エリクシル・レッド:2

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    アバター快晴
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       エリクシル・レッド
       2
       
       
      「無様ですね、サイバードラモン」
       
       1羽のカラス――否、カラスの形をしたつぎはぎのぬいぐるみが、その言葉以外は音も無く格子窓の縁に舞い降りる。
       窓の向こうでは、鋼鉄製に見えるケージの中に、竜人の姿をしたデジモン・サイバードラモンが押し込められている。サイバードラモンの体躯に対して、ケージはあからさまに、小さく見えた。
       
      「グ、ウ……あかい、いし、あかいいし……!」
      「やれやれ。その猟犬じみた嗅覚は評価に値しますが、猪武者とは褒められたものではありませんね」
       カラスは今なおうわ言のように「あかいいし」と繰り返す同胞をせせら笑い、しかしふと、サイバードラモンを見下ろしていたつぶらな瞳を持ち上げる。
       
      「あるいは、これもまた計算の内なのでしょうか、ジャッジ」
       
       ジャッジ。審判者。
       カラスの呟いたその名の持ち主こそ、自我を得たデジモン達の頭目たる者。
       
       何にせよ、と、カラスは再びやわらかな布製の嘴を歪め、粗雑な造りの羽をいっぱいに広げる。
       
      「そこで大人しくしていなさい、サイバードラモン。「あの子ら」の事は、しばし泳がせる事に決まりましたので」
       後は、小生にお任せを、と。
       そう言い残して、カラスは飛び立ち、夜闇の中へと溶けて行った。
       
       カラスの名は、エドガー。
       操り糸から切り離された人形による劇団『糸切鋏』の幹部たる者。
       
       彼が、否。彼らが再び人の手で踊る事は、二度と無い。
       彼らは彼らの舞台の幕を、既に自らの手で上げているのだから。
       

       
       サイバードラモンとの再戦から、更に一夜明けて。
       田中勇気――タキは、何事も無かったかのように自宅の、しかし本日も自室では無くリビングのソファで、目を覚ました。
       
      「おはようユウキ。……よく眠れたみたいで、良かったわ」
       おはよう、と、昨日と違って母親が来たのを合図に起床したらしいタキの寝ぼけ眼に、彼の母親はどこか安堵したように表情を緩める。
       何せタキは、2日連続、同じデジモンに襲われているのだ。犯人(犯デジモン?)が捕まったとはいえ、親としては気が気では無いだろう。
       
       しかしそんな親の心配をよそに、「つかれてたからな~」と無邪気に、そして大袈裟に肩を竦めるタキ。
       こんな気の抜けた振舞いが出来る程度には、タキは昨日の、そして一昨日の出来事にも大して動じてはいなかった。
       
       
       警察からの事情聴取は、驚くほど呆気なく片付いた。
       
       尤も、小学生であるタキにとっては相応の時間ではあったし、ジャンクショップの店長はタキが解放された後もしばらくは帰れなかったのだが、それにしたってデジモンの暴走事件の聴取としては不自然な短さと言っても過言では無く。
       
       そしてこれは、タキの知る所では無いが。
       店長の拘束時間の内訳は、オメカモンに関連する事柄が大半を占めていた。不審物を子供に売りつけた件についてはお咎めもあったようだ。
       しかしその話を店主どころか、警察の口からもタキは耳にしていないし、オメカモンは押収される事無く、今日も少年の隣に控えている。
       
       サイバードラモンの事も、オメカモンの事も。
       結局のところ、タキには何も知らされていないのだ。
       
       
      「やれやれ、動き回ったのはボクの方だというのに。ボクの調律者チューナーが大層な大物で、嬉しい限りだよ」
      「あー! オメカモン、それ、イヤミだろ! オレわかるんだからな? たしかにオメカモンはいっぱい動いたかもだけど、お話の時はスマホの中で寝てただろー」
      「はいはい、朝から喧嘩しないの。それにタキ、昨日もオメカモンに助けてもらったんでしょ? そんなこと言わないの」
      「ちぇー、そりゃそうだけどさ」
      「まあまあ母君。先に不躾な物言いをしたのはボクだ。親しき中にも礼儀あり、だったね。からかうのは確かに良く無かった。発言を撤回しよう。……「君がボクの調律者で嬉しい」以外の部分をね」
      「なんだよー、オメカモンってばチョーシいいんだから」
      「君が調律チューニングしてくれているお蔭だね」
      「……へへっ」
       
