ドレンチェリーを残さないでep19

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      自分に向けられた爪、大きく振りかぶられ振り下ろされるそれを、杉菜はちょっと大きめに避け、さらにマントの翼を使って大きく一歩、背後に跳んだ。

      「らしくない、攻撃ですね」

      杉菜は猗鈴と殴り合ってきたから、本気の猗鈴ならそんな無駄だらけの軌道で攻撃しないことは知っている。

      距離を詰める前から振りかぶって攻撃するなんて、子供のようなことをいつもの猗鈴ならばしない。

      猗鈴が姫芝をぎろりとにらめば、その背後には蒼炎をまとったマタドゥルモンが忍び寄る。

      音一つ立てずに鎖を振るい、猗鈴の首にかけて背中側に引きながら、逆の袖からは刃を伸ばして待ち受ける。

      それに対して猗鈴は首だけマタドゥルモンに向けるも抵抗しなかった。背中に刃が少し触れ、ほんの少し切るも傷口から溢れた液体が見る間にマタドゥルモンの刃をボロボロにし、猗鈴の背中にさえ歯が立たない。

      倒れかかった身体に合わせて斜めに足を引き、振り向く力に合わせて猗鈴は低い体勢から爪を突き立てようとする。

      「爪切りの時間だ、レディ」

      マタドゥルモンの袖の奥から新しい刃が伸びて猗鈴の五爪の内側に正確に刺さる。

      猗鈴が突き立てようとする動きに合わせてマタドゥルモンも突き出しながら手を捻ると、猗鈴の五爪は根本から剥がれる。

      「私は、炎にも負けない」

      爪が剥がれてもそのまま猗鈴はマタドゥルモンの顔へと手を伸ばす。爪の剥がれた指先から血の代わりにどくどくと溢れる液体が、マタドゥルモンの身を包む炎に近づく度蒸発してマタドゥルモンの顔を溶かす酸の雲になり、呼吸すれば喉も焼く。

      「があぁぁ!」

      『ウッドモン』『ブランチドレイン』

      猗鈴の手が動いてないにも関わらず、メモリのボタンが押され、音声が鳴り響く。痛みに悶えながら慌ててガードするマタドゥルモンの手の上から猗鈴の前蹴りが入って枝がその身体を包んでいく。

      「……こ、こんなつまらない決着があってたまるか!」

      青い炎と数多の刃が枝の檻を内側から破壊して、マタドゥルモンが姿を現す。

      ただ、その一瞬でもマタドゥルモンからエネルギーを猗鈴は吸ったらしく、腕につけていた添え木をボロボロと外して腕の調子を確かめだした上、剥がした筈の爪も短くはあったが再生していた。

      「私は、強い……」

      一瞬びくんと猗鈴の身体が震えると、コートの下から植物の蔦にも見える尻尾が伸びた。

      「やっぱり、あるとすればウッドモンメモリでしょうね……組織のデータベースにも存在しない、幹部の夏音の秘蔵のメモリ……」

      吸い取ったデータはウッドモンメモリに還元しないよう改造したと盛実が言っていたことも杉菜は思い出していたが、明らかに現状はそれに矛盾する。

      吸った端から自分のものにしそうな様子だ。でも、今までに吸った分は使えてないのだろうなとも杉菜は思った。もしそうならば、ウッドモンメモリの中にはスカルバルキモンの力がある。使用者が体質的に合わなかった為弱体化していたものの、本来は幹部のメモリ、死なない肉体に異常反射神経の組み合わせは自傷しかねない爆発や毒爪と相性が良い。

