-
トピック
-
宝石商トラバサミはネオデビモンだ。形こそ比較的人に似ているが、その背丈は優に2mを越える。その体躯からしても不自然な程に長い腕、その先端に光る金の鉤爪が、彼の名前の由来だと自称している。
宝石商トラバサミの相棒、スカルグレイモンのホープはさらに大きい。トラバサミが腰を下ろせば、その身体も翼も余裕で肋骨の下に収まる。
特撮作品で建物を街を薙ぎ倒す怪獣達の、骨格標本さながらだ。故にこそ、ホープは宝石商トラバサミの店そのものとして機能している。
そんな2体をして、此度の宝石は少々手に余るようだった。
ホープの立派な角には相変わらず古ぼけたトランクが引っかけられているが、収められている筈の中身は、収まりきらずに、彼らの“店頭”に鎮座している。
*
「話を聞かせずとも話を聞かずとも解りやす。お客さん、今月の宝石はお求めにならない筈だ。
見ての通り、トランクにゃとても入らない代物だ。あっしらも持って来るのは骨が折れ……というのはホープの手前縁起でも無いですな。少々堪えた、と、そのぐらいの表現にしておきやしょう。
だがそうまでしてでも、どうしてもご覧に入れたかった。魔王の所蔵品の中でオパールといえば、“コイツ”を出さずにおられますまいて。
そう、オパール。
大きさの事が無かったとしても、紛う事な無き一級品だ。オパールに走る極彩の遊色効果を、かの文豪宮沢賢治は戦争に例えたそうですな。赤青緑それぞれの色が相手の輝きを殺さんばかりに、光の血を流しているのだと。
それが、この大きさだ。魔王が宝石を求めて引き起こした戦火さながらだ。
ここまでのモノが出来上がったのには、かの石の性質が関係しておりやす。
時にお客さん、「オパール化した化石」なんてモノ、見たり聞いたりした事ぁありゃしやせんか?
アレは厳密に言いやすと、生物の骨や殻そのものがオパールになったんでは無く、生物の骨や殻が在った場所にオパールになる成分が入り込んで出来上がるんです。
石膏ってわかりやすかね? カラクリ自体は、そんな感じでさぁ。
粘土質の地層だと、そういう事が起きうるんです。埋まったモノが風化しても、埋まったモノの形だけは残り続ける。その形をいつしかオパールが埋める。
面白いでしょう? “コイツ”はもちろん魔王自慢の逸品ですが、リアルワールドにもオパール化した恐竜の全身骨格なんてモノがあるそうじゃねえですか。なんともロマンのあるハナシだ。
あ、事のついでなので、本題に入る前にひとつだけ補足しておきやすが、「オパール化したアンモナイト」として紹介されている玉虫色の化石、あるでしょう。アイツは大抵の場合アンモライトという全く違う石です。
もちろん上述の経緯で出来た「アンモナイトの殻の形を持つオパール」ってのもあるんですが、お求めの際は一応注意してくだせぇ。その手の書き分けをしない店ってぇのは、何にせよ、信用ならないモンですからな。
閑話休題。
兎にも角にも、コイツは「この形」の空間に満たされ、形成されたオパールという訳なんでさ。
お客さん、コイツが何に見えますかな?
