デジモンに成った人間の物語 第三章の① ー冒険へー

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    ユキサーンユキサーン
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      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      ゆめをみる。

      いつもいつも、まぶたをとじるとおもいだす。

      あかいほのお、ひめいとわらいごえ、なにかがくずれるおと。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      きぼうなんてなかった、だれもたすけてはくれなかった。

      かなしいきもちばかりがわきたった。

      だれにも、あんなことになっていいりゆうなんてなかったのに。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      やめてっていったけど、やめてはくれなかった。

      にげようとするこどもたちも、ていこうしたみんなも、きえていった。

      どうして、なんでってかんがえても、こたえなんてでなかった。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      せかいのどこかにひーろーといわれるそんざいはいるのだとおもう。

      そうじゃなかったらえほんにかかれたりなんてしないはずだから。

      ただ、いまこのときにまにあってはくれなかったというだけで。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      なんどもなんども、あたまのなかでひびいてる。

      おこるこえ、かなしむこえ、たすけをもとめるこえ。

      もう、そのこえがじっさいにきこえることはないのに、きこえてる。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      みんなにためにできることをしないとって、おもった。

      みんなをまもれるとくべつなそんざいに、せいぎのひーろーにならないとって、ずっとまえから。

      ぼくには、ぱーとなーといえるあいてなんていないし、せかいをすくうなんてたいやくがにあうようなやつだとはおもえないけれど。

      おこられることからも、きらわれることからも、いたいことからもにげたいとおもってしまう、ただのおくびょうなこどもでしかないけれど。

      それでも、とくべつにならないと。

      とくべつなだれかになって、みんなのやくにたたないと。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      ぼくは、よわくちゃいけない。

      つよくないと、みんなにみとめられない。

      だって、ぼくは■■■だから。

      ■■■のぼくをみんながすきになってくれるためには、なるしかない。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      こわくない、いたくない、ふるえてなんていけない。

      こわいこともいたいことも、もうなれてるんだ。

      たちむかわないと、このてでみんなをたすけてみせないと。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      ておくれだってことぐらい、もうわかってる。

      これはわるいゆめ、いつかのできごとをぼくがかってにおもいかえしているだけ。

      けっきょく、あのときもぼくはなにもできずに、たおれていた。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      それからのことを、ぜんぶおぼえているわけではないけど。

      だれかがたすけてくれた、ということだけはわかってる。

      ひーろーはいる、まにあわないときがあるだけで、ぜったいにいる。

      そのことを、ぼくはしっている。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      だからがんばらないと。

      やっと、ぼくにもにんげんのぱーとなーができたんだから。

      ちょっと、いやかなり、すごく、しょうじき、おもってたのとはちがったけど。

      いっしょにすごして、いろいろとはなしもして、そうだったらいいなって、いまならおもえるから。

      にんげんのことはよくしらないけど、すくなくともゆうきはとてもやさしいとおもう。

      それこそ、ぼくがえほんでよんだものがたりにでてくるものと、そっくりだとおもえなくもないぐらいには。

       

      たすけて、たすけて、たすけて。

       

      きらわれたくないなぁ、とこころのそこからおもう。

      こんどこそ、まちがえないようにしないと。

      こわがったらだめだ、いたがったらだめだ、ないたらだめだ、ぼくの■■■なところをみせたらだめだ。

      えほんにでてくるひーろーみたいに、りっぱにならないと。

       

      つよくて、りっぱなぼくでいるから、おねがいだから。

      ぼくのことを、きらわないで。

       

       

       

       

      「……っ……」

       

      ふとして目が覚めてしまう。

      外はまだ真っ暗で、誰もが眠って静かなままだ。

      すぐ隣には、同居して今は眠っているギルモン――ユウキが一人だけ。

       

      (……いつも、こうだよ……)

       

      最近はあまり見なかった夢だった。

      見たいとは思わないのに、見てしまう呪いのような夢。

      幸せな気持ちでいる時も、嫌な気持ちでいる時も、眠るといつも同じ景色を見る。

      疲れを癒すためにも、迷惑をかけないためにも、眠らないといけないということは解っているけれど。

      いつもいつも、見たくも無い悪夢に夜な夜な起こされる。

      あんなものをわざわざ見せられなくても、忘れることなんてありえないのに、しつこくしつこく。

       

      (……せっかく、どちらかと言えば良い気分でいたのに……)

       

      幸いにも、隣で寝ているユウキに起きる兆しは無い。

      このまま静かに、横になって、眠ってしまえば誰にも迷惑はかけない。

      明日も……というか今日も、ギルド所属のチームの一員――ベアモンのアルスとしての活動があるのだから、ちゃんと疲れは癒しておかないといけない。

      僕が、みんなの足を引っ張るなんてことはしてはいけないし、したくない。

      もうすっかり眠くなくなってても、眠らないと。

       

      (……朝、辛いなぁ……)

       

      そう思って、蹲って、まぶたを閉じ続ける。

      暗闇の支配する夜の時間は、僕には不思議と長く感じられていて。

      眠ろうという意識とは正反対に、意識がやけにハッキリとしてしまっていた。

       

      ◆ ◆ ◆ ◆

       

      変わり者の、自分のことをニンゲンだと言うギルモンことコーエン・ユウキを町に連れ帰って、チームとして一緒に活動するようになってから、早いものでもう二週間ほどの時間が経った。

      最初は何もかもがぎこちない、進化した時以外は足を引っ張ることのほうが多かったアイツも、チームとしての活動――というか『ギルド』からの依頼をこなしていく内に随分とマシになってきている。

      元がニンゲンだったって話についても未だに疑う余地を残してこそいるが、まぁそんなことで嘘を吐いて何かしら得をするとも思えないし、少なくとも嘘を吐いているわけではないと俺も思う。

      多分だがお人好しのベアモンも同じ考えだろう。

       

      むしろ、疑うべきはアイツと一緒に行動するようになってから、以前にも増して狂暴化したデジモン達と遭遇するようになったという点だ。

      ユウキが何かをしたわけでも無いのに、まるでアイツの存在に引き付けられるように、何度も何度も厄介事が滑り込んできやがる。

      依頼を受けて外出する度に、一体ならまだしも複数体遭遇することさえあるそれを、俺は偶然だと思えない。

      ニンゲンという存在のことについては詳しく知らないが、少なくともデジモンを狂暴化させる力を持っているなんて話に覚えは無いし、現実的に考えるならユウキに原因があるわけでは無いんだろう。

      とはいえ、謎は残る。

      仮にデジモンを狂暴化させることが出来る『誰か』がいるとして、そいつがユウキやベアモン、そして俺に狂暴化デジモンをけしかける理由はなんなのか。

      殺すつもりだというのならもっと数多くのデジモンを狂暴化させて襲わせれば確実だろうに、遭遇する狂暴化デジモンは大抵決まって一体から三体までの成熟期の個体。

      いやまぁ、進化出来なかったら普通に死ぬやつだし、実際に以前死にかけた時もあったわけだが。

      それでも俺は、意図を感じずにはいられない。

      これじゃあ、殺させる事が目的なのではなく、戦わせることそのもの――戦いによって生じる成長そのものが目的みたいだ。

      事実、度重なる戦いによってユウキは着実に強くなっている。

      いろいろ不安定ではあるが、進化の力も短時間なら発揮出来るようになりつつあるし、出会った頃の貧弱っぷりは何処へやらといった調子だ。

      プライドの話として認めたくはないが、頼りには出来るようになっている。

       