      『そのメモリもそうですが、彼女は過去にグランドラクモンの目を見てますからね、その線も捨てられませんよ』

      「とりあえず、ベルトに触れれば変身の解除を狙えるんですけれどッ!」

      杉菜は自分に向けて伸ばされた鎖を鞭のように伸ばした蔦で打ち落とす。

      三つ巴の状況で猗鈴の変身を解除したらどうなるかなんてことは杉菜にも鳥羽にも簡単に想像がつく。

      ならば先にマタドゥルモンを倒す他ない。しかし、猗鈴にエネルギーを吸わせるのはもちろんよくない。

      杉菜は袖の内側から蔦を伸ばすと、それを拳に巻きつけた。

      マタドゥルモンは鎖をじゃらじゃらと鳴らしながら慎重に猗鈴と杉菜との距離を測る。

      その二人を、猗鈴はじっと見る。そして、最初に動いたのは猗鈴だった。

      猗鈴がマタドゥルモンに向けて歩き出す。それを見て、杉菜は地面に転がり刃の溶かされた剣に向けて蔦を伸ばした。

      「これ、使えますね?」

      『確かに素手じゃ戦えませんね』

      杉菜がそれを手に取ると、恵理座の声と共に、ベルトからにゅるりと出てきた細長い触手の様なものが剣の持ち手の筒に伸びて、接続する。

      『ザッソーモン』『プラス』『ヴァンデモンX』『スピア』

      濃緑の柄がするりと長く伸び、その先端にピンクに光る爪がつく。

      そうしている間にもマタドゥルモンと猗鈴は既に戦っている。

      『ウッドモン』『ブランチドレイン』

      猗鈴の蹴りがマタドゥルモンの腹を直撃する。脚の爪から出た液がその皮膚を溶かして血も流させ、さらにその傷口を広げるように枝は刺さる。

      マタドゥルモンは猗鈴の身体の内、緑色のコートで覆われていない部分、腕に噛み付いてその血をすする。

      それを見て、猗鈴はたんとかるくジャンプして、噛まれている方の肘で地面を殴りつけるようにする。

      マタドゥルモンの顎は地面と腕に挟まれて強く打たれ、加えて身体の方もその低さまで追いつきたいのに全身を覆う枝が、燃えるとはいえ邪魔をして、その負荷が首に集中する。

      「ぶぇッ!」

      あまりにもブサイクな音を漏らしながらマタドゥルモンの顎が猗鈴の腕から引き離された。

      『ウッドモン』『ブランチドレイン』

      猗鈴はマタドゥルモンの細い首を踏みつけようと脚を上げる。

      『ヴァンパイアセオリー』

      杉菜は二体の間に割り込むと、マントでふみつけを受け止めて、枝が伸びる前にひらりとかわす。すると、マントの下にいた筈のマタドゥルモンの代わりに現れたコウモリの群れが猗鈴の胸元目掛けて飛んでいき、その花粉に触れて爆発する。

      自身の花粉の爆発でのけぞる猗鈴に時間差で何発も何発もコウモリは飛んでいき、花粉を爆発させる。

      「さぁ、今の内にやりますよ」

      「……なるほど、ただ助けてくれたというわけではないか」

      腹部の血は止まっていたものの、ただでさえ細い腰には痛々しい傷跡が残り、首も曲がったまま伸びない。

      それでもマタドゥルモンは獣を思わせる前傾姿勢で、袖の隙間から剣と鎖を伸ばす。

      「今の私が助けたいのはあったの暴走している甘党です」

      杉菜は槍で真っ直ぐにマタドゥルモンの胸を狙って踏み込む。

      マタドゥルモンはそれを避け、次いで来る打ち払いを爪を地面に立てて這う様な姿勢で前に走りながらさらに避ける。そして、蹴られない様にと杉菜の脚に鎖を伸ばして両脚を結ばせた。

