ドレンチェリーを残さないでep17

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      ワイズモンメモリの中と、アルケニモンメモリの残骸の中に見つけた機械を調べていた杉菜は、それが発信機と知ってチッと舌打ちしながらハンマーで叩き割った。

      「組織製の完全体以上のメモリの持ち主は居所が組織にはバレバレって訳ですか」

      しかし、と杉菜は自分の周り、かつては組織の建物だった廃墟を見てフンと鼻を鳴らす。

      「王果は人にしか興味がないから、ものより人を攻める……でも、この建物内に血の痕は少ないしデジモンの死んだ痕跡もほとんどない。柳の協力者、ということですかね」

      「そういうことだ少女よ」

      「あー、マタドゥルモン、彼女は僕達と大して年齢は違わない」

      「……よく間違えられます。スキンケアには気を遣っているので」

      そう言いながら、杉菜はワイズモンメモリを取り上げてポケットに入れると、立ち上がった。

      「で、何か御用でも? ここを破壊してから随分経ってると思うのですが」

      「うちの上司がね、組織の破壊跡に警察以外が来たらきっと組織の人間だから、面白い計画を思いつくまでは、適当に見回って組織の力を削げって言うんだ」

      佐奈はそう言って、懐からメモリを取り出した。

      「……なるほど。ちなみに組織から離反した人間の扱いについては聞いてます?」

      「それは聞いてない。しかし、まぁきっと追い詰められて離反する様な人間はまた裏切るだろうから……」

      『デスメラモン』

      そう言いながら、佐奈はメモリを挿した。

      「倒す、でいいだろうね」

      『ザッソーモン』

      それを見て、杉菜も即座にメモリのボタンを押す。

      すると、アヤタラモンではなく流れたのはザッソーモンの名前だった。

      一瞬戸惑い、改めてボタンを押そうとして、佐奈の背後にある人を見つけて硬直した。

      「……デスメラモンメモリの使用者。君が僕の『家族』を唆した一人だね」

      白衣を軽くなびかせながら現れた善輝は、スタスタと歩いてデスメラモンとなった佐奈の燃える背中をぽんぽんと叩いてそう言った。

      「……君、は」

      そして、振り向いた佐奈の額に対して腕を伸ばすと、デコピンをした。

      「君も僕達の『家族』になれる素質はありそうだけど、メッだよ」

      言葉と裏腹に、佐奈の三メートル近くある頭はデコピンで激しく弾かれて飛び、そのまま後頭部を地面に打ち付けた。

      「おや、姫芝くんもいるね。この前のランチは美味しかったね。今度また行こうか」

      その後、杉菜に気づくとそう言って微笑んだ。

      「……本気で言ってるんですか」

      君が組織から離反したことは聞いたよと善輝は胸の前で手を握り締め悲しそうな顔をした。

      「組織に不満があって、でも美園くんに言いにくかったなら、僕に言ってくれればいいんだ。メモリを進化もさせたし君は耐久力がある。夏音くんと同じで嫉妬の魔王の器として幹部待遇にすることもできる」

      「魔王の器……?」

      「そう、魔王様のメモリはその力が強大すぎてね。適合率はもちろんのこと、力を受け止められる頑丈さという別の基準があるんだ。君はメモリを進化させるという『適応』する性質を見せた。元々使ってたメモリのせいか頑丈さもある。君ならきっとなれる筈だよ」

      ちなみにこれは本来幹部以下には内緒の情報だよと善輝はウィンクした。

      「お断りします」

      姫芝の返事は早かった。待遇はもう関係なく組織に戻るつもりはなかった。

      「それならそれでいいんだ。夏音くんは、火葬されて身体が脆くなったから器としての資質は疑問視されているけれど、君のメモリを解析すればもっとメモリを進化させ、候補者を増やすこともできるだろう」

