ドレンチェリーを残さないでep24

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      警察署の崩壊、ソルフラワーで起きたテロ。この二つは全く別の背景と別の結果だったが、それらは並べて、ヒーロー待望論として語られた。

      「『陽都の陰で戦っているヒーロー達を知っているか!?』って記事……これ、美園さん達だよね」

      便五の見せた記事には、ソルフラワーで『ヒーロー』が現れたとする記事が載っていた。

      「ゾネ・リヒターになった燈さんのことは載ってませんね」

      猗鈴はそう言って盛実を見た。

      「えっと、そっちは小林さんと話して、公安の方で情報操作してもらった。モント・リヒターは私の能力で出してたから消えてくとこ見てる人結構いて……噂の『ヒーロー』がその姿を模して戦っていた。ということにしてる。防犯カメラに小林さんの変身後が映ってたから、そっちが本体。ということにしたんだって」

      普段ならこんなヒーローなんて囃し立てられていれば真っ先に喜びそうなものだが、盛実はタブレットに腕を突っ込みながら投げ槍気味にそう答えた。

      「仮面をつけてることや、昨日はバイクに乗ってたことから、陽都の仮面ライ◯ーとか、ソルフラワーの仮面◯イダーって呼ぶ人も一定数いるみたいだね」

      「まぁ、商標の関係とか、めんどくさいラ◯ダーおたくの、フルフェイスでもねぇ薄汚い面して仮◯ライダー名乗るな! みたいななぜか名乗ったことになって陽都の外でトンチンカンな炎上をしてるから、その通称は変わりそうだけど……探しものの邪魔すぎる……!」

      「斎藤さんは何を探してるの?」

      「私は見てないんだけど、盛実さんを助けてくれた女性が行方不明らしくて……」

      盛実が探しているのは、組織の幹部ミラーカで、公竜の妹、軽井未来だったが、それを盛実はぼかして伝えた。

      ソルフラワーの文字をなんで入れるかなと呟きながら盛実は腕をぐるぐるしていた。

      「そういえば、姫芝さんは?」

      「警察がこの状態だし、警察病院から永花ちゃん移動させるつもりらしくてお父さんの説得に行ってる」

      「マスターも?」

      「マスターは別、今日は地元」

      「里帰り? 冠婚葬祭か何かですか?」

      「……今日は喫茶ユーノーの名前の元になった、失踪した友達の誕生日でね。毎年その日だけは地元に帰って、十年前に渡せなかった誕プレ持って、どこかにいないか探してるんだよ」

      いたら話が楽なんだけどなぁと盛実は呟く。

      「そうなんですね……」

      盛実はそう言ったあと、戦わずに済ませられたらもっといいよねと呟いた。

       

       

      警察署で起きたその爆発を見て、柳真珠はやはり自分の選択は間違っていたのだと悟った。

      今となっては復讐なんてどうでもいい。自分と子供の安全より大切なものはどこにもない。

      組織に投降はあり得ない、美園夏音は信用できないし、それを容認する本庄善輝も敵だ。

      そうなると選択肢は一つしかない。美園猗鈴がいる探偵事務所は警察と繋がっていたはずだが、今は機能してないことも真珠は知っている。

      「……どこに行くつもり?」

      通路を歩く真珠の前に、真っ黒い手をバンと壁に叩きつけながら、吸血鬼王が現れた、

      壁にピシリとヒビが入り、黒い手はひび割れて血がポタポタと流れて落ちる。

      「今は、お肌がこんなだからついていってあげられないわよ?」

      吸血鬼王のヒトの姿、その手は再生を繰り返しているのだろう、少し動くとどす黒い血の固まったかさぶたが落ち、血が流れては見る間に塞がっていく。血で汚れるのが煩わしいのか服も着ていない。

