……。しかし小数とはいえ被害者が存在する以上、捨ておけぬ。そうだなメイルドラモン」
       ナイトモンの呼びかけに寡黙な従者は、長い首を縦に振った。それをスコープ越しに猟師は、慎重に観察している。
       
      ──あのクロンデジゾイド製の鎧に穴を開けるのは至難の業だ。
       
       遠方からの『コアシュート』で狙う普段のやり口では通用しないことが予想できる。しかし隠れ続けられたとして〝ゴースト〟を見つけ出すまで生真面目なナイトモンは納得しないだろう。
       
      ──奴の気を逸らす必要があるな。
       
       森の何処かでは、今日も今日とてギャアギャアと鳴き声が上がっている。個体同士の争いか、捕食か。いずれにしても日常の環境音の一つでしかないが、それを利用する手はないと猟師は考えた。べリョータで狙える範囲にコカトリモンがいることを事前に把握していたので、驚かせてナイトモンがいる方に向かう様に仕向けることにしたのだ。
       
      ──さあナイトモンに向かって、突撃するがいい!
       
       ドンドンドン。とコカトリモンの足元に発砲すれば、予定通りコカトリモンは混乱し、バタバタと駆け出した。
      「ア゛ア゛アア──!!」
      暴走したコカトリモンが向かう先にはナイトモンがおり、奇声を上げつつ草木を踏み倒すコカトリモンを視認する。
       
      「無法者め……!」
       飛び出したコカトリモンが怒りのままに口から『ペトラファイアー』を正面にいるナイトモンに向けて吐きつける。
      「『ベルセルクソード』!」
       悠然に構えたナイトモンが手にした大剣を大きく振り、コカトリモンごと炎を切り裂く。
       
      ──獲った!
       
       断末魔の叫びを上げ消滅していくコカトリモン。ナイトモンがそちらに気を取られている隙に音を立てずギリードゥモンが急接近する。以前より、小回りの効く身体で相手の懐に潜り込むことは得意だったゆえの作戦だ。 
       
      ──この至近距離ならば…!
       
      「その陰湿かつ遠回しなやり口、覚えがあるぞ。お主はスカルナイトモンだな」
       
       べリョータを構え、ナイトモンの死角をついて『コアシュート』を打ち込む。まさにその瞬間、メイルドラモンの尾が鞭の様にしなり、ギリードゥモンの胴体に直撃する。
      「ぐぅっ!?」
       
      ──まさか、勘付かれていたのか……!?
       
       ギリードゥモンの身体は容赦なく、地面に打ち付けられ倒れ伏し衝撃に身悶えする。
      「何処ぞに消えたかと思えば、まさか亡霊に堕ちていようとは」
      「ッ……亡霊、だと?」
      「違ったか? 通り掛かりを狙う卑怯者のゴーストとは、お主のことであろう」
      「ならば……さっさと、俺を処すがいい……!」
      「お主は、ただの消滅では済まさない。処刑だ。騎士団に汚点が存在してはならぬと騎士団長殿の命令でな、凶徒あれば見せしめにせよと。たとえそれが追放された者であろうとだ……是(これ)が何だか分かるか?」
       
       ナイトモンは、その手のひらよりも小型の機械を見せつけた。
      「これは人間のハンターが使用するデバイス〝デジモン・キャプチャー〟と呼ばれる物だ。デジモンであれば是(これ)に収容し閉じ込めることが出来る逸物である」
       
       ナイトモンの持つデバイスから光が放たれ、なす術のないギリードゥモンを飲み込んでいく。
      「ッ…!! オ、レは…、私は……ッ!」
       
       光はギリードゥモンのデータを分解し、データは光の粒となり小型デバイスの液晶に吸い込まれた。
      「〝捕獲完了〟……ゴーストの正体見たりとは、此の事だ」
       ナイトモンがデバイスを見て冷笑する。
       
