ドレンチェリーを残さないでep29「

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      これは、猗鈴が陽都ひまわり園出向いていた、その時の話。

       

      デジタルワールドにある魔術、それは素質がある者ならば使える技術。公安ではそれを隠れ家のセーフティにも使っていた。

       

      定められた手順でなければ入れず、定められた手順でなければ出られない。存在を知らずに感知できるのは、公安にいるようなデジモンの感覚を少なからず持つ者のみ。

       

      「吸血鬼の気配が二つ……一つは新しい。鳥羽のだ。だがもう一つは何年も前のもの……」

       

      公竜は当然それを理解していた。

       

      ほんの十五分も歩けば陽都ひまわり園にも着くだろう。しかし、手順を知らなければ永遠に辿り着けない。

       

      「母を殺せる手段がもしあるならば……この数年前の気配はその時に死んだ吸血鬼のもの、ということか?」

       

      しっかり作られた年代物のログハウスに近づくと、ん、と公竜は足を止めた。

       

      「結界がもう一つ……新しい様式、新しく張ったやつか。確かパスワード式の……11132020」

       

      虚空でガチャリと音が鳴る。

       

      「僕の名前をパスワードに使うなと何度も言ったのに……」

       

      ログハウスに近づき、ドアを開く。鍵は壊れている。破壊痕から恵理座が壊したの。つまりなんらかの理由で閉められていた何かを掘り起こしたのだろうと公竜は考えた。

       

      中に入って、公竜は部屋の中を見回し、なんだこれはと呟いた。

       

      公竜の想像していたのは、凄惨な血に濡れた現場か、少なからず先頭の痕跡でもあるような場所だった。

       

      しかし、そこにあったのは至って平和な部屋だった。埃こそ溜まっているものの、綺麗に使われていたのがよくわかる。

       

      しかし、部屋の中の吸血鬼の気配は強い。

       

      「吸血鬼が使っていた家だったのか……?」

       

      一階にあったトイレもキッチンも風呂場も、血の跡などは見られず、公竜は二階に上がった。

       

      すると、三つある部屋にそれぞれプレートがかかっていた。

       

      一つは、プレートは古いがその上に『愛♡の資料保管庫』と書かれた紙が貼られていた。

       

      「……こんなの残すなら、文句の一つも言う機会ぐらい欲しいな」

       

      はぁとため息を吐き、もう二枚のプレートを見る。一つは軽井さんの部屋、もう一つは未来の部屋と書かれていた。

       

      「字が幼いな……書いたのは子供か」

       

      だとすればと、公竜は軽井さんの部屋と書かれたドアを開けた。

       

      「……おもちゃばかりだな」

       

      ヒーローもののフィギュアが何個も何個もショーケースに飾られている。公竜にはよくわからないが、子供の頃にテレビで見た覚えがあるような胸に丸い三色のマークがついたヒーローがいて、その隣は何故か空白がある。

       

      ふと、フィギュアの指を見て、公竜はショーケースの左上からそれを見ていく。

       

      「手の位置と指の本数を五十音に当てはめて作られた暗号、解読パターンは単純……読めなくはないな」

       

      『かるいみらいへ』

       

      「軽井未来へ、か……」

       

      公竜は部屋の奥に置かれたデスクを見る。その周りだけ埃が薄い、恵理座も探した証拠。そして、際立って取っ手の埃が薄い引き出しを公竜は開けると、手を突っ込んでその仕切り板を触ると、一枚のメモリーカードが見つかった。

       

      それを見て、公竜はふむとその容量を見た後、もう一度引き出しに手を入れるとメモリーカードがはめ込まれていた溝に触れ、そこに何かを差し込めるもう一段深い溝があるのを確かめると、メモリーカードを差し込んだ。

       

      「二十年ぐらい前に公安が好んで使った二重隠蔽……軽井は公安の人間か」

       

      かちかちと机の中から三度音が鳴った後、色違いの容量の大きなメモリーカードが溝から落ちてきた。

       

      タブレットにメモリーカードを差し込み、現れたパスワードの画面に『明るい未来へ』と打ち込む。

       