天守閣。
惜しいと言えば惜しいですな。しかし和風建築の屋根という目の付け所はよろしい。
コイツはね、社なんでさぁ。
そう、カミサマを祀る、あの建造物。
先に挙げた、宮沢賢治がオパールについて言及している作品の名は、『貝の火』といいやして。貝の火というのは、この国でかつてオパールを表していた言葉だそうです。
昔の人はオパールの煌めきの中に、海と焔を同時に見たのでしょう。
そういう意味では、こちらのオパール。大きさ以外は、案外ありふれたものとも言えるやもしれませんな。
何せコイツは、海神を祀る社であったワケですから。
*
とある峡谷に、ガジモンというデジモンが暮らしておりやした。
ガジモンというのは成長期の哺乳類型デジモンで、前足の爪が長いのが特徴なんでさぁ。
で、この爪を何に使うのかと言いやすと、穴掘り、それも落とし穴を掘るのに使う事が大半でしてな。
まあ意地の悪い、碌でもないデジモンでありやした。……堕天使型のあっしが言う事じゃ無いかもしれやせんが、少なくともお行儀の良いデジモンでは無かった。
ガジモンはその日もせっせと、誰かを嵌めるための穴を掘っておったそうです。
ただ、その日はたまたま、普段より深い穴を掘った。ほんの気まぐれだったのかもしれないし、余程嗤ってやりたい、気に食わない相手がおったのかもしれやせん。何にせよ、ガジモンはスコップみてえな爪で地面をざくざく掘りに掘った。
そしたら突然。七色に光る白っぽい塊が現れたモンだから、ガジモンは腰を抜かしたそうでさぁ。
かの峡谷では時々オパールが取れるという話はガジモンも知っておりやしたが、それにしたってやたらと大きい。流石のガジモンも落とし穴どころではなくなって、塊全部を掘り起こしてみようと試みたが、これが周りをいくら掘り広げてもなかなか全容を現わさない。
結局、その日は一旦諦めて、脱出用の横穴を掘った後、入ってきた穴と出た穴をいそいそ隠したという話です。
それから2日、3日と穴に入っては周りの土を取り除くを繰り返した末、ガジモンはついに、一週間ほどかけて白い塊の周りの土を退かしきったようです。
そう、その白い塊の正体というのが、この社。
ガジモンは本物を見た事などありゃしやせんでしたが、遊色の輝きを抜きにしても、まるでトノサママメモンの住む御殿のようだと、柄にも無く感心したそうで。
こうなると、社の正体を知りたくなるのがデジモンのサガってモンでさぁ。
しかしガジモンは日頃の行い通り、基本的には嫌われ者。
つるむ仲間もいるにはいたが、類に呼ばれた友です故、悪知恵以外の知恵を持っているとは到底思えなんだし、それだけならまだしも、社の事を知れば自分から奪い取ろうとしたり、面白がって壊してしまうやもしれないような連中ばかりだったようで。
ひょっとすると社を掘り返した時間以上さんざっぱら悩んで、それでも結論が出ないでいた頃、ガジモンは前述した碌でなし仲間達に、この峡谷エリアの比較的デジモンが集まる地域に設立されたデータベース施設……こちらで言うところの博物館を襲撃してみないか、という話を持ちかけられました。たまたまバックドアを見つけただとか、何だとかで。
別に美しいものを見つけたからと言って、心根まで綺麗になった訳じゃあありゃしやせん。
面白そうだと、ふたつ返事。ガジモンは仲間の誘いに乗ったようです。
その日の夜、博物館に侵入したガジモン達は、まあ当たり前のように館内で暴れ回った。
どんちゃん騒いで、転がり回った。
一緒になって展示品をオモチャにしていたガジモンではありましたが、オパールの社に関しては絶対彼らにこの先も知らせるまいと、固く誓ったとか誓わなかったとか。まあ、そんな程度には。
しかしふいに、ガジモンはとある展示の前で足を止めやした。
木片や化石を並べたコーナーでしたが、ガジモンが目を留めたのはその展示に添えられた説明書きの方だった。
そこには此処ではない何処かの絵が描かれておりやした。
朱塗りの屋敷、揺蕩う茎の細い青木、天に向かってぷかぷか昇る泡の玉。
其処はどうやら、水底の景色のようで――さらに1体のデジモンが、描き添えられていたようです。
リュウグウモン。