      顔だけが綺麗な肌を保ち、その血のように赤い目が真珠をじっと見つめる。

      「……大丈夫です。散歩ぐらいしないとお腹の子にも悪影響だし」

      真珠は目を逸らした。味方してくれている側とわかっていても、その目を見るのは恐ろしかった。

      「そう。でも、メフィスモンメモリはピンチになっても使ってはダメよ?」

      「……なんで、ですか」

      「あなた、肉体が人じゃなくなりつつあるわよ。メモリに身体が馴染みすぎている」

      「どういうこと……?」

      「これは推測も混じるけれど……メフィスモンの仕込みね。あの種は『あまねく全ての生き物を否定する』性質があるから、馴染ませる為に、メフィスモンのデータを刻み込むか何かしたんでしょう」

      赤い目が、すーっとつま先から頭まで真珠を見る、吸血鬼王には、真珠には見えていない魔術が行使された痕跡が見えていた。

      「デジモンに性別は基本ない……子供を妊娠したまま変異が起き続ければ、子宮が機能を止めることもあるかもしれない」

      だからこれをあげると、吸血鬼王は近くにあったごてっとした機械の腕輪を手に取った。

      「組織の研究部を裏切ってきたという男が持ってたの。これを使うことで変身部分を腕だけに限定、メモリの毒も抑えられるそうよ。あなたはデジモン自体に適性がある、適当なメモリで使いなさい」

      真珠が受け取ると、血文字はぽうと光って消えていく。

      「……気をつけてね。私はあなたのこと、娘の様に思っているから」

      吸血鬼王の手がゆっくりと真珠の髪に伸び、一度するりとすく。掛けられた柔らかい声も、その手も、優しい態度も全てが真珠にはおぞましかった。処刑前日に何が食べたいと聞くような類に思えた。

      「ありがとうございます」

      心にもない礼を言い、真珠はその建物を出た。

      まずは警察病院に行って母子のカルテを手に入れる。幾ら猗鈴が子供に好意的でも拘束されることは予想がつく。

      警察病院はてんやわんやの状態だった。

      警察署内の留置所にいた者達にも死者も怪我人も多く出ていて、警察官の数も足りていない。

      丸一日が経っても、まだ慌ただしいのも当たり前だった。

      真珠は担当医を見つけると、一目につかないところでその肩を叩いた。

      「ああ、柳さん。どうされました? 今忙しくて、できれば後に……」

      「吸血鬼王からの命令です。私のカルテを渡しなさい」

      真珠の言葉に、担当医ははいと一言答えるとすぐにカルテを持ってきた。

      カルテを受け取り、真珠はすぐに踵を返す。そしてそのまま帰ろうとしていると、不意にある人物が目についた。

      「まだこんなとこにいたんだ」

      佐奈は真珠の言葉に好きでいるんじゃないよと呟いた。

      「……ほら、これを見てごらんよ」

      佐奈が出したのはヴォルクドラモンのメモリ、組織から奪ったものの適合率が高い人間が佐奈と真珠のみな上、元々それぞれ持ってたメモリより適合率が低かった為使わなかったメモリだ。

      「留置所や警察病院にいたメモリ犯罪者達に、我らが吸血鬼の王様はメモリを配布してもう一度戦いたいだろ私の為に戦えと言っている」

      「……それで、そうするの?」

      「まぁ一応はね。マタドゥルモンは実体化もできないほど弱ってしまった。もし裏切ったとして、吸血鬼王がいる限り安全な場所はない」

      佐奈はそう言った。さらりと言ったが、その雰囲気は以前に比べて穏やかでそれはそれとしていつでも裏切れると言ってる様にも見えた。

      「なんか、雰囲気変わった?」

      「君に言われたくはないけれど……どうやら、君の仇なのかお気に入りなのかわからない彼女に負けた時に、吸血鬼王の毒が出ていったらしい。頭もスッキリしていていい気分なんだ」

