ドレンチェリーを残さないでep34

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      「未来」

       

      公竜の言葉に、時が止まった様だった。

       

      恵理座の言葉に未来は拒否し続けた。自分なんかがちゃんとやっている兄に会ってはいけないと、そう言い続けた。

      結果としては、それが正しかったのだろう、

       

      血を飲んでから、未来の頭は妙に澄んでいた。

       

      育ての母を失った喪失感も、それを兄に見られた困惑も、兄が自分の作ったベルトを使ってくれてる嬉しさも、そのベルトを代わりに届けてくれた恵理座がここにいない悲しみも、全部そこにあるのにそこになかった。

       

      白いカーテンを一枚通して、シルエットで見ている様なそこにあるのに他人事の様な。

       

      「……兄さん」

       

      未来が話し始めるまでの数秒、公竜が待ったのは、それが事故であると信じたかったからだ。

       

      やむを得なかったと、こうする事で吸血鬼として復活できるかもしれないでも、なんでもよかった。言い訳をして欲しかった。恵理座が信じた様に信じたくて、あえて何も言わなかった。疑念を口にすればそれが公竜にとって最悪の真実になりそうな気がした。

       

      「ごめんなさい。私は、吸血鬼(化け物)だったみたい」

       

      未来は言い訳をしなかった。

       

      「……そう、か」

       

      公竜は、トランクをその場に置いて、手を差し出した。

       

      「でも、僕の妹だ。悪いようにはしない」

       

      嬉しかった。無理に笑ったその顔が、正義と情に揺れて情を取ったことがたまらなく嬉しかった。

       

      多分その情の矛先は自分ではなく、恵理座なのだろうと思ってもなお、嬉しかった。

       

      でも、その嬉しさももうカーテンの向こう側なのだ。

       

      血を飲んだ今の自分ならば、本庄義輝にも引けを取らない確信が未来にはあった。

       

      カーテンの向こう側にあってなお、未来を突き動かせる熱を持つものは、恨み、呪い、怒り。

       

      「とりあえず、天崎は殺していく」

       

      「駄目だ、やめてくれ」

       

      「やめないし、ブレスドじゃ止められない。それは……最高弁当大盛さんのとは違う。欠陥品だから」

       

      追い縋ろうとする公竜を振り切り、二対の翼を生やした未来は飛んだ。

       

      屋上へ行くと、倒れている人間が天崎含めて五人、そして、その倒れている人間からメモリを回収している天青がいた。

       

      「ちょっと、どいてください。殺すので」

       

      「……駄目です」

       

      天青が立ち塞がると、未来は即座に殴りかかった。

       

      それを咄嗟に腕でガードして天青は察する。人間にしてはあり得ない重さ、自分の目でなければ見切れない速さ。

       

      「博士から聞いて来たんですね、未来さん」

       

      「……そう、じゃああなたが天青さん。私と違って鳥羽さんと同じ、後天的な半デジモン」

       

      素人丸出しだがただ速く重いテレフォンパンチを、天青はなんとかガードし、避ける。

       

      少し面倒だなと未来が考えると、紫色の肉片が身体から液体のように染み出して、未来の手の上にネオヴァンデモンの鋭い爪を持った右手を作る。

       

      そして薙ぐように爪を振るう。

       

      なんとかそれを天青は後ろに跳んで避けるが、未来はその右腕を逆にもう一度振るった。

       

      作った腕はロープのように伸び、天青の体に巻き付いて腕を封じてさらに振るうと、ぶちりと伸びた腕は千切れ、天青と一緒に投げ出された。

       

      「……なるほど、こういうことできる、いや、できたんだ。元々」

       

      未来の身体から滲み出た紫色はそれぞれが生きている様に脈打って爪の形を作り、あらゆる方向から天崎に突き刺さり、引き裂いた。

       

      天青はそれを成した未来の冷たい瞳を見た。

       

      怒りも悲しみも復讐を成した一瞬の喜びもない、ただするべきだからしただけに過ぎない有様。

       

      流れ出た赤色が未来の靴を汚しても一瞥もしなかった。

       

      「……斎藤さんによろしくと、伝えてください」

       

      そう言って、未来は飛んだ。

       

