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トピック
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宝石商トラバサミはネオデビモンだ。以前にも述べた気がするが、この種は一応人型で、所謂半裸と呼ぶべき姿をしている。
月が変わるまではハロウィンの空気感で誤魔化せていたが、いい加減その姿形だけで顰蹙を買いかねないとは本デジモンも理解している。
だからといって、寒さを感じる質でも無い。トラバサミには、自分がごてごてと着込んでいる姿など、到底想像できないでいた。
彼の相棒、スカルグレイモンのホープも当然何かを身につけている訳では無いが、ひと目見て屍と解る身体には、もの悲しい木枯らしが妙に様になる。
「骨身に堪える寒さ」なんて表現もあるが、今のところ、骨身のホープは、どこ吹く風といった様子だ。
ホープの一本角にひっかけられて、時折風に揺れている古ぼけたトランクだけが、なんとなしに。宝石商トラバサミの店では唯一、冬の訪れを訴えている風だった。
*
「今度こそ言えますなあ、ようやく涼しくなってきましたな、と。
……どころか、寒い? ああ、ニンゲンの肌だともうそんなモンなんですかい。
見ての通り、あっしもホープも、気温の変化には強いんです。……夏のアレは……ほら、限度ってモンがありやすし、日差しは普通に堪えるので。
ま、何はともあれ、よういらした。お待ちしておりやしたよ。
見た目に寒いのは堪忍してくだせえ。代わりに今月は、暖かい色味の石を用意しております故。
では、早速お目に入れましょう。
ホープや、トランクを降ろしておくれ。
というワケで、こちらが今月の石でさぁ。
ええ、間違いありゃしやせん。今月の石です。
……ああ、そういえばこちらで原石らしい原石をお出しするのは、ひょっとして初めてでしたかな?
ですが、これはこれで味わいがありましょう。
トパーズ。それも、インペリアルトパーズの原石です。
トパーズというのは和名で「黄玉」と呼ぶんですが、その実、サファイアの時みたく、内包物によっては透明であったり青色であったりと、様々な色のモノがありやしてな。これを商売用にするために加熱等の処理で色味を引き出すのが一般的だったりするんです。
その中で、原石の時点で目が覚めるほど黄みが強く深みのある色合いのものだけが、インペリアルの名を冠する事が出来るんでさぁ。
そう言われると、途端に良いモノに見えてきますでしょう。実際、磨く前から鼈甲飴みたいに艶がある。幼子だったら、口に含んでからんころんと、転がしてみたいとも思っちまうやもしれやせんねぇ。
しかしどうして、そんな良い石がこれ以上磨かれる事も無く、原石のままで残されておるのか。
ええ、ええ。お客さんもお察しの通り、この石にも物語があるんでさぁ。
魔王はソイツを重んじて、このトパーズに関しては原石のまま手元で愛でていた。即ち、このインペリアルトパーズは、原石である事に意味があるってワケなんです。
今からソイツをお聞かせしやしょう。
時にお客さん、8月にご紹介した宝石については覚えておられますかな?