      善輝の声は優しく、しかし杉菜は一刻も早く逃げなければいけないということも悟っていた。

      それで、マタドゥルモンと佐奈の方をちらりと見たが、二人とも善輝に襲い掛かろうという風にはとても見えなかった。

      「何があろうと渡しませんよ、絶対に……」

      戦う覚悟を決めて、スッとメモリを胸の前に持ってくるも、不意に聞こえた声が杉菜にそれを中断させた。

      「あらあら、帰りが遅いから来てみたら……なかなかの大物がいるじゃない」

      その女はどこにでもいそうな格好をしていて、善輝と違って恐怖も覚えなかったが、ふとその女と目を合わせてはいけないと杉菜は察した。

      そして、善輝はその女を見るなり白衣のポケットからメモリを取り出した。

      「……嫉妬の魔王も悪趣味ね」

      女は善輝の目を見てそう言った。

      「人の顔を見てそう言うのも大概だと思うけれど」

      善輝はそう言うと、ゆっくりと女に向けて歩き出した。

      「私の眼を見て、私が狂わそうとしているのに、正気で意識を保てる人間なんていないわよ」

      「僕は人間じゃないと?」

      「いいえ、既に狂ってるって言ってるの。私の眼はカカオをすりつぶしてチョコレートにする様な眼だけど、あなたは既に限界なんてないチョコレート、溶かしてかき混ぜてもチョコレートはもうチョコレートから変わらない」

      『レガレスクモン』

      「……つまるところ、今の君は僕相手に成す術ない。ということでいいのかな?」

      善輝がメモリのボタンを押してポイと投げると、それを口から飲み込むようにして喉奥へと突き刺した。

      すると、その身体の周りを蒼い雷が走り、空気が裂かれる悲鳴が響く。杉菜はその圧にぞぞぞと鳥肌が立ち、恐怖に息が荒くなるのを感じた。

      「成す術がないとまでは言ってないわ」

      女は善輝の胸を指でツンとつつく。

      電気が女の身体にながれ、指先の皮は剥がれ爪は弾け飛び、血がぼたぼたと垂れるようになったものの、善輝のつつかれた胸から氷にも似た結晶が生えてくると、それは瞬く間に全身を覆っていった。

      「さて、出てくる前に帰りましょう? 一分は持つ筈だから」

      そう言うと、女は佐奈とマタドゥルモンを連れてその場から立ち去った。

      それから数十秒して、結晶から抜け出た時の善輝は、もうメモリを使う前の姿になっていた。

      「さて、話の途中だったね姫芝くん……あぁ、彼女も帰ってしまったか。残念だ」

      実際には、杉菜は逃げることはしていなかったし、できなかった。

      善輝から離れ過ぎれば例の女と共にいる佐奈達に襲われる危険がある。善輝に見つからない様に瓦礫の影で息を殺していた。

      「……僕としては、夏音くんが何を考えているかわからない以上、彼女の妹を『器』にというのとは別のプランを持ちたい。『家族』だから信用してはいるけれどね」

      姫芝くんがいないならば仕方がないと、善輝は杉菜の隠れている瓦礫の前で、瓦礫の裏の杉菜を見つめながらそう言った。

      そして、踵を返し去っていった。

      ゆっくりと深呼吸をして、杉菜は落ち着きを取り戻そうとする。

      しかし、不意に作動したスマホのバイブに、またびくりと肩を震わせた。

      『もしもし、姫芝?』

      「……そりゃ私でしょうよ。なんです猗鈴さん」

      聞こえてきた猗鈴の平坦な声に、杉菜は妙な安心感を覚える。

      『単刀直入に言うんだけど、探偵に興味ない?』

      「はぁ?」

      『とりあえず、マスターが代わりに説明する』

      「ちょっと待ってください。こっち何も飲み込めて……おい、美園猗鈴、おい」

      『もしもし、姫芝さん?』

      「……お久しぶりです。国見さん、バイトの教育ちゃんとしてください」

      まぁ、それはおいおいと流し、天青は本題を切り出した。

      『警察には、司法取引の準備があるらしい』

      「……司法取引、ですか。でも、それと探偵になることとどう結びつくと?」

      『正確には、元から探偵だった、ことにするの』

      「まだよくわかりませんね」

      『自分の為にメモリを使っていた犯罪者を警察が抱え込むことはできない。でも、元から探偵として組織にスパイをしていたとし、罪は犯したが、警察の監視の元探偵として警察に協力することを条件に、逮捕されなくなる』