      「ふーん……」

      「君ももし彼女のところに逃げるならやってもらったほうがいいかもしれないね」

      佐奈の言葉に真珠ははぁと返した。

      「……はぁ? なんで洗脳されてもないのに蹴られなきゃいけないのよ。あれ、痛いのよ? 知ってるでしょ?」

      「詳しくは言わないけどさ、君が思うより吸血鬼王は悪辣だよ。そばにいて、目も見ていて、全く洗脳されてないなんてあるのかな?」

      真珠は言葉に詰まった。そう言われた時に自分だけは台上と言える根拠はなかった。

      「……私は、大丈夫よ」

      「そうかい? じゃあ気をつけて。この病院には既に吸血鬼王の条件を飲んだやつも多くいるみたいだから」

      佐奈はそう言って、踵を返した。

      わざわざ声をかけにきたのかと真珠は思いながら、病院をまっすぐ出て行こうとする。

      すると、ふと小さな女の子と、その前にしゃがんで喋りかける男が目についた。

      男を真珠は知っている。フェレスモンが宿主としていた男であり、真珠と夏音の通う大学の教授だ。

      真珠の記憶では入院が必要な程の怪我はなく、警察病院は研究で関連を持つ病院でもない。

      教授は一言二言何かを喋ると、少女にメモリを渡した。

      「……何を、やってるの」

      なぜわざわざ声をかけにいったのか、真珠自身にもわからないが気がついたらそうしていた。

      「おやおや、これは柳嬢、久しぶりですね」

      その笑い方や声で真珠にはそれが教授ではなくフェレスモンなのがわかった。

      「……どういう理屈であんたここにいるのよ」

      「どういう理屈も何も、メモリのバックアップを用意してただけです。準備は大切でしょ?」

      「人格入りメモリのバックアップって……」

      自分の魂を切り分けておくに等しい行為を、折り畳み傘を常に持ってるぐらいのテンションで言うフェレスモンを、真珠は気持ち悪いと思った。

      堕天使とはそういうことなのだと感じる。他人も顧みないし自分も顧みない。歪んだ欲望が形を取り生きている。

      「えぇ、まだ私含めて三人いますよ。元はメフィスモンを出し抜くためのものでしたが……ちょうどいいのでこちらにつこうかと。メフィスモンはいないんでしょう……?」

      フェレスモンはそう言ってにぃと微笑んだ。

      「……すぐ取り返すわよ」

      「それは残念、私はなぜかいつもタイミングに恵まれませんで、あなたの様に上等で整備された『器』が欲しいものです」

      「話しかけといてなんだけど、消えて、永遠に」

      真珠はそう言いながら首を切るジェスチャーをした。

      「おやおやこれは嫌われたものですねぇ、でも、我々の陣営はあなたの望みを叶える為の陣営な訳ですからね。メフィスモンを取り返したいならすぐにでも取り返して差し上げましょう」

      その言葉に、真珠はえと一瞬固まった。

      「方法は簡単、この子を人質にします。この子を彼女の相棒になったらしい裏切り者の姫芝杉菜がいたく気にかけている様ですからね、交換に応じるでしょう」

      「この子を……?」

      真珠は何故逃げ出さないのかとその子供を、永花を見て、その口と足が石化していることに気づいた。

      「手順も練ってあります。まずはこの子を石にし、川に沈めます。石化していれば死にません、これで遠くに居ても私達は生殺与奪権を握れる」

      「……あいつら、ワクチン持ってるでしょ」

      「遠巻きに見張りぐらいつけますよ」

      「あとは堂々と受け取りに行けばいいのです。よかったですね! これでメフィスモンと再開できますよ!」

      メフィスモンとの再会に惹かれるところがないわけではなかった。以前猗鈴はメフィスモンに会わせたいといってくれていたが、普通に考えたら猗鈴はよくても他が止めるだろう。