      そうして出てきた報告書に、公竜はぎりと歯を噛み締めた。

       

      「吸血鬼王グランドラクモンの娘、未来の観察記録……公安がろくでもないのはよく知っていたつもりだが、別々に公安の監視下に置いていたとは」

       

      記録の最後はおよそ十年前、二十歳を少し過ぎた頃だった。それまで未来はこの家の敷地から自由に外に出られていなかったことになる。

       

      「……何故、妹の存在を隠した?」

       

      ふと、そんな疑問が公竜の頭を過ぎる。恵理座は知った時点でそれを自分に伝えるはずだと公竜は思った。

       

      部屋を出て、公竜は未来のプレートのかけられた部屋の扉を開く。

       

      その部屋は、子供部屋をそのまま使っている様な部屋で。床にはたっぷりと埃が積もっていた。ほとんど入った形跡もない、ただ、棚の上に置かれた怪人らしい数個のフィギュアの並びに、一つだけヒーローのフィギュアがあって、その周りだけ埃が薄かった。

       

      「……変身した後の姿に似ているな」

       

      公竜は自分の手に持ったトランクをちらっと見て、だから恵理座も見たのだろうが手がかりはなさそうだと判断して部屋を出た。

       

      『愛♡の資料保管庫』のプレートの書かれた部屋の扉を開けると、そこは前二つの部屋と違ってひどく物が多く整理されていなかった。

       

      元々倉庫だったのだろう、奥に押し込まれたのは二十年近く前の家電製品や古い雑誌、子供のおもちゃ。その手前に新しめのスチールラックにわかりやすくファイルが並べてあった。

       

      「これは……メモリと僕の使うスーツにまつわる技術資料か。専門外の僕では理解できないな」

       

      幾つかのファイルを開くと、その内の一つからひらりと紙が一枚落ちた。

       

      『公竜さん、もしくは公竜さんと一緒に来ただろう探偵事務所の誰かへ』

       

      「……すまない、一人だ」

       

      出だしの文に、公竜はそう謝ってさらにその下を読む。

       

      『この資料を読んでいるということは、私は死んだのでしょう』

       

      公竜は、少し衝撃を受けたがそのまま読み進める。

       

      『この資料は、本来人間界への持ち出し禁止の資料です』

       

      『ボスの、ケルビモンの計らいで幾つかの誓約とそれを破れば心臓が破壊されることを条件に持ち出したものです』

       

      『電脳核と心臓の両方を持つ私ならば、この内容を一人にしか共有してはいけない誓約を破っても死なない。ボスはそう考え、座天使や熾天使を説き伏せてくれました』

       

      『しかし、私の心臓は既に機能していない。誓約を破れば心臓として機能している電脳核が代わりに破壊される。私を撃った座天使派が私の肉体に関する報告書を改竄していた事を、ボスは知らなかった』

       

      『要領を得なくてごめんなさい。つまり、私がどう死んだかわかりませんが、今回の事態の規模や内容を考えると、遅かれ早かれ私は死んでいた訳です。気にしないでください』

       

      そんな風に考えられる訳がなかった。

       

      『公竜さんが気に病んでピーピー泣いたり、屋上で一人夜風に吹かれて黄昏たり、私を思って闇堕ちしかけている様を見られないのが心残りです』

       

      余計なことをと公竜は少し微笑みつぶやいた。

       

      『まぁ、公竜さんのことなので大事だとは思ってますが、妹の未来さんやお母さんとは仲直りできましたか、公竜さん』

       

      妹の名前があるのはまだ公竜も予想していたが、そこに母のことが書いてあって、公竜は思わず動揺した。

       

      公竜は、最早その吸血鬼王を自分の母親とは見れていないのに、それでも恵理座は吸血鬼王を公竜の家族と見ていた。

       

      そうなれば、殺されながらも戦うのを止めた理由にも違う意味が出てくる。断絶を決定的にさせない為、公竜がそれでも母親と仲直りできる可能性を信じていたのかもしれない。

       