      あぁ。

      恐らくこの成長を意図した野朗からすれば余分なことだろうが、当然戦いに巻き込まれてる俺やベアモンも成長はしている。

      今では短時間なら成熟期の姿に自分の意思で進化出来るようになっているし、もしかしたらそのうち成熟期の姿が一時的なものではなくなって、完全な意味でエレキモンからコカトリモンへと進化の階段を登ることになるのかもしれない。

      もちろん、それはベアモンやユウキにも当てはまる事になる話だ。

      どんな経緯があれデジモンである以上、いつまでも進化しないままではいられない。

      成長と進化は一方通行、望む形であれ望まない形であれ、それを止めることは基本できない。

      俺はエレキモンではなくなり、ベアモンはグリズモンになる。

      唯一、元はニンゲンだったというユウキの行き先が気にかかるところではあるが、進化が出来るという時点で例外だとは思えない。

      戦い続けていけば、いつかグラウモンとしての姿が当たり前になるはずだ。

       

      尤も、デジモンとしての姿はあいつにとって本来の姿ではないんだろう。

      進化した先の姿が当たり前になることを、あいつはどんな風に想っているのか。

      よりニンゲンの体に戻れなくなりつつある、なんて風に悪く考えてしまってるんだろうか。

      ニンゲンの世界に戻りたいと願っていたり、デジモンになっていた事に対してショックを受けていた辺り、デジモンとして進化していくことに良く思えているとは考えにくいが、実際どうなんだか。

      デジモンである俺には、ニンゲンの価値観なんてわからない。

      そうじゃないと生きていられない、というのなら理解も出来るが、ニンゲンの姿だろうがデジモンの姿だろうが生きていくのに不都合無い状態でいられるのなら、どっちの姿でも大差は無いんじゃないかと思う。

      仮に、ニンゲンという存在がデジモンよりも弱っちぃ体をしているとしたら、尚の事。

      ニンゲンだろうがデジモンだろうが、弱ければ簡単に死んでしまうんだから、強くなって死ににくくなるのならそれに越したことは無いはずだ。

      それでもニンゲンの姿と世界に固執するのなら、あいつにとってそれ等はただ生きていく事以上に大事なことを含むものである、ということになる、のか。

       

      まったく。

      狂暴化デジモンのことにしろユウキのことにしろ、何もかもわからない事だらけだ。

      ただ一つ解る事があるとすれば、俺たちは想像以上に面倒臭い事に巻き込まれている、ということぐらい。

      こちとらまだ成長期の身の上なんだから、もう少しぐらい物事は簡単にしてくれないもんだろうか。

       

      (ま、やるしか無いならやるだけだが)

       

      そんなこんなで。

      今朝もまたいつも通り、俺ことエレキモンはベアモンとユウキの住まいに向かう。

      発芽の町の朝は早いもので、畑仕事だの行商の荷運びだの、元気に活動しているデジモン達の姿が多く見られる。

      基本的にのどかな町だが、自分の仕事を持つやつに限ってはいつも朝は忙しげだ。

      まぁ、今となっては俺達もその枠組みに入っている身の上なわけだが。

      ぶらぶらと町の様子に目を見やりながらベアモン達の住まいに向かっていると、道中に声がかかる。

       

      「おぉ、エレキモン。おはようさんだな」

      「ん、ギリードゥモンのおっさん」

       

      森林の景色に擬態するカモフラージュ用の衣装に身を包んだ完全体デジモンことギリードゥモン。

      こいつは手先が器用なやつで、そこいらで集めた素材を用いて作った小道具や香などを、余所で商いとして売り捌いているデジモンだ。

      戦い――というか、狩猟の話になるとその背に携えた武器で標的を確実にしとめる、高い技量の持ち主でもある。

      究極体に進化出来るとも噂される長老のジュレイモン、そしてギルドのリーダーを勤めるレオモンことリュオンと並んで、この町で実力者と称されるデジモンの一体。

      仕事では確か、モーリモという個体名を用いていたっけか。

      売り物を載せていると思わしき屋根付きの荷車を引き摺る足をわざわざ止めたおっさんに対し、俺は適当な調子で言葉を返す。

       

      「おっさんはこれから出発か?」

      「そうだなー。最近はいろいろ物騒だが、出来ることはしっかりやっとかんと。お前さんは友達のベアモンとギルモンとでギルド仕事か?」

      「ギルド仕事はそうだけど別にあいつ等とは友達なんて間柄じゃねぇよおっさん」

      「そうなのか? あんないつも仲良くしてるのになぁ。素直じゃないのは得しないぞお?」

      「うっせぇやい、別に俺はいつだって素直だっつの」

      「ん~。まぁ、険悪になってないんならいいんだが。お前達はまだちょっとだけ成熟期になれるようになっただけなんだから、お互いに力を合わせてくことを意識しないと駄目だ。ケンカはほどほどにな?」

      「ケンカも別にしてねぇってば。理由もねぇし」

      「そうか~?」

       

      これもまた、いつもの事ではあるのだが。

      ギリードゥモンのおっさんは、俺やベアモンみたいな成長期のデジモンによく世話を焼くやつでもあり。

      毎度毎度、生き残るための知恵や、近辺地域の情報を教えてくれたりもしている。

      食料を安全に確保出来る場所――ユウキのやつを釣り上げたあの砂浜――を最初に俺やベアモンに教えてくれたのも、ギリードゥモンのおっさんだった。

      言い換えれば、それほどの知識を有するデジモンでもあるということ。

      少しだけ鬱陶しいのがたまに傷ってやつだが、その知識は参考に値するものだ。

       

      「……というか、おっさんこそ大丈夫なのか? 最近物騒って、おっさんだって他人事じゃないんだが」

      「急がば回れという名台詞に従えば大丈夫だったさ」

      「狂暴化したデジモンに襲われたりはしてないってことか?」

      「鼻がイイやつにはたまにバレるが、まぁ大事にはならんようにしてるさ。基本的には一度寝かしたりくたびれさせれば落ち着くやつ等だからなぁ」

      「あぁ、そういえば俺達が戦ったのも大体そんな感じだったっけ……」

       

      ギリードゥモンの言う通り、狂暴化したデジモン達は一度気絶させたり戦う力を削いでやると元の平静さを取り戻す傾向にあった。

      相手が野生化デジモンであるため詳しい聞き取りはあまり出来なかったが、おそらく何かしらの原因で沸きたてられた衝動を発散し終えられたからだろうとギルドのリーダーのレオモンやミケモンは推測していた。

      本当のところはどうなのかわからないが、殺さずに済ませられるのならそれに越したことは無いから、俺もそれ以上の疑問は挟まないことにしている。

      今のところは、だが。

       

      「……んじゃ、オレっちはそろそろ行くとするよ。お前達も無理はしないようにな」

      「少なくとも俺は堅実なタイプだしアイツ等と一緒にされたら困るんだってば」

      「ヤケクソになって頭突きとかしてる内は堅実とは言えないぞ~」

      「いくらなんでもヤケクソにまではなったことねぇよ」

       

      言うだけ言って、ギリードゥモンは荷車を引きながら町の外に向かっていく。

      レオモンとミケモンの中間ぐらいの体躯しか無いのに、大量の売り物を載せた荷車を軽々と引いているところを見ていると、つくづく体の大きさなんて基準にならないことを思い知らされる。

      成熟期に進化したら、必然的に今度はあのおっさんや長老のジュレイモンと同じ領域を目指すことになるんだが、果たしてそれはいつになることやら。

      そして、進化するとして俺はコカトリモンから、ベアモンはグリズモンから、ユウキはグラウモンから――いったいどんなデジモンに進化することになるのか。

       