      組織に入ってからもその前からも真珠は自分のために散々他人を傷つけてきたし、病院の人間達のことも今考えてもどうでもいいと真珠は思っている。

      でも、なぜだか、身じろぎ一つしない目の前の少女を見ているとフェレスモンの言っていることが胸糞悪く感じた。まだ産まれてもない自分の子供に重ねたのか、何もわからなかったがなぜかその提案に素直に頷けなかった。

      「メフィスモン、姫芝がその子とどう関係してるのか直接話が聞きたいんだけど、ちょっと石化解いてくれる?」

      「逃げられますよ?」

      「手を強く握ってれば十分逃さずいられるでしょ」

      そう言いながら、真珠は永花の手を優しく握った。

      「……いいでしょう。ではどうぞゆるりとお話しください」

      「じゃあ、場所を変えましょう。喉も乾いたし」

      「では私も……」

      「加齢臭がうつるから来ないで」

      チッとあからさまに舌打ちをした後、フェレスモンはではここで待ってますとにっこり笑顔を作った。

      真珠は永花の手を引くと、売店と出入り口のある一階へとまっすぐ進む。

      「……さっきもそうだけど、なんで大人しくしてるの?」

      「杉菜お姉ちゃんと似た感じがするし……」

      「あんな化け物と一緒にしないでくれる? 私は水かかっても分裂しないし自爆特攻なんてしない。大切なのは自分とこの子だけ」

      真珠がそう言って自分のお腹を撫でると、永花はふふと微笑んだ。

      「産まれたら私にも教えてね。お祝いしに行くから」

      「……その前に川に沈められるとは思わないの?」

      「沈めないよ。沈める人の手の握り方じゃないもの」

      永花の言葉に、真珠は急に手に込める力を強くした。それが照れ隠しなのは明らかだった。

      「そうだ、さっき渡されてたメモリ、なに?」

      「わからないけど、使わせようとしてたみたい」

      単に人質にするならいらないだろうにと思いながら真珠がそれを見ると、フェレスモンの文字が浮かんでいた。

      中身がフェレスモンの永花を人質にし、救出させて中から工作をする。そういう計画だったのだと真珠にはすぐに察しがついた。

      「預かっとくわ」

      真珠はそれを奪ってポケットに入れた。猗鈴のところに出頭する時に手土産ぐらいの価値はあるだろう。

      自動販売機の前まで行って真珠は立ち止まった。

      「何飲む?」

      真珠はココアが紙コップに注がれて行くのを見ながら永花にそう聞いた。

      「ブラックコーヒー」

      「……あんなのよく飲むね。私は無理」

      「私も苦いのちょっと苦手だけど……杉菜お姉ちゃんはブラックで飲むらしいから」

      「ふーん……」

      真珠はそれを聞いて、砂糖とミルクのボタンを勝手に押した。

      「あ」

      「ブラックは雑草女に淹れてもらって。裏口から出る」

      真珠は、ちらりと後ろを見た。

      フェレスモンは三人いると言っていた。ならば、他の顔が割れてない二人のどっちかが自分を見ているかもしれないと思ったのだ。

      「人気がない病院の裏なら、見つかってもまだ言い訳できるし」

      「見つかったらどうするの?」

      「お前だけ置いて帰る」

      永花を連れて裏口の扉を開けると、そこには地面に倒れた看護師と、メモリを手にした男がいた。

      「……なんだ、お前ら」

      『フレアリザモン』

      「私に手を出すのは吸血鬼王を敵に回すことだけど、いいの?」