      「……私に有利すぎますね。なぜですか」

      『警察と私達は幾つかの点で対立しているけれど、あなたの扱いに関しては一致している点が二つある』

      「聞きましょう、なんですか」

      『組織に戻してはいけない。そして、もう一つの暗躍する勢力に渡してもいけない。理由はわかる?』

      「片方ならわかります、魔王がこちらに来る為の器にされるかもしれない、ですね?」

      『そう、そしてもう一つは吸血鬼王の完全復活の阻止。こっちも魔王に劣らない危険なデジモン。あなたの使い道は多過ぎる』

      「……なるほど、わかりました」

      仕方ないですねと杉菜は呟いた。

       

       

      「で、何故私は給仕の格好をさせられてるんでしょうか。私聞いてないんですが」

      「着る前に言えばよかったのに」

      猗鈴に言われて杉菜はしゃーと牙を剥いて威嚇した。

      「とまぁ、それはともかく……この格好も意味あるんですよね?」

      「一応、ある。ここは探偵兼喫茶店だし……わりと常にうちは資金難だから」

      「……まぁ、一員となるからには売上に貢献しろと。客もいないのに給仕ばかりいて意味あるかは疑問ですけれど」

      「私も探偵側でのバイトだから、この閑古鳥鳴いてる店なら、給仕はマスターだけで手が足りる筈」

      猗鈴の言葉に、杉菜は頭をカリカリとかいた。

      「あと、そこの隅で縮こまってる白衣に作業着の人が斎藤博士ですよね?」

      「あ、え、うん……いや、はい。斎藤・ベットー・盛実です」

      斎藤はうへへと汚い愛想笑いをした。

      「斎藤別当実盛じゃないですか……というか、メールでは普通にやり取りしてたのに」

      「盛実さんは人見知りなので、喫茶店の方では戦力外です」

      まぁうんと言いながら天青がコーヒーを出す。

      「ありがとうございます……げっ」

      「……げっ?」

      「……美園猗鈴さん。あなた、もしかして姉と同じ馬鹿舌ですか?」

      「私はコーヒー苦手だから飲んでない。そういえば……稀に来るお客さんもコーヒー頼んでるの見たことないかもしれない」

      「そうですか。砂糖入れてあげるので一口どうぞ、客が頼まない理由がわかりますよ」

      杉菜が手元にカップに砂糖とミルクをたっぷり追加して猗鈴に渡す。それを猗鈴は受け取りはしたもののカウンターにそのまま置いた。

      「私の消費カロリーは美味しくて甘いもので基本的に計算してるから……」

      だから、不味いのはちょっとと言われて、杉菜はカップを取ると残ったコーヒーを流し込んだ。

      「ま、まぁ……マスターは味覚も鋭敏な副反応出てるから……まともにコーヒーの味見できなくて感覚でやってるし」

      「……ちなみに、あなたはコーヒー飲めるんですか?」

      「飲め、るけど……徹夜とか多いし味とかもうわかんなくて……時々、何飲んでも泥水みたいな味する」

      うへへへと笑い事じゃないセリフを吐く盛実に、杉菜はあちゃーと

      「……道具貸してもらっていいですか」

      「姫芝、コーヒー淹れられるの?」

      「一応、コーヒーインストラクターの資格を持ってます。まぁ座学で取れる資格なので、バリスタとか名乗れるものではありませんが……」

      あ、豆だけはいいやつ使ってる、保管方法雑だけど。と呟くと杉菜はテキパキとコーヒーを淹れ始めた。

      さぁどうぞと、杉菜は三人の前にコーヒーを並べた。

      「……砂糖入れていいんだよね?」

      「いいですよ。豆の違いとかまで理解できればもちろんですが、美味しく飲む為の手段に過ぎませんからね」

      猗鈴がじゃりじゃり言いそうなほどに砂糖を入れ、一口飲むと、カッと目を見開いた。

      「美味しい……!」

      「自分で淹れたのとは香りから違う……」

      天青も一口飲んで笑顔を見せると、直ぐに二口目に移行した。

      そして、盛実は一口飲むと涙を流し始めた。

      「……もしかして、今、泥水期ですか?」

      「いや、なんか、美味しいという感覚が何ヶ月かぶりに蘇った感じが……」