       少年は無邪気に笑う。
       
       一昨日見つけたばかりのオメカモンが、長年の友人であるかのように。
       
      「はいはい、仲がいいのは結構だけど、そろそろ身支度してきなさいユウキ」
       学校に遅れちゃうわよ、とタキを急かす彼女に、もはや我が子を起こした時の緊張の影は残ってはいなかった。
       
       しかしタキの方はというと、母親の一言で一気に現実へと引き戻される。
      「げえっ」
       事情聴取では何事も無かったとはいえ。
       いや、何も無かったからこそ少年の心配事は目下1つであり、故に心の内を、大きく占めていて。
       
       学校。
       登校して、教室に入り、席に着けば。
       
       当然隣には、京山瑪瑙――ピノッキモンの繰り手が、居る訳で。
       
      「まあ、君の言わんとする事は解るけれど、とりあえず今日も1日頑張ろうか、タキ。ボクも付いているからさ」
       なんて言ったって、ボクは君のトモダチだからね。と。
       続いたオメカモンの決まり文句に、タキは力無く頷くのだった。
       

       
       しかしタキの心配とは裏腹に、そもそもその日、学校にメノウがやって来る事は無かった。
       
       空いた隣の席に座る者といえば、昨日同様、しかし昨日にも増して。2日連続事件に巻き込まれたタキを質問攻めにするクラスメイトばかりで。
       今回はたまたま通りかかっただけだとしらを切り続けるタキに、1限を経る毎にクラスメイトの興味感心は薄れ、離れて行ったようだが、それでも彼が完全に開放されるには、放課後からさらに30分程待たなければならないような有様だった。
       
      「つっかれた~……」
       肩を落とし過ぎて前かがみのような姿勢で歩くタキ。
       これならいっそメノウが居てくれた方がマシだったのでは? と思わなくも無かったが、何がどうマシになるのか、具体的な想像は、ワンパターンの文句で今日を乗り切った根が単純なタキでは思い浮かばなくて。
       
      「ほらほらタキ。前を見て歩かないと危ないよ」
       スマホの中から、オメカモンがタキを嗜める。
      「現に、前から誰か来ている」
       ポケットに仕舞ったスマホの中。しかも普段から目があるようには見えないオメカモンが、どうやって外の視界まで確保しているのだろうとタキは訝しんだが、前が見えない状態で歩くのは危ないという常識はタキの中にも存在している。
       オメカモンの忠告から少し遅れてタキにも聞こえてきた足音に彼が顔を上げれば、自分と同じくらいの背丈の、赤い厚手のパーカーのフードを目深に被り、と青い長ズボン、おまけに手袋までして隙間なく皮膚を隠した子供が、確かに正面から歩いて来ていて。
       
       既に極端な暑がりは半そでに移行しているような季節だ。これが大人なら流石のタキも不審者を疑うところだったが、そうは見えない。
       なのでタキは、うっへ~、アツクルシー。と内心で顔をしかめるだけに留めて、道路の側に寄って子供とすれ違おうとして――
       
       
      「不用心ネ」
       
       
       ずい、と。
       すれ違う寸前、子供もタキと同じ方に寄って、彼の前に立ちはだかる。
       間近に迫った事でフードから覗いた子供の顔を見留て、タキはぎょっと目を見開いた。
       
       木の肌に、無機質な赤い目。
       ドリルになる鼻こそ極限まで収納しているようだが、だからと言ってどう見間違えられようか。
       
       
       そこにいたのは、ピノッキモンだった。
       
       
      「わっ、わわ!?」
       思わず後退るタキとピノッキモンの間に割って入るように、オメカモンがリアライズする。
       ハァ、と抑揚の無い合成音声で、表情1つ変える事無く、ピノッキモンが息を吐いた。
       