ペリドット――かの石は、隕石の中にその身を潜めている事がある。即ち、宇宙からやって来る事もあると。そんな話をした事を。
こちらのトパーズは、ひょっとすると。宇宙よりも遠い所から、あっしらのデジタルワールドへと届けられたのやもしれやせんで。
異世界。
デジタルワールドと、我々がリアルワールドと呼ぶあんさんらの世界が繋がっているように。デジタルワールドでは、理の異なる他の世界と接続する事象が多々起きる。
代表的なトコですと魔術世界“ウィッチェルニー”、神々の領域“イリアス”あたりなら、お客さんも耳にした事ぐらいはあるんじゃないですかねぇ。
そういや、先月“シャンバラ”のお話もちらとしたんでしたっけか。アレも異世界のひとつでさぁ。
このトパーズの故郷は、今となってはだぁれも知りやしやせんが。
昔々、とある“ブイモン”というデジモンがある世界に迷い込み、冒険を繰り広げ、その証としてこのトパーズを持ち帰った後、向こうの世界へと再び行方をくらました。と。それだけは今でも伝わっておるんです。
ブイモンというのは、デジタルワールドに古代から存在するデジモンで、それ故かの種族に纏わる言い伝えも多く残されているんです。
いや、太古の昔に限ったハナシじゃあありやせん、当代のデジタルワールドの守護者たる13の騎士・ロイヤルナイツにも、かの種に連なるデジモンが2体も籍を置いているという噂だ。
そんな聖騎士達の礎として君臨していた、インペリアルドラモンという名のデジモンもまた、ブイモンを起源に持つんだとか、何だとか。
だからでしょうかね。そのトパーズを異世界から持ち帰ったブイモンも、終いには“皇帝”の名を冠するに至ったんだと。
故にそちらのインペリアルトパーズは、“異界帝の黄玉”の異名で呼ばれておるのです。
……とはいえ、今回のお話の主役は、かの異界帝ではありゃしやせん。
ソイツを受け継いだ事以外は、何の変哲も無い成長期。
どこにでもいるようなブイモンの物語なんでさぁ。
*
そのブイモンは、異界帝の故郷にあたる集落にて生を受けたデジモンでした。
幼い頃から異界帝の伝説に親しみ、順当に憧れを抱き、いずれ自分も世界を股にかける英雄になると真っ当に夢を見た、繰り返しになりますが、どこにでもいるような成長期デジモンでごぜぇやす。
とはいえかのブイモンは大層な努力家でしてな。もちろん実力は世代相応でしたが、夢を現実とするために出来る事は惜しまず、同世代の中じゃあ所謂優等生として周囲に一目置かれていた。
里長に実力を認められ、異界帝が持ち帰ったと伝わるトパーズを身につける栄誉を許される程度には、ブイモンは日頃の行いがよろしかった。
干し草の類を拙く巻き付けて、ブイモンは勲章のように首からトパーズをかけていたんだと。それはもう、肌身離さず、四六時中。
もちろん、身体を鍛える稽古の時にも。
ブイモンというのは頭突きの必殺技を持つ種なんですが、特訓用の大岩に頭をぶつけた反動で宙に反り返ったトパーズが、ごつんと顔面を強打しただなんて、そんな笑い話も残っておったりしやす。
だがそこはデジタルワールド。牧歌的な光景だけでお話が終わるなんて事もありゃしやせん。
ある時、マンティコアモンという完全体の魔獣型デジモンが、ブイモンの住む村を襲いやした。
一度は村の者総出で奴を退けたようですが、魔獣型というのはなかなか執念深い。獲物と定められれば最後、連中は命尽きるまで何度でも何度でも襲い来る。
集落が受けた打撃も手痛いものだったようで。何度でも、とは言いやしたが、防衛する側としては、二度目が無いとは目に見えておりやした。
生まれ育った村の惨状を目の当たりにし、いくら成績優秀とはいえ所詮は成長期、守られる立場に甘んじるしか無かったブイモンは、きつくトパーズを握り締め、悔しさに身を焦がしていた事でしょうな。
せめて、自分が出来る事をせねば。と。ブイモンは傷付いた成熟期デジモン達の看病や、あって無いようなバリケード作りを手伝いました。英雄を志す程度には、清き心の持ち主でしたから。