      さらに杉菜を引き倒すと、思わず杉菜は槍を手放した。

      「少しでも君から回復させてもらおう!」

      マタドゥルモンが牙を剥き出しにし、馬乗りになって杉菜の首に狙いを定める。

      それに対して、杉菜は顎が開かない様に腕から伸ばした触手で顔を縛る。

      それを取ろうとマタドゥルモンがもがいていると、不意に飛んできた槍に背中を刺された。

      『ヴァンデモンX』『ブラッディドレイン』

      呆気に取られたマタドゥルモンの腕を杉菜の手が抑え、マントの爪がその脇腹に突き刺さっていく。

      ピンクの爪が光り、マタドゥルモンからエネルギーを吸い上げていく。炎の勢いが弱くなり、鎖が形を失う。そして、爆発した。

      爆発の後には、マタドゥルモンではなくより小さな黒い仮面に目玉模様のデジモンの姿と、身体から飛び出たデスメラモンのメモリが一瞬あったが、すぐにデジモンの姿は佐奈の人間の姿に変わり、メモリは爆ぜて砕け散った。

      「……さぁ、一騎討ちですね」

      杉菜がそう口にすると、地面にべしゃりと打ち捨てられた最後のコウモリが毒に溶かされて原型を失った。

      地面に転がった槍に翼がちょんと生えて杉菜の手に飛んで戻る。

      猗鈴は爪をだらりと垂らしながら杉菜を睨む。マタドゥルモンからデータを吸ったからか、いつの間にか尻尾は二本に、葉の形をした二対の翼まで生えていた。

      「……距離を保たないと戦えないけど、距離を保ったままじゃベルトの解除はできない。あのベルトは盛実さんの能力で動いてるそうなので彼女に連絡取れれば、なんとか」

      『んー……一応、できますよ』

      マントから一体、コウモリが現れて病院の窓へと飛んでいく。

      『ベルトの機能維持と、コウモリの遠隔操作で一杯一杯になるので、こっちの任意でヴァンデモンXの技は出せなくなりますけど……いいですね?』

      あと、声出せないから結構時間もかかりますと恵理座は言った。

      「……ゆっくりやってください。やせ我慢は得意なんです」

      杉菜はそう言って槍を構え、猗鈴をじっと見たあとふと笑みをこぼした。

      「そういえば、猗鈴との初対面の時にも同じことを言いましたね」

      猗鈴はそれに何かを返さない。

      「私は、強い子……」

      うわ言を呟き、そして尾で地面を一度叩いて杉菜に向けて爪を振り上げて走る。

      振り下ろされる手をしなやかな槍で絡め取って弾く。

      猗鈴はそれに対して懐に潜り込もうと動くが、杉菜は踏み出してきた脚に触手を絡み付かせて、思いっきり引っ張り上げて猗鈴を転ばせる。

      『ザッソーモン』『スクイーズバインド』

      杉菜の左手の五指が伸びて転んだ猗鈴の両手両足と尻尾を縛る。

      指一本の力である以上、猗鈴も全く動けないなんてことはない。杉菜の力を超える力で無理やりに身体を動かして立ち上がり、触手に毒液をかけようと、手を脚を縛る触手の上へと持っていく。

      「させるわけがないでしょう!」

      杉菜は手をぐるりと捻り、わざと複数の触手を絡めた。

      猗鈴の腕も脚もその動きに合わせて引っ張られる向きが変わって、バランスを崩す。

      押したり、引いたり、時に触手を伸ばして急に緩めたり、急に縮めて引っ張ったり、猗鈴の動きに合わせて杉菜も必死に触手を操る。

      不意に、猗鈴の動きが少し落ち着いたかと思うと、背中の翼で羽ばたきを始めた。足で一瞬強く地面を蹴り、翼の羽ばたきで持って猗鈴は空を飛び出した。

      杉菜もマントで空を飛んで対抗しようとするも地力が違う。

      空に上がる猗鈴を杉菜は止められず、飛び上がった猗鈴は杉菜の上からポタポタと毒液を垂らし、花粉を撒き散らす。

      触手が毒に焼かれ爆発に千切られていく。

      「ぐぎ、ぎぃッ……」

      それでも杉菜は触手を離さず、もう一度とザッソーモンメモリのボタンを押す。

      『ザッソーモン』『スクイーズバインド』

      今度は両手。両手両足と今度はさらに翼も。当然同じ様に降り注ぐ毒液に焼かれ爆発に千切られるが、全て千切られる前にと両手の触手を絡ませて一本の太い綱にして猗鈴を地面に叩きつける。