      マスターの料理基本素材の味しかしないし……と盛実はさらにボロボロと涙をこぼす。

      「調理師免許も一応持ってますが、何か作りましょうか?」

      「姫芝さん……いや、姫芝ママ……?」

      「ママではないです」

      盛実の言葉に、杉菜は冷静にツッコんだ。

      「ちなみに、姫芝って甘いものとかは……」

      「甘い系は苦手なので勉強してないです。というか、こんな好き勝手やっていいんですか?」

      「まぁ正直、うちの地元だと探偵は喫茶店にいるものだったから始めただけだし……」

      天青の言葉に、中身が伴ってないじゃないですかと杉菜は呆れながら呟いた。

      「逆に姫芝はなんでそんな色々資格あるの」

      「……便利なんですよ。話の種に。特に誰でも衣食住からは逃れられませんから。座学だけで取れる簡単なのでもね」

      嘘だった。色々手を出したのは何か一つぐらい自分にも才能らしいものがないかと思ったからだ。

      調理師免許は取ったけれど、勉強した分そこそこ美味いというのが姫芝の限界。レシピを作れば凡庸だし、超絶技巧もない。コーヒーだって同じ、大したものでないのは杉菜自身がよく知っている。

      何か特別な部分がないかと探して回った残り滓。

      でも、まぁこれでよかったんだと、今になって杉菜は思う。

      そこそこで喜ばせられる人はいくらでもいて、人を助けることも特別になることもきっとできた。

      これからは、そうすればいい。と後悔を杉菜は奥歯で噛み砕いた。

      そんな風に複雑な思いを噛み締める杉菜の言葉を聞きながら、猗鈴はこのコーヒーをアイスにかけちゃダメかなとか考えていた。

      「姫芝、アフォガードとかってしていい?」

      ついでに口にも出した。

      「……いいですけど、やるなら砂糖入れる前ですから、それは普通に飲んでください。もう一杯淹れます」

      「……ところで、話変えていい?」

      「急に元気になりましたね、斎藤博士」

      「あっ、調子に乗ってごめんなさい……」

      「いや、そこまで言ってないです」

      「で、その……提案なんだけど、姫芝さんと猗鈴さんの二人で一人に変身しない?」

      「……盛実さん。それ、意味あるやつですか? 何か元ネタに近づけたいとかじゃないですか?」

      「それは大いにあるけど……努力型と天才型のでこぼこ探偵コンビだし、姫芝の変身マフラー出たって永花さんから聞いたし……身体を縦に二分割したくなる」

      「それだけじゃないってこと、ですね。斎藤博士」

      「う、うん。実はね、二人で変身するメリットは三つあります!」

      「三つ」

      猗鈴は半分アフォガードに意識を持っていかれながら、そう呟いた。

      「そう、一つ目はメモリから引き出せる力の増大。二つ目は代田さんベルトの調整するら余裕ができる。三つ目は、姫芝さんの負担軽減」

      「代田さんのベルトは調整が要るんですか?」

      「うん。話を聞いた限りだと、そのベルトは動くはずがないベルトなんだよ」

      「……実際動きましたが」

      「そう、動いた。動いたけれど、本来ならパーツが足りなすぎる。姫芝はさんの銃は私のベルトに必要なパーツがあるわけがなかった。だから、それを組み替えても調整しても、本来は動くはずがない」

      「じゃあなんで」

      「ルミナモンは、困難に立ち向かう『力』を与えるデジモン。それはパワーもあるけれど、運命力とかあらゆるものが困難に立ち向かう時に味方する。一説によれば過去や未来改変さえ行ってるかもしれない、そんな能力なので、パーツがなくて機能しない筈のベルトを無理やり機能させたとしても不思議じゃない、っていう、そういう能力なんだけども……永花さんにずっとメモリ使ってもらうわけにはいかないし、一時的に現れたルミナモンの能力がどれだけ続くかもわからないじゃんね」

      「……なるほど、納得しました。で、三つ目の私の負担減とは?」

      「メモリの直挿しに、欠損レベルの負傷の再生。肉体は再生して見えても、繰り返すごとに人とデジモンの境は曖昧になっていく。そして、バランスが崩れればどっちも急に脆くなってらしまう」