      そう考えると、公竜は言葉にもし難い混沌とした想いに駆られた。

       

      『資料は好きに使ってください。未来さんの来歴もあります。技術資料はわかんないので関係ありそうなの色々持ち出して、未来さんに八割方見せました』

       

      公竜は、ファイルの中から未来と書かれたものを手に取る。

       

      その一ページ目で組織における未来が幹部である事、役割、現在の組織が本格的に動き出した五年前、何人もの旧組織の幹部とそのメモリを使わされた人間を殺害した事。そうした現在の悪行が書かれていた。

       

      悲しさと怒りがあった。二十歳を超えても公安に監禁され続け、道を踏み外す。本人だけのせいとは言い難いが、それでも罪でないとは言えない。

       

      罪の責任は取らねばいけないし、兄としてできることはその後押し、警察としての務めを果たすことぐらいに思えた。

       

      公竜の脳裏に恵理座の姿が浮かぶ。未来の存在を隠し、公竜の武器を未来に造らせたのは、単に悪人として公竜が向き合わない為、怒りと正義感で向き合わせない為。

       

      わかっていても冷静でいられない気がして、一度ファイルを閉じて、公竜はまた手紙に目を移した。

       

      『p.s 黒い箱がもし残っていたら、私の大切な人の名前をパスワードに設定してあるので、どうぞ』

       

      公竜は、ある名前を呟いて、そして、黒い箱に手をかけた。手で表面を触ると手にピリと軽い衝撃が走った。

       

      「……ダイヤル以外魔術的に保護されている、箱も……クロンデジゾイドコーティングか。公安の定型の魔術じゃなく、智天使から渡された資料をうっかり共有して死なない為のものか」

       

      ダイヤルは12桁のアルファベット、公竜の手はそれでも澱みなくそれを開けた。

       

      「……これは、こんなもの、どこから……」

       

      そこにあったのは公竜の子供と未来の子供頃の写真。父も写っていて、まだ皆が幸せそうに笑っている。

       

      ただし、そこに母親の姿はなかった。

       

      パスワードは恵理座の本名。大事な人、守りたかったもの、彼女もある日突然に失ってしまったもの。

       

      だからこそ、自分には取り戻して欲しかったのだろうと考えると、ただでさえ混沌とした胸中がさらにぐちゃぐちゃになっていく。

       

      「……まずは、美園さんに手伝ってもらい資料を斎藤博士の元へ運ばなくてはいけない」

       

      深呼吸をして、黒い箱を閉じた。

       

      肌身離さず持ち歩いていた鳥羽の携帯に、便五からの電話がかかってきたのは、ちょうどそんな時だった。

       

      「……ことのあらましは、わかりました」

       

      天青は公竜の方を見ない様にしながらガリガリと豆を挽く。

       

      店に戻ってきた天青は自分を通さずに起きた一連のことに頭を抱え、公竜の胸ぐらを掴まんばかりだったが、自分がいなかった負い目から、ただ不機嫌に豆を挽いては杉菜に泥と称されたコーヒーを公竜に出すに留めていた。

       

      「つまり、当初の目的は鳥羽さんの遺したものを確かめることだった」

       

      まだ飲み終えていない公竜の前に三杯目のコーヒーが差し出される。

       

      「小林さんは資料を確保したが、猗鈴さんは組織に関係あるかもしれない施設に調査に入った結果子供に。施設にいた蝶野ともう一人の組織の女は確保。孤児から組織の幹部候補を探していた事が明らかになった……」

       

      苦そうですねと言って、天青は公竜の飲み掛けのコーヒーにざらざらざらと砂糖を山盛りにする。

       

      「組織の女は、幹部の一人で小林さんの妹、ミラーカを救うために蝶野の肉体の時間を戻す能力が必要だと言っている」

       

      公竜は確かに責任を感じていたので甘んじて天青の嫌がらせを受け入れ、杉菜はやり過ぎではと思ってそれを見ていた。

       

