エリクシル・レッド:1

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      エリクシルレッド:第1話 オレのトモダチ! オメカモン
       
       
      「あっ、おはよう、かあちゃん」
       リビングのソファで寝ていたオレは、キッチンの物音で目が覚めた。
       かあちゃんが朝ごはんの準備をはじめたらしい。うーん、かあちゃん達より先にリビングに居るのって、なんだか変な気分。

      「おはようユウキ、昨日は災難だったね」
      「ヘーキだよ! オレにはオメカモンがついてるもんね」
      「そうだよ母君。ボクは必ずタキを守るって、いつも言っていただろう?」
       なんて言ったって、ボクはタキのトモダチなんだから。そう言ってオメカモンは腕を持ち上げる。
       本当ならポン! と赤く塗った胸を叩くところなんだろうけど、オメカモンの肘は曲がらないからね。こっちが想像するしかないんだ。
       
       
       オレはタキ! 小学5年生。
       ホントは田中勇気って名前だけど、こっちの方がカッコイイからタキって名乗ってるんだ。
       
       それからこのブロック人形みたいなのはオメカモン! パペット型のデジモンで、オレはコイツの調律者チューナーなんだけど、どっちかっていうとトモダチってカンジ。それも、一番のトモダチだ。
       
       フツー、デジモンは人間みたいな心を持たないんだけど、オメカモンはトクベツで、オレはオレと同じように笑えるオメカモンの事がだーい好きなんだ!
       なんてったって、オメカモンとオレはずっと前から――
       
       
       ――……あれ?
       
       
      「タキ、タキ」
       
      「オメカモン?」
       呼ばれて振り返ると、オメカモンの胸の赤色が目に入った。
       
      「……」
      「ああ、やっぱり。とんでもない寝癖がついているよタキ。朝食の前に直しておいで。いくら昨晩は大変だったとはいっても、いや、そんな時こそ、身だしなみはきちんと整えておかないと」
      「オメカモン知らないの? これはチョーサイシンエーのヘアスタイルなんだぜ?」
      「バカなこと言ってないで、さっさと顔洗ってきなさい? もうすぐごはんできるから」
      「もう、かあちゃんもわかってないな~」
       
       でも、はーい。と、返事して洗面所に向かうと、先にとうちゃんが歯を磨いていて。
       
      「おっ。ユウキ、おはようさん。なかなかキマってる髪型だな」
      「でっしょー? とうちゃんはセンスある!」
       オレがにっと笑って見せると、とうちゃんはなんとなく、ホッとしたみたいに息を吐いた。
      「元気そうでよかったよ。昨日は本当に災難だったな」
      「もうそれ、かあちゃんが言ってたよ」
      「ありゃま。先を越されちゃったな」
       
       とうちゃんは笑ったけれど、やっぱりちょっとだけいつもより元気が無い。
       まあオレは大丈夫だったけど、オレの部屋に穴が空いちゃったんだもんな。やっぱり直すのにお金とかかかるのかなぁ。
       
      「暴走デジモン、早く捕まるといいね」
      「わっ、オメカモン、着いてきてたのかよ」
       にゅ、と洗面所に顔をのぞかせたオメカモンに、オレはびっくり。
       コイツ、こんななのに、ぜんぜん足音しないんだよな。
       
       うんうん、と、とうちゃんはオメカモンに頷いた。
      「でも、お前が居てくれて本当に助かったよ。ありがとな、オメカモン」
      「どういたしまして、父君」
      「これからも、タキをよろしくな」
      「もちろん。タキはボクの、トモダチなんだから」
      「なんだよー、それじゃオメカモンがオレのメンドーみてるみたいじゃん。オレ、コイツの調律者なんだぜ?」
      「ふふ、もちろんキミは、ボクの自慢の調律者だよ」
       

       さっきから話してる“昨日の事”なんだけど。
       実は昨日の夜、暴走デジモンがオレの部屋につっこんできたんだ。窓ガラスも割れちゃって、すごくにびっくりした!
       