      それは、天青が残された痕跡から推測していた未来の人格とは大きく異なる、復讐さえも心の整理に過ぎない様な淡白な未来の姿だった。

       

       

       

       

       

       

       

       

       

      「未来さんは……ネオヴァンデモンメモリに侵されている」

       

      そう一人の女が病院のベッドの上で公竜に話していた。

       

      養護施設での長時間のメモリ使用の反動で眠っていたその女は、高森(タカモリ)と名乗った。

       

      そして、起きるなり公安の見張りに掛け合って公竜を呼んだのだ。

       

      その時には、未来が消えて既に一日が経っていた。

       

      「未来が私の変身ベルト、ブレスドは失敗作だと言ってました。心当たりは?」

       

      「それは……知らない。私はそれに関して何も知らない……自分は組織から姿をいずれ消す。その後、組織が崩壊していくはずだから、としか……」

       

      そんなことより、と高森は言った。

       

      「未来さんのネオヴァンデモンメモリは、使う度に未来さんの心を侵すんです。適性が低くて起こる精神の汚染ではなく、高い為に起こる元のデジモンへの馴化、それによって、未来さんは感情が希薄で血で喉を満たす時だけ潤うネオヴァンデモンの性質に近づきつつある」

       

      「……それであなたは蝶野の鱗粉を求めた」

       

      公竜は冷静だった。いや、内心は穏やかではなかったが、なにより情報が必要だった。

       

      「お兄さん、未来さんはそうならない為に苦しんでいた。救うにはもう、蝶野の鱗粉を使うしかない」

       

      通信機越しに聞いて、疲れ切った顔をした盛実は猗鈴達の前で首を横に振った。

       

      「……ティンカーモンの鱗粉は時間が逆行するわけじゃない、成長が巻き戻るんだよ。傷跡は残る、体内の残留物も残る。ネオヴァンデモンに馴化した部分は戻るかもしれないけど、それも可能性は低いし体内に取り込まれたネオヴァンデモンのデータは消えないから、また馴化を始めるだけになる」

       

      「……博士、休んだほうがいい。命さんの手術にも立ち会って、昨日からずっと寝てないでしょ」

       

      命は一命を取り留めた。医師によって即座に行われた輸血と、奇しくも蝶野の鱗粉が体内に残っていたことが一命を取り留める要因になった。

       

      ティンカーモンの鱗粉の抜き方は、薬で血に溶かして老廃物として尿から排出するもの。

       

      血に溶けていたティンカーモンの鱗粉が抜けている。血が戻り、再構成に使える栄養がある程度肉体に補充されればその影響で命の身体の再構成が始まる。

       

      輸血しながら、落下によって生じた大規模な損傷を直す。再構成に伴い軽微な傷や損傷は塞がるから、再構成を複数回意図的に起こして放置していればそのまま致死につながるダメージをその都度リセットしながら行うことでギリギリ一命を取り留めた。

       

      「血が抜けて脳にどれだけダメージが生じたか……まだ体内には血に溶かされ切ってない鱗粉もあるから、まだ再構成は始まってくる筈だし、それによって脳の状態が回復してくる可能性もあるけど縫合糸とか変になるリスクもあるし、責任は自分が持つと執刀してくれたドクトルK(多分違法行為なので仮名)が今も検査とかしてくれている筈だから私だけ休むわけにもいかないわけで……」

       

      ブツブツと呟く盛実の目の下のくまはマジックで引いた様な濃さで、眠ることもできていないのは当たり前に見て取れた。

       

      「……寝なさい、当て身」

       

      「ぐわー」

       

      天青が手刀を軽く盛実の首筋にとんと当てると、盛実はそのまま机に突っ伏して目を閉じた。

       

      そうして、一分程が経った。

       

      「……え? 今の当て身? で寝たんですか?」

       

      まさか、と天青は毛布を持ってくると盛実に優しくかけた。

       

      「……博士はああいうフリすると脊髄反射で乗るし、目を瞑ればそのまま寝るような疲労具合だったってだけ」

       

      「そんなことあります?」

       

      「博士が起きるから、もう少し声小さくしようか」

       

      天青は慣れた様子でそう言った。

       