      「得たものは、鳥羽さんの遺した技術資料とミラーカの情報。確保した二人も組織の売人なんかと比べれば格段に中枢に近い……でも、猗鈴さんはあとどれくらい子供のまま? 博士」

       

      「うーん、とりあえずこの飲み薬は、鱗粉から体内に入ったティンカーモンのデータを吸着して排泄できる様にする薬で、人間の場合の負担は未知数だから、一応数日かけて抜くつもりでいる」

       

      盛実は公竜のベルトと技術資料を見比べながらそう言った。とうの猗鈴は十歳相当の時より少し大きくなった姿で杉菜の隣に座っており、その隣には何故か当たり前のように便五がいた。

       

      「その間はあまり無茶はできない。博士、猗鈴さんは本来と今とでどれくらいの差がある?」

       

      「純粋に基礎の身体機能の差でかなり弱体化してるね。メモリの肉体に対しての効果は掛け算と思ってもらっていい。十九歳と今の推定十二歳だとかなり差があるし、治療中で肉体の状態が安定してないのもよくない……」

       

      「わかった。じゃあ猗鈴さんが戻るまでは、幹部が現れたら私が戦う」

       

      「駄目! アウト! 認めません!」

       

      「……でも、小林さんのベルトは夏音さんに太刀打ちできなかったんでしょ?」

       

      「それは……多分、なんとかなる」

       

      「なんとかって?」

       

      「とりあえず、このザミエールモンメモリを小林さん用に調節する」

       

      そう言って盛実は緑色のメモリを見せた。

       

      「……矢を放ったり放った矢を大きくするだけのメモリでしたよね。それ」

       

      杉菜の言葉に、違うよと盛実は強く否定した。

       

      「これは、私達の同級生が脳に寄生させていたデジモンで五本の指に入るlevel6相当デジモンのメモリ! 一応私の持ってる単体のメモリでは最強のメモリなんだよ、これ」

       

      特殊能力は無いに等しいけど強くて速くて遠距離武器もあって物理が通じる相手には大体勝てるメモリだと盛実は力説した。

       

      「にしては、私が使った時は弱かった気が……」

       

      「私のドライバーはメモリとの相性が性能にも身体にも結構影響する仕組みだから……機能制限つけないと姫芝が変身ごとにマスターみたいになっちゃう」

       

      猗鈴さんが戦えないから遠距離手段要るねって渡したのに、使ぅたら戦えなくなるんじゃ本末転倒だしと盛実はいった。

       

      「ブレスドなら、違うと?」

       

      「全然違うよ。クロンデジゾイドに負荷をほぼ丸投げできる構造。めちゃくちゃ重い強化外骨格って感じで、……えと、他のメモリ併用不可の短期決戦モードとしてなら三十分で調整できるよ」

       

      「他のメモリとの併用不可……僕が鳥羽のヴァンデモンXメモリを使った時にエラーになった様に、他と使うとエラーになってしまうと?」

       

      「うーん……それは多分違う筈……ザミエールモンメモリの併用不可はドライバの処理できる容量の問題だから……完全体のメモリ一本ならどうとでもなる筈……」

       

      「……少し、このメモリを調べていただけませんか?」

       

      そう言って、公竜は盛実へとヴァンデモンXメモリを渡した。

       

      「……これが、鳥羽さんの残したメモリ、うん。ちゃんと調べます」

       

      重さを確かめる様な仕草を何回かして、盛実はそれをツナギの胸ポケットに入れた。

       

      「ところで、ミラーカはどうしますか?」

       

      「どう、とは?」

       

      「……トロピアモンメモリの、夏音に寄生していたウッドモンの情報によれば、夏音とミラーカは手を組んでいたらしく、夏音に何があったか、それを知ってるのはきっとミラーカだろうと」

       

      ちらりと杉菜は猗鈴を見た。

       

      「確かに。私達探偵は罪を裁く立場では無い。だから鳥羽さんの願いと猗鈴さんの目的を軸に行動できる。ミラーカと敵対するのではなく、和解を目指せる。でも小林さんは警察の人間、理由はどうあれ犯罪者を捕まえる立場……小林さんも曲がらなければ和解は難しい」