       犯人……犯デジ? は、本当ならネットの悪いウイルスなんかをやっつける『サイバードラモン』っていうデジモン。ひょっとしたら、やっつける筈のウイルスに感染しちゃったのかもしれないって、とうちゃんは言ってた。
       サイバードラモンの事はオメカモンが追い払ってくれたからオレはケガもなんにもしなくて済んだけど……ウイルスのせいでああなっちゃったんだとしたら、ちょっとかわいそうだ。
       こーいう時のための調律者なんだから、タントーシャはしっかりしてほしいよね。
       
       朝ごはんを済ませて学校に着いてからも、オレの家の事でハナシは持ち切り。だけどオメカモンの事はみんなにはナイショ(調律者って言っても資格を持ってるわけじゃないから、家以外で動かしてると怒られるんだって。まあ、今もスマホの中には入ってるんだけど)だから、テキトー言ってごまかさなきゃで、ホントにタイヘンだった。
       いつもと変わらなかったのは、交番前のガードロモンくらいだ。いかにも機械ってカンジの「オハヨウゴザイマス」だけが今日の癒しだぜ。
       
       いや……そっけない、ってだけなら、オレのすぐとなりにいるコイツもそーなんだけど。
       
       クラスのみんながオレを取り囲んで質問攻めにするのに、隣の席のキョウヤマさんだけは、ぜんぜんキョーミ無し! ってカンジ。他のクラスメイトに自分の席を取られて、ちょっとメーワクそうなくらいだった。
       まあキョウヤマさん、おじいちゃんがすっげー調律者だったから、デジモンのハナシとか聞き飽きてるのかもしれない。逆にプロっぽくて、ちょっとかっこよくて、くやしい。
       でもオレにだって、今日はオメカモンがいるんだもんねと――
       
       ――……「今日は?」
       
      「タナカさん……タナカさん!」
      「!」
      「今出した問題の答え、解るかな?」
       
       しまった、ぼんやりしてたら先生に当てられてしまった。慌てて手元の学習用パッドに視線を落としたけれど、画面端のカプリモンは吹き出しにヒントを浮かべているだけで今やっている問題がどれかは教えてくれない。
       昼休み終わりの5時間目。襲い掛かってきた眠気と、ただでさえ苦手な算数の授業。
       
       ど、どうしよう。「タナカさん、昨日は大変だったかもしれないけれど、だからって~」とかナントカ、みんなの前でイヤミ言われるのは……
       
       と、その時。キョウヤマさんが、スッとメモ用紙をオレの席にかかるくらいの位置にまで差し出してきた。
       でかでかと、「2」と数字が書かれている。
       
      「え、えっと。2です」
      「はい、そうですね。ちゃんと聞いてくれていたみたいで、安心しました」
       
       先生は手元のタブレットを持ち直して、教室前のスクリーンへと向き直った。
       オレは「ありがと、キョウヤマさん」と、口の動きと持ち上げた手でキョウヤマさんにお礼を伝える。
       それを見たキョウヤマさんは軽くうなずくみたいにしてから、メモ用紙をひっくり返して、さらにずい、とこっちに渡してきた。
      「?」
       なんだろう、と引き寄せると、そこにはもう数字なんて書いてなくて、代わりに「放課後、プール裏に来て」とあって。
       
       え……ええっ!?
       どういう意味? と思って顔を上げても、キョウヤマさんはオレにそんなメモを渡しただなんてとーてー思えないすまし顔で、まっすぐ前を向いている。
       