      基本的に、どんなデジモンであれ自分が進化する先を決めることは出来ない。

      順当に考えれば俺はより強い鳥のデジモンに、ベアモンはより強い獣のデジモンに、ユウキはより強い竜のデジモンに進化すると考えられはするが。

      そんな前提なんて、アテにはならない。

      獣のデジモンだったやつが何の前触れも無く竜のデジモンに進化する、なんてこともデジモンの進化にはよくある話なんだから。

      なりたい自分になれる、なんてのは夢物語に過ぎない。

      現に俺自身、別にコカトリモンに進化したいなんて特に思ってはいなかったのに、コカトリモンに進化してしまったわけだし。

       

      ぶっちゃけ同じ鳥のデジモンでも、せめて空を飛べるやつに進化したかったというか。

      バードラモンとかアクィラモンとかシーチューモンとか、そういうのが良かったというか。

      ガルルモンに襲われてたあの状況で空を飛べたところでどうにかなってた未来は想像できねぇけど、なんというかまぁ、微妙なのに進化しちまったなぁというか。

      空を飛べないならもっとこう、何か無かったのかというか。

      俺にだって選り好みぐらいあるし、ハヌモンとかバルクモンとか、そういうのが良かったというか。

      ベアモンとユウキが順当に強くなった姿に進化出来てる中で、俺だけ飛べない鳥ってどうなんだっていうか。

       

      (電気も使えなくなってるしなぁ……)

       

      いくら戦いまくってるとはいえ、まだまだ先の話だとは思うが。

      完全体に進化する時は、せめてもっとマシなのに進化したいなと切に願う。

      そんな風に思いながら、ベアモンの家の前に辿り着いた俺の目に飛び込んできた光景はと言えば、

       

      「――うぅ~ぐ~……」

      「――!! ――!!」

       

      何やらうなされた様子のベアモンが、ユウキの首に両腕を回して思いっきり抱きついている光景であった。

      当然ユウキは窒息しかかって何かを訴えるように床をバンバンと叩いているが、寝ぼすけのベアモンに起きる兆しは見えない。

      そして、俺の存在に気付いたユウキが床を叩いていた右前足をこっちに向けてくる。

      その視線はこう語っているように見えた。

       

      (エレキモーン!! 頼むからベアモンのやつを起こしてやってくれえええええ!! 死ぬ、これマジで死ぬーっ!!)

       

      まぁ、なんだ。

      戦いの時はたまに頼りになるのにそれ以外の時にはとことん頼りにならないやつだなぁとつくづく思う。

      仕方がない。

      もはや定番になりつつあるが、いつものやり方で馬鹿共を起こしてやるとしますか。

       

       

       

      直後に、空気の弾ける音と悲鳴が響く。

      チーム・チャレンジャーズの朝はいつも騒がしい。

       

      ◆ ◆ ◆ ◆

       

      知らぬ間にギルモンになってデジタルワールドにやってきて、はや二週間。

      未だにわからない事だらけで、ほぼ毎日のように働き詰めになっているが、ベアモンやエレキモン、そして優しい村の住民たちの援助もあってどうにか生きられている。

      思い返してみても、こうして生存出来ていること自体が奇跡のようにしか思えない。

      経緯は知らないが、ベアモンに釣り上げられるまで俺は海の中を漂流していたらしいし、デジモンになって二日目の時には野生のフライモンに襲われて、三日目にはモノクロモンにウッドモンにガルルモン……と、成長期のデジモンとして存在している俺じゃあとても太刀打ち出来そうに無い格上の相手ばかり強いられていた。

      ベアモンとエレキモンの二人とチーム『チャレンジャーズ』を結成することになってからも、身に及ぶ危険の度合いが変わることは無く、ほぼ毎日のように格上のデジモンと戦う羽目になっている。

      そんなことばかりだったから、気付けば進化だって出来るようになっていた。

      初めての時――フライモンに襲われた時――には意識なんて無かったし、今だってどこか頭の中がボーッとして何を考えてるのかわからなくなる時があるけど、それでもベアモンやエレキモンとみんなで無事に生き残るために必要な力であることぐらい、俺も解ってる。

       

      俺はどうして、よりにもよってギルモンになったのか。

      アグモンとかブイモンとか、他にもいろいろデジモンの種族はあるだろうに、どうしてよりにもよってこの種族なのか。

      俺を拉致したのだろう青コートが望んだからこうなったのだろうか――まさか俺がギルモンというデジモンのことを好いていたからこうなったわけでもあるまいし。

      不思議な感覚だった。

      デジモンという存在について、俺は少なくともフィクションの話としては凄く好きなものだ。

      特にギルモンの進化系、その到達点の一つであるネットワークの最高位『ロイヤルナイツ』所属するデュークモンって種族については、ゲームでもよく育てたり愛用したりしていた。

      だけど、実際になってみて喜びがあるかと考えてみると、複雑な気持ちになった。

      好きだからこそ、同時に知っているんだ。

      ギルモンにグラウモン、ひいてはデュークモンも含めてその進化の系譜に該当されるデジモン達には、デジタルハザードという刻印がきざまれていて、それは世界から「お前は危険だ」と宣告されている証に他ならないと。

      フィクションの話であれば、あるいはそれも調味料の一種として魅力的に受け取れただろう。

      そんな危険性を宿しながらも世界を守る側に立っているからこそ、デュークモンという種族が大好きになったのだと言えなくも無いんだから。

      だが、これは今の俺にとってリアルの話だ。

      場合によっては身近な存在の安否に直結する、まず魅力的には受け取れない話だ。

      もし、自分のせいでベアモンやエレキモンが、町のいいデジモン達が取り返しのつかないことになってしまったらと思うと、怖くて怖くて仕方がない。

      このまま進化していったら、自分はどうなるんだろう。

      アニメの主人公とそのパートナーのように、デュークモンに進化出来るのか。

      それとも、そうじゃない方に進化してしまうのか。

      別に、どちらの進化が正しいだとか間違ってるだとか、そんなくだらない議論に付き合う気は無いし、どっちも力の使い方次第だろと言えはするけれど。

      それでも、怖いという気持ちは無くならない。

      好きなものになれた嬉しさが微塵も無いわけではないが、それ以上に俺の心は不安ばかりだ。

       

      現実世界では今どうなっているのか。

      アニメのようにデジタルワールドと現実世界の間に経過時間の違いがあるのなら、現実世界ではどれだけの時間が経ってしまっているのか。

      雑賀や好夢ちゃん、母さん達は無事なのか。

       

      デジタルワールドで行動することになって、早2週間ちょい。

      結局、俺がデジモンになった理由も、デジタルワールドにやって来てしまう羽目になった詳しい経緯も何もかも、わからないことだらけのまま、いつも通りとさえ呼べるようになりつつある朝を迎えることになる。

       

      「で」

      「……う……」

       

      時刻は早朝、場所は発芽の町と呼ばれる町にあるベアモンの家の中。

      考えるべきことは山積みだが、それはそれとして居候の俺にとっての家主でありチームメンバーである(反省を示すように正座している)ベアモンに向けて、俺は両腕を組みながらこう言った。

       

      「ベアモン、とりあえず離れて寝るようにしないか? 俺頑張って地べたでも寝てみせるからさ」

      「うわー待ってー!! 僕が悪かったのは重々わかっているし反省もしているからそんな遠回しな『嫌いになりました』宣言はやめてー!!!!!」

      「嫌いにはなってないよ。ただ熊の腕力で首を責められると人死にが出るというだけの話だよ」

      「ごべんなざいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! ユウキを硬い地面の上に寝かすなんてそんなことさせたくないよせっかく家の中だってこうして色々と整えたりもしたのにー!!」