      「さて些事であったな」
       行こうか。と相棒にナイトモンが呼びかけようとしたその時だ。
      「ギリードゥモンを返せ! 『トリックオアトリート』!!」
       橙の巨大な塊がナイトモン目掛けて襲いかかる。が、メイルドラモンが翼を羽ばたかせて後ろへ避けたことで、地面に沈んだそれが巨大なカボチャであるとナイトモンは判別する。
       
      「何奴だ。我に楯突く意味が分かっているのか」
      「知らないよ!」
      パンプモンは、再び『トリックオアトリート』で巨大なカボチャを出現させ、ナイトモンへと差し向ける。
      「愚か者め」
      ナイトモンは、応戦すべく剣を構えた。それを見たパンプモンの眼が怪しく光る。
       
      「オマエには、〝トリック〟をあげちゃう」
       ナイトモンが巨大カボチャに斬りかかろうとしたその時、橙の皮を突き破りデッドリーアックスモンが飛び出す。
      「何!?」
       巨大カボチャの影に隠れ、その身を突き破り突進するという予想外の敵の奇襲かつ、目にも止まらぬほどの素早い動きに正面から襲い掛かられればナイトモンであろうと反応することができない。
      「ぐああああ!!」
      『エアスライサー』でメイルドラモンごと切りつけ突き進むデッドリーアックスモンの突進は、ナイトモンの騎乗体制を崩壊させてその巨体を盛大に地に落とした。
       
      「ぐ……メイルドラモン!」
       主人の呼びかけに答え、メイルドラモンが黒き乱入者に突撃する。あの巨躯とぶつかれば、如何に稲妻の如く走り回れるといえどもデッドリーアックスモンが当たり負けてしまう。鋼鉄のタックルを回避し、隙を見て『エアスライサー』で切り付けるという読み合いとなり、次第に二者の戦いは、広域と繰り広げられて視界から外れていく。
       
      「ハハハ、空を飛ぶメイルドラモンに敵うはずがない」
       周囲を見渡したナイトモンは、違和感を覚える。
      「あの下賤なデジモンは、何処に行った!?」
       
       
       
      「ありがとうデッドリーアックスモン。ボクやったよ……」
       あの場を離れようとするパンプモンの手には、例のデバイスが握られていた。デッドリーアックスモンを囮にギリードゥモンを奪還するという作戦だった。
      「出てきて、ギリードゥモ……」
       デバイスにパンプモンが呼びかけた時、その腹部を貫き布を切り裂く衝撃が襲った。呼びかけに反応したデバイスの液晶が光を発し、閉じ込められていたギリードゥモンが実体化する。
       
      「まさか奇襲攻撃を囮にデバイスを盗むとは、小癪な奴め。……今更、悔いたところでもう遅いが」
      ナイトモンの大剣には、無情にもパンプモンの引き裂かれた綿のデータが張り付いていた。
       
      「うぅ……」
       ……そして、突然視界が開けたギリードゥモンの眼に胴体を引き裂かれ、横たわるパンプモンの姿が飛び込む。
      「パンプモン!? 何故だ……何故お前が……!!」
      「えへへ、友達だから……」
       その身体を起こして呼びかけるが、切り裂かれたデジコアから漏れ出すデータがギリードゥモンの『トゥルーアイズ』には、はっきり見えた。パンプモンの消滅は、決定的に避けられない。
      「貴様は、そう言って付き纏っておいて……消えるというのか!」
       
      ──頼む…私を、独りにしないでくれ!
       浮かんだ恐怖は普段の自分としては、とても信じられないもので息を詰まらせる。ギリードゥモンは、いつしか孤独な狙撃手ではなくなっていたのだ。
       