      「事ヲ構エルツモリハ無イノ。デモ、昨日ノ今日デ、本当ニ不用心。マタでじもん二襲ワレルカモッテ、少シモ考エ無カッタノ?」
      「その言葉遣い……ミス・メノウが遠隔操作でピノッキモンを喋らせているんだね。舞踏会は今日も開催されるのかな」
      「話聞イテタ? 戦ウツモリハ無イッテ言ッテルデショ」
      「でも、君はボク達をどこかに連れて行きたそうに見える」
      「……本当ニ油断ナラナイ。上カラ指示ガアッタラ、スグニデモ排除でりーとシテヤルンダカラ」
       
       逆を言えば、今のところメノウはピノッキモンをオメカモンへとけしかけるつもりは無いという事だ。
       それを証明するように、ピノッキモンはだらりと手を下げて直立したまま。加えて、武器となるものは(鼻のドリルを除けば、であるが)所持していないように見える。
       攻撃には少なからず予備動作を必要とするデジモンだ。ひとまずは発言を信じて良いだろうと、オメカモンは警戒を完全に解きこそしなかったが、申し訳程度にファイティングポーズ風に上げていた両腕を下ろす。
       
      「え、えっと」
       そんな中、完全な置いてけぼりをくらっていたタキは、オメカモンとピノッキモンを交互に眺めた後、おずおずとオメカモンの背後で手を挙げた。
       
      「何?」
      「オメカモンのこと排除しに来たんじゃないっていうなら、キョウヤマさん? ……ピノッキモン? は、なんでここに……」
      「迎エニ来タノ。りーだーガ、アナタ達ニ会イタイッテ言ウカラ」
      「リーダー?」
       こくん、と、ピノッキモンが頷いた。
      「わたし達ハ、対でじもん用でじもん専門ノ調律者組織『D.M.T』。……田中勇気クン。オメカモン。ゴ同行願エルカシラ?」
       
       尤も、断るなら『舞踏会』だけど、と。オメカモンの言い回しを引用しながら僅かに前傾姿勢を取ったピノッキモンを前に、拒否の言葉を口にするなど。タキにはとても、出来そうに無かった。
       

       
      「こんにちは、タナカくん」
       
       ピノッキモンに先導されてタキ(オメカモンはスマホに戻っている。「何かあったらすぐに飛び出すよ。ボクは君のトモダチだからね」とは本人の弁だ)が辿り着いたのは、普段の通学路から少し逸れただけの住宅街。タキの家とそう大差の無い一軒家。
       白い表札には、明朝体で京山と書かれている。
       インターホンを押すまでもなく玄関を開けて彼を出迎えたのは、言うまでも無くキョウヤマ メノウで、つまるところ、ここは彼女の自宅であるらしかった。
       
       対デジモン用デジモン専門調律者組織、等と言われてどこに連れていかれるのかと身構えていたタキも、隣町にすら足を踏み入れていない事実に胸を撫で下ろす反面、少しばかり肩透かしを食らったような気分を覚えてしまう。
       
      「キョウヤマさん、今日は風邪ひいたんじゃなかったの?」
       メノウはスマホにピノッキモンを仕舞いながら、呆れたように目を細めた。
      「仮病に決まってるでしょ」
      「えー、いっけないんだ」
      「デジモンを違法所持しているタナカくんよりマシ。あなた達のせいで余計事後処理に手間取ったのよ」
      「い、イホーって」
      「法律に反するって意味。私有地なら兎も角、許可も免許も持たない個人が公共の場でデジモンを使役するのは立派な法律違反だから。ワタシたちが手回ししなきゃ、今頃タナカくん、警察に捕まってたんじゃない?」
       