       お蔭で、その後の授業もぜんぜん耳に入って来なくなってしまった。
       まあ、その分眠気もどっかに、行っちゃったんだけどね。
       

       
       長いよーな。短いよーな。
       5限、6限と授業の多い1日を乗り越えて。
       休み時間ごとにみんな色々聞きに来ていたものだから、放課後にまでお話は残っていなかったらしい。またケーサツから新しい話があったら、ってコトにして、オレはすんなりと教室から抜け出す事が出来た。
       それ以上に、キョウヤマさんがすぐに出て行ってくれたのは、地味に助かった。女子と一緒に同じ場所へだなんて、ちょっと恥ずかしいし、かっこ悪いんだもん。
       
      「オメカモン、何の話だと思う?」
       こっそりスマホに話しかけると、待ち受け画面にドット絵になったオメカモンが浮かび上がる。
      「概ね昨日の事だろう。有名な調律者の孫娘ともなれば、暴走デジモンにも関心があるのでは?」
      「そうかなぁ? でも教室じゃあんなにキョーミ無さそうだったじゃん」
      「そういうお年頃なのだろう。現に君だって、隣の席の女子と2人きりで会うというだけで、心拍数が上昇しているじゃないか」
      「はぁー!? キンチョーなんかしてねーし」
      「何にせよ、異性への対応は同性へのそれと比較してある程度の差異が出るものだ」
       ボクにはよくわからないけれどね、と、オレにもよくわからない事を言うオメカモン。
       なんだか余計に調子が狂っちゃったなと肩を落としている間に、オレ達は目的の場所へとやって来た。
       
       プール裏。
       
       体育館の隣にあるプール、その裏側は、グラウンド側とは逆に人が全然来ないところだ。
       土は剥き出し、雑草もいっぱい。しかも壁もあるから日当たりも悪くて、いつもなんとなく地面がぬるぬるしている。
       
       だから、思った通り。そこにはオレを呼んだキョウヤマさんしかいなかった。
       
      「キョウヤマさん」
      「さっきぶり、タナカくん」
       
       声をかけると、キョウヤマさんがゆっくりと振り返った。
       タキだよ、って言おうかな。どうしよっかな、って悩む間も無く、キョウヤマさんはオレの方をじっと見つめて、口を開く。
       
      「早速だけど、単刀直入に聞くね。……昨日の夜、本当は何があったの?」
       
       真剣な様子のキョウヤマさん。でも、オレはというとちょっと拍子抜けだった。
       なんだ、オメカモンの言う通り、キョウヤマさんも昨日のコト聞きたかっただけなんだ、って。
       
       「キョウヤマさんも聞いてただろ?」と、オレはオトナがするみたいに肩をすくめた。
      「サイバードラモン襲撃事件! 寝てたらドラゴン人間みたいなデジモンが、オレの部屋の窓をこわして」
      「ワタシが聞きたいのは、あなた達が『オメカモン』って呼んでるデジモンの事よ」
       
       思わず固まってしまった。
       あれ? どうしてキョウヤマさん、オメカモンの事、知ってるんだろう。
       オレ、ちゃんとナイショにしてきたのに。
       
       ずっと。
       
       
      「ボクの事かい」
       
       
       ぼーぜんとするオレの前に、オメカモンは音も無くリアライズした。
       「ちょ」と我に返って慌てるオレを片手を上げて制しながら、オメカモンはキョウヤマさんの方に身体を向けている。
       
      「隠れていても仕方なさそうだったからね。ボクが、キミがタキに話を聞きたがっている、オメカモン張本人さ」
      「……」
      「ボクは、タキのトモダチだよ」
       
      「そう」
       
       びゅうん!
       