      「……未来さんの感情が希薄なのは確かに私も感じた。けれど、天崎の血を飲まなかった」

       

      「ネオヴァンデモンの特徴は本能以外の感情が希薄であることのはずですよね。本能につながりそうな食事はせず、天青さんに怪我させないように気もつかっていた……」

       

      杉菜がそう口にして考えをまとめようとする。

       

      つまりそこにある理由は本能ではない何か。

       

      淡白に見えても本能以外が希薄なのと本能以外がないのとは別物だ。

       

      「……希薄になって何も感じなくなっていくっていう情報の出どころは? 未来さん以前に『ネオヴァンデモンメモリを使い過ぎた吸血鬼王と人間の間に産まれた娘』なんていないのに」

       

      教えたのは誰で、それは信用できるのか? 猗鈴の言葉に天青は確かにと頷いた。

       

      「……本庄が未来さんを都合よく動かす為に吹き込んだ、またはそうなるように期待していることをあえて伝えた。という可能性はあるかもしれない」

       

      天青はそう言って、通信機を手に取った。

       

      「公竜さん。高森から未来さんがネオヴァンデモンメモリによる侵食についてどう知ったかを聞き出して」

       

      『わかりました』

       

      公竜の返事を確認して、天青は二人に向かい直った。

       

      「デジモンは情報に影響される。悪魔は聖なるものに弱いという人間界の常識を持った私は十字架でダメージを受けたりクリスマスに体調が悪くなったりもする」

       

      「……未来さんにネオヴァンデモンの悍ましさを伝えそうなると思い込ませることでそれが本当に影響する可能性もあるってことですね」

       

      杉菜がそう口にすると、天青もそうと頷いた。

       

      「けれど、それって今更知ってどうにかなることなんですか?」

       

      『……妹に、悪いのは本庄だと言えるようになります。メモリのせいなのはわかっているでしょう、でも、それを踏まえても』

       

      公竜はそう通信機越しに答えた。

       

      「高森の情報源は?」

       

      『未来です。ただ、メモリの影響で自分が変になっていくのを自覚して未来が本庄を問い詰めて知り、それを高森にという流れのようですから……メモリ自体にそういう効果はありそうです』

       

      でもそれでは駄目なのを公竜はわかっている。ネオヴァンデモンがそういうデジモンだとして、どこまでがそのメモリのせいか、自分ならそう考えるだろうと公竜は思う。

       

      ネオヴァンデモンメモリを使ったことで表出した自分自身の吸血鬼としての性質かもしれないという考えは必ず頭を過ぎる。

       

      「……なんにせよ、未来さんを説得するか捕まえるかしてネオヴァンデモンメモリを吸い出さないとですけれど、どうやって居場所を補足するんですか? 警察は吸血鬼王に乗っ取られ、未来さんが狙うだろうものとしては本庄ぐらいしかわかりませんが、その本庄だってどこにいるかわからない」

       

      「盛実さんに呼び出してもらえるんじゃない?」

       

      猗鈴の言葉に、いや、無理でしょうと杉菜は答えた。

       

      「小林さんから逃げ出したんですよ? 会ってくれるとは……」

       

      「感情が希薄だからこそ、聞いてみる価値はあると思う。一般的な倫理観とか責任とかで動いているなら、私に姉さんの真実を伝える責任があると言えば、会ってくれるかもしれない」

       

      「……無理でも、返信させれば博士がハッキングで場所を割り出せる。がむしゃらに探すよりは有効かもしれない」

       

      あとは博士次第かなと、天青は呟いて、眠る盛実を見た。

       

       

       

       

       

       

       

      夜のソルフラワーの展望台、未来が直されたばかりのガラスを覗き込むと鮮やかな金色の髪に赤い目、白いワンピースの女が映り込んでいた。

       

      元のくすんだ金髪にメガネの未来はもういない。

       

      吸血鬼王から受け継いだ色だ。陶器のような肌は、血が流れてるか怪しい程に白い。

       

      「……アプラスさん」

       

      その後ろ姿に声をかけた盛実は、対して不健康な浅黒い肌に薄汚れた白衣と作業着の重ね着で、目元にはクマもできていた。

       