      真珠の言葉に、男はにぃと下卑た笑みを浮かべた。

      「あ、あぁ〜……! これだから理屈で考える賢い女は好きなんだ。俺はもう自分のことなんてどうでもよくてただ楽しいことがしたいだけなんだよなぁああ!!」

      こんなのまで見境なくメモリ渡すなよと真珠は思いながら、メフィスモンのメモリに手を伸ばし、そして、固まった。

      吸血鬼王が言ってた通りなら、これを使うことで自分は助かっても子供が死ぬかもしれない。

      「いい……諦めてない感じが最高にいい……! まずは火か? 火だなぁ……服を焼いて、それから抱きつくだなぁ!!」

      フレアリザモンの口が膨らみ、吐瀉物のように炎が吐きかけられる。それに対して真珠も永花も即座には何もできず、ただ固まるのみだった。

      しかし、炎は降りかかることなく、ひらりと振るわれた大きなピンクの袖に受け流されて散る。

      「あぁ、思わず助けてしまった。久しぶりに吸血したからか、気が昂っていけないな」

      「マタドゥルモン……なんで?」

      「……さっきその子供からメモリを受け取ってただろう?それをくれないか?」

      「は?」

      「戦ってやるからカロリーをよこせと言っているんだ」

      「……じゃあ、代わりにヴォルクドラモンのメモリちょうだい。今はメフィスモン使いたくないの」

      「いいぞ、佐奈は使えなくはないからと吸わせてくれんからな」

      そう言ってマタドゥルモンは一瞬佐奈の姿になると、ポケットからメモリを取り出して真珠に投げた。

      真珠はそれを受け取って、フェレスモンのメモリを投げ返す。それを受け取ったマタドゥルモンはそれを佐奈の姿のまま口に含んだ。

      「うむ、やはりlevel5のメモリは腹に溜まる」

      そう言ってマタドゥルモンが吐き捨てたメモリからは文字が消えていた。

      「俺を無視するなぁ!」

      そう言ってフレアリザモンがマタドゥルモンに抱きつく。すると、マタドゥルモンは人の姿のまま首筋に噛み付いた。

      そうして三秒も立たないうちにフレアリザモンは膝を折り、人間の姿に戻って落ちたメモリからは、やはり文字が消えていた。

      「……お兄さんは、本当にそれが欲しくて助けたの?」

      永花の言葉に、マタドゥルモンはにぃと微笑んだ。

      「まぁ違うが……喜ぶような理由でもない。嫌いな吸血鬼王(ヤツ)への嫌がらせだ」

      「嫌がらせって……死ぬわよ」

      「他人のことを言える立場かお前が。全部顔に出してる女が何を言う、馬鹿でも一目でわかる顔をしているぞ」

      それを聞いて、何かが引っかかったが真珠にはわからなかった。

      じゃあと真珠が病院から去ろうとすると、不意に裏口がもう一度ガチャリと開けられた。

      「フェレスモン……ッ」

      「まぁ、そうだろうとは思ってましたが……構図が面倒になる。あなたがいなくなって目的も定まらなくなる吸血鬼王につくべきか組織に戻るべきか……」

      教授の肌が赤くそまり、骨を鳴らしながら翼を生やして悪魔の姿に、フェレスモンのものに変わっていく。

      「ひとまず、組織に戻るのにちょうどいい手土産ではありそうだ。足手まといもいる」

      吸血鬼王への嫌がらせならばこれを止める理由はないでしょうと、フェレスモンはマタドゥルモンに微笑みかけた。

      「愚かな考えだ。人を殴りたくて仕方なかった思春期の佐奈から産まれたのが私だ。女子供を守って戦う? 大いに結構な理由じゃあないか! クソみたいな洗脳で戦わされるよりよっぽどいい!!」