そうやって、年長者の居るところに顔を出していたからこそ、ブイモンは彼らの口伝てに情報を得る事が出来た。
曰く、マンティコアモンとは、本来天使が使役する獣である、と。
ブイモンは、天使を知っておりやした。
時々村にやって来るのです。そうして、勉学や訓練に励むブイモン達を眺めては、感心、感心と彼らを褒めて、気が済むと帰って行く不思議なデジモン達だ、と。
その日の夜、トパーズを下げたブイモンは、こっそりと村を抜け出しました。
初めての冒険です。
天使に会いに行くのだと。
マンティコアモンが天使に従う獣なら、かのデジモンをどうか鎮めて欲しいと、頼むために。
手負いとはいえ魔獣が身を潜めた森を抜け、ブイモンが天使達の詰め所に辿り着けたのは、単純に運が良かったのと――まあ、そう離れた場所では無かったんでさぁ。
ブイモンの初めての冒険は、呆気なく終わりを迎えました。
ですが、ブイモンに不満は無かったようですな。むしろ助かったと胸を撫で下ろしたんだとか。
あんまり離れたところにあったら、助けを呼ぶ前に魔獣が引き返してくるかもしれやせんからね。
見張りに呼び止められたブイモンは、集落を襲った災いについて、早速訴えを申し出ました。
すると見張りはブイモンを詰め所の中に通し、受け付けにあたる天使へと同じ話をさせ、ようやく奥に案内したと思ったら、大天使に同じ話をするよう促した。
こちらで言うお役所仕事にやきもきしたでしょうに、ブイモンは健気にも、同じ話を三度繰り返しやした。
大天使は黙って耳を傾け。ブイモンが話し終えてからもしばし沈黙を保った後、ようやく勿体ぶって口を開いた。
確かに、マンティコアモンは我ら天使に使役される事も多い。
自分達天使ならば、マンティコアモンを御する事も不可能では無いだろう。
しかし同時に、マンティコアモンは悪性のデジモンを貪る性質を持つデジモン。
そんなデジモンが村を襲ったという事は、村には何かやましい秘密でもあるのではないか?
……ブイモンは当然首を横に振りやした。ですが、大天使は幼さ故に知らぬだけやもしれぬと、険しく結んだ唇の形を崩しやせん。
ようするに、助けは出さないと。
そう言うている事だけは、ブイモンにもわかったようですな。
ここでひとつ種明かしをいたしやしょう。
ブイモンの、そして異界帝の生まれた集落は、天使達の使役する魔獣を育てるための村でした。
ブイモンというのは、強い光の力を与えると、ガーゴモンという魔獣に進化する事で知られておりやす。
村は、英雄を育む里ではなく。
天使達が召使いを補充するための機関でありやした。
そういった場所を、天使達はいくつも抱えておりやしたからな。ひとつ潰れたところで、でさぁ。
おそらくマンティコアモンは、そんな村から抜け出した1体が、しかし生まれには逆らえず、悲しい里帰りを果たした結果なのでしょう。
そしてマンティコアモンは、一度暴れ出せば使役する側の天使達ですら手に負えない。
労力に見合わない、と。
大天使は、冷静に判断したってところでしょう。
とはいえブイモンの知った話では無いし、知っていたとてかの村はブイモンの故郷、尊敬する異界帝の生まれ故郷だ。
大きな眼を潤ませたブイモンは、再びトパーズを握り締めて――そうして、気付いたんでさ。
宝石の無力と、宝石の価値に。
ブイモンは、あれだけ大切に首から提げていたトパーズを、鋭い爪の付いた手指で傷つけないよう、慎重に干し草から解いて、外しやした。
そうして、そのまま。天使達へと、異界帝の黄玉を差し出したのです。
タダでとは言いません。
村の宝であるこの宝石を、天使様達に捧げます。
だからどうか、村に罪があるならばそれをお赦しください。
そして、どうか村を助けて下さい。……とね。
結論から言いやしょう。村は救われました。
マンティコアモンは天使達に拘束され、彼らの傘下に加えられた。
村は宝を失いやしたが、誰もブイモンを責めなんだ。
どころか、ブイモンの勇気ある決断は誰しもに称えられ、七大罪と対になる七つの美徳、その内の“救恤”の体現者として、天使達の間でも広く言い伝えられるようになったとさ。