      「デッドリーアックスモン!!」
       何処かで交戦しているであろう義兄弟の名を絶叫する。
      「頼む! 私に今一度、その力を貸してくれ…! 先に裏切った情け無い愚かな兄だと罵ってくれ。しかし、其方とならば勝利を掴む事がで出来るのだ!!」
      「……見苦しい真似を、晒すな!」
       往生際の悪さにトドメを刺すべくナイトモンが大剣を振り下ろすと、剣は大地を抉り切り裂いた。
      黒い影が、一直線に横切り二体のデジモンを奪取したのだ。
       
      「義兄弟(きょうだい)……!」
      「逃がさんぞォ! 来いっメイルドラモン!」
       メイルドラモンが主人を乗せて空を駆り、地上の仇敵を追い詰めるべく迫る。
       
      ──このままでは、駄目だ。パンプモンも、じきに……
       
       弟分が再び己を信じて判断を任せてくれている。起死回生の手は何処かにないのかと、ふとパンプモンが握りしめているデバイスがギリードゥモンの目に入った。
       
      ──人間のデバイス……伝承ではデジモンを捕らえる他にデジモンを強化する力があると。それが本当ならば……!
       
      ギリードゥモンは、パンプモンが持っていたデバイスを強く握り締める。
       
      「──その力、我等に示せ!!」
       
       瞬間、デバイスは強く光を放ったかと思えば、その光はギリードゥモンたちを包み込んだ。
       
      「何だ!?」
       目も眩む閃光にナイトモンは、目を背ける。しかし直ぐに光は、消失した。先行していた筈の三体のデジモンも消えてしまい──まるで光が三体を飲み込んでしまったかの様に、その場には、何も存在しない。
       
      「消滅した……のか?」
       辺りを見回しても暗く寂しい景観が広がるばかり。
      やはり人間の創造物など…我らには手に余る。そうナイトモンが思えば、
       
      「何処を見ている…我らは、此処だ」
       
       闇より響く声。
      そして、ゆらりと現れる黒き鎧のみの空虚な馬、そして跨がっているのは首無しの騎士。その腕には、斧のような刃が付いた頭部が抱えられていた。宙に浮かんだ棺桶を引き連れたその姿は、まさに……
       
      「ゴースト……!?」
      「ボクらは〝デュラハモン〟……ねぇボクら、ゴーストになっちゃったの?」
       抱えられた頭部から発せられる戸惑い混じりの明朗な声。その問いに穏やかではあるが低く不気味な声が応える。
      「ああ皮肉にもな。……だが勝利するためならば亡霊に此の身をやつす事など、もはや厭わぬ!」
       首なし鎧が手綱を引けば空蝉の馬は、いななき上げる事なく意図を理解する。
       
      「疾(はし)れ、コシュタバワー!」
       掛け声に答え、実態なき馬は走り出す。デッドリーアックスモンであった時ほど直線の速度は出ないが、その代わりに重力を無視した軽快な動きで空を、地を蹴り、縦横無尽に突き進む。
      「!?」
       ジグザグとした掴み所のない動きに翻弄されていると、いつの間にか黒い影はナイトモンの正面に迫っていた。怯まずにナイトモンは剣を振るがその切先は、残像を切り裂くのみ。デュラハモンの本体は少し後ろから、その様を嘲るかの様に正面から見据えていた。
       
      「フッ〝走る稲妻〟の名は、健在だな。義兄弟(きょうだい)よ」
      「くっ伝説でしかない〝融合の力〟……だがそれだけでは我には、勝てぬ!」
       ナイトモンが狂戦士の如く、大剣を振り回し。メイルドラモンが突撃する。
      「『ベルセルクソード』!!」
       
      「それだけでは勝てぬ。か……それは此方の言い分だな」
       するり。と、剣の連撃は躱わされる。まるで実体の無い幽体を相手にしているようだとナイトモンは恐怖を感じ始めていた。
       
      「横も気にした方がいいぜ〜?」
       鎖の付いた頭部がモーニングスターの様に襲いかかり、大砲で撃たれたかのような衝撃に要塞と称されるメイルドラモンがよろめいた。
       何処からも飛んでくる攻撃もそうだが、デュラハモンには後ろに眼がついているかのように隙がなかった。
       