       いきなりすごい風が吹いて、オメカモンがふっ飛ばされた。
      「!」
       オメカモンは空中で1回転して無事に着地したけれど、オレはつい尻もちをついてしまう。そのぐらい、強い風だったんだ。
       
       なのにキョウヤマさんの方は微動だにしていない。
       だって、風は、キョウヤマさんよりこっちの側から、飛んできたんだから。
       
       
       キョウヤマさんの前には、デジモンがリアライズしていた。
       
       
      「自我の有るデジモンだと推測はされていたけど、まさか本当にそうだとはね。排除デリートさせてもらうわ」
       
       排除。
       
       ……排除。
       
       その言葉のイミが頭に入って来るよりも前に、キョウヤマさんの前に立つデジモン――背丈はオレ達と同じくらいの、木でできた操り人形みたいなデジモンは、風を巻き起こしてオメカモンを突き飛ばした、身体と同じ木製の十字型ブーメラン? を改めて右手に構えていて。
       
       
       排除――古くなったり、誤作動を起こすようになったデジモンを、処分するって意味だ。
       
       
      「ピノッキモン、≪フライングクロスカッター≫」
       
       ピノッキモン、と呼ばれたデジモンは、無機質な赤い目でじっとオメカモンを見つめて、それからブーメランを思い切り振り被る。
       次の瞬間にはまた猛烈な風を巻き起こして土を舞い上げながら、十字型ブーメランはオメカモンへと猛スピードで迫った。
       
      「っと」
       オメカモンは円柱の腕でブーメランを受け流す。
       でもブーメランはすぐに折り返して、ピノッキモンの手元へと。これじゃ、何回だって同じ事が出来てしまう。
       
      「や、やめてよキョウヤマさん!」
       ワケがわからなくて心臓がばくばく音を立てていたけれど、それ以上にオレはトモダチが攻撃されているのがガマンできなくて、オメカモンの前へと飛び出した。
      「おや、危ないよタキ」
      「わかってるよ! でっ、でも」
      「そこだけはオメカモンに同意ね。危ないから下がってて、タナカくん。ピノッキモンは加減が難しいの」
      「≪ブリットハンマー≫を出していないのもそれが理由かな?」
      「……ますます油断ならないデジモンね」
       
       キョウヤマさんが手元のスマホを操作する。
       途端、ピノッキモンはブーメランを投げずにかかげて、直接オメカモンへと飛び掛かってきた。
       オメカモンが腕を回してオレを押しのける。また尻もちをついたオレの前で、2体のデジモンがかち合った。
       
       ……なんだ? 『ぶりっとはんまー』って。
       オレ、ピノッキモンなんてデジモン、初めて見たのに。どうしてオメカモンは、知ってるんだ?
       
       ああ、でも。ウワサで聞いた事がある。キョウヤマさんのおじいちゃんは、コンピューターの中の世界から連れてきたんじゃ無くて、1から造ったデジモンを調律して使ってたって。
       
       それが……ピノッキモン?
       
      「ねえ、タナカくん」
       キョウヤマさんの声は、デジモンが戦っている中でもよく聞こえた。
      「不思議そうな顔してるから、ワタシも1つ聞いてあげる」
       見上げると、キョウヤマさんの目は、人形のピノッキモンにも負けず劣らず、冷たく見えて。
       
       
      「あなたとオメカモンが出会ったのは、昨日よね?」
       
       
      「え?」
       
       ずきん、と。
       いきなり、頭が痛くなった。
       
       確か昨日、ジャンクショップのおじさんのところでオメカモンを買って
       
       そうだ、昨日だ。昨日のコトだ。
       
       あれ? でも、オレ、オメカモンとはずっとトモダチで
       
       
       あれ? あれれ? あれれれ?
       
       
      「落ち着いて、タキ」
       
       べちゃ、と軽くぬかるみを踏む音に顔を上げると、オメカモンがピノッキモンの追撃をかわしてこっちにやって来たらしかった。
       オレが座ったままだから、オメカモンの顔じゃ無くて、赤い胸が目の前にある。
       
      「ボクとキミは、トモダチだろう?」
       
      「……」
       
      「時間なんて、些細な問題じゃないか」
       
      「……うん!」
       
       そうだ。オメカモンは、オレのトモダチ。それも、一番のトモダチだ。
       どうしてキョウヤマさんがオメカモンを攻撃するのかわかんないけど、オメカモンが排除されるだなんて、そんなこと、あっていい筈が無い!
       