そうですなぁ……リアルワールドで言うところの、ウミウシとやらに似たデジモンです。尤も、身の丈に関してはホープをも越えるという噂ですが。
まこと優雅で、美しいデジモンです。海に溶けるような青の身体に、長い鰭と尾、あちこちに惹かれたラインが桃色に光る様が、また見目麗しいんだと。
とはいえガジモンの目を引いたのはリュウグウモンそのものではありやせん。
かのデジモンが、背中に乗せた“社”に惹き付けられずにはいられなかったのです。
お察しですね。そう、その社は、ガジモンが先日掘り当てたそれと、全く同じ形をしていたんでさぁ。
ガジモンはあたりの説明文を片っ端から、食い入るように確認しやした。
曰く、この峡谷には元々、別のデジタルワールドと繋がるゲートが設置されておったと。
出土品から推察するに、“シャンバラ”と呼ばれる世界の一区画、竜晶宮と呼ばれるエリアと交流があった可能性が高い、と。
竜晶宮。こちらでいうところの竜宮城とその一帯といったところですかな。
リュウグウモンはこの竜晶宮を守護するデジモンでして。……本人も社を背負っているとはいえ、ソイツは竜晶宮そのものってワケじゃあ無いんです。
竜晶宮ってぇのは、その名の通り。
領域の全てが、“光る石”で形作られている……なんて、説明書きには書いてあったという話でさぁ。
ガジモンは脇目も振らずに一目散。仲間達にさえ何も告げず、社の下へと飛んで引き返した。
いや、少々語弊がありますな。ガジモンはもはや、社さえ眼中に無かった。
ガジモンは地面を更に掘り進めました。
此処にリュウグウモンの成れの果てが、オパールとして残されているのなら。
何処かにきっとある筈だ。オパールでできた竜晶宮が。貝の火の国へと続く道が!
そんな夢想に突き動かされ、ガジモンは地面を掘り続けた。
掘れども掘れども出てこない。けれどいずれは見つかる筈だと夢見る内に、より土を掘るのに特化したデジモンへと進化まで果たしておりやした。
鼻にドリルのついた、モグラのデジモン、ドリモゲモンへと。
こうして、ドリモゲモンは地中深くへと姿を消しました。
かのデジモンを見た者は、その後、だあれもおらんそうです。
……だというのに、どうしてオパールの社があっしらの手元に、ようは魔王の手に渡ったのか、と。
それがね、こちらの品は、所謂寄贈品なんでさぁ。
ある日魔王の城に届けられたんです。
ここまで語った経緯に加え、「自分にはもう必要の無い代物だが、かつての自分のような心無い者に壊されるのは忍びないので」と、そんな旨がしたためられた手紙を添えて。
これだけ見事なオパールの社。どうしてもはや必要無くなったのでしょうなぁ。
気になりませんかい? お客さん。
魔王は気にせずにはおれなんだので、部下達に峡谷中を捜索させましたが、手掛かりはなぁんにも掴めなんだ。
ガジモンだったドリモゲモンの行方も、やっぱりさっぱり、わからんのです。
わからなんだが――そんなデジモンが居た事だけは、どうやら確かなようなんでさぁ。
*
ええ、既に聞いた事だ。再び尋ねるような真似はしやせんよ。
というか、このサイズの物を欲しがる個人なんぞ、それこそ魔王、それも宝石狂いぐらいのものでしょう。
大人しく元の峡谷の博物館にでも寄贈した方が、オパールの仕入れ先にコネを作る意味でもよろしかろうと思うておりやす。手紙の送り主の願いには反故する形になっちまう訳ですが。
うん? ……うん、いっそあっしらが宝石の博物館を、ですかい。
いやいや、あっしがそんなガラに見えますかい? そもそもほとんどが略奪品の宝石で建てた博物館だなんて、天使の生き残りに目を付けられて、粉々に砕かれるのがオチでさぁ。
夢のある話ではありやすがね。欲はかかない事にしてるんです。強突く張りの最後は呆気ないモンだと、嫌ほど身に染みておりますので。
だがまあ、こうやって宝石を見せて、その話を聞かせるのは楽しいモンですからな。
来月もまた寄ってくだせえよ。今度はちゃんと、大きさも値段も手頃なモノを用意しておきやしょう。……ちょいと変な石ではありやすが――ああ、いえ、いえ。こちらの話でごぜぇやす。
何にせよ、次回のお楽しみという事で。
それでは、またのご来店をお待ちしておりやす」
- このトピックに返信するにはログインが必要です。