      姿を変えながら、マタドゥルモンは獣の笑みを浮かべる。

      「そうですか」

      フェレスモンの持った三又矛の先端から光が放たれ、マタドゥルモンはそれを袖で防ぐ。

      袖の端から石化していくマタドゥルモンを見て、フェレスモンは笑みを浮かべる。

      「さて、あとほんの数秒で石に変わるわけですが、あなたに何ができるのでしょうね?」

      マタドゥルモンは既に石になりつつある腕を掲げ、フェレスモンに殴りかかりにいくが、それをフェレスモンはふわりと飛んで避ける。

      「まぁそんなところでしょう」

      そう言って、マタドゥルモンの全身が石化したのを確認してふわりとその横に降り、ピンとデコピンをしてマタドゥルモンを地面に転がした。

      「さて……あなた達ですが。石にして運ぶのとどっちが楽ですかねぇ……」

      「あっ! 猗鈴お姉ちゃん!」

      永花が急にあらぬ方を指さしてそう叫ぶ。その言葉にフェレスモンが視線を向け、何もないのを見てもう一度視線を戻すと、二人分の走り去る後ろ姿が目についた。

      「……子供騙しですね」

      「いや、それがそうでもない」

      フェレスモンの背中から胸にかけて、ずぷりとマタドゥルモンの長大な刃が貫く。

      「なぜ……!?」

      口から血を吐きながらフェレスモンが振り返ると、石化していたマタドゥルモンの頭部からにょきりとマタドゥルモンの上半身が生えており、ずるりとそのまま足まで抜け出た。

      「馬鹿な、そんなことメモリでは不可能な筈……」

      「生憎だが私達はその一つ前の世代だ。寄生してる側も実体は持てる」

      「……おまけに、こういうこともね」

      石になっていたマタドゥルモンの姿が、人間のそれへと変化しながら石化が解けていく。

      「肉体を構成し直せばある程度の傷や呪いはどうとでもなる」

      「それはいいことを聞きました……では、既に身体にマタドゥルモンがいない状態での石化はどうです!?」

      フェレスモンは三又矛の先端を少し動かして、佐奈の顔に光を当てる。

      「う、うわぁぁぁ!? 顔が、顔がぁッ!?」

      それを受けた佐奈は思わず顔を手で押さえてうずくまり、そして、マタドゥルモンのものになった顔をパッと上げた。

      「マタドゥルモンに!」

      「なぜ……ッ!? ぐはッ!?」

      疑問の声を上げるフェレスモンの首にマタドゥルモンが噛みつき、口を離すとその身体はただの人のものになってその場に転がった。

      「飲み会でやるとウケる、僕の鉄板ネタだよ。さて、あと二体だ、あの二人を追うなら今度はこっちが追いかける番になるな」

      「ご自慢の石化が効かないのだから、正面から堂々と殺しに来たらどうだ? なに、真に強ければ私達を倒してから追いかけても間に合うだろうて」

      三又矛を片手に、二体のフェレスモンが物陰から現れる。

      「こう舐められては……なぁ?」

      ビキッと額に血管を浮ばせながら、フェレスモン達は矛を構える。

      「いや、面倒そうだよマタドゥルモン」

      「笑わせるな、笑みが抑えられてないぞ」

      マタドゥルモンと佐奈は笑みを浮かべ、それぞれに向かっていった。

       

       