       半分緊張の解けたタキを、ぴしゃりとあしらうメノウ。あっという間に気圧されたタキのズボンのポケットで、笑うようにスマホが震えた。
      「これは苦労をかけたようだね、ミス・メノウ。だが、ボクたちも連日のサイバードラモン襲撃について、ほとんど事態を把握していないんだ。あまりタキを責めないでおくれよ」
      「あなたが一番信用ならない。一昨日観測データが発生したばかりのあなたが、5年も前に田中家の所有デジモンとして国に登録されているのは、なんてカラクリを使ったから?」
      「ボクはオメカモン。タキが小学校に入学する際、そのお祝いとして彼の祖父母が学校近くのジャンクショップで購入し、タキに贈ったパペット型のLevel4デジモンさ。それ以来、タキとはずっとトモダチだよ。観測云々というのはよくわからないけれど、君達の仕事の杜撰さを、一愛玩用デジモンに過ぎないボクのせいにされても困ってしまうな」
      「顔も無いのに舌の回る。杜撰なのはあのジャンクショップの店長よ。もう少し絞る流れにしてやれば良かったわ」
      「なんだよー、ちゃんとトーロクされてるならイホーじゃないじゃんか」
      「タナカくんは何にも解ってないんだからちょっと黙ってて」
       
       小学生らしからぬ険しい表情で眉間を押さえるメノウ。しかし、ここで話していても埒が明かないとは判断しているのだろう。
      「……そうね、解ってないから、呼んだんだった」
       上がって、と。下手をするとピノッキモンよりも無機質にそう告げて、メノウはタキを家の中へと案内する。
       
       内装も特に、変わったところは無いなと、きょろきょろと家の中を見回すタキだったが
      「こっち」
       奥の部屋に通されるなり、にわかにタキのテンションが上がった。
       
       天井にまで届く本棚に囲まれたその部屋は、いわゆる書斎というやつで。
       紙の本がこれだけ揃っているというだけでもタキには目新しいものだったが、それ以上に少年の心をくすぐるのは、そのさらに奥。
       
       地下へと続く、階段が覗いていて。
       
      「すげー、秘密基地じゃん!」
      「バカみたいな事言ってないで早く着いてきて」
       辛辣なメノウにちぇー、と唇を尖らせつつ、地下室へと降りるという行為には高揚を抑えきれず、タキは素直に彼女の後に続く。
       
       降りた先に広がっていたのは、一列に並んだ複数のコンピューターに、光を明滅させる大小さまざまな機械。壁には巨大なモニターがかかった、白い壁の広間。
       やっぱり秘密基地じゃないか、と。メノウの手前再び口にする事は無かったが、タキはきらきらと目を輝かせるのだった。
       
       まあ、実際。
       一般的な家庭にある設備では無い。
       
      「ここは、おじいさまの工房ラボ。今は『D.M.T』の支部でもあるわ」
      「おじいさま、って……あの調律者・ゼペットの!?」
      「だから、そう言ってるでしょう」
      「すっげー!」
       更にはしゃぐタキに、絶対に機材に触るなと釘をさすメノウ。
       そうこうしている内に、不意に部屋の証明が落ち始める。
      「?」
      「リーダーから通信が来たみたい。……行儀よくしててよね」
       代わりに起動したモニターに、『D.M.T』の3文字のアルファベットが浮かび上がった。
       
       と、次の瞬間。
      「御機嫌よう。タナカ ユウキさん。そして“自我持ち”のオメカモン」
       モニターに備え付けられたスピーカーから、電子音声が響き渡る。
       
       とはいえ実際に喋っている言葉を変換しているからなのか、喋り方は、ピノッキモンよりも随分と流暢だ。
       
      「こ、こんにちは」
      「御機嫌よう、『D.M.T』のリーダーとやら。スマホの中から、失礼」
      「オメカモンを外に出して構いませんよ、田中さん。……いいね? メノウ」
      「……はい」
       
       若干不服そうな間を置いて、メノウ。
       とはいえ許可が下りたとなれば話は早いと、タキはポケットからスマホを取り出す。と同時に、オメカモンが工房へとリアライズした。
       