      「ちなみに俺を抱き枕にしやがった感想は?」

      「そういう意図も意識も無かったけどそれはそれとして幸せ!!」

      「そうか。エレキモン、今日からお前の家で寝させてもらっていいか?」

      「俺に迷惑かけないなら別にいいが」

      「ヴぁー!?」

       

      よくわからんが危機感を覚えたらしいベアモンから(何かえぐい)悲鳴が漏れる。

      出会ってから今に至るまでで初めて見たと思うマジの涙目の表情に、流石に罪悪感が湧き出てきたので、珍しい機会にはなったがベアモンいじりはここまでにしておくことにした。

      が、それはそれとして。

       

      「あのなぁ、いったいどんな夢を見てたんだよ。オバケが出る夢でも見たのか?」

      「ちーがーうーよー!! そもそも僕は別にオバケとか平気だしー!! 出会ったとしてもこの拳で一発だしー!!」

      「じゃあ何見たんだよ。いくらなんでもあの腕の力は寝返りにしちゃ度を越してると思うし、よっぽど酷いの見たと思ってるんだが」

      「ユ、ユウキには関係無いじゃないか……」

      「いやチームなんだから関係大有りだろ。そもそも俺はお前の寝返りで窒息しかけてんだからな!?」

      「うぐっ、それは……そうだけど……」

       

      問い詰められて、何かを隠すように口ごもるベアモン。

      やがて彼は右手で即頭部をくしゃくしゃと掻きながら、こんな回答をした。

       

      「……あぁもうっ、フライモンに刺された時の夢を見てたんだよ。あの毒かなり苦しかったからさ……」

      「うぐあっ」

      「いやお前がダメージ受けてどうすんだよユウキ」

       

      予想外ながら、しかし言われてみて悪夢の最悪っぷりとしては納得の出来る内容に思わず俺は胸を痛ませた。

      そもそもの話としてベアモンがフライモンの毒針で刺されることになってしまった原因は俺にあるし、結果として俺自身が進化したことによって無事に生還出来たとはいえ、それはそれとして痛みの記憶が抜け落ちたわけではないのだ。

      そりゃあ、その時の痛みを夢の中でとはいえ掘り起こされてしまったのなら、今回のような寝返りを打ってしまうのも仕方のないことだろう。

      少なくとも俺はそう思い、ベアモンの言葉に納得した上でこう返した。

       

      「……その、ごめんな。重ね重ね、あの時は……」

      「――ぁ、いや、大丈夫だって。アレは僕が勝手にやったことだから……」

      「もう足は引っ張らない。あの時みたいな間抜けは晒さないから。またアイツが襲ってきた時は、また俺が倒してやるからな」

      「……う、うん。頼もしいね……ははは……」

       

      俺の言葉に、ベアモンは苦笑いしていた。

      解ってはいた。

      まだまだ俺はベアモンやエレキモンほど、上手に戦えているわけではない。

      進化出来るようになっているとはいえ、未熟者であることに変わりは無い俺の言葉に、信憑性なんてあるわけがないんだ。

      もちろん、嘘を言ったつもりも無いが。

      そんなことを考えていると、ふとしてエレキモンが退屈げにこんな事を言い出した。

       

      「……ユウキ、ベアモンも、とりあえず朝飯食べないか? お前ら絶対まだ何も食べてないだろ」

      「「あ」」

       

      言われてみれば、だった。

      寝返りの一件があまりにも問題だったからそれを最優先にしていたが、そもそも今の俺達は『ギルド』に所属するチームであり、朝はさっさと拠点である建物の方へ向かって依頼を受けなければならない。

      働かざるもの食うべからず、という言葉があるように、この町では食料は働きの報酬として受け取るか、あるいは仕事で稼いだ通貨で購入するか、それが出来ないのなら町の外で直接確保するのが基本とのことだった。

      まぁ、言われているわりには頻繁に、町の住民は食料をおすそ分けしてくれる事もあって、飢え死ぬような状況に追い込まれることはまず無いらしいのだが――厚意だけをアテに生活するのは流石にどうかと思うわけで、ベアモンもエレキモンも俺も真面目に働いているわけだ。

      ここ最近の襲撃されっぷりを考えると、農作業とか手伝って稼いだほうがもっと安全だとは思うのだが、俺が人間に戻って現実世界にも帰れるようになるためには、デジタルワールドの色んな場所を巡ってみる必要があるのも変わらぬ事実であるわけで。

      そして、それが危険だと解っている以上、活力はしっかり養っておく必要があるわけだ。

       

      「悪い、ちょっと軽く作るから待っててくれるか?」

      「わーい!! ユウキの料理おいしいから大好きー!! 手間掛かるけどー!!」

      「そりゃ生魚をダイレクトに食うのと手間を比べられたらな」

       

      相次ぐ襲撃、苦労の連続にうんざりしてはいるし、俺自身のことについて進歩らしい進歩は殆ど無いけれど。

      生活の一点に限っては、明確に進歩したことがある。

       

      「というか、俺からすればフライパンとかの器具があんな格安な事実に驚きだよ。デジモンって料理しないのか?」

      「それを仕事や趣味にしてるやつならしてると思うけど、フクザツだし素のままでもお腹は膨れるからねー。そもそも火を使うのが危ないわけだし」

      「……つーか、ニンゲンってそんな手間かけないとメシにもありつけないんだな。不便なこった」

      「別に何でもかんでも料理しないと無理ってわけじゃないけどな。リンゴとかの果実ならナマでもイケるし」

       

      あくまでもベアモンの家の備えという位置付けではあるが、依頼で向かった先の地域で料理道具を入手することに成功した。

      流石にガスコンロや電子レンジなどは売られているわけもなく、手に入ったのはまな板や鍋など基本的なものぐらいだったが、火は自前のものを用意すれば良かったし、食材についても既に十分なラインナップを手に入れられていたため、大きな問題は無かった。

      唯一、コンロもどきの設備を用意するのには少し手間が掛かったが。

       

      鍋は良い。

      どんな料理下手でも、材料をだいたいの大きさに切って好みの飲み物と一緒に沸騰させちまえば、雑でも美味い食い物になるんだから。

      そんなこんなで、備蓄していたキノコだの魚だのを水やトマトと一緒に鍋に入れて煮て、いわゆるブイヤベースとかミネストローネっぽく(そんな上品に言えた見栄えでも無いが)仕上げてみる。

      ベアモンもエレキモンも、料理などに手をつけるタイプでは無いらしかったので、いつもこの工程を興味深く見ていた。

      ふと、ベアモンがこんな事を聞いてくる。

       

      「ユウキって、ニンゲンだった頃から料理してたの?」

      「いや、自分一人ではそこまで。母さんが作るのを時々手伝ってたぐらいだな」

      「カアサン?」

      「? ああ、デジモンには父さんとか母さんとかないんだっけ? 家族のことなんだけど」

      「うーん、知らないや。その、カゾクっていうのはニンゲンにとって大切なものなの?」

      「俺どころか、殆どの人間にとって大事なものだよ。自分の事をずっと育ててくれた人なんだからな」

      「……そっか。ニンゲンは自分を育ててくれた相手のことを大切にするんだね」

      「? ベアモンはそうじゃないのか?」

       

      何か。

      少し、引っかかりを覚えて、ベアモンに今度は俺のほうから疑問を投げ掛けていた。

      問いに対して、ベアモンは俺に笑顔を向けながらこう返してくる。

       

      「――ははは、もちろん大切だよ。大切に決まってるじゃないか……」

       

      ……思い返せば。

      その時の言葉が、心の中でどこか引っかかっていた。

      それはどこか、自分自身に言い聞かせているかのような口ぶりで。

      今にも溢れ出しそうな何かを、必死に抑えこんでいるように聞こえたから。

       