      「……殺しに来てくれるっていうから待ってたのに、一向に来ないから来ちゃった」

      病院の裏口を抜け、猗鈴に迎えを頼む連絡も入れ、人目につかない雑木林を通っていた真珠と永花の前に、暗い青紫色のドレスを着た夏音がふらりと現れた。

      「なんで……」

      「そのメフィスモンのメモリ、中にGPS入ってるの。ヴォルクドラモンも持ってるのは……心変わり?」

      真珠は何も言わず、永花の手を離してヴォルクドラモンのメモリに手をかけた。

      「メフィスモンのこと嫌いになったわけじゃないわ……ちょっと使い分けが必要なだけ」

      『ヴォルクドラモン』

      真珠がメモリを身体に挿そうとすると、夏音は一息に距離を詰め、ぐいと真珠の手を掴んで阻止した。

      「なんッ……人間のまま詰められる距離じゃなかったでしょ!」

      「普通はね」

      夏音は指の力で真珠の手からメモリを引き剥がすと、そのまま握力で破壊して、ぱらりとその場に転がした。

      「……あ、その腕輪、ミラーカと一緒に作ったやつ。真珠の手に渡ってたんだ。使い心地はどう?」

      「使う前にメモリを取り上げられたから使ってないわ!」

      真珠はそう言いながら夏音に頭突きをした。

      それに対して夏音はふふふと笑った。

      「一緒に大学にいた頃を思い出すね。楽しかった。結局メフィスモンがろくな男じゃないってのは、あの時から言ってた通りだったみたいだけど」

      ぎりぎりと腕を極めようとする夏音に、真珠は涙目になりながら何度も何度も夏音の足を踏みつける。

      「うるさいッ! そういうあんたも男に殺された癖にッ!! 私をどうしたいのよ!!」

      「殺したい、かな」

      そう言って、夏音は真珠を地面に引き倒すと真珠がカルテを持っていた手を踏みつけた。

      手からカルテが離れ、ひらりと風にさらわれていく。それをちらりとは見たものの特に何もせず、夏音はさらに腕輪を壊れるまで踏みつける。

      「メフィスモンのブラックサバスは呪文を通じて死の概念を相手に押し付け、押し付けられた相手の身体が死に向かって自壊していく技でしょ? 吸血鬼王みたいな本当の不死じゃない私だと死ぬ可能性があるわけ」

      さて、と夏音は懐からベルトのバックルのようなものを取り出した。

      それを腰に取り付けると、じゃららと鎖の様な音がしてベルトは自動で巻き付く。

      「真似して作ってみたの。なかなか様になってるでしょう?」

      そう言って、夏音はスカルバルキモンのメモリを取り出す。

      「……待って、待って夏音、死にたくない。お腹に子供がいるの。せめて、せめて出産するまで待って……」

      真珠はお願いと、頭を地面に擦り付ける。

      それを、夏音は静かに見て、首を軽く傾げた。

      「妊娠なんて……してないでしょ? メフィスモンは生命を否定するデジモン。妊娠なんて、させる訳がない」

      「……え?」

      夏音は、真珠の表情を見て本当に信じているのと少し驚いた様に呟いた。

      「ちがっ……私は、病院にも通って……そこのカルテにちゃんとその証拠がある筈……」

      真珠の言葉に、夏音はちらりと封筒を見た後、永花を見た。

      「持ってきてくれる?」

      そう言われて永花は封筒を拾いにいき、戻る前にとちらりと中身を確かめる。

      「……お願い、早く持ってきて」

      真珠の搾り出すような声を聞いて、永花は、一瞬考えてその場から封筒を持ったまま走って逃げ去った。

      どうしてと真珠は呟きかけて、呟く前にその意味に気づき、目から涙が溢れた。

      永花が賢く冷静なのをこのわずかな間に真珠は理解していた。

      仮に逃げるとしても今じゃない。夏音の視線が向いている時は危険過ぎる。それも理解できる筈だった。

      その上で今逃げた理由も、わかってしまった。

      「……真珠がもっと頭悪ければ、気付かずにいられたのにね。封筒の中身が白紙だったことに」

      真珠の目からは涙が溢れて止まらなかった。強く噛みすぎた口の端からは血が細く流れ出し、それでも力の抜き方がわからなくなっていた。

      吸血鬼王だけの催眠ではない。

      妊娠したと知ったのは、まだメフィスモンがいる時だ。まだ生きている夏音に、常にメモリ挿しっぱなしは身体に負担があると言われた直後。

      メフィスモンが、自分の活動時間を確保する為に仕組んだ嘘。魔術によって引き起こされた想像妊娠。人間は一人でもそう思い込めるのだから、吸血鬼王の魔眼がなくても催眠しやすかったのだろう。

      「あ、あぁ! う、ぅわぁあああぁ!」

      論理は簡単に組み上がる。感情だけを置いて、真珠の頭は何が起きたかを推測する。

      吸血鬼王はメフィスモンの洗脳が解けるのを、何故か阻止した。

      いや、柳真珠の復讐の動機がなくなったら、復讐をアシストするゲームが御破算になるから、医師を洗脳し私がカルテや結果を、白紙でも本来の結果が違ったとしても、都合良い認識をするように洗脳を重ねた。