      「オメカモン、ピノッキモンに隙、作れる? グラウンドの方に逃げたら目立っちゃうから、キョウヤマさんだって追って来ないと思うんだ」
      「流石タキ、ボクの調律者。それは名案だ」
       
       任せて、と。
       オメカモンは、泥の上に深い足跡だけを残して、体育館の屋根に届きそうな程高く高く、ジャンプする。
       
      「いっけー! オメカモン!!」
      「≪オメカキック≫」
      &nbsp
       サイバードラモンだってやっつけた、オメカモンの必殺技が炸裂する。
       すごい勢いで落ちてきたオメカモンの飛び蹴りは、ピノッキモンが盾の代わりにしたブーメランをも真っ二つにして、一緒にブーメランを支えていたピノッキモンの腕までぼきりと折れた。
       
       ようし! これでちょっとの間ピノッキモンは動けない――
       
      「ピノッキモン」
       
       ――そう、思ったのに
       ピノッキモンから垂れていた赤いワイヤーがひとりでに動いて、ピノッキモンとオメカモンをくっつけるみたいにして絡みついた。
       
      「!」
      「≪ドリルノーズ≫」
       
       歯医者さんの音がして、背中に嫌なぞわぞわが走った。
       
       ノーズって、たしか鼻の事だ。
       音がピノッキモンから鳴っていると気付いたオレがそっちを見ると、キョウヤマさんの宣言した通り、ピノッキモンの長い鼻が、本当にドリルみたいに高速回転していて。
       
       軽く頭を後ろに引いて、まっすぐ前に付き出せば――そこには、オメカモンの赤色で塗った胸がある。
       
      「おっと、しまった。これは想定外だ」
      「お、オメカモン――」
       
       デジモンの胸部には、デジコアっていう、人間でいうところの心臓があって、それを壊せば排除できるって聞いた事がある。ピノッキモン――キョウヤマさんの狙いは、まちがいなくソレで。
       だけど、もう、止められるタイミングじゃ
       
       ……そうやって、トモダチがいなくなっちゃうって。オレの目の前が真っ暗になりかけた、その時だった。
       
       ずどおん!! と、大きな、爆発みたいな音。
       オレも、そして流石のキョウヤマさんも思わず振り返ると、音の方向からは、もうもうと煙が上がっていて
       
       オレの勘違いじゃなければ、あそこって、ジャンクショップの
       
      「≪オメカキック≫!」
      「!」
       キョウヤマさんが気を取られた隙に、オメカモンがピノッキモンを蹴り飛ばした。
       ぶちぶちと音を立ててワイヤーが千切れる。ピノッキモンが、ふっ飛ばされて仰向けに倒れる。
       
      「っ」
      「お、オメカモン!」
      「わかっている。すまないねミス・メノウ。舞踏会には、また今度誘っておくれ」
      「ちょ、ちょっと!」
       
       キョウヤマさんの制止を無視して、オメカモンはオレのうしろに回ると両脇の下に腕を入れる形でオレの事を持ち上げて、またぴょん! と大きくその場を蹴った。
      「わっ、わわわわ!」
       ちょっとの間だけ空を飛んで、気が付いた時には学校の外に居た。
       クラスメイトに見られていないだろうか? 今のところは、オレの名前とか、聞こえて来てないけど。
       
       いや、今はそれよりも、だ。
       
       地面に降りてからは選手交代。オレはオメカモンをスマホに入れて、ジャンクショップに向けて駆け出した。
       いっつも通っている道が、何故だか今日は、ものすごく長く感じる。
       走って、走って――オレのカンは正しかった。
       
       正しくない方が、今回は、良かったかもだけど。
       
      「うぐう……!」
       ジャンクショップのおじさんが、デジモンに捕まっていた。
       くびねっこを持ち上げられて、足をじたばたと動かしている。
      「おじさん!」
       半分悲鳴みたいな声が出た。「タキくん!?」とおじさんは、真っ青な顔をこちらに向ける。
       反対に、デジモンの方はこちらを見もせずに、唸り声を上げた。
       