      でも、この時の俺は何も知らなかったし気付けなかった。

      ただ優しくて、ただ勇敢で、ただ強くて、ちょっとだけ間抜けなデジモン。

      俺はベアモンの事を、そんな風にしか思っていなかった。

      少しも、理解しようとしていなかった。

       

      出来上がった料理を食べて、さぁ今日も仕事だなと二人と一緒に『ギルド』の拠点に向かっていく俺には、自分のこれからのことを考えるだけで精一杯で。

      自分が何を言ってしまったのかなんて、ほんの少しも考えられなかった。

      ほんの、少しも。

       

      ◆ ◆ ◆ ◆

       

      食事を終えたユウキは、ベアモンとエレキモンの二人と共に足早に『ギルド』の拠点へと向かっていく。

      朝の街並みも今ではすっかり見慣れたもので、わっせわっせと道の上を歩くデジモン達の顔ぶれも覚えてきた。

      必然、同時にそれはユウキという名の余所者の存在を町の住民にも既に広く知られているということでもあり。

       

      「おぉ、おはよう。ギルモンにベアモンにエレキモン。今日もお仕事かい?」

      「バブンガモンおはよう。ああ、今から『ギルド』に行くとこ」

      「バブンガモンはこれから何しに行くの? そんなデカい木材を引いて」

      「狂暴化したやつ等のあれこれで折れた橋があるらしくてね。みんなとその修繕をしないと」

       

      こんな会話は当たり前のものになり、

       

      「よう、赤と青と赤の三匹。今日は何処に行くんだ?」

      「あのさガジモン。二人が赤なのはとりあえずわかるけど僕そんなに青い???」

      「エレキモンが黄色だったら見栄え的に完璧だったんだけどな」

      「何の話だよオイ。ユウキお前が黄色になれ」

      「データ種で橙色のにしかなれる可能性はねぇよ」

      「それも何の話???」

       

      こうした与太話も既に日常のものとなっている。

       

      「にいちゃんたちおはようー!!」

      「おはよー!! がむっ!!」

      「ん、おはようカプリモン。それにトコモンも」

      「きょうはどこいくのー? ベアモンおにいちゃん」

      「あはは、まだ決まってはいないよ。依頼をまだ受けてないからね」

      「……もう慣れたからいちいち突っ込まないし我慢もするけどさ。なんでこのトコモン君ってば出会う度に俺の尻尾に嬉々としてかぶりつきに来るのかね」

      「うまそうだからじゃね?」

      「ユウキに懐いてるんでしょ」

      「泣いていい?」

      「「駄目」」

       

      最初の頃は、不安もあった。

      長老のジュレイモンや『ギルド』の主要メンバーらしいミケモンやレオモン、そしてベアモンやエレキモンこそ受け入れてくれているが、かと言って他の住民もそれ等と同じだとは限らない。

      住民の誰かしらは自分のことを怪しんだり、毛嫌いしたりするだろう。

      せめて問題は起こらないように、下手にケンカに発展したりはしないよう勤めよう――などと考えていた時期があった。

       

      が、実際はそんなことは一切無かった。

      町の住民たちは余所者のユウキのことを(少なくとも表面から窺い知れる限りでは)疎んじたりはしなかったし、それどころか気のいい隣人のような態度で接してくれていた。

      朝に顔を合わせれば当たり前におはようと言ってくるし、仕事を終えて帰ってくればお帰りと労ってもくれる。

      流石に家族ほどではないが、居心地の良さを覚えるには十分なほどに町のデジモン達は優しかった。

       

      無論。

      自分が元は人間である、という事までは流石に告白する気になれないし。

      人間として親に付けられた名前ではなく、デジモンの種族としての名前で呼ばれることについては、未だに心に引っかかりを覚えてはいるが。

      それはそれとして、今日までの生活に不満は無く、充実に近しいものがあるのもまた事実だった。

       

      そうして、道中に住民との会話がいろいろありながらも、ユウキとベアモンとエレキモンの三人は『ギルド』の拠点である建物に到着する。

      建物内に設備されたカウンターの上では、ここが俺の定位置だと言わんばかりにミケモンのレッサーが雑魚寝していた。

      彼はユウキ達の存在に気付くと、顔だけを向けながら気さくに話しかけてくる。

       

      「おーっす、今日も来たなチーム・チャレンジャーズのチビ共」

      「いつも思うけどミケモンの方と僕等の背の高さはそんなに変わらないじゃん。何でチビ呼ばわり?」

      「だってお前らまだ成長期じゃん。俺は成熟期~」

      「俺達も一時的にならなれるんだけどな」

      「フッ、そんな風にすぐ反論している内はまだまだガキなのさ。ユウキ、アルス、トール。お前達が俺やリュオンの領域に立てるのはまだまだ先の話よぉ」

      「無駄に威張る暇あるならカウンターの上で横になるのをやめろ、レッサー」

      「痛てぇっ!?」

       

      三毛猫のドヤ顔が一瞬にして崩れ消える。

      気付けば雑魚寝していたレッサーの、より厳密に言えばカウンターの向こう側から、この『ギルド』のリーダーであるレオモンのリュオンが姿を現していた。

      一応は『ギルド』の副リーダー的なポジションらしいミケモンことレッサー氏、獅子獣人のチョップで一撃必殺気味に悶絶させられるの巻である。

      脳天に出来たたんこぶをさすりながら抗議の視線を向けてくるレッサーのことなど放っておいて、リュオンはユウキ達三人に対して声をかけてくる。

       

      「おはよう、チーム・チャレンジャーズ。此処での仕事にも慣れてはきたか?」

      「うん。ユウキもエレキモンも、そして僕も強いからね。よく襲われてるけど大丈夫だよ」

      「事実っちゃ事実なんだろうが、めっちゃ強調するなお前。さっきマジ泣きしていたくせに」

      「ちょっ!! その話を今ここでするのエレキモン!?」

      「ユウキはともかく俺に遠慮する理由は無いし。第一、強いんなら毎朝寝坊すんのやめろ。起こすのめんどい」

      「あのなエレキモン、めんどいからって電撃で起こすのはやめてくんない? 朝のアレだってせめてベアモンだけを狙ってさぁ」

      「そんな器用な真似が出来るか」

      「というかしれっと見捨てられてるんだけど僕」

      「ははは、まぁ自信を失ってはいないようで何よりだ」

       

      三人のやり取りを軽く笑い飛ばしていると、頭頂部の痛みに悶絶していたレッサーが口を挟んできた。

       

      「つーか襲われてる時点で大丈夫ではないだろ。前に山で会った時から思ってたがお前ら何かと運が無いな? 日頃の行いが悪いんじゃねぇの?」

      「レッサー?」

      「すいません調子乗りました二撃目は勘弁しやがれください。……でも、運が悪いのは事実だろ。いくらなんでも依頼でどこかに行く度に狂暴化したデジモンに襲われるって、理由無しには片付けられねぇって。そりゃあ、狂暴化とか関係無く襲われる時は襲われるだろうがよ」

      「……まぁ、そこはそうだな。他のチームの報告内容と比較しても、チャレンジャーズが狂暴化デジモンと交戦した回数はここ最近で明らかに多い。偶然だとは考えにくいな。君たちの方で何か心当たりはあるか?」

      「「「…………」」」

       

      問われ、三人はそれぞれ暫し考え込む。

      当然と言えば当然だが、思考はそれぞれ異なっており、沈黙の理由もそれぞれ違っていた。

       

      (……いきなり聞かれてもな……いくら何でも情報が足りなすぎるし……適当言うわけにも……)

      (……うーん、ユウキが元は人間であることは流石に関係無い、のかな。ユウキと会うより前から狂暴化したデジモンは現れていたわけだし……)