      「変にうまくやろうとしてうまくいかない。私ってそういうやつでした、ね……」

      杉菜は一度触手を納めると、槍をムチのようにしならせて猗鈴の腕に巻きつけ、逆の端を自分の腕に巻きつけた。

      そして、そのまま杉菜は前に出た。猗鈴も前に出る。

      猗鈴が前蹴りを繰り出してくるのを、杉菜は正面から膝で受け止める。そして、代わりに猗鈴の頭に触手を巻き付けると、引っ張って自分の額をぶつける。

      「我慢比べだけは私も大概負けたことないんですよ」

      猗鈴がならばと頭を振りかぶると、杉菜はがら空きの腹に前蹴りを入れた。

      「我慢比べするとは言ってないです」

      そして、うずくまるような姿勢に猗鈴がなると、お互いの腕を繋ぐ槍を下方向に引っ張り、猗鈴の額に向けて膝を突き出した。

      それを猗鈴は手を間に挟んでダメージを和らげると、そのまま杉菜の膝を掴んで毒の爪を突き立てる。

      じゅくじゅくと音を立ててスーツがえぐれていく。

      膝に走る激痛に、奥歯を噛み締めながら杉菜はベルトに向けて蔦を伸ばす。

      すると、猗鈴はパッと杉菜の膝から手を離すと、杉菜の顎を殴りつけた。

      視界が揺れ、平衡感覚が崩れる。それを見て猗鈴は繋がった腕をぐいと引き、今度は胸を真っ直ぐに殴りつけた。

      「ぶぁッ……」

      呼吸が止まり、身体が硬直する。そして、次の拳も当然杉菜は避けられない。

      だから杉菜は槍の拘束を解いた。もう一度胸を殴られると共に、その勢いで後ろに退いて距離を取る。

      「ッふぅ……まだまだ、私はやれますよぉッ!」

      杉菜はもう一度槍を握り直して前に出ようとしたが、その時、ふとエンジン音と共に誰かが叫んだ。

      「そのまま退がって、姫芝!!」

      杉菜はその声に、背後の街灯に蔦を伸ばして前に出ようとする自分の体をピタッと止め、反動に任せて後ろに跳んだ。

      すると、明らかに一般車両じゃない装甲車が猗鈴を横から凄い勢いで撥ね、焦げるような臭いをさせながらドリフトして止まった。

      その装甲車が開くと、新しいベルトを手にした盛実と、ゲームのコントローラーの様なリモコンを持った天青が現れた。

      「……助かりました。でも、なんで直接来たんですか?」

      遠くからベルトの機能を失わせればいいのにと杉菜が言うと、盛実はそうはいかないと首を横に振った。

      「グランドラクモンの洗脳だけならそれでとりあえず無力化できるけど……ウッドモンメモリの影響がわからない。最悪、猗鈴さんの精神とかに影響が出るかも」

      「博士、急いで。多分この装甲車だけじゃ長くは抑えていられない」

      「えーと、というわけで……このベルトの精神感応通話を使って猗鈴さんの精神に繋がって、グランドラクモンメモリの影響とウッドモンメモリの影響を明らかにしつつ、あわよくば正気に戻します! 姫芝銃使える!?」