      「大盛さん、こんな時間にソルフラワー入っていいのは……あの日のツテ?」

       

      盛実は頷いた。邪魔が入らない場所として盛実に用意できる一番いい場所がソルフラワーだった。

       

      「……素敵な、ワンピースだね」

       

      「うん。もう日で肌が焼けることもないし、知らず知らず魔眼を使ってしまうかもって心配もない。ママの血が完全に目覚めたから……だから、命さんに買ってもらったワンピースやっと外に着ていけるようになったの」

       

      でも全然心が踊らない。そう未来は呟いた。

       

      「……大盛さんは、変わらないね」

       

      「前はもっと無難なの着てたけど……」

       

      あの時もこんな不審者の格好してたかなと盛実は呟く。

       

      「服じゃない。今も、あの日も、私の居場所を特定した日も、生身で私に向き合ってくれてるって話。私は、ただのヒーローオタク、組織の幹部、吸血鬼……全部違う顔で向き合ってる」

       

      同じだと口にしようとして、盛実はグッと堪えた。場面によってただ違う顔で向き合うとかそういうことが未来は言いたいんじゃない。

       

      「……私は、思ってるほど勇敢じゃないよ、多分。実質元凶だし、何もしないでいるのが怖いから……『斎藤・ベットー・盛実博士』のキャラ付けをして、友達に付き合ってもらって、やっと……」

       

      「そう言いながら、兄さんを連れてこなかった。このソルフラワーの下には仲間が待機してるみたいだし、通信もしてる、でもここには大盛さん一人で来た。それを勇敢と言わないでなんて言うの?」

       

      ほとんど動かなかった未来の口元が、少しほころんだ。

       

      「似てると最初は思ったよ、私も。望まず与えられた強い力、メモリ使った変身システムの開発者同士、二人とも.趣味も合うしね。でも私達は違う世界(放送年)の住人だよ」

       

      バサバサと音を立て、展望台の至る所からコウモリが未来に集まってくる。

       

      「私は、生まれながらの怪人(グリード)で、あなたは変質した人間(ドーパント)」

       

      「そんなことない! えっと、そう……ドクター! ドクター未来(ミキ)でいいじゃん! あの人は荒天的な怪人(グリード)だし!」

       

      焦ってそう言う盛実に、ふふ、と未来は笑った。

       

      「……もしかして、ネオヴァンデモンの影響、もう克服してる?」

       

      盛実の言葉に、未来はうんと頷いた。

       

      「ママの血を受け入れた事でネオヴァンデモンのメモリは完全に制御下においた」

       

      未来はそう言って、笑顔を作った。

       

      ネオヴァンデモンメモリを制御化においても希薄になった感情そのものは、ほとんど戻っていなかった。今もその殆どはカーテンの向こう側、どこか他人事のよう。

       

      それは、人間の感性だった今までが異常で、今の状態が吸血鬼としてあるべき姿だと言われているように未来は思えた。

       

      「……じゃあ、もう私達から離れなくていいじゃん! 命さんも一命は取り留めたし!」

       

      「……命さん、生きてるの?」

       

      「うん! いろんな偶然とか、デジモン関係で頭パニックだろうに臨機応変に頑張ってくれる腕のいいドクターがいたりとか、色々あって、意識は戻ってないけどね」

       

      「そっか……」

       

      「一緒に病院行こう、未来さん。私達と一緒に。姫芝……元組織の売人だってこっちで戦ってるし、元凶は私だし……」

       

      その手を取りたいと思った。カーテンの向こう側に置いてきた人間の部分がそれを望んでいる。

       

      だからこそ応じられない。恵まれ過ぎている、愛され過ぎている。人殺しの化け物にそんな結末があっていいとは思えない。

       

      「……先に、答えることに答えておくね。私が知る夏音の計画、それが知りたいって口実で呼び出された訳だし」

       

      でも、またソルフラワーを壊すのは違う。とりあえず出口へと歩いていく。

       

      「え、うん。でも、ありがたいけど、合流してからでもいいよ? 猗鈴さん達も多分直接聞きたいだろうし」

       

      エレベーターの中、無防備に背中を晒す盛実に、未来の胸が痛む。血を飲む前だったら裏切る罪悪感に耐えることはできなかった。

       