      (……流石にリュオンさんやレッサーさんも気付いてはいるか。それで尤も、コイツが元は人間だったってことにまでは気付くわけも無いし、関連性も付けられはしないだろうが……どう答えたもんかねこりゃ)

       

      誰も回答を口に出せないまま十秒ほどが経つと、三人より先にリュオンの方が言葉を紡いでくる。

       

      「……まぁ、答えが出なくても仕方の無い事だ。レッサーの言う通り運が悪かっただけなのかもしれないし、そうじゃなかったとしても君たちに落ち度があったわけでは無いだろう」

      「……実際のところ、リュオンさんやレッサーはどう思ってるんですか?」

      「俺たちがどう思っているか、か……確かに、それは伝えておく必要があるな」

      「つーかエレキモン、オイラだけ呼び捨てかよ。まぁいいが」

       

      どうやらチョップの痛みが和らいできたらしいレッサーが、リュオンと共に自らの見解を述べる。

       

      「前にも言ったと思うが、狂暴化の原因はどこから出たのかもわからん『ウィルス』だ。自然発生したものか、それとも何処かの誰かさんが生み出したものか、出所は不明。狂暴化してたデジモンの体を軽く調べてみても、痕跡らしい痕跡は無し。黒幕がいるとオイラ達は踏んでいるが」

      「結局のところ、その存在すると過程している黒幕は足取りさえ追えてはいないんだ。少なくとも、いるとすれば狂暴化させられたデジモンとそう遠くない位置にはいるはずなのだが……」

      「多分、俺達みたいなのが狂暴化したやつに対応している間にどっかに逃げてるんだろうな。それも、姿を誰にも見られることなく、残す足跡だって他のデジモンのそれに重ねて特定されないようにして」

      「……姿を消せるデジモンが犯人ってことですか? その、カメレモンみたいに透明になってるとか」

      「断定は出来ない。単純に気配や足取りを隠すのが上手いだけ、という可能性もあるからな。そういうデジモン達に、俺は心当たりがある」

       

      レッサーとリュオンの回答に、ユウキとエレキモンは表情を曇らせる。

      自然発生したのか、誰かが作ったのかも不明な、詳細不明の『ウィルス』によって引き起こされるデジモンの狂暴化。

      その実態を、自分たちよりもよっぽど情報を獲得しているであろう二名も掴みきれていないという事実に、今後も狂暴化デジモンとの交戦は頻発するだろうと思うしか無かったためだ。

      が、ふとベアモンは回答の中に引っかかるものを感じたのか、リュオンに対してこんな問いを返していた。

       

      「……あれ? ちょっと待って。その、リュオンさんが心当たりのあるデジモンが犯人って可能性は無いの?」

      「やろうと思えば出来るだろうが、俺は可能性は低いものだと考えている」

      「どうして?」

      「そのデジモン達にはやる理由、やる必要性が存在しないからだ。むしろ、彼等こそこの狂暴化の件については調べている事だろう。遠出にはなるが、近い内に直接情報を共有しに向かおうとも思っていた」

      「……そのデジモン達って? リュオンさんの友達?」

      「友達、か……。私が彼等にそう呼ばれるほどの者だとは考えにくいが、そうでありたいな」

       

      ベアモンの問いに対し、リュオンは困ったように願望で返す。

      自分達の所属する組織のリーダーと、少なくとも信を含んだ繋がりを持つ相手――その存在に、ユウキもベアモンもエレキモンも、ある程度の興味を抱いていた。

      善悪や立場など知る由は無いが、少なくともリュオンがその技量を認めるデジモン達。

      それはいったい、どんなデジモンなのだろう、と。

       

      「――そう言ってくださるとは、光栄でござる」

       

      しかし、その存在を口にしたリュオン自身も予想はしていなかったのだろう。

      ギルドの拠点である建物の入り口に、聞きなれぬ語尾と共に、そのデジモンが姿を現すことなど。

      声に、リュオンだけではなくレッサーやユウキ、ベアモンとエレキモンもまた建物の入り口の方へと視線を向けた。

      見れば、声の主は銀の体毛を有し二足で立つ狐の獣人――レナモンの、いわゆる亜種にあたる個体だった。

      その姿を見るや否や、リュオンは驚きの表情と共に言葉を発していた。

       

      「――ハヅキ!?」

      「リュオン殿、お久しぶりでござる。此度は突然の来訪、お許し頂きたい」

      ((((……ござる?))))

       

      どうやら、互いに個体名で呼び合うことが出来る程度には既知の仲らしい。

      ハヅキと呼ばれた銀のレナモンは、その独特な語尾に頭上に疑問符を浮かべる他の四名の視線など気にも留めぬ様子でカウンターに寄って来る。

      リュオンは目を細め、率直に疑問を口にした。

       

      「……どうしたんだ? 君たちシノビが里の方からわざわざこの町に来るなんて」

      「その件についての説明は、後ほど。今は私のことなどよりも、優先すべき事柄があるのでござる」

      「聞こう」

       

      そして。

      銀のレナモンはその視線を後方へと移し、建物の入り口の端から警戒心マックスで顔だけを覗かせる赤い羽毛の鳥型デジモン――ホークモンのことを指さしながら、こんな要望を告げた。

       

      「単刀直入に言うのでござる。ホークモン……あの子を、私と共に『ユニオン』のある都の方にまで安全に護衛していただきたい」

       

       

      ◆ ◆ ◆ ◆

       

       

      同時刻。

      発芽の町より遠く離れた山脈地帯にて、一つのあくびが漏れた。

       

      「……ふぁぁ~……」

       

      あくびを漏らすそのデジモンは、両前足の上に下顎を乗せたその姿勢から気だるげに立ち上がると、その銅の色に彩られた体をさながら猫のように伸ばす。

      眠たげなまま、一切の挙動も無しに眼前に一つのウインドウを出現させると、そこに表示された内容に表情を濁らせる。

       

      「……げ!! もう時間過ぎてるや……」

       

      嫌々そうな言葉を漏らしつつ、右前足でウインドウに触れる。

      ポチポチポチ、と獣の前足ながら慣れた素振りで操作を続け、約十秒。

      彼にとっては予想通りの言葉が、窓枠の向こう側から轟いてくる。

       

      『――遅いッ!!!!!』

      「はいごめんなさいでしたッ!!」

       

      一喝。

      ウインドウ越しに発せられた大音響はその周囲の茂みに紛れていたデジモン達を驚きで散らし、怒られる対象である四つ足のデジモンから反抗の二文字を一瞬で取り上げた。

      声の主――ウインドウによって繋がっているそのデジモンは、怒り心頭といった様子で続けざまに言葉を放ってくる。

       

      『本当に貴様は毎度毎度……朝の定時報告の時間は伝えているだろうが!! それともまさか手負いの状態なのか?』

      「……あー、はい。別に手負いというわけじゃないんだけどただちょっと調べものに没頭してたというか」

      『……まぁ貴様らしいと言えば貴様らしいか……で、成果は?』

      「やっぱりこの山の肉リンゴは美味しい!! 野生デジモン達の気性もそう荒くないし、風も日差しも気持ちがいいし、平和そのもの~。そりゃあ思わず眠っちゃっても仕方無いですよねっ!!」

      『――要するにサボっていたわけだな? のどかな環境に、自分の立場とかガン無視して。更に挙句の果てに熟睡していたわけだな?』

      「サボりじゃないですサボってたとしてもそれは休憩と言う名の業務です」

      『ようし了解した。次会ったら即殴る』

      「……え、えぇと、右前足で? それとも後ろ足で?」

      『ニフルヘイムで』

      「死!!!!!」

       