       

      「……鳥羽は、だから妹にブレスドを作らせた。この装備が事態の解決に貢献すれば、相応の考慮ができる。そうやって協力する態度には更生が期待できると評価できる。曲がらずとも和解させる理由作り」

       

      じゃあ、と盛実が何か言おうとしたのを、天青は止めた。

       

      「それでもあなたは納得しきれていない」

       

      「……組織の生産部門のトップ。つまりはこの街でメモリ犯罪者達が行なってきたことの多くに妹の責任がある。被害の規模が大き過ぎる。和解したいとは思いますが、警察としてそうあってはならないとも思う」

       

      「……わかりました。じゃあ、和解ですね」

       

      「国見さん? 今、小林さんは悩んでるって……」

       

      「私は博士を傷つけた公安が嫌いなので、そもそも警察としての小林さんの意見を聞くつもりはない」

       

      天青はそう言って、そっぽを向いた。

       

      「だから、警察じゃなく、未来さんお和解させたい鳥羽さんと和解したい小林さんの気持ちの味方をする。もしどうしても小林さんの立場上捕まえなくてはいけなくなったら、その時は勝手に逃走の手助けをする」

       

      「……ありがとうございます」

       

      「まぁ、今回みたいに私が公安嫌いだからか報告なしで動かれても困りますし」

       

      天青はそう言ってちらりと猗鈴を見たが、猗鈴は当然そんなことはわからない。

       

      「それで、どうしますか? ミラーカの居場所を掴んだ訳じゃないでしょう?」

       

      それならと盛実は声を上げようとしたが、その前に公竜が動いた。

       

      「鳥羽の残した資料の多くはまだ運びきれず置いてあります。それを国見さんに確認してもらいたい」

       

      まぁ、それならその方が先かもと盛実はスッと座り直した。

       

      「……じゃあその間私は」

       

      「博士を一人にしていくわけにもいかないから、姫芝は留守番。便五くんもバイト代は出すから」

       

      「え、でも猗鈴さんが年齢戻ってく時に誰か見てないと状況がわからなくなるかもだし……」

       

      「それは大丈夫、十歳の私がメモを用意している」

       

      猗鈴はそう言って、首から下げたメモ帳を便五に見せた。

       

      「お兄さんは特に用がないなら帰っていいよ」

       

      その言葉に、便五は少ししょんぼりしながら立ち上がると、天青にユニフォームの場所を聞いて。奥へ消えていった。

       

       

       

       

       

       

       

       

       

      夜になる、日が落ちる、寝よう寝ようと目を瞑る。

       

      カーテンを閉め切った部屋の中は本来爬虫類飼育用の紫外線ライトをずらりと並べて昼間の様な明るさになっている。暑すぎて冬でもエアコンをかけていないと寝られない。

       

      軽井未来の夜は長い。何度も自分の人生を振り返った。

       

      身体の中でネオヴァンデモンのメモリが電脳核に張り付いて脈動している。

       

      吸血鬼王の血を色濃く継いだ未来には、人間にはない電脳核が心臓と別にあった。

       

      特別養護施設に拾われたその歳の健康診断でそれがわかり、病院に連れていかれ、臓器とも異物とも取れないそれを世に報告しようとした医者は公安に黙らされた。

       

      公安の元に連れて行かれ、軽井命と名乗る女性と二人、学校にも通わせてもらえず生活をした。未来は、彼女を軽井さんと呼んだ。

       

      十二歳で吸血衝動、十五歳で日光で火傷を負うようになり、五年前、唐突に出ていった軽井命は戻ってこなかった。

       

      代わりに現れたのは本庄善輝だった。彼は、人を助ける組織だと言った。デジモンの脅威にメモリの力で立ち向かうのだと、メモリは人を救える力があると、例えば未来の様に心臓と別に電脳核を持てる技術があれば心臓病は過去のものになると。

       

      ひっそりと山の中、軽井さんはよく仮面ライ○ーを見ていた。

       

      「あんたほどじゃないけど、私にもバケモンの血が流れてる」

       