      「『あかいいし』は、どこだ……!」
       おじさんを捕まえているのは、昨日のデジモン――サイバードラモンだった。
       
      「また、『あかいいし』……?」
      「やれやれ、少々ヤンチャが過ぎるんじゃないかな、トカゲくん」
       スマホが光った、と思った瞬間、オメカモンが画面から飛び出してくる。
      「≪オメカキック≫」
       そこからは、昨日と同じ。
       オメカモンはおじさんとサイバードラモンの間に割って入って、目にも留まらぬ勢いで身体をターンさせると、持ち上げた足で回し蹴りを叩き込む。
       
       倍ぐらい大きさが違うのに、サイバードラモンはまた簡単にぶっ飛ばされた。ジャンク品の棚に突っ込んでしまったけれど、店の中はオレたちが来る前からもうめちゃくちゃだった。ゴメンだけど、おじさんには大目に見てもらおう。
      「タキ、店主殿と一緒に下がっていてくれ。サイバードラモンの必殺技は少々厄介だからね」
      「お、お前……ひょっとして、昨日の?」
      「やあ、ボクはオメカモン。タキのトモダチだよ」
       
       一度振り返ったオメカモンを見て、おじさんがこくんと頷く。
      「そうか、そうだったね」
      「うん、オメカモンは、オレのトモダチだよ」
      「だから、サイバードラモンの事は、安心してボクに任せ――」
       
       
      「格好つけてる所悪いけど、そういう訳にもいかないの」
       
       
       ピノッキモン、≪フライングクロスカッター≫。と。
       さっき聞いた声が、また、繰り返される。
       
       途端、オレたちの頭の上で半円を描きながら十字型ブーメランが飛んできて――だけど今度はオメカモンじゃなくて、サイバードラモンへとぶち当たる。
       
      「ぐうっ!?」
       立ち上がりかけていたサイバードラモンはまたバランスを崩して、だけど倒れるより先に次は何本もの糸が伸びてきて、サイバードラモンをぐるぐる巻きにしてしまう。
       爪の攻撃も、これじゃ使えない筈だ。
       
      「……サイバードラモン、確保」
       振り返ると、折れたはずの両腕が元に戻ったピノッキモンが、翳した手の先から、サイバードラモンに向けて糸を伸ばしていて。
      「きょ、キョウヤマさん……!」
       トーゼン、うしろにいるのはキョウヤマさんだ。
       
       キョウヤマさんは険しい表情で、サイバードラモンと、そしてオメカモンを、交互に見ている。
       ……でも、しばらくしたら。キョウヤマさんは何かをあきらめたみたいに、首を何回か横に振った。
       
      「今は、実際に人に危害を加えたサイバードラモンの回収の方が優先度が高い。それに、タナカくんのオメカモンの事は全然信用できないけれど、人命救助を行ったのも事実。……一度、『上』の指示を仰いであげる」
      「え、えっと」
       
      「その間は、排除は保留って事。……ピノッキモン」
       
       一方的にそう言い放って、キョウヤマさんはピノッキモンを連れて、店の外へと去っていく。サイバードラモンは身を捩りながらまた『あかいいし』、『あかいいし』とわめいていたけれど、結局ピノッキモンの糸からは逃げられなくて、そのまま引きずられて行ってしまった。
       
       キョウヤマさんが見えなくなって。
       サイバードラモンの声も聞こえなくなって。
       
       オレは、その場にへなへなと座り込んでしまった。
       
      「タキ」
      「こ……こわかった……」
       ぽろりと、そんな言葉が、思わずこぼれ落ちてしまう。
       調律者になったつもりでいたのに――オレ、よく考えたら、なんにもしてない。
       