      「ならば空を行けぇ、メイルドラモン!」
      「おっと、それって悪手なんじゃない?」
      「クククその通り」
       
       空洞の騎士が嘲笑うとデュラハモンの両脇に浮かぶ棺桶から亡者の手が飛び出す。棺から伸びた腕は、ナイトモンとメイルドラモンを同志にする為に指を伸ばして一掴みに捕まえてしまう。
       
      「そして次は、貴様が閉じ込められる番だ」
      「辞めろ…、離せ……ウワァアアアア!!!!」
       剣を振り回し抵抗するがその切先は、空を切る。ガタン。と棺桶の蓋は閉じられ、騎士の絶叫は虚しくも闇に消えた。
       
      「『スリーピーホロウ』……フフフ! ……ハァハッハッハー!! どうだ見たか私の…」「やったー! ボクらの勝ちだね」
       
       鎖に繋がれた頭部が跳ねて騎士の鎧にぶつかり、ガツガツと耳障りな音を立てる。その度に首なしの騎士は低く唸った。
      「ええい貴様は、……全く。我らは一体のデジモンに進化したのだ。今後は俺の言うことを聞け!」
      「えー? ボクがメインでしょ? だってボクが頭だよ」
      「どう言う理屈だ。ええい面倒だ! 義兄弟! あのデバイスは何処だ」
       
       無言のコシュタバワーは、体を揺らすことで否定を示した。その足元には、先ほどの戦いの影響か破壊されたデバイスが転がっている。
      「な、なんだと……では、我らは解除できずこのままなのか……!?」
      「それでもいいんじゃない?」
       と、鎖を揺らし楽しげな声。
       
      「だってボクらは、無敵のゴースト〝デュラハモン〟だからね!」
       
      ──無敵。なるほど……
       
      「それも、そうか。フフフ……フハハハ、ハーッハッハッハ!!!!」
       
       
       そうしてウツラウロの森からは、友達が欲しいと言った好奇のモノも高名な騎士の数名であっても帰る事は無かった。
      その後もウツラウロの山峡には、どんな勇者も恐怖のどん底に突き落とすというゴーストの笑い声が、山間に谺しつづけているという……。
       
      -Fin-

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    • #4112

       こちらでは初めまして。そして初投稿お疲れ様でした。
       パンプモンと言えば直近のタイストでアポロモン戦⇒ディアナモン戦と頼もしい肉壁として活躍したと思ったら突如寝返って何故かそのまま死んだことが記憶に新しいですが、これはまた渋谷系デジモンの新境地。ゴツモンはいなかった。何故だ!!
       ギリードゥモンとは渋いデジモンが主役、と思いきや過去はなんとスカルナイトモン。過去回想は簡潔に短く纏め、ナイトモンとの戦いに焦点を置かれておりました。
       
       義兄弟きょうだい設定を見事に活かされる形でデッドリーアックスモン登場も燃え。しかし此奴が出てきたということはこれはもうただの貴族が出るしかあるまいと思っていたのですが、最後の最後に登場したのがアイツだったとは。うおおおおリベレイター! よく考えたらただの貴族だとギリードゥモンと同じ完全体でしたね。敵ながらナイトモン、同じ完全体では勝てないレベルの強者だったということか。
       それはそうとナイトモン+メイルドラモンの騎乗設定かっちょ良くて好きです。最近、クレニアムモンが同様にアンヴァルモンへの騎乗モードを手にしたので、騎士も愛馬も進化ルートで繋がっていて欲しさがある。
       
       前述の通り、スカルナイトモンの過去描写を最小限に留めつつ、パンプモンの天真爛漫さを前面に押し出すことで暗くなり過ぎず、最後の〆の一文がどこか楽し気な笑い声なんだなとわかる、不思議とポップなお話でした。途中までアカンこれパンプモン死んだわと思いましたが生き延びて良かった!!

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