      そう言って盛実は何かごつい天青のものとも形の違う銃にがちゃんと何かの機械をセットした。

      「使えませんが!?」

      「なら私がやりましょう」

      杉菜の変身が解け、ベルトからずるりと恵理座が現れる。

      「猗鈴さんにそのベルトの子機〜ひっつき虫ver〜を撃ち込めば、あとは姫芝がこっちのベルトを着けるだけ! それで猗鈴さんに直接呼びかけられる!」

      そう言って盛実はベルトを杉菜に渡した。

      「わかりました」

      恵理座はそう言うと、装甲車を下から持ち上げてひっくり返そうとしている猗鈴に向けて引き金を引いた。

      それは猗鈴の背中に当たる。

      「でも、これじゃあ猗鈴の足止めをする人がいませんよ」

      杉菜の言葉に、でも姫芝用に再調整してるしどうしようと焦り出したものの、恵理座がポンと肩を叩いた。

      「そこは私が手を打っておきました。盛実さんに連絡後、公竜さんにも連絡しておいたので」

      そう言ってる間に、マッハマンメモリを使用した姿の公竜が到着して、猗鈴に向けて銃撃を行う。

      「鳥羽、今どうなっている?」

      バイク型から人型へと公竜は変化しながらそう問うた。

      「美園猗鈴が錯乱状態の暴走中、状況の打破を試みる為、美園猗鈴を抑える戦力が必要です。主な武器は爪の毒液と爆発する花粉です」

      「わかった。まかせておけ」

      『エレファモン』『アトラーバリスタモン』

      公竜の背中に巨大なタービンが現れ、左腕も巨大なものに換装される。

      「……あと、その装甲車については後で確認しなくてはいけないので、最悪裁判所に行く気持ちの準備をしておいてください」

      そう言って公竜は猗鈴の元へと向かっていく。げぇと盛実が悲鳴をあげる。

      向かってくる公竜に、猗鈴はまずは様子見と言わんばかりに毒液を飛ばす。それに対して公竜は、背中のタービンを回す。すると、毒液は公竜に辿り着く前に風の勢いに負けて地面に落ちる。

      「他に遠距離攻撃の手段はない、そうだな鳥羽」

      『はい。格闘が得意な様なので中距離を保つのが得策です』

      「わかった」

      猗鈴が近づこうと走り込んでくるのに対して公竜は巨大な左腕を伸ばして殴りつける。猗鈴はそれを爪を立てながら受け止めようとするも、クロンデジゾイドで造られた装甲はそう溶けず、無理に爪を立てようとした分うまく受け止められず押し込まれる。

      公竜は再度腕を振うと、今の内にと杉菜達を見た。

      「とりあえず、私はこいつを着ければいいんですね」

      「そう! 本来は親機に対して子機の猗鈴さん側から精神が移るところを逆にしてあるから、倒れないよう先にっ……」

      「わかりました」

      杉菜がそう言ってベルトをつけると、ふっと意識を失って身体が倒れる。代わりにそこに滑り込んだ鳥羽はそれを受け止めた。

       

       

      「猗鈴!」

      杉菜は何もない白い空間に向かってそう叫んだ。それに声は返ってこない。

      どちらに行けばいいかもわからないで杉菜が辺りを見回していると、ふと懐から×モンのカードが勝手に飛び出て宙に浮いた。

      「なにを……」

      カードは急に巨大化し、そしてある程度の大きさになると扉のように真ん中から割れて開く。そうして現れたのは杉菜も見慣れたザッソーモンの姿だった。

      ザッソーモンは無言で蔦を伸ばすと逆の蔦を杉菜の手に巻き付けた。

      「……あっちって事ですね」

      杉菜はザッソーモンの蔦を掴み、一緒に歩いていく。

      少し進むと、杉菜は、何もない白い空間に自分達の影が落ちるようになったことに気づいた。それで空を見ると太陽が現れており、視線を前に向けると、太陽に背を向ける向日葵が生えていた。

      最初は一本、進むにしたがってその数は増えていき、いずれ目の前が見えなくなるほどになった。

      そうして向日葵をかきわけていくと、ふと、暑くなってきたことに気づいた。

      行き先にある向日葵が黒煙を上げて燃えている。

      「走りますよ」

      杉菜がそう言うと、ザッソーモンは杉菜の手を握っていた蔦を離し、目の前の向日葵を蔦で薙ぎ倒して先導し始めた。

      杉菜もそれを走って追いかける。そうして辿り着いた燃える向日葵の真ん中に、夏音がいた。テディベアを三つ抱えた子供の姿の猗鈴の手を引く、大人の姿の夏音。

      ふと水音に気づいて足元を見ると、血が流れているのも見えた。流れる血が触れた向日葵が発火する。

      「この血がグランドラクモンの影響……とすると」

      この夏音は猗鈴をグランドラクモンの影響から逃そうとしてるのだろうかと、ほんの少し杉菜が考えていると、夏音の目が黄色く変わり、毒々しい水色の爪を伸ばすと杉菜に向けて振るい出した。