      わりと本気の悲鳴を上げる四つ足のデジモン。

      その腰元から生えている白い翼も尻尾の丸いボンボンも震えている辺り、本気で声の主が恐ろしいのかもしれない。

      声の主はため息を漏らしつつ、更に言葉を重ねていく。

       

      『……こちらの収穫も目ぼしくない。ここ最近確認されている次元の壁の痕跡、そして大陸各地の性質変化。その根本的な原因を解明するには至らずだ』

      「僕の方でも色々調べましたけど、少なくともメモリアルステラに異常らしい異常は確認出来ませんでしたよ。闇の勢力――今代の七大魔王と関係を持つデジモンの姿も無い。基本的に世界の異変とまで言えるものは観測出来てないですよ」

      『この手の問題は、目に見えて危険な場所よりも平和な所にこそ元凶が潜んでいる。そう踏んだからこそお前をその地域の担当にしたわけだが……ここまで何も無いとなると、そろそろ別の地域に飛ばすべきか悩ましいな……お前がサボっていなければ、という前提の話だが』

      「だからサボりじゃないですってば!! 変な『ウイルス』が混じってないか食べ物を毒見して確認したりしてそのついでに平和を堪能してるだけ!!」

      『モノは言い様だな、本当に。毒見と言えばただ食欲に負けただけの馬鹿野朗も忠臣扱いになるのだから』

      「とことん信用が無い!!」

      『信用を得たければ真面目に仕事しろ。いかに新入りであろうと、ロイヤルナイツとなった以上は手緩くは扱わん。……先代に顔向け出来る程度には、頑張ることだな』

       

      聞くべき事を聞いて、言いたい事を言うだけ言って。

      ウインドウからの音声は途絶え、通信を終えた事実を認識した彼の眼前でウインドウは消失する。

      告げられた言葉をしばらく頭の中で反芻していると、どんどん憂鬱になって、気付けば彼は横倒しの姿勢になってため息まで漏らしていた。

       

      「……はぁ……」

       

      自分の立場。

      任された役割と受け続ける期待。

      自らを取り巻くそれら全てが重苦しいと言わんばかりの声色で、彼はこう呟いていた。

       

       

       

      「……やっぱり、僕なんかが聖騎士であるべきじゃないよなぁ……」

       

      ◆ ◆ ◆ ◆

       

      「そのホークモンを『ユニオン』がある都へと護衛……か」

      「それを依頼したいのでござる」

      「受領はするが、本当に何があったんだ? 君達の技術であれば、わざわざ俺達『ギルド』に依頼などするまでもなく、自力で保護も護衛も完遂出来ると俺は見ているわけだが」

      「そう評価していただけるのは光栄でござるが、残念ながら今は頭領も上忍も別の問題の対応に追われている状況。一人を安全に護衛する、それだけの事にさえ人員を割くのが難しい状態なのでござる」

      「君達の里に何かあったのか? まさか……」

      「ご安心を。良からぬ事があったのは事実でござるが、リュオン殿が危惧するような事にはなっていないはずでござるよ」

      「それもそうか。つまり、そこのホークモンは君達がその身を挺してでも護らなければならないと、そう判断するほどの『何か』を有するデジモンというわけだな」

      「察しが良くて助かるのでござる」

       

      明らかな訳知り顔のリュオンと来訪者のレナモンの会話に、ユウキもベアモンもエレキモンも、そしてレッサーも言葉を滑り込ませる余地は無かった。

      というか、会話の内容にしろ何にしろ、いろいろとノンストップ過ぎてどこから疑問を投げつけるべきか思考が追いついていなかった。

      ともあれ、どうやら銀毛のレナモンことハヅキの依頼を受領する事にしたらしい、リーダーであるレオモンことリュオンに向けてまず最初にユウキが疑問を投げ掛けた。

       

      「……えぇと、その……『ユニオン』ってなんですか?」

      「? あぁ、そういえば君はあまり世間の事を知らない身だと長老が言っていたな」

      「ユウキ、メモリアルステラの事も知らなかったもんね。まぁかく言う僕も『ユニオン』の事は知らないんだけどさ」

      「どっちもどっちじゃねぇか」

      (俺も知らないんだけど馬鹿と思われたくねぇし黙っとこ)

       

      どうやらユウキだけではなくベアモン(と沈黙しているエレキモン)にとっても初耳の単語だったらしく、レッサーのツッコミを皮切りに三人は『ユニオン』の説明を受けることになるのだった。

      リュオンが言うには、

       

      「『ユニオン』とは、俺達のようなデジモンが住むような町や村よりもずっと文明が発展した場所……ハヅキも言っている都と呼ばれるレベルの環境で作られた組織のことだ。依頼を受領する側という点では、俺達が管理している『ギルド』とそう大差無いな」

      「? 大きな違いも無いのなら、どうしてわざわざその『ユニオン』ってとこの方に用事があるの?」

      「重要なのは組織そのものと言うより、それがある環境の方だな。組織の規模は、その住まいの文明がどれだけ発展していて、住まい……言い方を変えれば縄張りとして強固であるのかを指すものだ。『ギルド』がある村や町よりも『ユニオン』がある都や国に匿ってもらった方が確実に安全だと考えたということだろう。それ以外にも理由はありそうだが」

      「……おい、しれっと匿うとか安全とか言ってるけど……要するに追われてるのか? 敵に?」

      「ああ。レナモン……ハヅキとあのホークモンは、敵に追われている身なんだろう。それも、自分達の元の居場所から抜け出さざるもえない状況に追いやられた上で。故に、せめて敵をどうにか出来るまでは安全な場所に置いておきたい。だが『ユニオン』がある場所は遠く、昨今の狂暴化デジモンの出現などもあり、二人で向かうには危険だと判断した。だからこの『ギルド』を頼りに来た。そんなところだろう」

      「ご明察。相変わらず、多くを語らずとも理解を得るその賢さは尊敬に値するものでござるな」

       

      要するに田舎のおまわりさんに匿ってもらうよりは都会の警察機関に保護してもらったほうが安全ってことか、と内心でリュオンが口にした言葉の意味を人間社会の言語へ勝手に当てはめて一人納得しようとするユウキ。

      というか、短時間に一気に出て来た多くの情報を、一つ一つの言葉を飲み込むだけでも。

      具体的な背景こそ部外者であるユウキやベアモン、そしてエレキモンには頭の中で映像化することも出来ないが、どうにかこうにか噛み砕くに、銀毛のレナモンことハヅキの事情はこのようなものらしい。

       

      一つ、敵の襲撃により住まいから脱せざるも得ない状況に追いやられ、今もなお元凶の脅威は迫ってきている。

      二つ、それからホークモンを逃すために、通称『ユニオン』と呼ばれる組織が存在し、文明のレベルからも安全性を確約出来る『都』へと向かいたい。

      三つ、そのためにリュオンが管理する『ギルド』の援助を受けに来たというか、受けないとあまりにもリスクが大き過ぎるので、助けてほしい。

       

      ――そこまでの情報を時間をかけて知覚し、真っ先に口を開いたのはベアモンだった。

       

      「……ちょっと待って。敵に追われて住まいをって、もしかして故郷をやられたってこと!? 大丈夫なの、まさか皆殺しにされたり……!!」

      「既にリュオン殿にも告げている事でござるが、心配は無用。故郷を離れることになるのは心苦しいが、命を懸けるほどのものでもなし。各々無事に逃げ果せているはずでござるし、里はまた作れば良いだけの話でござるよ」

      「……そ、そうなんだ……」

       