      「……夏音は、組織の存在を知って、自分が断ればきっと妹に声をかける、知らないところで妹が危険に晒される。感じて組織に入ったって言ってた」

       

      通信機越しに会話を聞きながら、猗鈴はグッと拳を握りしめた。

       

      「デジモンの力は超常的……夏音をスカウトした時、本庄はリヴァイアモンを人間界に連れてくれば両親を蘇生できると持ちかけた。実際は真っ赤な嘘だった。メモリには依存性があるから、とにかく使わせて少しでも悪事を働けばそれをネタにゆすれるという考えだった」

       

      私の時と根本的に同じ手口、でも夏音は私より強かだったと続けた。

       

      「……夏音は、乗り気なように演じて、幹部としてリヴァイアモンと通信し取り入ってあっという間に信頼を得た。他の幹部は魔王様って呼ぶけど、夏音だけおばばって肉親みたいに呼べるぐらいに」

       

      エレベーターを二人で出る。ソルフラワーの正面は広場のある公園になっている。そこに、他の仲間と公竜がいるのを未来は知っていた。

       

      「夏音は……組織の壊滅には二段階がいると言った。一つは、リヴァイアモンと本庄を倒すこと。リヴァイアモンが生きてる限り、組織自体を何度でもやり直せるし、本庄は別に目的があるから本庄を残せば『リヴァイアモンを人間界に連れてくる』以外の目的で動く組織に変質するだけ」

       

      未来は、ソルフラワーから出る直前で足を止めた。

       

      「二段階目は、組織の残党を倒すこと。夏音の計画では私の役目はこっち。私達の開発した制御装置はメモリの出力がひどく落ちる。でも、元の肉体が強くてメモリもネオヴァンデモンの私なら戦える。一段階目の開始の合図があったら私は組織を抜けてそれまで潜伏するという手筈」

       

      盛実がえっと振り返る。

       

      「ブレスドは、ネオヴァンデモンメモリが装置を受け付けなくなったし、鳥羽さんから接触されて作った、代替案。残党狩り用だからlevel5まで相手できれば十分と鳥羽さんに渡した。ボマーモンを倒した国見探偵の存在も合わせれば残党狩り用の戦力は十分、私はこのメモリを使う機会は訪れなくなった……はずだった」

       

      「……なんで止まるの」

       

      「一段階目が多分失敗した。夏音は致死のダメージを受けても蘇るけど、ダメージが残らないわけじゃない。リヴァイアモンがメモリに肉体を移した後、一度死んでメモリを挿す日付を延期させるつもりだった」

       

      「ねぇ!」

       

      「延期したとしてリヴァイアモンのメモリは誰に渡るか? 秦野か夏音……制御装置を通してリヴァイアモンのメモリを使う。それが夏音の考えた本庄を倒す方法。本庄を倒した後は……制御装置をつけたまま夏音が死んで、火葬されれば、夏音の肉体ごとリヴァイアモンの力も心も滅び去り……妹の生活は守られる」

       

      未来の言葉に、猗鈴は思わず息を呑んだ。

       

      元より夏音は死ぬつもりだった、妹の生活を守るために。人を殺して己も殺して。両親を殺した炎の中で自分を終わらせるつもりだった。

       

      「……私達はメモリを使えるけど理屈を理解しきれなかったから、メモリの状態で破壊してもサルベージできる可能性が頭にあった。確実な方法として考えたのが、肉体ごと葬ること」

       

      「そこに公竜さんもいる。怒ってもないし、憎んでもないよ!? 一緒に行こう!!」

       

      盛実の伸ばした手は、未来の身体から溢れ出た紫色の肉塊に阻まれる。

       

      「夏音が今何を考えてるかはわからない。わかるのは、夏音が道端で死んだあの日に計画が狂ったこと」

       

      盛実が構わず手を突き入れて未来の手を探すも、肉塊は有無を言わさず盛実を押し返した。

       

      「夏音はリヴァイアモンの器の第一候補でいるには傷つき過ぎたんだと思う。でも私は幹部の中では一番情報が制限されていたから、夏音の死をトラブルではなく合図だと受け取ってしまった……」

       