      爪が振るわれる度、猗鈴の身体も引っ張られて振り回される。

      杉菜がザッソーモンの方をチラリと見ると、ザッソーモンはアヤタラモンメモリで変身した時の鉈に変わると、杉菜の手に収まった。

      夏音の振るう爪と数度打ち合って、杉菜は鉈を放り投げて猗鈴の手を引く夏音の手を狙う。

      猗鈴を巻き込まないようにと夏音が手を離して回避すると、杉菜はそこに飛び込んだ子供の猗鈴を抱え上げた。

      「猗鈴は、私がッ……!」

      夏音の爪から飛ばされた毒液が杉菜のスーツを溶かして背中を焼く。

      それでも杉菜は構わず走り出した。

      「ザッソーモン、これでいいんですよね!?」

      鉈の姿から戻ったザッソーモンは、その蔦を伸ばすと夏音の足に引っ掛けた。

      「イ、け」

      ザッソーモンはそう呟いた。

      「私の、猗鈴……ッ! 私の妹をッ連れて、引き離さないで……! お願い、猗鈴だけは……! 猗鈴! 猗鈴! 猗鈴ッ!!」

      夏音の慟哭だけが響く。それを聞きながら、杉菜はちらりと猗鈴を見ると、少し悲しそうな顔で夏音を見ていた。

      「お姉ちゃんじゃないお姉ちゃん……可哀想……」

      猗鈴の呟きを聞きながら、ひまわり畑を駆け抜ける。そうして白い領域まで戻ると、不意に杉菜は感覚が現実に戻っていくのがわかった。

       

       

      杉菜が目を覚ますと、変身の解けた猗鈴がその場で崩れ落ちるところだった。

      「よし、ウッドモンメモリを回収……」

      盛実が近寄ろうとすると、勝手にベルトからセイバーハックモンメモリが飛び出して、ドラゴンのような自立形態に変形するとどこかへ跳んで逃げてしまった。

      「あ……やっちゃった気がする」

      盛実はそう言ってベルトに残ったウッドモンメモリを取り出してタブレットに繋ぐと、すごい気まずそうな顔を杉菜達に向けた。

      「ウッドモンメモリ……中身だけセイバーハックモンメモリに移って逃げたみたい……」

      「ウッドモンメモリは中身入りのメモリだったの?」

      「多分……まさかメモリが自律移動できるようにしてたのがこんな風になるなんて……」

      その方がファングっぽいからって付けた機能でこんなことになるとはと、盛実は悔しそうに言う。

      「とはいえこれで一件落着、ですかね……」

      杉菜はそう言ってベルトを外す。しかし、いいやと割り込んできたのは鳥羽だった。

      「猗鈴さんはグランドラクモンの眼の影響を抜けたとは思えません」

      「……一応、心の中でそれらしい血溜まりは張り切って来ましたけれど」

      「逃げたってことはまだ彼女の中に残ってるってことです。奇しくも今回は……メモリの暴走によって猗鈴さんの意識が奪われたみたいですけれど、再発した時どうなるかわかりません」

      ので、と言うと、恵理座は自分の爪を伸ばしたかと思うと自身の胸に突き刺し、その後小さな光の球を取り出した。

      「……このX抗体を投与します」

      「X抗体……なんでそんなものをあなたが……」

      天青は恵理座に対してそう呟き、公竜の方を咎める様に見た。

      「公竜さんはX抗体のことは何も知りませんよ。かつてデジタルワールドにて大量死を巻き起こしたXプログラムの抗体であることはもちろんのこと、このXがグランドラクモンのことを指し、Xプログラムがその能力を解析して造られたことも知りません」