      監視役の手の甲は、一部だけ青くて蟹か海老の甲羅の様になっていた。

       

      「ライダーは力が化け物か人か決めるんじゃない、使い方で決まるんだと教えてくれる」

       

      軽井さんはいつもそう言っていた。

       

      「私は正義のヒーローじゃないけど、公安にいることで正義の味方で人にはなれているって、そう思ってるんだ」

       

      軽井さんはいつかコンビを組もうと言っていた。でも、コンビを組む前に消えた。きっと殉職したと思った。

       

      善輝は、きっと同僚だったのだと。彼女と同じ正義の味方なのだと未来は信じていた。

       

      「彼女はね、なんの罪もない高校生を撃ち殺してしまったことを悔いて突発的に自殺したよ。誤情報を公安の上層部につかまされたんだ。正義感が強くて、理想主義だったから、公安には都合が悪かった」

       

      善輝がそう未来に告げたのは、未来が旧組織の幹部で組織に戻らなかった幹部を殺し尽くした後だった。

       

      デジモンを殺した際に、遂に肉体にされている人達も殺していることに気づいて問い詰めた時のことだった。

       

      姉の様に慕っていた軽井さんは正義の味方だと思わされてるだけだった。自分もそうだと気づいてその後を追おうとした。

       

      死ねなかった。

       

      「ネオヴァンデモンは、嗜虐嗜好と食欲の他に感情を持たないデジモンだ。君の罪悪感も、苦しみも、きっとその内なくなるだろうから、安心していいよ」

       

      善輝は本気で言っているように未来には見えた。自分達は家族と言いながら、非道なことを家族にしても何も感じてなくて、ただ、都合のいい部分だけを喜んでいる。

       

      欠けていると未来は思った。自分と同じようにこの人は元から欠けているんだと。

       

      化け物は化け物から変われないのだと。

       

      死のう死のうと繰り返す内に、未来は普通の食事に喜びを覚えなくなったことに気がついた。好きだったことに心が動かなくなっていく。

       

      死ぬ度に、心が死んでネオヴァンデモンになっていく。

       

      毎月ヒーローショーを観ることにして、好きなライダーのアイテムを持ち歩く様になった。そうしていれば、少しは人間らしくいられる気がした。

       

      組織の幹部を続けたのは、自分を殺す術を見つける為で、その為に要になって見えた製造工程に関わることにした。

       

      でも、結論としては善輝を倒す以外に組織を潰す術は思いつかなかった。

       

      そんな風に燻っている時だった。

       

      もっと若くして幹部となった夏音とちゃんと話す機会を得た。

       

       

      あとがき

      今回も読んで頂きありがとうございます。

      次回で30話ですね。サロンで上げていたものが40話ほどまでなので、あと10話ほどで追いつくことになってきまして、少し焦ってきました。

      ではでは、また次回お会いできたらと思います。

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    • #4118

       そろそろ30話! しかしサロンでは40話だったこともあり、大分遠くまで来たものだなと思う次第でした。それはそうと「とは……?
       公竜サンの内面描写、というより内面を抉られる描写が主体ながらザミエールモンメモリの起源と「役立たずなんてこたぁねえぞ!」と明かされる熱い話。繰り返しですが鳥羽さんは死んだ後の方が存在感あるどころか、如何にして公竜サンに心理的外傷トラウマを与えられるかを己の命を賭して試していた節がある。重い思いのほか重い女というか重要な女だったのだ……!
       
      >臓器とも異物とも取れないそれを世に報告しようとした医者は公安に黙らされた。
       黙らされたってまさか物理的に。
       博士達のみならず敵に位置する側にも重要な役割を果たす(創作作品としての)仮面ライダーに燃え。幼い頃に見たそれがその人の在り方を左右するなんてのは自惚れかもしれないけれど、それでも子供時分に見たものは確かに一つの指針となるという。それはそうと軽井“さん”の方が見ていたライダーとは果たしていつの頃なのか……。
       
       便五クンまさかの放逐で涙。何故だ!!

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