      脆くなった人がこれです。と盛実は天青の袖を捲り、その下に巻かれた包帯を剥がした。

      本来の皮膚そのものも痛々しいひび割れのような傷跡が残っていたが、さらにその上からノイズのように黒色が走っている状態だった。しかも、猗鈴達が見ている前でも常にノイズの走り方は変わっていく、およそ人の肌に起こる症状とは思えないものだった。

      「この前、幹部と戦った時にマスターのデジモンの部分は自分自身の力で内側から崩壊し、人の部分にまで余波が出た。今は人の傷の方は塞がってきたけど、デジモンの部分はまだ不安定で……うまく人の部分と馴染めてない」

      「……まぁ、私は心臓をデジモンの肉体で補ったから、血液に乗って全身に拡散してしまった面も大きいし、メモリとは違う技術の結果でもある。同じになるとは言わないけど……」

      と、天青は姫芝の目をじっと見た。

      「助けたい誰かが目の前にいるのに、本当にただ見てるだけしかできないのは、苦しい」

      その言葉に姫芝は実際にそういう経験をしたのだろうという重さを感じた。

      「と、いうわけで。こちらが二人用のベルトになります」

      「……早くないですか」

      「いつもはちょっとは時間取るのに……」

      だってめっちゃ熱い展開だったからイマジネーションがという盛実に、杉菜はなんだこの人と思った。

      「メインボディ側にこっちのベルトの親機を、サブ側にこっちの子機を。親機を起動して腰に巻くと子機を持ってる側と、念話が繋がります」

      「念話がつながるってなんですか」

      「まぁ、口に出すとは別の意思表示方法が開通する感じ。やれば感覚的にわかるよ。これ、今朝成功した時とかマスターとちょっとはしゃいだぐらい感覚的で簡単だし」

      「念話を繋げる意味は……?」

      「身体感覚の共有は言語だとちょっと難しいし、タイムラグもあるんだよね。あと、親機側に一旦意識を飛ばすから、念話できるかどうかはその経路が繋がってるか確認できるって理由もある」

      「……他人の身体で動き難くはないんですか」

      「そこら辺はね、一時的にどっちも動かしやすい肉体に肉体を再構成するから多分大丈夫。でも、個人的には姫芝ボディをメインボディにした方がいいかなって思ってる」

      「私の方が手足長いし多分強いですよ?」

      「それはそうだけど、リーチとかはどうせ再構成するし……猗鈴さんには猗鈴さんの不安要素がある」

      「私の不安要素……」

      「うん。まぁぶっちゃけると。夏音さんが猗鈴さんに何仕込んでるかわからないって話。姫芝マ……さんの場合は使ったメモリからその影響まである程度推測できる。でも、猗鈴さんは……少なくとも目に副反応が出ている辺り、知らず知らずメモリを挿されてた可能性もある。それも、ウッドモンメモリかもわからないし、ウッドモンメモリの細かい解析もずっと後回しにしてきたし……なんもわからん、って感じ。メインメモリもできるならウッドモンは外したい」

      「精密検査とかした方がいいんじゃないですか?」

      「と、思って二人分の検査を警察病院の方で手配してもらいました。一日ゆっくり入院してきて」

      天青はそう言ってひらっと資料を取り出した。

      「……私、聞いてない。姫芝は?」

      「聞けるタイミングありました?」

      「ない」

      「そういうことです」

      当然杉菜も聞いていなかった。

      「お迎えに来ましたー、あなたの街の頼れるモブ警察官Aでーす」

      目深に帽子を被った鳥羽のパトカーに、猗鈴と姫芝は詰め込まれていく。

      「あ、ちょっと……」

      それを、天青は止めようとしたが、あっという間にパトカーは出て行ってしまった。

      「どうしたの?」

      「警察病院からの迎え来るのって、午後だった筈じゃ」

      「え、そうだっけ?」

      「それに……今の人、デジモンと重なってた」

      「それってメモリの……」

      「いや、違う。私と同じ脳に寄生されてるタイプの人」

      「……え、ちょっと警察病院の担当者に電話してみる……のは、ちょっと、苦手なので、私はメール確認するから電話お願いマスター!」

       

       