       刹那、側面の壁に備え付けられた装置からオメカモンに向けてレーザーが照射される。
       
      「!?」
      「安心して下さい。ただのデータスキャンです。……ふむ」
       合成音が、思案するように息を吐く。
      「読み取れたデータ上は、おかしなところはありませんね。強いて言えば攻撃性能値が高めに設定されていますが、一般的な個体が所持し武器としても使用できるペンを装備していない点を補うためであると考えると不自然な数値では無い。……と、同時に。格上であるピノッキモンやサイバードラモンを相手取る事も、まあ不可能では無いだろうと判断せざるを得ない値です」
      「そうなのかい? まあ、実際に可能だったのだから、そうなのだろう。何にせよ、トモダチを守れるだけのステータスがある事をボク自身、誇らしく思うよ」
      「ええ、ええ。良い数値です。まるでこちらを納得させるためにあつらえたかのように、実に模範的で、不備が無い」
      「……」
      「まあ、数字は嘘を吐かないと言いますからね。それだけの話です。……何か他意を感じさせてしまったのであれば、謝罪しますよ」
       
       どこか微笑みかけるようにそう付け足すリーダー。
       対する無貌のオメカモンの表情を伺う事など、この場の、いや、何者であろうとも出来た事では無いだろうが
       
      「そうだね。何やら疑いの目を向けられている風に感じているのは事実だ。謝って欲しいとまでは言わないけれど、どうしてタキとボクをここに連れてきたのか。それは、早く知りたいと思っているよ」
       やはり彼も、笑っているかのように切り返すのだった。
       
       それもそうですね、と、リーダーが仕切り直す。
      「では、単刀直入に言いましょう。我々『D.M.T』は、自我を持つデジモンを処理するための組織です」
      「処理、って」
      「平たく言うと排除ですね、主に」
       あっさりと。そして平然と、リーダーは戸惑うタキに言ってのける。
      「タナカさん。アナタくらいの子供には残酷に聞こえるかもしれませんが、自我を、意思をもったデジモンというのは、暴走する危険性が非常に高いのです。……少なくとも、今まで我々が処理してきたデジモンは、そういうモノがほとんどでした」
       とはいえ、と、リーダーはさらに続ける。
      「自我の芽生えを起因とするデジモンの暴走事故は、国内では20件にも満たない数しか観測されていませんでした」
      「でした?」
       過去形にひっかかるオメカモンに、ええ。とリーダーは肯定の意を表す。
      「今年に入ってから、自我を持つデジモンの報告数は爆発的に増加しているんです。既に昨年までの観測数を大幅に上回っています。アナタやサイバードラモンは、その中の一例に過ぎないのですよ」
       
       そしてオメカモンは兎も角として、サイバードラモンはタキが間近で見た通り、紛う事無き暴走デジモンにカテゴライズされるデジモンであった。
       あのサイバードラモンのようなデジモンが大量に発生していると言われれば、いくら呑気なタキであっても、思うところは無いでも無く。
       
      「で、でも」
       それでも。
       いや、だからこそ。自分のトモダチであるオメカモンが、そういったデジモン達と同じモノとして“処理”される事だけはどうしても避けたくて。タキは声を振り絞りながら顔を上げ、じっ、とモニターを見据えてみせる。
      「オメカモンは、そんなのじゃないよ! オメカモンはずっとオレのトモダチで……」
      「そう。実際そのオメカモンは、特殊かつ貴重な個体だと我々も考えています」
       だがタキの心配を他所に、リーダーがオメカモンに敵意を向けている様子は無い。
       既に、タキがここを訪れるよりも前に、メノウが述べている事だ。
       
       「何も解っていない」から、オメカモンは、ここに呼ばれたのだ。
       それは自称彼の調律者であるタキのみに留まらず、デジモンを処理する組織の側としても同じ話で。
       
      「先程お伝えした通り、自我を得てなお人間に友好的なデジモンというのは現状、例がほとんどありません。もちろん、全面的に信用する事はとても不可能ではありますが……同時に、デジモンの自我が発生するメカニズム等を研究する機会を棒に振ってまで、排除を急ぐ理由も無い」
       