      ごめんなさい、そう未来は謝った。猗鈴にか盛実にかはもう未来自身にもわからない。

       

      「これは推測なんだけど……器の不足、私の行方不明、それだけなら適当に誤魔化して私を呼び戻し、また器となれるまで体調が回復するのを待てば元の計画に戻れた。でも、猗鈴さんが探偵として動き始めた事で夏音は黙ってるわけにはいかなくなった」

       

      猗鈴の動悸が早くなっていく。開いた目は瞬きも忘れ、通信機のイヤホンに全神経が集中されていく。

       

      「夏音が器になれるんだから、妹を器にした方が早いと誰かが言い出すのは目に見えていた。だから、夏音はあえて自分から組織との関わりを増やし、組織の解体を先に始めた。他の幹部に嫌がらせをして本庄を対応に忙殺させ……もしかしたら、自分が担当になったりもして、妹に手を出しにくくした」

       

      もし、組織に把握されて最初に襲いに来た刺客がlevel5以上、例えば信者だったら猗鈴は死んでいただろうと思うことはあった。

       

      「さらに状況が変わったのは、風切王果とママの出現かな。ああ、風切王果にメモリを渡したのは私。鳥羽さんと出会う前、ネオヴァンデモンメモリが勝手に動くようになって、私は他に残党を狩れる人を探してデジモンの血を強く感じた風切王果にメモリを渡した」

       

      猗鈴の様子に目を向けていた杉菜が、カッと目を見開いた。

       

      「彼女が暴れ出して、その直後に幹部を一人盛実さん達が倒したよね。どこまで夏音の意図かはわからないけど……その後、ママが来る頃には組織の商売の仕方が少し変わってる。個々人から組織との大きな取引に、新しいやり方にしたその時は前のやり方と変わることで追跡しにくくなるけど、方法を変えれば出てくる証拠も変わるから、組織を守る体で捕まえてくれ潰してくれと差し出した……んだと思う」

       

      「その話は、後でしよう!」

       

      「今止められたら私はもう話さない」

       

      そう言われて、盛実は何も言えなくなった。

       

      「今の夏音の狙いはおそらく、自分以外の器候補を探す余裕を組織からなくすこと。器候補でリヴァイアモンのお気に入りの夏音がいるから組織は雲隠れするとして夏音を置いていかない。部下も何もなくても、夏音が復調したらおそらくリヴァイアモンはメモリになろうとする。でも、安心してそれを進めるには今度は本庄の存在がノイズになってくる」

       

      「……本庄を倒す為に、私達とは一緒に来れないの?」

       

      「ブレスドの能力は知ってるし、ディコットも一応見た、制御装置としての完成度は私のとは比べものにならないぐらい高いけど、今の私から見たら足手まとい」

       

      そうだとも違うとも未来は言わなかった。幸せになっちゃいけない化け物だからと言うよりはマシだと思った。

       

      「……ソルフラワーの下で戦ってた時のままのディコットじゃない。猗鈴さんも姫芝も、強くなってる」

       

      「じゃあもしそれが、私に通じるようなら、私も一緒に行くよ」

       

      盛実は説得できない。未来にはわかっていた、未来は正しくないし全てが無茶苦茶だ。

       

      確実に本庄を倒したいなら協力した方がいい、罪を償うにも特殊すぎる状況なのだから現職の兄に相談するべきで、心情としても、兄のそばにいたいのはもちろんヒーローオタクの未来として出会って友達になれたただ一人である盛実の近くにもいたい。

       

      血を飲む前だったなら、そのどれもが、涙を流させ声を荒げさせ手に力を込めさせただろう。でも今は、ほんの少し表情筋が動く程度。

       

      産まれつきの怪人はそんな真っ当に幸せであるべきじゃない。だから、そうあっちゃいけない。

       

      真っ当な理屈を常人が鼻で笑う理屈で捻じ曲げる。通じさせまいと手を伸ばしてくれる友達に暴力を振るって遠ざける。

       

      「……どうして、そうなるんだよ」

       

      そう言う盛実を押しながら、未来はその身に肉塊をまとった。

       

      『ネオヴァンデモン』

       