      「そんなことは無いよ、タキ」
       
       じわ、と今更みたいに視界がにじみだしたオレの心を読んだみたいに、オメカモンが正面へと回って来る。
      「キミがいなければ、ボクは力を発揮できないからね。タキ。ボクのトモダチ。昨日の夜から大変な事の連続だったけれど……こうやって無事に乗り越えられたのは、タキがボクの傍にいてくれたからだよ」
       オメカモンの声は、とても優しい。
       まるで、機械じゃ無いみたいで、溢れかけた涙もすぐに引っ込んでしまった。
       
       と、
      「そうだよ、タキくん。……助けに来てくれて、ありがとう」
       
       ジャンクショップのおじさんも、オレみたいにすとんと腰を下ろして、まだ少し顔を青くしたまま、オレの方を見ていて。
      「君達が来てくれなかったら……うう。暴走デジモンだなんて、恐ろしい話だ。私はこれから警察に連絡するけれど……」
       そっか、こういう時って、ケーサツが来るんだ。
       昨日はとうちゃんとかあちゃんがタイオーして、オレは結局いくつか質問に答えた後は寝ちゃったんだけど……今回の場合、どうなるんだろう?
       
      「ふむ。ボクが田中家の外で活動したとなると、少々面倒な流れになりそうなのだが」
      「っと、そうだったか。……キミは命の恩人だ。その辺はどうにかはぐらかそう」
      「恩に着るよ店主殿」
       
       だけど、はぐらかすにしても、と、おじさんは頭を抱えてしまう。
      「どう説明したものかなぁ。あの子もタキくんと同じ学校の子だろう? 小学生の子がデジモンを操って、暴走デジモンをどこかに連れて行ってしまっただなんて、信じてもらえるかどうか……」
      「あ……」
       
       そうだ。警察の事だけじゃなくて、キョウヤマさん。
       確かに、今日のオレのサイナンはこれでおわりかもしれないけれど、キョウヤマさんは、きっと明日も、隣の席に居る。
       
       
       オレ……これから、どうなっちゃうんだろう?
       
       
      「どうとでもなるさ」
       不安でいっぱいなキモチも、やっぱりオメカモンはお見通しのようだ。
      「ボクが傍にいる限り、ね」
       
       胸のところが赤色の、白いブロック人形。それだけの見た目なのに、オメカモンを見ていると、なんだか元気が湧いてくる。
       
      「……そうだな!」
       
       オレとオメカモンは、トモダチなんだ。
       トモダチと一緒なら、何があったって、大丈夫。
       
       だからまずは、ケーサツからの質問攻めはどうやって乗り切ろうかって、オレとオメカモン、そしてジャンクショップのおじさんは、うんうんと頭を捻るのだった。
       
       これが、オメカモンと「一緒」が始まった、とある長い1日のおハナシ。

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    • #3842

       知ってましたが怖イ女。描写が一人称視点故に「絶対おかしいぞ! 何故気付かん!」と読者側だけが悶々とする羽目になっていく中、キョウヤマさんだけが違和感に気付いており、そこに頼もしさとか安心感みたいなことはあってもそれはそうと「やあところで死んでくれ」とタマァ狙ってくる理不尽さ。
       いきなり成熟期相手にフライングクロスカッター投擲ってピノッキモンお前。レッドベジーモンなら即死してたぞ!!
       
       ドリルノーズを歯医者さんの音と形容するタキ君が実に小学生。歯は大事にしましょう。一方で戦いを舞踏会と表するオメカモンはオメー何なんだよ詩的で大人。なんとなくミス・メノウって言い回しがオシャレで素敵。
       店主のおっちゃんいきなりやられるも、無事救われたら警察を上手く誤魔化す手段を一緒に考えてくれる辺りよくできた大人ですな。
       
       キョウヤマさんのラブレターさえ無ければ一日がこんな長く感じることも無かっただろうに……。

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