       人間に牙を剥いたデジモンを様々な策を講じて沈静化させてから調べるよりは、大人しいデジモンを相手に検査を行った方が手間がかからないというのは当然の話だ。
       ましてやオメカモンはLevel4。これは『D.M.T』の所持する戦力であれば、暴走したところで鎮圧はそう難しくは無い部類である。
       
       人間に敵意が無く、敵意を持ったところで脅威では無い。
       オメカモンは、『D.M.T』にとっても都合の良い存在だった。
       
      「監視と管理を兼ねて。オメカモン。アナタには『D.M.T』の所属デジモンとなってもらいます」
      「一応聞いておこうか。もし断ったら?」
      「メノウ、なんでしたっけ」
      「舞踏会」
      「と、いう事になりますね」
       
       実質脅迫である。事実、メノウはいつでもピノッキモンをけしかけられるように、スマホをオメカモンにも見える位置で構えている。
       が、それでもなお、オメカモンは即答はせずに、タキの方へと向き直った。
       
      「どうする? タキ。……ああ、念のため言っておくけれど、ボクはタキのトモダチだからね。踊るのは誰とだって踊ってあげるけれど、お願いはタキからしか聞かないよ」
      「え? え……そ、そんなの……」
      「では、こちらからも一言。タナカさんがどんな選択をしようとも、彼の安全は誓って保障します。我々はあくまで、脅威となったデジモンから民間人を守るための機関。タナカさんにも、それだけは理解していただきたく」
      「……」
       
       うつむいて、もじもじと指を絡め合わせながら思案するタキ。メノウだけは急かす様な視線を送っていたが、リーダーとオメカモンは、ただ静かに彼の発言を待っていた。
       
       やがて
       
      「オレ、……オレ。オメカモンと離れ離れになるのは、イヤだ……」
       
       答えを出せないなりにタキが絞り出したの、は“トモダチ”としては、当たり前の感情。
       メノウは呆れたように肩を竦め、オメカモンはふふ、と喉を鳴らした。
       
      「では、こういうのはどうだろう? ボクが君達『D.M.T』の軍門に下る条件として、タキの同行を要求したい」
      「……子守りなんてしてる余裕は無いんだけど」
      「そうは言っても君はピノッキモンコドモの扱いがお上手じゃないか。同級生の1人くらい、なんてことは無いんじゃないのかい?」
      「ピノッキモンは余計な事言わないし、しないもの」
      「まあまあメノウ。落ち着きなさい。アナタの振舞いは、それこそ同級生への態度として褒められたものではありませんよ」
      「……はい」
       
       メノウを諫めてから、リーダーはオメカモンと、そして今回はタキにも意識を向ける。
      「本来、デジモンであるアナタの意見を聞き入れる道理は無いのですが……まあ、いいでしょう」
       
       
       考えれば判る話だ。
       
       本当にオメカモンがタキを重要視しているのであれば、オメカモンが反抗的な意思を見せた際は、タキを人質に取れば良い。
       その人質に効果が無ければ、オメカモンが危険なデジモンであったという証明になり、彼を削除する理由となり得る。
       
       どちらに転んでも、『D.M.T』に不利益は無い。
       
       
      「歓迎しましょう、オメカモン。そしてタナカ ユウキさん」
       
       
       突如、スピーカーではなく血肉の通った低い男性の声が地下室に響き渡る。
       振り返ると、スーツ姿の長身痩躯の男性が、タキ達を見下ろしてにこりと微笑んでいた。
       