      恵理座は胸から取り出した光の球をくるりと手の中で回したが、その顔は軽い口調と裏腹に消耗して見えた。

      「……説明してくれ、鳥羽」

      「がっつかないでくださいよ、公竜さん。私以外にモテなくなりますよ?」

      それはそれでアリかも、なんて言いながら恵理座は疲れた様子で猗鈴の側に行くと、光の球の半分をむしって自分の身体に戻すと、残りを猗鈴の胸に押し付けた。

      すると、光の球は溶ける様にして猗鈴の身体に消えていく。

      「ふー……やっぱり説明は後でいいですか。X抗体いじったせいで私の中のデジモン部分が荒れたみたいで……」

      荒い息で、よろっと立ち上がった恵理座に、公竜は仕方ないとため息を吐き、天青もひとまず納得した様に頷くと猗鈴の元まで行き、その体を抱え上げる。

      「えーと、Xプログラムは私もわからないんだけど、とりあえず猗鈴さんも姫芝もメディカルチェックするから装甲車の方来て、一応簡易設備はあるから」

      盛実に言われて、天青と杉菜は装甲車の方へと歩いていく。

      そして、それを見て公竜も変身を解いて恵理座の方へ向かいう。

      「ちゃんと後で説明してもらうからな。長くなるぞ」

      公竜がそう言うと、恵理座は青い顔でにまぁと笑った。

      「うふふのふ、公竜さんの部屋で一晩を明かせるなら大歓迎です」

      「……検査入院の項目を増やしてもらう。話すのは明日、病院のベッドでだ」

      全くと公竜は恵理座を支えるためにと手を出す。

      その手を、恵理座の手は掴めなかった。代わりに、恵理座の胸から突き出た血だらけの手が代わりに取った。

      「久しぶりね公竜。私の顔、覚えてるかしら」

      公竜はその血だらけの手を、恵理座の背後に立つその持ち主を知っていた。

      実際に見た記憶は遠く子供の頃、しかし、その頃に撮られた家族写真は今もずっと持っている。

      顔を見るだけで憎しみが溢れる。自分の体質を人生を決定づけた存在。この世に自分を産み落とした存在。

      「グランドラクモン……!」

      「昔はママって呼んでくれたのに……あの時おいていなくならなきゃよかったわ」

      公竜は握った手を離すと、拳を強く握り締める。

      そんな公竜に対し、恵理座は胸を貫かれたままその手に自分の震える手を重ねた。

      「戦いになったら、彼女達が加勢に来てしまいます。準備なしに目を見たら、声を聞いたら、公竜さん以外はアウトなんです……」

      「そう心配しなくても大丈夫。私は基本的には真珠さんのサポートに徹すると決めているから」

      そう言って、その女は恵理座の胸から手を引き抜きながら、何かを取り出して、捨てた。べちゃりと音がしたかと思うと、恵理座の身体は崩れ落ちる。

      「でもX抗体は流石に目障りだから、ね」

      勘弁してねとその女は状況に合ってない茶目っ気のある笑みを浮かべた。

      『ミミックモン』

      公竜は無言で変身すると、さらにメモリを挿し、腕を振りかぶった。

      『アトラーバリスタモン』

      変身した右腕がさらに一回り大きな鋼鉄の腕へと変わる。それを確認して公竜はもう一度メモリを押し込む。

      『アトラーバリスタモン』『プラズマクラック』

      電子音声が流れ、青い電気が公竜の腕を包む。

      公竜が振り下ろした拳をその女はひょいと避ける。

      「まぁ公竜に会えただけでわざわざ警察病院に来た甲斐があったわね。今度はゆっくりお茶でもしましょ。家族三人で、ね」

      去っていこうとするその女を、公竜は追いかけよう走り出す。

      びちゃ、と水音がした。

      ハッとなって地面に倒れた恵理座とその周りに広がる血溜まりを見て、それを振り切る様にまたその女の逃げた方を見るも、もうその女はそこにはいなかった。