      真珠の心の中は荒れ狂う嵐のように、煮えたぎった溶岩のように制御不能になっていく。

      地面を転がり、頭を地面に打ちつけ、嗚咽し、獣のように泣き叫ぶ。

      『スカルバルキモン』

      「……きっと死にたい気分よね。大丈夫、一瞬で終わらせるから」

      夏音がバックルにメモリを挿すと、ベルトから銀色の金属の根が夏音の身体を這っていき、その根からじわと夏音の身体を変化させる。

      そして、その身体が人型に圧縮したスカルバルキモンとでもいうべきそれになると、そのまま夏音は足を上げ、真珠の頭蓋を踏み砕こうとした。

      それに対して、藪の中からギャァと叫び声がする。

      夏音が不思議に思って足を止めると、藪から飛び出したセイバーハックモンメモリが夏音の脚に噛み付いた。

      それを見て怒りと喪失感に染まり切った真珠の頭に浮かんだのは、猗鈴からかけられた生命への祝福ではなく、あのメフィスモンと最後にいた夜の屈辱だった。

      「……私以外、みんな死ね」

      土の中に落ちたヴォルクドラモンのメモリ、その本体のカード、頭を打ち付けるふりをして拾っていたそれを、真珠は口に入れた。

      『メフィスモン』

      同時に、ポケットからメフィスモンのメモリも取り出すと、服を捲りへその少し下に向けて突き刺した。

       

       

      「猗鈴お姉ちゃん!」

      雑木林を抜けた先で、永花はバイクに乗って待機する猗鈴を見つけた。

      真珠は病院を出た段階で連絡を受けていた猗鈴は、指定された合流ポイントとまでバイクで来ていたのだ。

      「永花さん……柳さんは?」

      「お姉さんは、森の中で、ドレスの人に襲われて……ナツネ? さんとかいう人に……」

      「……まっすぐ走ってきた?」

      「まっすぐ走ってきた」

      永花から話を聞くと、猗鈴は後から来る予定になっている便五に自分の代わりに回収して喫茶ユーノーに向かうようにとメッセージを送った。

      「もうすぐ便五君が来る、私は柳さんを助けに行く」

      猗鈴はバイクにもう一度跨ると、雑木林に向けて走り出した。

       

       

       

      あとがき

      というわけで24話です。大分陽都もしっちゃかめっちゃかになってきてしまいましたし、敵見方もぐちゃぐちゃになってきました。

      ではでは、またお会いできましたら……

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    • #4065

       あなた達どこで殺し合いし始めとんねんと戦慄しましたが、マタドゥルモンが世代というか根本から異なる能力を持っており奮戦。カッコいいですがフェレスモンが闊歩する病院が危険過ぎる、そして抱き着き魔またかよ!! 最早この街に安全地帯は無いと見える……。
       憎らしい敵と見せかけ同情もできる立ち位置だったパーさんがあんなことに。強力な完全体同士がぶつかり合う中でマタドゥルモンと同じデジモンアクセル枠の完全体ということを思えば活躍に期待が持てたヴォルクドラモンがお姉ちゃんの握力で退場。か、仮面ライダージョーカー的な緊急代替変身枠として激燃え展開を期待していたのに……何故だ!!
       
       男に誑かされた者同士、ということでしょうか。でもお姉ちゃんの本質はまだ明確にされていない気もしますが、キチンとメフィスモンの能力を把握した上で分析して警戒していたとは体温が低い一方で知恵が回る。散々ニアミスし続けた猗鈴サンも駆け付け、ああ次回はサブタイトルやOPが出る前に挿入歌がかかる奴だと期待。
       永花ちゃん賢い上に緊急事態の中で一番冷静まである。

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