      ハヅキの回答に、心の底から安堵したような息を吐き出すベアモン。

      ユウキもユウキで内心で安堵していると、ハヅキはユウキやベアモン、エレキモンとレッサーの4名をそれぞれ見やり、そして今更のように問いを口にした。

       

      「……ところで、先ほどから無視していたわけではないのだが、君達は『ギルド』の構成員でござるか? それとも単に依頼しに来た者?」

      「構成員だよ。俺もベアモンも、そこのエレキモンも」

      「そうだったのでござるか。リュオン殿が既に述べてくれたが、私の個体名はハヅキと言う。以後、よろしく頼むでござる」

      「お、おう……よろしく。そんで、お前が護衛してほしいと頼んでる、あのホークモンは……」

      「……っ……」

       

      何か面食らった様子のエレキモンが、会話中ずっと建物の入り口で顔だけを覗かせているホークモンの方を指差すと、ホークモンは何やら怯えた様子で顔を隠してしまう。

      見ず知らずの相手に怖がられたという事実にちょっぴりショックを受けた様子エレキモンに対し、どこか申し訳なさそうにハヅキはホークモンの事について口にした。

       

      「申し訳無い。彼は人見知りというか、誰かと言葉を交わすのが苦手な部類でな。君が怖がられているのは、君が悪いわけではないから気にしないでくれ」

      「そ、そうなのか。なんていうかまぁ、俺も気にはしてないから……オイ馬鹿共何か言いたげだな」

      「いや、まぁ、なんというか……ねぇ? ユウキ?」

      「まぁ、うん。事あるごとに電撃浴びせてくるドS鬼畜生のエレキモンにもそういう側面はあるんだなぁって」

      「うんうんなるほどな。後で覚えとけよクソ共」

       

      どうあれ。

      どんなに唐突な話であろうと、断る理由は特に無く。

      基本的に、余程悪どいことでも無ければ援助するのが『ギルド』の方針らしく。

       

      「チーム・チャレンジャーズ」

      「「「…………」」」

      「考えもしなかった事態だが、どうあれこれが依頼である以上、無視出来る話でも無い。彼等が元々いたであろう忍び里、それを襲った者達の正体も襲ってきた理由も何もかも現時点では不明。これから追加でいろいろ情報を聞き出すつもりではあるが、全てを知ることは出来ない。そして目的地を考えると、これは今まで君達が受けてきた依頼のそれを越える遠出になる。それらの事実を前提として、聞かせてもらう」

       

      そして現在、他の『ギルド』の構成員はそれぞれ別の依頼で既に出払っている状態で。

      手が空いているのは、寝坊やら朝食やらで他のチームより出遅れたチーム・チャレンジャーズと、リーダーのリュオンや副リーダーのレッサーぐらいで。

      事情を鑑みると、あまり来訪者をこの町に留まらせ過ぎるのも、双方にとってよろしくなくて。

      何をどう考えても、決断は早急に行う必要があった。

       

      「ユウキ、アルス、トール。各自可能な限りの準備をした後、レッサーと共にこの大陸にある中で最も近い『ユニオン』持ちの都――ノースセントラルCITYへとハヅキとホークモンを護衛するこの依頼、受けてくれるか?」

      「「受けるっ!!」」

      「お前ら揃って安請け合いし過ぎだろ」

      「ま、リーダーの言う事なら別にいいけどよ」

       

      ユウキとベアモンはほぼ同時にリュオンの問いに回答しており、エレキモンは呆れた風な言葉を漏らしながらも方針を違えることはなく、レッサーは大して悩む様子もなく同行を容認する。

      そもそもの話、この場にいるデジモン達はどちらかと言えばお人好しの部類なのだった。

       

      (事情がどうあれ、助けを求められてるのなら断るのは嫌だしな)

      (とても放っておけない。本当に故郷を追われてしまったのなら、絶対安心出来るところまで連れていってあげないと……)

      (まぁ、どうあれこいつ等を放っておく理由にはならないからな)

       

      でもって。

      方針が決まって、すぐに出立の準備をしようとユウキとベアモンが踵を返して『ギルド』の拠点から出ようとした、そのタイミングで。

      エレキモンは、今更の確認事項としてリュオンに対してこう聞いていた。

       

      「――ところで、そのノースセントラルなんとかってのは、どのぐらい遠いんだ?」

       

      実際のところ。

      日本横断なんてやったことがあるわけも無いユウキは当然として、発芽の町から数時間で到着出来る程度の場所にしか日常的に出向いた経験が無いベアモンとエレキモンにも。

      こうして問うまで、ユウキとベアモンとエレキモンの中では、自分が立っている場所が大陸のどの辺りの位置なのかとか、そもそもこの大陸がどのぐらいの広さを有しているのか、端から端までを横断するのにどのぐらいかかるのかなんて、ぼんやりとも考えられてはいなかった。

      直後に、返答がこう来た。

       

      「大陸の端にあるこの町から、大陸の中心近くにまで行くわけだからな。徒歩になる以上は途中にある山や森なども視野に入れて……軽く見積もっても、行きだけで五日は見積もるべきだろうな」

      「「「五日ぁ!?」」」

       

      真剣な表情で告げられた目的地への遠さに、善意で安請け合いした二名と世話焼きの一名から思わず驚嘆の声が漏れる。

      行きだけで五日もかかる、なんてことは考えもしなかったのであろう声色だった。

      それもそのはず。

      今の今まで、チーム・チャレンジャーズは「朝出発して、夕日が落ちる頃には戻れている」程度の距離の移動で済む場所の依頼しか受けたことは無かったのだから。

      今更依頼を受けたことを後悔などはしないが、それはそれとして楽をしたいと思ってしまうのが仕事をする者の心理というわけで。

       

      「エレキモン!! 今からでもバードラモンとかに進化出来ない!? 空飛べればすぐでしょ!!」

      「唐突に気にしてる事を突きやがってっ……!! ユウキ、お前こそ何か飛べるようにならねぇの!?」

      「そこで何で俺に振るんだか!? というか成熟期に進化出来るようになったばかりの俺がそんなすぐにメガロれるわけが無いだろ!?」

       

      「……リュオン殿。このお三方、本当に大丈夫でござるか?」

      「……まぁ、レッサーもついていくのだから大丈夫だろう。少なくとも足手纏いには……ならないはずだ……」

      「一気にオイラの責任重くなったなオイ。つーかメガロれるって何?」

       

      前途多難なやり取りがありながらも、各々は準備を進めていく。

      護衛の依頼というよりは、一種の冒険あるいは遠征とでも呼ぶべきもの。

      その先にあるものを何も知らぬまま、彼等は運命に片足を突っ込んだ。

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    • #3902

       第二章と打って変わってデジタルワールドのお話。おかげで第一章を読み返したくなったぜ。
       
       先の展開を知っているからか、改めて読み返すと「ハハァこの描写は」とニヤニヤできる部分もあるのですが、同時に初見の時点で気付いておきたかった部分も多いなと思ったり。ベアモンというかアルスの描写はハッキリ先々の展開に向けて種を撒かれていたか……。
       ユウキのデジモン化についても改めてのお浚いといった印象。本人が好きだったギルモン(系)に敢えて成ったということに意味はあるのか。そもそもマントの目的はとか、そして人間がデジモン化したことについてその存在は他のデジモンと変わらない存在なのか、如何なるデジモンに進化するのか以前に普通に完全体・究極体へと進化していっていいのかなど謎は深まるばかり。
       そういえば最後に「今すぐ飛べるようにならねーか?」言われた時に浮かんだのはやはりメガログラウモンだった。
       
       とはいえ新たな仲間(?)とも出会い旅立ちの時です。
       意外や意外、片道五日の旅は如何にデジモンでもそこそこの遠出だった……。

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