めでたし、めでたし。
……なぁんて、そうやって天使共、トパーズだけでなく寓話まで欲しいと「欲をかいた」モンだから。
そんなだから、宝石狂いに目を付けられるんでさぁ。
ほうれ、結末はご覧の通り。
異界帝のインペリアルトパーズは、今や魔王の遺品を扱うこのあっし、宝石商トラバサミの店の商品でさぁ。
*
まあ、魔王に目を付けられたも何も、トパーズについて宝石狂いに教えたのはあっしなんですがね。
事のついでだ。もうひとつ、種明かしいたしやしょう。
あっしはブイモンが懇願に訪れた、まさにその場所に居合わせやした。……堕天使、ですからねぇ。そういう事でさぁ。
ヴォルケニックドラモンの青い心臓が、権天使を魔王に堕とした石なら。ブイモンの大事なインペリアルトパーズは、あっしを宝石商にした石という事になりやしょうか。
というのもね、お客さん。
あっしも堕ちたばかりの頃は、多少天使の情け深さが残っておりやしたから。ブイモンの住む集落を訪れて、インペリアルトパーズを返して欲しくはないかと、そんな話をもちかけたりもしたんです。
ブイモンはガーゴモンにこそなっていませんでしたが、いわゆる“正規ルート”と呼ばれる系列を外れて、恐竜型の類に進化しておった。
太古の皇帝竜にも、聖騎士にも程遠い姿ではありやしたが――村を守るだけの腕っ節としたたかさは、兼ね備えている姿でした。
ブイモンだったそのデジモンは、あっしの誘いを断りやした。
しかし、もしも叶うなら。異界帝の黄玉は、魔王に献上して欲しい、と。
見返りに、どうかこの村には手を出さないで欲しいと。そんな取引を、逆に持ちかけながら、ね。
魔王はその提案を呑みやしたよ。
天使もほぼほぼ滅んだ今となっては、ブイモンだったデジモンはかの集落の長老として、今でも穏やかに暮らしているそうです。
……うん? デジタルワールドの天使は、いささかクソすぎやしないかって?
そりゃあお客さん、悪魔の側の話だけ聞いてソイツを決めるのは、それこそ早計ってモンでさぁ。個人的には、首が千切れるほど頷いてやりたいぐらいですがね。
魔王は確かに、取り付けた約束は守りやしたし、強き者には敬意を払った。手放す事を嫌う分、身内にもそこそこ甘かった。
しかし宝石のためならばと無意味に殺戮を繰り返したってのも嘘じゃない。あっしら宝石商が儲けている裏で、救恤を謳った連中は大勢死んだ。ソイツを忘れちゃあなりやせん。
天使どもがお客さんから見て好ましく思えないのは、連中があくまでデジタルワールドをウィルスから守るための“システム”だからでさぁ。
相手の都合だの何だの考えず、世界の秩序を乱すと判断した存在を誅し、神が創りたまいし世界の美しさを保ち、讃える。それが彼奴らの仕事で、その仕事に僅かにでも疑問を抱いた奴らはバッサリ切り“堕とされて”いく。
それがデジタルワールドの理で、ソイツに助けられているデジモンっていうのも、なんだかんだ、大勢おるんです。
……そんな天使共に呼ばれた、かの勇者について、ですかい。
そうですな。そろそろ白状いたしやしょう。
希望の勇者に纏わる宝も、あっしの店にはひとつだけ取り扱いがありやして。
ただ、それをご紹介するのはもう少しだけ先の話になりやしょう。
ですが、お客さんが毎月足を運んでくださる限り、いずれお耳に入れる事になる筈です。
それでは、今日はこの辺で――っと、待った。一応聞かねばなりますまい。
お客さん、こちらのインペリアルトパーズは――買わない。あ、そう。
……買わない代わりに、先の約束、必ず守るように、と。
むしろ商売人としては、買っていただけた方が嬉しいんですがねえ。ま、よござんしょ。
悪魔ですからね。約束ぐらいは守りまさぁ。
では、今度こそお開きにしましょうか。
またのご来店をお待ちしておりやす。……お客さんの方こそ、約束ですよ?」
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