      「本日は、喫茶ユノ発、警察病院行きをご利用いただきありがとうございます。と、言いたいところなんですが、もう本来のお迎えの車じゃないのはわかってますよね?」

      「……昨日は姫芝のこと誤魔化してすみませんでした」

      「あー、それはそれで反省してください。公竜さんにめちゃ怒られましたし、警察として協力できなくとも個人でこっそりならできるんですよ、一応」

      わざとらしく怒った顔をしながら鳥羽はそう言った。

      「でも、今回の用件は別です。公安側の思惑や公竜さんが何故柳さんを殺そうとしたかなど、みんなが気になるあれこれを……情報漏洩します」

      「それを私達は何をもって信じればいいんです?」

      「……強いて言うなら、愛憎?」

      「愛憎って……」

      「私ね、そっちの国見探偵と同じ高校の一年後輩で、肉体の欠損を自分に寄生していたデジモンで補って人間やめてるんですけど、それ公安に仕組まれてたんですよねー」

      姫芝がはあ!?と叫ぶのを聞いて、鳥羽はくっくっくと笑いながら、公安は国見探偵みたいな体質の駒が欲しかったんですよと言う。

      「ちなみに、鳥羽恵理座(トバ エリザ)って名前も親からもらった名前じゃないです。デジモン人間のお前は家族の側にいれないよーって、名前を捨てさせ地元を捨てさせ家族を捨てさせ、私を孤独にさせて公安に依存させようって公安的手法のせいなんですね」

      さらにちなむと、私が選ばれたのは私についていたデジモンが吸血鬼だったから。公的な権力と結びつかないと吸血衝動から身近な人も襲いかねない種だからなんですねーと何気なく言った。

      「公安自体は、デジモン達の世界の為の機関に過ぎなくて、リヴァイアモンがこっちで暴れるのを阻止できれば、なんでもいいんですよ。所属してる人達も六割は公安しか居場所がないんです。私のように仕組まれた人もいれば、デジモンの世界から流れてきた『漂流物』に呪われた人とか。三割の人は三大天使の傀儡です。警察としての使命感とかから六割の人達の世話係にされたお人好しが残り一割って感じです」

      「……なに、そのクソ組織」

      「そこが私の憎悪ポイントって訳ですね。特にオファニモン派はひどいです。慈愛の天使オファニモンの慈愛はデジモンにだけ向くので、人は産業動物なんですよね。公竜さんはセラフィモン派、私はケルビモン派です」

      「いや、私達はその違いわからない……」

      「セラフィモンは、司法と正義の天使です。警察に属するからには、警察として国の治安維持も絶対的な使命と、当たり前のことをちゃんと言ってくれます」

      でも、デジモンと人の優先順位はつけます。と続ける。

      「ケルビモンはもふもふして可愛いです」

      「……それで、派閥の違う小林さんの足を引っ張りたいんですか?」

      「それはないでーす」

      残念、そのキメ顔は没収ボッシュートでーすと恵理座は笑った。

      「公竜さんは頭タングステンなので、シンプルに背負いまくりなんですよね。正義のこと街のこと他人のこと自分のこと、なーんでも。なので、情報漏らすのは公竜さんへの愛です」

      「好きなんですか? 小林さんのこと」

      「結婚しろと言われたらはいかイエスで返します。顔も好きだし、公安内で孤立しかけた私が信用できた唯一の人ですし、私がうっかりシルバーアクセの十字架触れて吐いた時も優しく介抱してくれましたし、実は不器用でスマホの画面保護シール貼る時にめちゃくちゃ気泡入れちゃうとことかもまるっとぐるっとべちょっとすりっと大好きです」

      と、楽しそうに言った後少し恵理座の眉が下がったのを杉菜はバックミラー越しに気づいた。

      「……でも、それも公安の思惑通り、公竜さんにまんまと依存させられているだけなのかもしれないですね。そしたらそれを本当の意味で愛してるとか大好きだなんて言えないですよね」