      「公竜さん、追ったらダメです……公竜さん、まだ、そこにいますか……?」

      恵理座は虚な目でそう呟く。公竜は変身を解いてそっと血溜まりに膝をつくと恵理座の身体を抱え上げた。

      「……鳥羽、お前は吸血鬼のデジコアと心臓の両方があるはずだ。片方があれば死なないし、再生もする。黒木世莉の資料にはそう書いてあった。これも……グランドラクモンを騙す為、だよな」

      公竜は、そう言いながら恵理座の胸に空いた穴を見る。

      「ふふ、公竜さん知らなかったんですか……? 私はなれなかったんです……心臓以外の内臓も撃たれた時にダメになって、使える内臓は少なくて……子供も産めて一回って話で、やっぱり公安ってクソだなって……」

      なんの話でしたっけと恵理座は公竜はの顔がある方とは別の方向に笑いかけた。

      「僕はこっちだ」

      恵理座の顔を自分の方に向ける。

      「きみ、たっ…さん……わた…の、メモリを見つ……」

      そう言って、恵理座の身体も血も不意に色を失い、サラサラと崩れて灰になった。

      そして風が吹くと、灰はあっという間に散っていき、後にはスーツを抱えた公竜だけが残された。

      公竜は、それをぎゅっと握り締めながら、鳥羽恵理座ではない彼女の名前を呟いた。

      すると、ころんと服の中から一本の赤紫色のメモリが落ちた。そこに書かれていたメモリの名前は、ヴァンデモンX。

       

       

       

      あとがき

      間が一週空きましたが皆様いかがお過ごしでしたでしょうか。

      この回は結構怒涛の回ですのでこれからどうなるんだろうと思っていただけているんじゃないかと思います。

      ではでは、また来週お会いできましたらよろしくお願いします。

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    • #3990

       ヴァンデモンXが出たからにはブラッディドレインがブランチドレインと対になる技になるに違いないと予想していましたが、特に明確に対にされることはなく、かと言って使われないわけでもなくしっかり見せ場自体は作って退場。……退場!?
       新アイテム・ヴァンデモンXメモリと共にキチンとDXザッソーブレードの新機能を用いておもちゃの宣伝(っぽいこと)まで熟す姫芝は本人の言はどうあれヒーローの鑑ですが、実は銃は使えないという驚愕の事実が明かされてしまいました。リボルギャリーで駆け付けた博士達はあまりにどシリアスな空気だったので、流石に「あー銃ライダーは弱いって言うしね」的な発言を控えたのでしょう。
       吸血鬼同士、また植物同士が絡み合う戦場は如何にもへりこにあんさんっぽい描写。ザッソーモンお前さてはふうとくん的なマスコット化狙ってるわね!?
       
       同じ“猗”の漢字を持つ者が今映画館で大暴れしていますが、それに負けじとアバレた数だけ強くなれるを体現する猗鈴サンの勇姿。心象世界ですらお姉ちゃん怖すぎやろと戦慄しましたが、前々からフラレていた通りウッドモンメモリにそもそも秘密があるのか。セイバーハックモンメモリとかいうレベルが高すぎて言うことを聴かない奴。
       名前が出た時点で警戒されていたグランドラクモン、まさかの一親等。鳥羽さん女子トーク含めてセクハラ発言しまくったら後ろから胸に風穴という凶悪な死に様を迎えてしまいました。何故だ!
       主人公暴走回で散るのがまさかの愉快な年上のお姉さんという。しっかり灰になって「生きてるとか絶対ありません」と断言されるかの如く風…陽都の風になってしまわれた。最後の最後までつれなかった公竜サンですが、病院のベッドに見舞いには行くつもりだったのに……!

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