      電子音の後、肉塊の中から、三日月のマークが三つ四つと現れ、月光を浴びて光ったかと思うと、地面に向けて黒い光線が数本放たれ、盛実の足元を焦がした。

       

      「……ディコットが戦いに応じないならそれでもいいよ、腕を奪えばもうベルトも作れないでしょ? そうしたら、あとは見ているだけしかできない。その状況なら戦いたくないあなたは戦わなくていい。兄さんもブレスドが使えなくなるように……くるぶしから先ぐらいならもいでいいよね」

       

      心にもないことをと盛実は眉を顰め、そう思ってくれてるんだろうけどと未来は考えていた。

       

      戦って欲しくない、だから戦えないようにすればいい、考えたとしておぞましいと思うべきそれに忌避感を覚えない事実を未来は噛み締めていた。

       

      「今の私を倒せるなら、本庄も倒せるよ」

       

      未来はぐいと爪で口角を持ち上げて笑顔を作った。

       

      「……ヒーローは怪人(化け物)を倒してこそ、そうでしょ?」

       

      「それは意義ありですね」

       

      公園の奥から出てきて、杉菜が未来の前にずいと立ち塞がった。

       

      「盛実さんから一度、名乗る時にこう言えと言われたことがあります。この街の涙を拭う二色のハンカチーフだと」

      杉菜は腰にベルトを着け、濃い緑のメモリを掲げる。

       

      「キザすぎる物言いだとは思いますが概ね賛成です。ヒーローは誰かの悲劇(なみだ)を止めてこそ。助けてこそです」

       

      杉菜に次いで、猗鈴も出てきて黄緑色のメモリを取り出す。

       

      「盛実さん、メモリをディコットで吸い出したらどうにかできる。そうですよね?」

       

      「……うん、できる、筈!」

       

      盛実の白衣から、機械仕掛けの鳥が飛び出して、杉菜の周りを旋回する。

       

      「使って、完成したてのアルティメットメモリ!」

       

      『サンフラウモン』『ザッソーモン』

       

      二人が同時にメモリを差し込み、猗鈴の身体がその場に崩れ落ちる。

       

      杉菜の身体がディコットのそれになると、周囲を旋回していたアルティメットメモリは、一人でに変形してバックルへと重なった。

       

      『アルティメット』

       

      陽都の希望、その双葉は今ここに花を咲かせるに至った。

       

       

      あとがき

      今回も見て頂きありがとうございました。

      アルティメットメモリ、皆さんお待ちかねだったかと思います。要はエクストリームです。サンフラウモンやザッソーモンから辿り得る究極を引っ張ってくるということで、へりこにあんの汚い絵とゴリゴリのアレンジから四種類の究極体を見つけ出せ!という感じのデザインでもあります。二度と描きたくない。

      次回は、スーパーこじらせ吸血姫VS燃料投下されたディコットサンフラウザッソーエクストリームと、ブレスド&天青さんVS???です。

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    • #4175

       どシリアスな中に突然ブチ込まれる最高弁当大盛。未来さん本来ならユーモアある特撮好きだったのにこんなことに。しかし花京院の如く当身でぐわーする博士と言い、少しでも場を和ませるぜと似合わない役目を無理にでも果たそうとする様はむしろ痛々しさすら感じるものです。公竜サンがシリアス120%なので他の皆で少しでも和ませなければという奴。
       というかアルティメット! よく考えたらep34なので平成ライダーの最強フォーム初登場と言えば34話付近というお約束をしっかり守られているのが燃え。猗鈴サンと姫芝は通信で聴いていたとはいえ、完全にW-B-Xのイントロ流しながらスーッとフェードインしてきているのがわかる奴。お姉ちゃんの行動の謎も一気に明かされた上、序盤現れたのがLevel4(成熟期)クラスで自分がギリギリ倒せる相手だった理由もしっかり理屈として物語上で提示してくれたのがお見事でした。
       
       作品及び放送年代(じだい)が違うというのは、まさしくこの作品におけるマスターや博士のポジションを示す台詞なのかと思いきや、そのまんまWとオーズでした。ドクター未来(みき)ィ!!
       ドーパントとグリードの違いにまで触れてくれて嬉しい。ヤミーではなかった。

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