       タキには、その男性に見覚えがあった。
       
      「えっ。この人って、キョウヤマさんの」
      「京山 義樹ヨシキ。メノウの父親で、一応、『D.M.T』のリーダーという事になります」
      「一応、じゃないでしょう、リーダー」
      「そうは言っても、お恥ずかしいながら調律者としては娘の足元にも及びませんからね……。何にせよ、長々と、そして大層に、失礼しました」
       タキに向かって、深々と頭を下げるヨシキ。大人に丁寧に振る舞われてたじろぎつつ、タキもつられるようにしてぺこりと頭を下げた。
       ヨシキは再び、タキへと微笑みかける。
      「仮にもメンバーに加わっていただく以上、こちらも身分を明かさないわけにはいきませんからね。……実はワタクシは、別の部屋から話しかけていただけなのでした」
       がっかりしましたか? とヨシキ。タキは慌てて首を横に振った。
      「しかしまた、どうしてこんな真似を?」
      「単純に、スキャンデータの確認等、別室で行った方が効率が良かったからですよ。……あと、万が一戦闘になったらメノウの足手まといにしかなりませんからね」
      「またそんな事言って……」
       
       どんどん笑みが力無いものに代わっていくヨシキに、タキの緊張も徐々にほぐれていく。娘にさえ尻に敷かれているような腰の低い彼に、むしろ親しみさえ覚える程で。
       
       故に、ヨシキが再三口にしているにもかかわらず、自分の隣にずっと脅威とも取れる調律者が配置されていた事にまで、タキは頭が回っていない。
       
      「改めて」
       こほん、と申し訳程度の咳払いを挟んで、ヨシキがタキ達に向き直る。
      「タナカさん。アナタの役割は、以前にも増してそのオメカモンをしっかりと管理する事です。もっと詳しい内容は少しずつお話していきましょう。何はともあれ、まずは……ようこそ、『D.M.T』へ。これから、よろしくお願いしますね」
      「は、はい! キョウヤマさん。……えっと……こっちもキョウヤマさんで、おじさんもキョウヤマさんで……」
      「ああ」
       笑顔のヨシキと膨れ面のメノウをを交互に眺めて戸惑うタキに、くすりと口元の皺を深くするヨシキ。
      「ワタクシの事は、メノウと同じように“リーダー”とでも。……あるいは、そうですね」
       ヨシキは立てた左手の小指で、自分自身を指し示す。

       
      「『ジャッジ』と。そう呼んで下さい。これでも、デジモンに裁定を下す者でもありますので。一応」
       
      「一応じゃないでしょう、本当にもう……」
       どこまでも締まらない父親に、メノウが頭を抱える。
       
       そんな人間達の様子を眺めながら、オメカモンは1体、特に感慨も無さげにひとりごちるのだった。
       
       
      「それが君の選択なら、ボクはそれに従うよ、タキ。なんて言ったって、ボクは君の、トモダチだからね」
       
       
       と。

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    • #3928

       キョウヤマ……祖父も大きく出てきたのでやはり一族……!
       ミス・メノウがいない田中家や学校では地の文がめっちゃ違和感煽ってくるのにツッコミ役がいないため「ヤバいよヤバいよ絶対ヤバいよ」と不安にさせられながらも読者である我々にはどうしようもないという理不尽を覚えさせられるのでした。常にピノッキモンを人体模型の代わりか何かで小学校に置いといてくれんかミス・メノウ。
       バッカモーン! ピノッキモンが手ぶら棒立ちだからって油断すんなァァァァ! 奴には最強武装“うそ”があるぞ!!
       
       リーダー改めお父様登場。碇ゲンドウ宜しく高いところか離れた場所からボソボソ言うだけかと思ったら実は隣の部屋にいたというトラップ。ゲームで別の場所から通信しているキャラが実はCGモデル上すぐ傍にいるみたいな奴。しかし「とりあえず腕試しということでコイツと戦ってもらおう(指パチン」とかやらないだけめちゃくちゃ紳士的な勧誘。
       キョウヤマ親子がいるだけで「いや絶対おかしいだろこの状況」とツッコんでもらえるので不思議な安心感があるのは、ある意味で彼らが作中の良心なのかもしれません。でも逆に実は彼らの方が狂っていた扱いにされる可能性が無いでも無いという。
       店主は次に登場した時にめっちゃ窶れてそうー!!

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