      なーんて自分の気持ちを信じられない悲劇のヒロイン感出してみたり、と恵理座は笑った。

      「それに、私と結婚とかしても公竜さんが幸せになることはないでしょう。公竜さんは自分の生まれを嫌ってます」

      「小林さんの生まれ……」

      「えぇ、小林さんは.数十年前に吸血鬼王グランドラクモンが戯れに肉体捨ててこっちに来て、人の身体を奪って産んだ双子の片割れなんです」

      「……だから、柳さんが妊娠してるってわかって……」

      「そういうことです。産まれてこない方がいいは、公竜さんの経験談から来るんだと思います。さて、今私重要なこと二つ言ってたのはわかりますね?」

      恵理座はそう、二人の反応を伺った。

      「……魔王に匹敵する脅威吸血鬼王グランドラクモンは既にこっちに来ている。薄々察してはいたけど、アレがそうなのか」

      「姫芝、会ったの?」

      「今日会いました。あとで説明します」

      わかった。と猗鈴は頷いて、次へと話を進める。

      「二つ目は小林さんのこと、ですね」

      「そういうことです。本当に公竜さんが柳を殺したら、我に返った時にどうなるかわかりません。そして、本物のグランドラクモンや吸血鬼デジモンと対峙した時もきっと冷静ではいられないでしょう。ベルト使われちゃうと公竜さん一人で完結しちゃうから止められないんです」

      「わかりました。私達が止めます」

      「姫芝、それ私も入ってる?」

      「入ってます。何か不満が?」

      「いや……私のことを仲間と思ってるのかなって」

      「……何言ってるんですか。正直まだそうそう思えませんよ。でも、これからなるんですよね?」

      杉菜が拳をスッと出してきたのに対し、猗鈴はそういうのはいいやと手のひらで押し下げた。杉菜はそれにうーっと唸った。

      「ところで、お昼どこ行きましょう? 本来の病院行く時間までかなり時間ある訳ですが、私この辺りの美味しいものとか知らないんですよ」

      「スイーツラーメンを出してるラーメン屋なら知ってるけど」

      「……私が幾つか知ってます。近いのだとカレーのお店かパスタのお店が近いですが、どうですか?」

      「あ、ごめん。私香辛料の匂いとか吸血鬼的にちょっとキツイんだよね。近くでペペロンチーノ食べてる客がいるだけでちょっと気分悪くなっちゃう」

      「体質なら仕方ないですね。猗鈴さんは何か体質に合わないものとかありますか」

      「姫芝にさん付けで呼ばれるのが少しむずむずする」

      「食べ物はないってことで取るけどいいですね」

      「かまわない」

      なんだこいつ面倒だなと杉菜は思った。

      「じゃあ、釜飯のお店がいいですかね。次の信号を左に曲がってください」

       

       

       

      あとがき

      というわけでぎりぎり土曜中に更新ということで……

      今回は息抜き兼、設定開示回でした。この回、どう表紙絵描こうと迷ってこうなったんですが、前どう書いたっけで確認したら前もたいがい困ってました。

      ではでは、また次週会えましたら……

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    • #3954

       探偵は喫茶店やってるのが当たり前なうちの地元ってどこだよ。
       流れるように吸血鬼王と斎藤別当と鳥羽さんが入れ代わり立ち代わりひたすら解説をしてくださる回。登場人物(ほぼ)女子しかいないはずなのに結婚しろと言われればはいかイエスぐらいしか浮ついた話のない理不尽でしたが、火葬されたから骨が柔くなってるお姉ちゃん大概魔界村。精密検査とそれに伴う入院とか言っといてその前にラーメン食べるのはいいのか!?
       公竜さんの出自明かされたのはここが初めてでしたでしょうか。ハハァここで明かされたアレが後に……となりました。
       
       スキンケアまでできるザッソーモンメモリ。やはりお父様は姫芝に最初から最強のメモリを……!
       意外なスキルを披露しまくった姫芝、むしろ出来ないこと何かあんのかと言いたくなるレベルで有能シーン乱発してきますが、割と物分かりが良くサクッと共闘OKしてくれる辺りやっぱり令和の人物である。猗鈴サンと姫芝、努力型と天才型と博士達は言いますがどっちも天才型かつ努力型のような気がする……。
       幾度かフラグ建てられていたかと思いますが、ウッドモンメモリはやはり特殊であったのか。しかしウッドモンとザッソーモンというどちらも草属性、ザッソーモンではなくレッドベジーモンだったらガーベモンにジョグレス進化だったのだが(ペンデュラム4.0脳)。
       
       本当にご飯食べに行くところで終わった!!

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